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組のお嬢が可愛くない。  作者: 桜ぷりん。
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「はぁ、はぁ……お嬢だなんて言うのに、こんなお転婆な人だとは……」

「伊雪は体力をつけた方がいいね。……父さんの前では少し丁寧な口調だけれど、普段の私は少し口悪いから。覚えといて」

「りょ、了解した……」


未だに肩で息をする伊雪。

小さな頃から護身術を学んでいた私と違って、体力がないのだろう。

借金をするほど困窮していたのなら、例えば運動系の習い事をしたり思い切り走り回ったり、そんな経験も少なかったはずだ。


法定速度をぎりぎり超えた車は寸分狂わずにぴったり校門前へ停められる。


「桜宮、遅刻寸前だぞ。走れー」

「分かってます、おはようございます!……ちょっと伊雪、可能な限り走って!」

「あ、いやお嬢、俺は職員室に。転入生扱いだし」

「あぁそういえば。……私のクラスは1年A組!ちゃんと教師に伝えなさい!」


伊雪は助かったとでも言いたげに校門前に立っていた生徒指導の教員の元へ歩いていく。

きっと父さんの方からも口添えしてあるだろう、心配はいらない。

それよりもこのままでは私が遅刻してしまう。


小桜模様の美しい布が肩から落ちてしまわないように、裾をしっかり握って階段を駆け上がった。








「はじめまして。月島伊雪と言います。よろしくお願いします」

「というわけで月島がこのクラスに転入してきた。最初のうちは移動今日教えたりしてやってくれ。席は……桜宮の後ろでいいか」


少しばかり担任の手が震えているのが分かる。

それもそのはず、私は1度あの教師に襲われかけ、その時に多額の借金と1つの大きな組に命を狙われる恐怖、ついでに私の渾身の蹴りを見舞われている。


伊雪が我が家の息がかかったものだと分かっていれば、それはそれは震えるだろう。

厄介な人間が2人に増えたということなのだから。


もちろん、桜宮組と伊雪の関係性は教員の一部にしか知らせていない。

何かあった時に伊雪と意図的に分断されては困るからだ。


「えっと、桜宮さん……?いろいろ教えてくれるかな」

「もちろん。……伊雪、でいいのかな、よろしくね」


顔いっぱいに作り笑いを貼り付ける伊雪に対抗して私も満面の作り笑顔を向けて見せる。


「いろはちゃんの後ろに来た転入生、すごくかっこいいね」

「そう?」

「うん。でも、あそこまで整ってると逆にかっこいいって言葉は合わないかも」


確かに、と心の中だけで頷く。

伊雪の顔は再三言っているように恐ろしく整っていて……かっこいい、可愛いと言った形容詞を超越するほどなのだ。

こんな人が極道に入りたての捨てられ息子だとは誰も思わないだろうな。


「月島くん、どこから来たの?」

「北海道だよ」

「えぇ、だから白いのかな。腕とか全然焼けてなくて羨ましいな。制服が映えるね」

「そうかな?弱々しそうだなんて言われるんだけど」


クラスメイトに囲まれる伊雪には最優秀男優賞をあげたいものだ。

完璧な擬態、猫かぶり。

実際弱々しいくせに、ああ言えばそこまでと思わせられるのだから随分頭も良いのだろうな。





「いろはちゃん、また明日!」

「またね」

「桜宮さん、これから委員会?」

「ううん、今日は先生の手伝い。本当、学級委員だからってなんでもこき使わないでほしいよ」

「なんだよいろは、また雑用か?手伝ってやろうか?」

「平気平気。伊雪にお願いしてるから」

「そうか?じゃあ、また明日な」

「じゃあね」


クラスメイトからの挨拶に1つ1つ答えていく。

桜宮組の1人娘たるもの、やるべきこと、やれることは率先してやれと教わってきた。

そんな私は学級委員を務め、そしてそれが関係してかしないかは定かじゃないかよく雑用を頼まれる。


もちろん、やらないという選択肢はない。

父さんの座右の銘、率先垂範は私にとっても大切な言葉で信条だ。


「さてと伊雪。──ここからは、プライベートゾーン。1つ仕事がある」

「仕事?」


クラスメイト全員が教室からいなくなったのを確認した瞬間に伊雪の顔から笑みが消える。

もちろん、私からも。

よそ行きの私の時間は終わりだ。


というのも厄介な案件が降り掛かってきている。


「……校内に、敵対する組の人間が紛れ込んでる。そいつの動向を監視してもらっていたんだけど……どうも今日、私を襲いに来るみたい」

「今日お嬢を?なんで?」

「さぁ?私から桜宮組の内情を聞き出すのが目的だと思う。……いい?伊雪は私のことを気にせず影虎を呼びに行って。数人程度なら私1人で撒けるから」


というより、伊雪がいると2人揃ってやられかねない。

影虎はその日のスケジュールによって迎えに来るか来ないか変わってくる。

迎えに来ていればそれに越したことはないけれど、万が一がある。


私は、絶対に相手の手に渡ってはいけない身の上なのだ。


「それじゃあ伊雪。体力がないのは知ってるけど頼んだよ」

「……できるかぎり」


早くも嫌そうな顔をしている。

けど、自分が邪魔者扱いされているのを少しは感じ取っているのだろう。

それに対する不満の色も少しだけ見えている。


まずは一仕事。


狙われ慣れた私だけれど、伊雪はどこまで動けるだろうか。

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