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学校に行ってみよう

 クラトスの宿屋の食堂で、昼食を取っていた。

 セシルとアーヤが街に買い物に行ったため、昼食を外で取ることにしたのだ。

 

 周りの客と世間話をしていると、外からクラトスが戻ってきた。

 僕の顔を見ると、横の席に座って、盛大なため息を吐いた。


「なぁ、ユージン。俺、もうダメかも……」

「どうしたんですか? 深刻そうですが?」

「実はな……」


 憂いのある顔を見せると、またため息を吐いた。


「もう、アーヤちゃんに教えることがなくなっちった」


 てへっ。と言わんばかりに、ウィンクをして笑った。

 まったく可愛くない。やや不快に感じる程に酷い笑顔だ。


 それは別にして、何故アーヤに教えることがなくなったのだろう。


「アーヤはまだ九歳ですよ? クラトスさんの知識なら、まだ習うことは多そうですけど?」


 普段はふざけているクラトスだが、知識は豊富だ。

 若い時は学校に行っていたとのことで、そこで学んだ知識を、ここで遺憾なく発揮している。


「吸収率が半端ないんだよねぇ。教えたことは大概憶えているし、応用もできる。ホント、天才ってやつじゃないかな、アーヤちゃんは」


 天才か。やはり、勇者として生まれたからだろう。

 アーヤは大抵のことは、すんなりとやり遂げるところがある。剣もセシルから学んで、今では腰の入った剣技を繰り出しており、著しく成長している。

 文武両道とは正しく、アーヤのことを言うのだろう。


「じゃあ、アーヤは卒業ってことですか?」

「う~ん、このままってのも勿体ないからなぁ。街の学校に通わせたらどうだ? 将来、教授になれたりするかもよ?」

「街の学校ですか?」


 街の学校とは国立の学校のことだ。国立とは言っても、授業料はそれなりに高く、基本通うのは平均以上の生活水準の人が中心だ。

 我が家の家計を考えると、それなりに痛い出費になる。


 アーヤは勉強も好きだ。学校ではもちろん、家でも予習、復習は欠かさない。

 それを考えると、本当の学校に行かせるのも良いかもしれないが。


「アーヤに聞いてみます。クラトスさんの学校のことも好きでしょうから」

「確かにアーヤちゃんがいてくれると、うるさい子供達をまとめてくれるから、ありがたいんだけどね。だけど、才能の芽は摘みたくはないよ」


 言うと、乾いた笑いをした。

 クラトスは、アーヤのことを真剣に考えてくれているのだろう。

 教師が言うのだ。親の僕は、もっと真剣に考えなくてどうする。セシル達が帰ってきたら話をしよう。


      ・      ・      ・


 家に戻ると、セシルとアーヤが帰ってきていた。


「パパ、お帰りなさい!」

「ユーたん、お帰り」


 二人のお出迎えに、僕も返事をする。


「二人とも、お帰り。意外に早かったね」

「思ったよりも早く買えたのでな。ユーたん、ちょっと話があるのだが?」


 いつになく真剣な表情のセシルを見て、こくりと頷いた。

 どんな話だろう。ビクビクしてしまう。


「実は、アーヤになのだが。学校に来ないかと誘われたのだ」

「誘われた? 誰から?」

「校長だ。街中で声を掛けられてな。受験は必要とのことだが、特待生として受け入れたいと言われたのだ」

「特待生!? それって、すごいんだよね?」

「ああ。授業料は完全に免除とのことだ。どうだろう? 私は行かせてやりたいと思う。知識はあって、損はないと思う。それにアーヤは勉強が好きだ。好きなことはやらせてあげたい」


 セシルは確固とした答えを出しているようだ。

 僕はと言うと、まだ悩んでいる節がある。いつも付きまとう勇者という言葉。

 子供がやりたいことをやらせるのも親としての務めなのに。


 横目でアーヤを見る。僕達の会話は聞こえていないようで、読書に熱中している。

 学校に行かせるべきか。それでアーヤ本人の人生に彩りが出るなら、行かせてあげるべきだろう。

 限界を親が決めるのは悪いことだ。


「そうだね。アーヤが行きたいなら、行かせてあげよう。ありがとう、セシル。話してくれて」

「私からも礼を言わせてほしい。行かせるのに難色を示すのかと思っていたのだ。アーヤ、ちょっと良いか?」


 本から目を離したアーヤにセシルが言う。


「アーヤは街の学校に行きたいとは思わないか? もっと勉強をできる場所だし、いっぱい同級生がいる。楽しいと思うぞ?」

「う~ん……。よく分かんない。パパは、どう? 行った方が良い?」


 小首を傾げているアーヤの問い掛けに、大きく頷く。


「行ってみるべきだと思うよ。合わなかったら、その時、また考えよう」


「うん! じゃあ、行く!」


 眩しい笑みを浮かべると、期待に胸を膨らませたのか、嬉しそうにセシルに学校について聞きだした。

 学校に行くのは、この子の人生にきっと良い結果になってくれるはずだ。

 多くのことを学んで、大きくなる我が子を想像して、顔をほころばせた。


      ・      ・      ・


 学校は初等部から高等部まで、更には大学まで一貫したものだ。


 場所は魔法学校から離れておらず、行き慣れた道を家族三人で歩いている。

 道すがらアーヤがスキップをして、喜びを表現していた。その姿を優しく見つめていると、白髪を撫で上げた男性がこちらに近づいて来ていた。

 老人のようだが、背筋は伸びており、足取りはしっかりとしている。


「校長先生!?」


 セシルが男性の顔を見て驚いた。


「やあ、来てくれると思っていたよ。アーヤちゃん、ありがとう。さぁ、学校にいらっしゃい。大丈夫とは思うけど、試験は受けてもらうよ」


 校長に促されて、そのまま学校の中に通された。

 校内には子供から成人したての学生まで様々な人がいた。その誰もが、校長の顔に気づくと、挨拶をしていく。

 それを見て、本当に校長なのだと実感が湧いた。


 校舎の中に入ると、応接室に通され、ソファに座らされる。

 校長が世間話を振ってくるので、それに答える。しばらくすると、応接室のドアが開いた。


「校長先生、試験の準備ができました」

「そうか。なら、お母さんとアーヤちゃんは面接に。お父さんは、ここに残ってもらえるかな?」


 校長の言葉に、目を丸くした。

 なんでセシルは行って、僕は待機なのだろう。


「あの、僕は行かなくて良いんですか?」

「うん。お父さんには話したいことがあるんでね。さ、行ってらっしゃい」


 アーヤとセシルが応接室を出ていくと、僕と校長の二人きりになった。

 僕と話すって、何を話すのだろう。子供の普段の様子とかだろうか。これも試験の一貫かもしれない。気を引き締めよう。


「さてと、君に問おうかな。あの子は何者だね?」

「えっ? 何者って? 僕の子供ですけど?」

「そういうことではない。普通ではない、何か。あの子は、測り知れない何かを持っている。それが何か……。君は知っているのではないかね?」


 背中に冷や汗が流れた。校長は何を知っているのだ。

 今まで、聞かれたことがない問いに、答えが見いだせない。


「ふむ、言えないかね? ならば、こちらの考えを言わせてもらおう。人知の及ばぬ存在。神、もしくは神の子。と言ったところかな?」


 ごくりと喉を鳴らした。どこまで知っているのだ、この人は。

 僕はセシル以外には話していない。なのに、アーヤの存在を見抜いているかのような言葉を口にした。

 言った方が良いのか? いや、ここで言うのは危険だ。下手なことを言えば、アーヤの身に何かあるかもしれない。


「な、何を言っているんですか? アーヤは僕の子供ですよ? 普通の女の子です。あ! もしかして、優秀だからですか? 神童ってやつかもですね」

「饒舌になるのは、やましい事を隠そうとしているようなものだよ? まあ、いい。本題に移ろう。あの子から身を引きたまえ」


 校長の放った言葉は、冷たく固いものだった。

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