学修
ヒソヒソヒソヒソ……以下延々と続く。
ひそひそ言われてるなぁ。
ヴィンセント皇子との婚約が決まってから、あたしは毎日お城に出仕している。
それは何故か?
迷惑な事に王家の連中はあたしに家庭教師を雇い、毎日王立図書館とやらでこのあたしがお勉強をしているからだ。
それはヴィンセント皇子の強い希望らしく、皇子が次期国王になる為の戦友とも言える王妃の教育なのだそうだ。
侯爵家の娘に産まれていわゆる上流階級の教育は受けたけど、それはもっぱら夫に尽くし、家柄に尽くすべくような教養だったので、歴史や経済を妃に学ばせる皇子の姿勢は本気なのだろうな、と思った。
歴史、経済から語学まで、ありとあらゆる勉強を強いられているあたしはもうグロッキー寸前なのだけど、ヴィセント皇子の本気を見せられては逃げ出すのもなぁ、と思う。
あいにくマリア・ウッドバースの頭はそう悪くないようで助かっている。
元ヤンキーで学校のお勉強も……な、真理亜のままではとうてい無理だ。
だけどお城に日参するあたしを見てはあちらでこそこそ、こちらでこそこそ。
ローレンス皇子に婚約破棄された次の日に、その兄上のヴィンセント皇子と婚約したのだ。
ひそひそ感も半端ない。
ため息をつきつつ、羽ペンで歴史の書き取りをしていると、家庭教師のミス・アンバーが驚いたように椅子から立ち上がった。
んあ?
顔を上げると、リベルタ王妃様がすぐ側まで来ていた。
きらびやかで美しい。
ローレンス皇子と同じ翡翠色の瞳に見事なブロンド。
「王妃様」
仕方なくあたしも立ち上がる。
「いいの。続けなさい。毎日、ご苦労様ね」
あたしはドレスの裾を摘まんで行儀良くお辞儀をした。
それから顔を上げると、王妃の後ろからぴょこって顔を出したのは白薔薇の君だった。
「マリア様、毎日ご苦労様でぇす」
「……」
返す言葉も見つからず、あたしは微笑んで見せた。




