牽制
「熱心ですわねぇ。ヴィンセント様はどうしてマリア様にお勉強などさせるのでしょう?
皇太子妃に必要な花嫁修業だとも思えませんわ」
と白薔薇が言ったので、
「それはどうかしら。皇太子妃としてグリンデルの歴史や経済を学ぶが不要な事とは思えません。グリンデルだけではなく、近隣諸国の事も学ぶべき事はたくさんあります。リベルタ様も国王様の妃となられた時に学んだと聞いております」
とあたしは言ってみた。
リベルタ様の頬が少しだけ引きつってから、途端に大輪の薔薇のような笑顔を見せたけど、目だけは笑ってなかった。
「まあ、リベルタ様は国王妃ですからそれは当然の事です。けれどマリア様は第一皇子妃となる予定なだけではありませんか。もしかして第一皇子のヴィンセント様が次期国王だとでも思ってらっしゃるのかしら。それは由々しき問題ですわ。マリア様」
と白薔薇が言った。
頭、わりーな、こいつ。
「誰が次期国王だなんて事は今、問題ではありません。国王様は現在、お元気でご立派な政をなさってますもの。だからといって、今、私が学んでいる事が必要ないなんてことはありませんわ。グリンデルの歴史や経済などはもっと広く国民にも教えて導いていく必要すら感じますもの。それはとても大切な事だと思います」
「んまあ」
と白薔薇は言った。
「素晴らしいわ。マリア、あなたのようなしっかりした方が第一皇子妃となれば、きっと皇子の亡き母、カリナ様もお喜びになるでしょう」
と白薔薇を押さえて、リベルタ様が冷たい声でそう言った。
「ありがとうございます。リベルタ様、私、特にグリンデルの歴史を学ぶのが面白くて仕方ありません。今は二百年前のセントワース事件の箇所をなぞっているところです」
あたしは書き取りをしていた、分厚い古文書のような冊子の開いたページを指した。
二百年前、魔女に陥れられた五代くらい前の王様の事件の事だ。
「マリア様! 宮殿でその名を出すのは禁忌ですことよ!」
震えた声で白薔薇が言った。
「うっかりしておりました。申し訳ございません、リベルタ様」
あたしはお辞儀をしながらちらりと王妃の顔色をうかがった。
真っ白だった。
元より色白で気品のある美しい王妃様。
翡翠色の瞳が白い肌やブロンドに映える。
だけど真っ白すぎた。
「あの痛ましい事件の事ですね。恐ろしい魔女に国を乗っ取られそうになったとか。本当にそのような事にならなくて良かった。セイジュ国王には魔女に負けず、よく国を守ってくれたと感謝しなければなりませんね」
とリベルタ様はそう言い、あたしに背中を向けた。
白薔薇も慌てて王妃の後を追おうとして、ついでにあたしに一瞥してからふんっと顎を突き出してから去って行った。




