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唐突にヒロイン登場

 ティーカップから漂う香りを楽しんでから、お茶を口に含んだ。

 

 魔法大学校のヴィヴレットの教授室にて、僕とアーヤ、ヴィヴレットでお茶を楽しんでいた。

 僕とヴィヴレットは紅茶で、アーヤは甘いミルクティで優雅な時間を過ごしている。


「アーヤに婚約者ができるとはのぉ。そのユーグリットとやら、良い目をしておるな」

「まだ、婚約者ではありませんよ。だいたい五歳児に目をつけるのって、どうなんですか? 不審人物一歩手前だと思うんですけど?」

「確かにちと早いが、幼くして求婚される話もない訳ではないぞ? アーヤの魅力を考えれば、納得できるというものじゃ」


 そういうものなのか?

 確かに贔屓目なしにしても、アーヤは飛び切り可愛い。僕が女神に願った通りの力を持っているのだろう。

 いや、容姿だけではない。性格も優しく、素直で穏やかだ。百点満点の性格と言っていい。

 良いことづくめの娘を見て、思わず顔がほころぶ。


「アーヤが結婚するなんて、想像もできないです。でも、ウェディングドレスは似合うんだろうなぁ」

「うむ。目に浮かぶように分かるのぉ。それに横に並んで涙を流すお主の顔も容易に想像できるわ」


 僕をからかって小さく笑った。

 まぁ、泣くだろうな、間違いなく。でも、それだけ愛している証拠だ。誇っていい事だ。

 ヴィヴレットのカップが空になっている。おかわりを注ぐために、ポットを手に取った。


「あれ? もう、空になってますね」

「む? そうか。ならば、また淹れるとしようかのぉ。そうじゃ、ユージン。茶葉が少なくなってきておるのじゃ。買ってきてもらえぬか?」

「良いですよ。いつものヤツですよね?」

「うむ、頼むぞ。では、アーヤ、お茶を淹れるのを手伝ってくれるかのぉ?」


 ヴィヴレットの問いかけに、アーヤが手を上げて元気よく返事をした。

 皆で教授室を出て、それぞれの目的地に向かった。


      ・      ・      ・


 うららかな日和の午後、街は穏やかさに包まれていた。


 買い物や散歩にはぴったりな日のせいか、市場は普段より人が多い。

 人混みを抜けて、一本横の道に入る。頼まれた茶葉と診療所で使う薬を入れた袋を片手に、街中を進んでいく。

 もうすぐ魔法大学校だ。門に目を向けると、副校長が歩いているのが見えた。

 挨拶をしよう。少し足を速くし、建物の傍を通った時、何かが僕にぶつかった。


「きゃっ!?」


 声のした方に目を向けると、地べたに尻もちを着いて、食パンを口に咥えている女性の姿が見えた。

 長くストレートな金髪に、きりりとした綺麗な二重の目、すっとした鼻梁。まるでモデルさんのようだ。

 質素な白のワンピースを着ており、顔立ちと相まって可憐な花を想像させられた。


 女性を見ていた目が一点に引き寄せられた。

 白いパンツが見えている。


「やだっ、私!」


 女性はすぐに服を整えると、僕に抗議の目を向けてきた。


「もしかして、見た?」

「えっと……」

「見たの?」

「……ごめんなさい」


 見てしまったのは事実なので、素直に謝った。

 僕のせいではないが、女性に恥ずかしい思いをさせてしまったことに申し訳なさを感じた。


「あの、すみませんでした。怪我、ありませんか?」

「……して」

「え? 何ですか?」

「私と結婚して!」

「へっ!?」


 結婚!? いきなり何の話だ?

 女性は立ち上がると、僕に詰め寄ってきた。思わず一歩下がる。

 

「あの、話しが見えない」

「結婚しましょう! さぁ、早く、今すぐ!」

「ちょっと待ってください!」


 新手の詐欺か? 結婚しろしろ詐欺かもしれない。

 だが、その手には乗らない。簡単に騙されないぞ。毅然とした態度で挑む。


「僕は」

「近くに教会があるわ! 飛び込み歓迎だったはずだから大丈夫よ!」

「結婚なのに飛び込みとかあるんですか!?」


 違う違う。ツッコミどころが違った。

 とにかく、結婚はしない、させない、やらせない。

 意思を強く持て。負けてはならないぞ、僕。


「だから、僕は」

「指輪なら私が持っているから大丈夫、安心して!」

「不安しかないんですけど!? とにかく、落ち着いてください。結婚したいのは分かりましたから」

「じゃあ、結婚しましょう!」

「話、聞いてますか!? どうして、そんなに結婚したいんですか? 今、会ったばっかりですよ?」


 そうだ。会って数分だ。僕を好きになる訳がない。

 女性が顔を赤らめて、もじもじとしだした。


「だって、パン……」

「パン?」


 思い出した。僕は女性のパンツを見てしまった。

 責任を取れと言っているのかもしれない。でも、パンツを見ただけで、結婚しないといけないのか?


「パンを咥えて、ぶつかったのよ!? 運命に違いないわ。だから、結婚する定めなのよ!」

「パンツじゃなかった! ……何で、パンを咥えた状態でぶつかったら結婚なんですか?」

「本でよく書かれる、あれよ! パンを咥えてぶつかった人と何だかんだあって、最後に結ばれる、あれよ!」

「ベタな展開のやつですね。でも、僕とはまだ何だかんだないですよ?」

「過程よりも結果が大事なのよ!? 結果、結ばれるんだから、結婚して!」

「えぇ……」


 出会いが運命的だから、結婚しろという事か。

 だからと言って、はい、そうですか。と受け入れる訳にはいかない。


「やっぱり、結婚はちょっと……」

「そんな……」


 僕の言葉で女性はうなだれた。

 悪いことをしてしまったのか? いや、結婚は人生の一大事なのだ。そんなに簡単に決めていいことではない。

 女性が肩を震えさせた。まさか、泣かしてしまったのか?


「あの?」


 問いかけた時、女性が顔を上げた。

 その顔は鬼気迫るものであった。僕の服の襟を両手で掴むと、ぐっと引き寄せられた。


「四の五の言わず、私と結婚するのだ!」

「ええええぇぇぇぇ!?」

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