一. 忘れていた過去
僕には幼い頃から両親がいない。
いや、殺されたと言った方が正しいだろう。
幼い頃だからなのか、
ショックのあまり覚えていないのかはわからないが、唯一覚えているのは血の海に浮かんだように横たわる両親と、その年初めて家に飾られた緑色のクリスマスツリーだった。
「慎二っ!慎二っ!」
隣で歩きながら僕の名前を呼んだのは、小さい頃から家が隣同士で俗に言う幼馴染であるとともに、付き合っている真美だ。
「あ、ごめん。ボーッとしてた。」
「ボーッとしてるのはいつもでしょ!」
皮肉を込めた様に彼女は言う。
僕、小川慎二と彼女である浅倉真美は大学2年で、今まで幼稚園、小、中、高、そして今通っている大学も同じである。
付き合い始めたのは高校生の頃だったと思うが、それ以前から常に一緒にいたので特別なにか変わったことはない。
おそらく、この先も今のままずっと一緒にいるんだろうなと思う。
「ねぇ、慎二は就職先とかどうするか決めた?」
彼女は僕の隣の少し前を歩きながら聞いてきた。
「んー、夢とか別にないし。家から近かったらどこでもいい。」
僕は目線を変えず、下の方を向いたまま答える。
彼女と僕は、通っている大学から徒歩20分くらいのアパートに同棲している。
今こうして普通の生活を送れているのは、彼女の両親のおかげだ。
僕が一人になり、頼る親戚が居らず途方に暮れていた時、元々親同士が仲良くしてたこともあってか、彼女の家に住むことになった。
僕は両親が亡くなったことが理由で、国から給付金や手当てが出るため、お金に困ることもあまりなく、彼女の両親も本当の子の様に僕を育ててくれた。
「じゃあ、私も近くで就職しようかなー。慎二は私がいないとダメだからなー。」
馬鹿にしたような表情で僕に言った。
「…たしかにそうかも。」
「えっ!あの慎二が珍しく素直じゃん!」
意外な答えなのか、彼女は驚いている。
こんなたわいもない会話をしながら、僕たちは大学へと歩いていた。
大学の講義が夕方に終わり、大学の友人と帰っていると真美からラインが来ていた。
『私今日、バイトあるから夜に帰るね!もしお腹減ってたら、先に作って食べててもいいよ!』
僕もバイトをしているが、今日は休みだった。
すると、大学の友人である柳谷真斗が僕のスマホを覗きながら
「相変わらず良い子だよなー 真美は。ありゃ本当良い奥さんになるぜ?」
真斗は羨ましそうに言った。
真斗とは、大学へ入学してすぐに知り合った。
講義でたまたま隣の席になり、ちょくちょく話しているうちにいつのまにか仲良くなっていた。
彼は真美とも仲良くなり、三人で遊ぶこともしばしばある。
だけど彼には僕の両親が殺されたことを言っていない。
あまり覚えていないから言ったってどうしようもないし、変に気を遣われるのが嫌だったからだ。
まさか、数日後にあの日のことを思い出すことになるとは、今の僕は想像もしていなかった。




