幸運男の憂鬱
あるところにジョンという男がいた。彼は生まれた時からずっと幸運な人生をあゆんできた。彼の特徴を一つ挙げろと言われたらだれもが
「運がいいこと」
と答えるだろう。
小さい頃に買ったあたりつきのお菓子はほとんどあたり、18の時には知らないうちに遠い親戚の遺産の相続者になっていて1日にして億万長者になった。そして、24歳のときに落ちていた財布を交番に届けたところ、持ち主は有名な若手女優であり、そのまま恋に落ち、結婚した。
「なんて運のいい奴だ」
人々はそう囁き合っていた。
しかし、最近彼には一つの悩み事があった。それは、運が良すぎることだ。彼は心配症で、迷信深い人物であったため「いつかこの幸運のしわ寄せが来るのではないか」という恐怖に怯えていたのだ。彼は少しずつ引きこもりがちになり、周囲の人が心配するほど痩せ細ってしまった。
そんなある日、妻が嬉しそうに彼のもとに走ってきた。何かと尋ねると、遊び半分で買った宝くじが当選したというのだ。
彼はそれを聞いた途端に
「そんなものすててこいっ!これ以上はもういらないんだ!」
と叫んで自室にこもってしまった。
その様子を見て驚いた妻は、心配して彼の元へ行き、怯えている理由を聞いた。
そして、理由を聞いた妻は毛布の中の夫に向かって一言囁いた。
翌日から、ジョンはとても清々しい様子で朝のウォーキングをし、近所の人々に挨拶をしていた。今まで彼の様子を見てきた彼らは少し驚いた様子で挨拶を返した。
彼は今までの不安など嘘のようにすっかり陽気になっていた。
「なにがあったんだ?」
人々の間ではそんな疑問が広がった。
あの日の夜ジョンの妻は
「あなたはこれ以上幸運なことが起こって欲しくないんでしょう?ということは宝くじが当たったなんてとびきりの不幸じゃない」
と囁いたのであった。それを聞いたジョンは納得し、
「これでやっと普通に戻れたぞ!」
と歓喜の声を上げ目の前の妻を抱きしめた。
ジョンの単純な性格と妻の聡明さがなければ今頃彼は人生のどん底にいただろう。
ジョンという男は、とことん幸運だったのだ。
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