表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

藤原 妹紅 ~生きがいと蓬莱の時間~

妹紅さんのお話。

寿命ネタではありませんが(やっぱりちょっと入ってる?)それに似た「命の意味」を定義に執筆してみました。

他のに比べて短くて文章力も拙いですが是非是非。

「被ってる編み笠を探してる感じ。」

今でも彼の言葉にはハッとさせられる。

「人生に意味なんてあるのかな…?」

白髪三千丈 愁えに縁りて箇くの似く長し 知らず明鏡の(うち) 何れの処にか秋霜を得たるを

沈黙の中、私は静かに涙をこぼした。


幻想郷に流れ、輝夜と戦い、負けたときにそいつは現れた。

迷いの竹林の中にある小さな広場で肉体が再生成される。

完全に肉体が元の体に戻ったとき、そこには先客がいた。

「お疲れ様。」

幻想郷ではまず見かけない海の魚を焼きながらそいつは私を覗き込んでいた。

「お前は誰だ?」

「通りすがりのただの(あやかし)だ。」

私は目の前の男の首を押さえる。

「やめとけって。俺を殺すのはおすすめしない。」

妙にのんびりとした表情で男は告げる。

「死なないってのは大変だよな。休息がないってのも大変なもんだ。」

男はいとも簡単に私の手を払いのけると焼いていた串を引き抜いた。

「召し上がれ。」

恐る恐る串を受け取ると匂いを嗅ぐ。

普通の焼き魚のようだった。

別に問題ないだろうと判断した私はそれを食べ始めた。

数分かけてそれを食べ終えると私は顔を上げた。

「…ごちそうさま。」

「美味かったか?」

「美味かった。」

「それはよかった。」

そう言うと男はのらりくらりとした様子で立ち上がった。

「んじゃ、俺はこれで。」

「待て。」

立ち去ろうとする男を私は止めた。

「…名前は?」

妖弦(ようげん)。」

そういって妖弦は今度こそ去っていった。

それからもそいつは私が輝夜と殺しあう度にその場に現れた。

手に決まって1匹の魚を手にしてそれを焼いては私に差し出し、私が食べ終えるとその場を立ち去る。

淡白な奴だったが私はその距離感が嫌いじゃなかった。

「美味かったか?」

「美味かったが…」

「なにかご所望?」

「どうしてお前の分はないんだ?」

ある日、私は思い切ってそいつに訊いてみた。

「…必要がないから?」

「なんで疑問形で返すんだよ…」

「まあ、本当の所必要がないからなんだけどな。」

「…まさか人間を?」

「まさか、俺は人間すらいらねーよ。生き物も水も、ひょっとしたら恐怖すらもいらない。」

「太陽の光で生きてるのか?」

「俺は闇の中でも生きられる。」

「お前は一体…」

「俺は太歳。蓬莱の薬の材料だよ。」

そういって妖弦はニヤリと月明かりの中笑った。

「…永遠亭の回し者か!」

「まさか。確かに俺は××に体の一部こそくれてやったがあそこの連中とはそれっきりだよ。」

「…?」

「あぁ、永琳な。永遠亭の薬師の。」

妖弦はのんびりとした様子で立ち上がるとそれ以上語ることはないと言わんばかりに去っていった。

気になった私は日が昇ってから慧音の寺子屋に訪れた。

「慧音、いるか?」

「おや、妹紅じゃないか。上がっていくといい。丁度お茶にしようと思ってたところだ。」

調子に乗せられた私は縁側に腰を下ろした。

「で、何か訊きたいことでもあるのか?」

慧音は私にお茶を渡すと隣に腰かけた。

「あぁ。太歳という妖怪について訊きたくてな。」

「太歳か…」

慧音は渋い顔をすると湯飲みに口を付けた。

「アレを妖怪と定義するのは少々難があるな。」

「そうなのか?」

「もともと太歳は諸説が多い生き物だ。木星の衛星とされたときもあれば方位神の一角とされたときもあり、地中をうごめく肉塊とされたこともある。」

「私の会った太歳は…人の形をしていた。」

「人の形?」

「自分の事を(あやかし)って言ってたな。」

「妖とは何も妖怪だけの事を指す訳ではない。まるで人の心がない人間や魑魅魍魎を指すこともある。」

「なるほど、あいつはそう言う意味で自分の事を妖っていったのか…」

私が感慨にふけっていると慧音が不思議な表情で覗き込んできた。

「…どうかしたか?」

「妹紅が他の者に興味を持つなんて珍しいと思ってな。」

「そんなことないさ。」

「いや、お前は私の事は理解者と見ているが太歳の語っている時のお前はそれとは少し違う気もする。」

いまいちピンとこない慧音の言い方に私は首を傾げた。

「どういうことだ?」

「それは…」

慧音も何を言おうとしたのかいまいちよく分かっていないみたいだった。

「ひょっとしたら、私はその太歳に嫉妬してるのかもな。」

「嫉妬?」

「ずっと近い距離でお前と触れ合えている太歳が羨ましいのかも…なんてな。」

そういって慧音は照れ臭そうに笑っていた。

「私のつまらない独りよがりだ。あまり気にしないでくれ。」

そういって慧音は立ち上がった。

「私は授業の準備があるからこれで。お前は自由にしててくれ。」

「あぁ、そうさせてもらうよ。」

慧音がいなくなった縁側で私は1人考え続けた。

近い距離で触れ合えるってどういうことだ?

あいつと私は話ぐらいしかしたことがないし一番接近するとしても魚を受け取る時だけだ。

近い距離と言ったら慧音の方がよっぽど近い。

それにも関わらず何故慧音は私と太歳の距離の方が近いと言ったんだ?

ではそもそも何をもって慧音は「距離」と定義したのか。

心の距離か、物理的な距離なのか。

どちらをとっても慧音の方が圧倒的に近いことは言わずもがなだ。

何が近いのか…

そんなことを考え続けていると肩を叩かれた感覚で我に返った。

顔をあげると慧音が私を見ていた。

「どうかしたか? これから授業だろ?」

「これからって…もう授業は終わってるぞ。」

「えっ?」

顔をあげると既に日は暮れかけていて空は夕焼けで染まっていた。

「あぁ…悪かったな。」

半日近く距離について考え続けていたことに軽い驚きを感じながら私は縁側から立ち上がった。

「今日は帰るよ。」

「大丈夫か? 泊まっていってもいいんだぞ?」

「いや、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかないさ。」

笑顔を作って歩き始めた。

「妹紅。」

ふと呼びかけられた。

振り返ると慧音が不安そうな表情でこちらを見ている。

「…無理するなよ。」

その真意を掴むことは出来なかったが私は頷いて慧音の小屋を後にした。

いつもの様に小屋に戻って壁に背を付けて私は眠りに落ちようとした。

静かに目を閉じると長い夜を数え始めた。

竹林の夜は少し騒々しい。

風の音が竹の葉を揺らし、妖怪たちがあちこちを駆けまわる。

ゆっくりとまどろみの中に身をゆだねようとした時だった。

金属楽器の様な音が私の耳に届いた。

ぱっと覚醒すると扉を開ける。

どっちの方向だ…

しばらく耳を澄ませていたがそれ以上何か聞こえることはなかった。

「幻聴か…?」

「アポカプティックサウンド。」

振り返れば家の屋根に妖弦が座っていた。

「…なんて?」

「終末音の事だ。7人の天使がラッパを吹き鳴らし、世界が終わるなんて言われているな。」

「世界の終わり…」

「実際には人間の妄想だが。」

「それは妄想…なのか?」

私が問いかけると妖弦は不思議そうにこちらを見下ろした。

「人間は恐怖から妖怪を作り出し、未知の現象を物語に仕立て上げた。死を、老いを、病を、飢えを、痛みを人の形を取らせることで少しでもその恐怖を和らげようとした。

 だから時代が進んだ今、この音が幻想入りしたとしても俺は驚かない。」

「お前は…何処か達観してるな。」

「俺は個にして群。群にして孤。何を考えようとも結局は答えが出せないのさ。」

それは返事ではなかったが、どこか私を安心させた。

「なあ…」

屋根に向き直る。

そこには誰もいなかった。

百鬼夜行、そんな言葉が頭をよぎる。

「萃香のいたずらか?」

だが萃香が必要もないのにちょっかいをかけてくるとは思えない。

私は頭を振ると小屋の中に戻って休息を再開した。

 日にちという物はぼんやりと過ぎ去っていった。

いつもの様に竹林の中を歩き回っては迷った人間を助け、夜になれば輝夜と殺しあう。

時に勝ち、時に負けて、負けた日にはいつもあいつがいつもの広場で私を待っていた。

その日はちょうど私が負けた日だった。

いつもの様に肉体を再生させると妖弦が魚を焼いて待っていた。

「お疲れ様。」

いつもの様に淡々と告げる妖弦。

だが私はその日、いつもとは違うことに気が付いた。

「妖弦、その傷は…」

「魚食べるか?」

「…いただこうか。」

深く話したくないのが分かった私はとりあえず魚を受け取ることにした。

魚を受け取ると妖弦はいつもとは違ってまじまじと私の顔を見る。

「…私の顔に何かついてるか?」

「お前は不老不死を得て何を見つけたんだ?」

魚が胸の部分で詰まった。

無言で胸を叩いて胃に流し込むと私は妖弦を見つめた。

「どういうことだ?」

「そのままの意味だ。お前は不老不死になったとき、不老不死以外に何を見つけ、手に入れたんだ?」

「お前がそんなことを聞くなんて珍しいな。」

「悩んでる。」

「何について?」

「……。」

妖弦は目を閉じて何か考えている様だった。

その様子はどこか藻掻いている様にも見える。

「…俺の存在する意味。」

納得のいく表現が思いついたのか妖弦はそう答えた。

「俺は人間に生み出されたときから不老不死だ。星としても、神としても、肉塊としても。そこに何の存在意義があるのか。それが分からなくて悩んでる。」

単純なことを言えば、と彼は続ける。

「――飽きた。だから死にたい。でも、どうやって死ねばいいのか分からない。」

さらりと、吐かれたその台詞に私は戦慄した。

「――死にたいだって?」

怒りのあまり私は持っていた串を炭に変えていた。

「そんなの私だって思ってたさ! でも私たちは死ねないんだ! それを死にたいだなんておこがましい! ふざけるのも大概にしろよ!」

私の怒声をそいつは平然とした表情で聞いていた。

「怒って何になるんだ?」

ケロリとした表情でそいつは言い放つ。

「確かに俺も最初はそうだった。無限の生を持つことを人に羨ましがられるたびに激怒した。でも気が付けば俺が存在していた時間は生まれた時よりも大幅に引き延ばされ、数万年ほどのありもしない記憶が頭の中に詰め込まれた。」

妖弦は立ち上がると私の頬に触れた。

皺だらけの指が私の頬に伝わる。

彼の冷たく吹き荒れた感情が私を撫でた。

「…話すべきじゃなかった。」

妖弦は手を放すと私に背を向けた。

「待てよ!」

私の声に妖弦が足を止める。

「…何?」

「…お前は、ひとりじゃないだろ。」

「いや、お前に仲間がいるだけだ。」

今度こそ妖弦は去っていった。

後には彼が起こしていた火が残っていた。

それを踏み潰して消すと私は小屋に帰った。

あいつの言葉が頭の中を反復して私はイライラした。

 日が沈み始める中、私は慧音の下に訪れた。

「…上がっていけ。」

慧音は私を見るとすぐにそう言った。

その言葉に甘えて私は縁側に腰かける。

やがていつもの様に慧音が湯飲みを2つと煎餅の入ったお盆をもってやってきた。

「…話していた太歳と何かあったか?」

「……。」

私は一口湯飲みを傾けると口を開いた。

「…まぁ同じ不老不死絡みでな。ソイツが死にたいって話をしていたんだ。それで、私がそれに激怒した。一方的にな。」

気まずくなって煎餅を一口齧る。

「…なあ妹紅。お前は私の事を理解者と思ってるようだがそれは違うぞ。」

「いきなり何を――」

「まあ聞け。お前は随分私に心の内を開けてくれたよな。でも、お前は私についてどのくらい知ってる?」

「それは…」

そこから先の言葉が続かなかった。

「確かに私が進んで話をしなかったのは認めよう。だが妹紅、お前は私の事をどれだけ知りたいと思ってるんだ?」

「…続けてくれ。」

今回ばかりはちゃんと説教を喰らう必要がありそうだった。

「その太歳が求めていたのは寄り添う事だったんじゃないのか?」

「…寄り添う事?」

「そうだ。同じ不老不死として共感し、泣きたい時は共に泣き、嬉しい時は共に笑顔になる。そんな仲間が欲しかったんじゃないかな?

 彼が探しているのは意味だ。生きる意味。ならお前がそれを教えてやれ。直接教えられなくとも、人の感情に触れることの暖かさを。」

不思議とその言葉に私は暖かさを感じた。

「そうか…生きる意味か…」

「妹紅、お前はなぜ生きているんだ?」

「…輝夜を殺したいから。」

「それがどんなに汚れていようとそれはお前の生きる答えであり、生きる理由だ。そこに理屈も何もいらない。それを私達は『生きがい』っていうんじゃないかな?」

「生きがい…」

「傷付けてもいい。傷つけられてもいい。それでも握った手は絶対に放すな。あいつに教え終えるまで。

 求むのなら持てる全てを以て適えるんだ。そうして私達は絆を作ってきたんだろう?」

「私に…出来るかな…?」

「お前は人と関わることを極度に避けているからな。簡単にはいかないだろう。でも、時間はたっぷりあるんだ。それを教えることはできるだろう?」

そういうと慧音は寂しそうにほほ笑んだ。

「妹紅、私はいつか死ぬ。人間よりはるかに長寿であっても限界は来る。その時が、私は不安なんだ。」

「…死ぬことが怖い?」

「確かに怖い。だがもっと怖いのは、私を失ったことでお前が何を信頼して生きていくのかが分からなくて怖い。」

「そんなの慧音以外にいる訳――」

「出来るさ。だからあの太歳の事をお前は気にしてるんだろう?」

つん、と心臓を針で突かれたような気持ちになった。

「だから妹紅、約束してくれ。私が死ぬときに備えて私以外にお前を理解してくれる奴を探すと。」

「…約束するよ。お前が生きているうちにな。」

何処か物悲しい約束を交わし終えた私は縁側から立ち上がった。

「輝夜との約束があるんだ。今日こそあいつを殺してくるよ。」

「…あぁ、気を付けて。」

登り始めた月を眺めながら私は竹林に戻った。

「いつか、あの白澤は死ぬ。その前に――必ず殺してやるさ、輝夜。」

私は殺意を胸にいつもの決闘場所に入り込んだ。

爆発。

私の肌は一瞬にして炭に変わった。

「ッ!」

反射的に腕を交差して体を守る。

見ると、中央には輝夜と妖弦がいた。

お互いに向かい合っていて、妖弦は殺意を、輝夜は困惑した表情をそれぞれ見せていた。

腕が治ったのも忘れて私はその光景をぽかんと見つめていた。

何故あいつがここに?

そしてなぜ妖弦は輝夜に殺意を向けているんだ?

「なあ、殺意って…」

あいつが口を開く。

「空っぽだよな。何もないくらいに空虚だ。」

「…えぇ、そうかもね。でも私は貴方に殺意を覚えさせるようなことをした覚えはないのだけど。」

「あるものを探してるんだ。」

「ある物?」

「――俺の存在理由。お前は不老不死になったとき、それ以外に何を見つけ、手に入れたんだ?」

「…何も手に入れられたわけないじゃないの。元々私の持っていないものは無かったんだもの。」

妖弦はそれを聞くと失望したように殺意を収めた。

「…そうか、お前は答えを持っていないのか。そしてお前は俺を殺せない。」

「どういうことかしら?」

「俺は元来の不老不死。それを持って生まれた。では不老不死である俺の存在意義とは何だ? それが分からなくて探している。」

そういって妖弦は輝夜に背を向けて歩き始めた。

そのまま私の横を見向きもせずに通り過ぎる。

私は少し迷ったが結局約束をすっぽかすことにした。

妖弦を追いかける。

「待てよ!」

言葉が聞こえていないかの様に妖弦は全く歩調を緩めない。

「後悔するなよ…《虚人「ウー」》」

爪を描いた弾幕が妖弦に襲い掛かる。

妖弦はそれを振り返りもせずに躱して見せた。

だが、その間だけ稼げれば十分だ。

私は妖弦の前に回り込むと行く手を塞いだ。

「…邪魔だ。」

「生憎、私は諦めが悪いもんでね。」

「…死ぬぞ?」

「よく言う。お互いに死なない身だろ? それとも死ねない身の方が正しいか?」

正直怖い。

こいつの実力はさっき身に染みている。

死なない身でも体は正直だった。

弾幕だけのルールに囚われていれば本当に死にかねない。

私は腹をくくると最初から全力で取り組むことにした。

「《「インペリシャブルシューティング」》!」

鱗弾が円を描いて妖弦を囲う。

その隙をついて私は妖弦に接近する。

それを予期していたのか妖弦は中国拳法の様な構えをして待っていた。

力任せに拳を叩き込む。

妖弦はそれを軽く指先だけで受け止めた。

私の肩腕が爆散する。

別に放っておけばいい、もう数秒もすれば元に戻るのだから。

体に炎を纏って更に攻撃を続ける。

『インペリシャブルシューティング』の継続時間は詠唱時間も含めて80秒。

それまでにこいつとの戦い続けながらスペルを次々展開する必要がある。

上等だ、やってやろうじゃねえか。

私は吠えながら攻撃を続ける。

右腕が爆散したのなら左腕で、それでもだめなら右足で、やっぱりだめなら左足で攻撃する。

その間に右腕が復活しているという作戦だ。

正直なところ他に策はない。

ただただこいつを止める為だけの攻撃だ。

激痛が四肢を襲う。

それを私は吠えて耐えた。

「もういい。」

妖弦は静かに告げると姿を消した。

いや、私の背後だ。

振り向こうとしたとき、既に妖弦は腕を振り終えていた。

首のない胴体が私の目に入る。

「さようなら、妹紅。」

「《「パゼストバイフェニックス」》!」

諦めてなるものか。

私は妖弦に取り憑いた。

「こいつ…魂だけになって…ッ!?」

妖弦の声に初めて焦りが生まれる。

教えてやるよ、妖弦。

人の暖かさを、やさしさを、生き方を、そして私の想いを!

殺意を空虚といったお前は絶対に許さない!

辺りを覆いつくす弾幕が激しさを増す。

妖弦と私は1つの肉体の中で主導権を奪い合った。

「妹紅…正気か!?」

妖弦が苦しそうに問いかける。

死なないのなら、いくら肉体を傷つけても構うまい。

腕の支配権だけを握ると腹に穴をあける。

「妹紅…!」

首を掴んでありえない方向に捻り上げる。

ぽきり、という軽い音がして首が折れるのが分かった。

ここまでくればもう十分だ。

炎を妖弦の体に纏わり付ける。

「…ッ!」

声のない悲鳴に包まれて私達は上空50尺から真っ逆さまに落下した。

ぐしゃっという音と共に激しい痛みが襲い掛かる。

意識が飛び、気付けば潰れた妖弦の体を別の視点から見ていた。

放っておけば肉体が再生成されるだろう。

私はゆっくりとその時を待った。

やがてどこからか光の粒が集まり、魂が肉体に吸い寄せられる。

「……。」

ぱちりと目を覚ました。

ゆっくりと上体を起こして場所を確認する。

少し離れた所では魚が串に刺されて焚火に炙られていた。

私は立ち上がると串を手に取った。

焼かれた魚はちょうど良い塩梅に焼かれていてパチパチと油が香ばしい音を立てている。

一口、魚を頬張った。

魚は灰を被っていて不味かった。

自然と涙がこぼれてきた。

それを拭うとまた一口魚に齧りつく。

やっぱり、灰を被っていて不味かった。

拭ったはずの涙が顔を伝う。

私はあふれる涙をそのままに魚を頬張る。

灰を被った魚はなぜか必要以上にしょっぱかった。

 あれからあいつの姿は幻想郷から消えた。

理由は明白だ。

あいつは確かに不死だった。

ただそれだけの話だった。

あの日以降、私は輝夜に負ける度魚を焼いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] また難解な事に挑戦してますね。 (;ーωー)う~ん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ