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第1話・厄介ごとを起こす娘

 冷徹な印象を与えはするが、知に溢れると思えるその容貌にスマートな姿態。

 ちょっとばかり特殊な性癖(ドM趣味)を持つ者ならば、進んでその足下に体躯さえ投げ出しそうな印象を覚える少女と対峙していたのは…


 「ああん?もういっぺん言ってみなさいよこの冷血メガネ」


 対照的に、燃える血の色のリボンで鹿の毛色の髪を束ねた、小柄な少女だ。

 二人は生まれる前から定められていた運命のごとく、激しく睨み合うかと思いきや。


 「暑苦しいのでそう憤らないでもらえるかしら、変人同盟筆頭の鵜ノ澤吾音さん」


 …一方はその風貌に違わず、冷静な様子なのだった。


 「あんたらがわたしらをどう言おうが知ったこっちゃないけどさ。自分らの無能を棚に上げて尻拭いをこっちにさせようって図に怒らないでいられるほど、お優しくねーわけよ、こっちは」


 仏ならぬ身じゃあ二度目が限度ってもんね、と余計な一言を付け加えるのも忘れない。

 その言い様に、自治会長の阿方伊緒里あがた いおりは小さく身動ぎをする。ためにずれたメガネを、右手の人差し指で直す仕草は傍目には優雅にも見えただろうが、吾音の目には動揺を隠そうとしているようにしか思えなかった。


 「……ふん。忘れちゃあいないようね。人並みの記憶力はあるようで話が早いってもんだわ」

 「…何のことかしら?」

 「さて?それをわたしの口から言わそうとするクソ度胸は買うけどね」


 会長のデスクの前に立つ吾音は芝居がかった動作で、固唾を呑んで見守っている、自治会室の役員連中を見渡して、言う。


 「…それが知れ渡ったらあんたの立場だって、怪しくなるんじゃあ………ないの?」


 妖艶な悪女のようにデスクに腰掛け、伊緒里にニヤけた顔を寄せて小声で告げた。

 よっこいしょ、と飛び乗ってからでなかったらそれなりに絵になったのだろうが。


 「………お好きなようになさったら?わたし個人の恥ではあっても、自治会役員の矜持を傷つけるほどの出来事ではないでしょうに」

 「あらあ、意外と肝が据わってるのね。ま、こんなところで使ってしまうのも勿体ないネタなのだし?いーでしょ。今回は引いてあげる」


 顔を赤らめて自分を睨む伊緒里の様子に満足を覚えたのか、吾音はデスクを降りようと姿勢を改めたが、思い直したのか足をぶらぶらさせていた。…役員の一人が後に語ったところによると、「リーグの燃える赤にしては随分かわいいパンツが見えていた」らしかった。

 そんな事実も本人はつゆ知らず、鼻歌なんぞを口ずさみちらちらと伊緒里の方を振り返っている。


 「…もしかして降りられないのかしら?」

 「んなっ…、んなわけないでしょーがバーカバーカ!っていうか無駄に高いのよこのデスクがっ!!これはそう、あれよねっ?!無駄にプライドばっか高い誰かさんの気位を反映したもんでしょ、そーよねそーに決まってるわ!」

 「あなた運動神経は悪くないはずでしょうに。さっさと降りればいいでしょう。それとこの机は自治会第一期から受け継がれている由緒正しい備品よ。私の気性とは何の関係もないわ」


 煽るような物言いの割には真面目に心配する口調だった。

 そんな口振りにかえって気分を害したか、吾音は「ふんっ!!」と鼻を鳴らしてデスクから飛び降りる。

 まあこの時に中が見えたかどうかは、議事録にも残っていないし証言の一つも残さ

れていないため、後世の史家も事実を確認することが出来ないのだったが。


 「…ともかく、私たちからの下命はきちんと果たすように。あなたの変人同盟が勝手をしていられるのも、自治会の外郭団体として機能しているからこそ、であることを忘れないように」

 「あーあーきこえなーい」

 「ガキか…」

 「あんですってぇ?!」

 「聞こえてるんじゃないの」


 吾音の都合のいい耳っぷりにため息をついて伊緒里は、うざったいものを追い払うように片手を振って騒擾の主を送り出すのであった。

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