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魔女っ子?

 女子高生ぐらいだろうか。まだあどけなさが残る少女との表現が正しいヴィヴレットは、少し得意げに笑っている。

 大きな目に、小さな鼻。愛らしさを感じる唇。暗がりでも分かる、美少女だ。

 なのに、魔女? こんな少女が魔女? 手には杖を持っているけど。


 事態が理解できないでいると、ヴィヴレットが目の前まで近づいていた。


「ふむ。あまり見ぬ恰好をしておるな。この辺の者ではないな?」

「えっ!?」


 肩が跳ねそうになった。

 この辺どころか、違う世界の人間です。と言う訳にはいかない。言ってしまえば、頭がおかしい人間と思われるに違いないから。


「そのぉ……」


 良い返答が思いつかず、口ごもってしまった。

 何て返せば正解なんだろう。正直に話せないし、下手なことも話せない。

 全力で思考していると、腕の中で眠っている赤ん坊が顔を歪めた。


「ふぇ~ん、ふぇ~ん」


 急に泣き出したかと思えば、腕に生暖かなものを感じた。

 まさか、これは。

 赤ん坊のお尻に手を当てると、湿っている。おしっこをしてしまったのだ。


「ふぇ~ん!」

「あぁ、ちょっと待ってね。えっと……」


 とりあえず不快の元の白い布を剥いだ。

 あれ? ついていない? ってことは。


「む? 女児ではないか」


 ヴィヴレットが赤ん坊をのぞき込んで言った。

 女の子だったんだ。勇者って言うくらいだから、男の子かと思っていた。

 と、そんなこと考えている場合じゃない。裸のままじゃ、風邪を引いてしまうかもしれない。


「あの、ヴィヴレットさん、ちょっと預かってもらえますか?」


 頷いたヴィヴレットに赤ん坊を渡して、着ていたシャツを脱いだ。

 少し肌寒いけど、文句は言ってられない。赤ん坊の体にシャツを巻いて、ヴィヴレットから引き取った。


「ふぇ……ふぇ……。ス~……ス~……」

「良かった。落ち着いてくれた」


 穏やかな顔になった赤ん坊を見て、胸を撫で下ろした。


「なかなか献身的な父親じゃな。感心感心」


 ヴィヴレットが高々と笑った。

 父親と言われて、苦笑いしかできない。

 半分は僕の血だと言われても、父親の自覚がないからだ。あんなに急に子供を押し付けられたら、誰だってこうなる。


「どうかしたか? 顔が暗いぞ?」

「あ、いえ、何でもないです。え~っと……、今日は寒いですねぇ、はは」

「そうじゃのぉ。ここは冷えるし、夜も遅い。我が家に来ぬか? 色々と聞きたいことがあるのでな」

「えっ?」


 家に行ける? ありがたい提案をいただいた。

 どこかも分からない森の中にいるよりも、落ち着けるに違いない。


「よ、よろしくお願いします」

「うむ。付いてまいれ」


 ヴィヴレットは背中を見せると歩き出したので、後ろを付いていく。

 暗い森の中を進んでいると、ヴィヴレットが歩きながら首を回した。


「そういえば、お主の名は?」

「えっ? 僕は……優仁です」

「ふむ。良い響きじゃな。その娘の名は?」

「えっ!?」


 何て返す。まったく考えていなかった。

 というか、まだ三十分もこの子といないのだから、考えられる訳がない。

 どうする? とりあえず、アイドルの名前とか付けるか? じゃあ、誰の名前を? そんな急には思いつかない。


「あ~、いやぁ~」

「アーイヤー?」

「いえっ! あっ! アーヤです。この子の名前はアーヤです!」

「ほぉ、可愛らしい響きではないか」


 良かった。変な名前じゃないようだ。これで禁止用語だったら、目も当てられない。

 咄嗟に付けた名前を口にする。


「アーヤ……」


 腕の中に眠る赤ん坊を見つめる。

 勝手に付けて、ごめん。名前って重要なものなのに。

 でも、僕は好きな響きだ。


「アーヤ、君はアーヤだよ」


 赤ん坊だけに伝わるように、小声で言った。

 アーヤが少し身じろぎをした。

 意思表示かな? 嬉しいのか、嫌なのか。気に入ってくれたなら嬉しいな。


「ユージン、お主、何故このような場所にいたのじゃ?」

「えっ!? いやぁ……。ちょっと、それは」

「ふむ。言えぬことか。まぁ、大体察しはつく」


 ヴィヴレットの言葉に目を大きく開いた。

 僕の正体がバレている? もし、違う世界の人間という事がバレているとしたら、このまま付いていくのは危険な気がする。


「逃げられた妻を追ってきたと見た!」

「どんな察しですか!」

「頼りなさそうな顔をしているからのぉ。大方、分不相応な女を嫁にして、女を忘れたくないと子供を押し付けられたといったところじゃろぉ」

「察しが良かった!」


 思わずツッコんでしまった。

 下手なことを言わないようにしていたのに。

 ただ、ヴィヴレットは変な勘違いをしてくれているようので、僕の正体を知られていないことに安堵した。


「しかし、こんな森にまで来るとはなぁ。余程の方向音痴か?」

「いやぁ、そうなんですよ。困ったものですよ。はは……」

「わしに見つからなかったら、危ういことになっていたかもしれんぞ? 夜はモンスターが狂暴になるからな」

「モンスターって。あの、ちっちゃくて細い?」


 あの醜悪な顔をした小柄で手足の細いやつを思い出した。

 まさしく、モンスターという言葉が正しい。


「モブゴブリンじゃな。まぁ、奴等ぐらいなら良いが、ゴリゴブリンだと、お主のようなひょろっこい奴には危ないじゃろうな」

「ゴリ……。もしかして、あの筋肉ムチムチな奴ですか?」

「おぉ、その通りじゃ。何じゃ、遭遇したのか?」

「はい。殺されるかと……」


 恐怖が蘇ってきた。寒気が体を奔ると、鳥肌が立った。

 あんなモンスターに勝てる気がしない。本当に助かって良かった。

 そういえば、何で助かったんだろう。あの時、何かあっただろうか?


 思い出した。アーヤが泣いた。大声で泣いた後に、ゴリゴブリンは森の中に消えて行ったのだ。

 泣き声が苦手なのか?


「あの、ゴリゴブリンって泣き声が苦手だったりします?」

「いや、そんなことはないのぉ。夜は攻撃的じゃから、ちょっとのことでは怯まんぞ」

「じゃあ、あの時は何で?」


 首を傾げていると、森の奥にぼんやりと光が見えた。

 近づくと森が開けており、夜空を拝むことができた。


「ほれ、あれがわしの家じゃ」


 ヴィヴレットが指をさした先には、周りの木とは比較にならない程に、大きく太い樹があった。

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