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couleur  作者: みねりごま
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第1話 始まりの物語

すべてはここから始まった

この世界は9つの国に別れている。

その中の一つにオベラル帝国があり、世界1の魔法大国である。いわば都会。魔法に関しての最先端の技術が集結しており、魔法科学者や高等魔術師などが人口の50%を占めている。ちなみに残り半分は魔法を学びに来た初級魔術師などである。

そんな大帝国の端にある小さな街、ミレンバ。

「今日もいい天気ね」

その少女は青々とした空を見上げ、呟いた。

しかしそばには誰の姿もない。何しろ少女は屋根の上に座っているのだから。

まだ14歳くらいであろう彼女は右目を眼帯で隠していた。ボサボサのピンクがかった白髪がその右目を隠すように伸びている。

彼女の真下では祭りが行われていた。多分、地方の豪族の祭りだろう。彼女は溜息をつき、その様子を見下ろした。

少し太っている男(あんなになりたくない!)が彼女とは正反対の華やかな衣装を着て、白い馬に乗っている。その白い馬は彼女でもわかるくらい、あからさまに嫌な顔をしていた。

地元の住民はイカれたようにその男性に頭を下げている。しかし彼女の目に止まったのは別の人物だった。

すぐ後ろの檻の中、体育座りをして顔を伏せている緑髪の少女だった。髪は二つに束ねていたり、シルクのワンピースを着ていたりと服装こそはきちんとしているが、それでもみすぼらしく見えた。あれが『奴隷』というものなのだろう。

彼女...シアは何故かその少女に好奇心を抱いた。そして導かれるように、その行列の行く先へと走り出した。

....勿論屋根の上を。



「えー、皆さんご機嫌よう。今日はワシの為に集まってくれてありがとう。感謝するぞ」

ニタニタと不気味な笑顔を浮かべながら先ほどの男はアナウンスを始めた。シアはその声に吐き気さえ感じた。巨大とは言えないが、まあまあ大きいコロシアムの中央に男はいる。そして驚いたことに、その隣に先ほどの少女がいた。しかし拘束されたままだ。

(何が始まるんだろう...)

奴隷の解剖式か?はたまた公開拷問か?シアは興味津々で観覧席から中央を見つめていた。

「では皆さんお待ちかね。ワシの愛しき奴隷を紹介しよう」

(奴隷を愛しているなんてただの戯言よ!)

シアはこっそりと中指を立てる。そんなシアとは裏腹に、周りの観客たちは奇声とも言える歓声をあげた。

男はとある鉄の盾を構え、こう言った。

「拘束を解こう」

すぐさま赤の魔法陣が現れ、少女を縛っていた色々なものがふっと消える。すると一瞬もしないうちに大量の矢が四方八方に現れ、男に向かって突進し始めた。金属と金属のぶつかる音が鳴り響く。

しかし勝ったのは男だった。

...というよりは無数の矢を受けながらも壊れずにいた盾だった。

シアは目線を少女に向けた。案の定、少女の真下には大きな紫色の魔法陣が出現している。見るに矢には毒が塗られてあったのだろう。

少女は殺気立っていた。

(へえ、ただの奴隷じゃないのね)

シアにある考えが浮かんだ。

その間にも少女の攻撃は続いていた。

紫だった魔法陣はすぐさま赤に色を変え、空高く燃え上がる炎が出現する。その炎が盾を赤色にするまで熱したかと思うと、今度は魔法陣が水色に変わり、炎が消えて氷が盾を包み込む。

うわっ、と男はすっかり冷たくなった盾を手放す。その瞬間、極度の温度の変化に耐えきれなかった盾は高温な音を発して砕け散ってしまった。

少女が次の魔法を繰り出そうとするのと、男が拘束するのでは後者の方が早かった。シアよりも年下であろうその少女は、キッと男を睨むと大人しくその場に座り込んだ。

その魔法大戦に観客は金銭を放り投げながらわっと歓声をあげる。それを見たシアは少し微笑みながら、その場を後にした。

屋根に登り、走る。オレンジ色の屋根がそこらじゅうに広がっていて走るにはとてもいい環境だ、とシアは心地よい風を感じながら目的地へと走る。

3分ほど走っただろうか。シアは屋根から飛び降り、ある空き地にたどり着いた。

「みんなただいまー!イリスおばあさまはいるー?」

そう大声で叫ぶと、静かだった空き地の影からぬっと数人顔をだした。その中には白髪が混じった老人もいる。シアはその老人を見つけるやいなや、飛び跳ねながら興奮して先程のことを話し始めた。

祭りが行われていたこと、コロシアムで奴隷少女が魔法を繰り出していたこと、鉄の盾が割れたこと。

話を聞き終えたシアの祖母...イリスはふふっと笑う。

何がおかしいの?というシアの問いに、イリスはそばにあった切り株に腰掛けて話し始めた。

「たしかにその魔道士は凄い。...といっても、続けて魔法を使うことはとても難しいことなのですよ。しかもアナスタシア(シアの本名)よりも幼かったのでしょう?けれど奴隷の身分にある。つまりその子は禁忌を小さいながらに使ってしまったか、あるいは両親がいない、捨て子だったのです」

シアは祖母の会話を聞く度に疑問に思う。何故イリスは敬語を使うのだろう...。

イリスは若々しい艶を帯びた赤色の長い髪を指先で巻きながら続けた。彼女のいつもの癖だ。

「そういえばアナスタシア、たしかに昨日、私は王都に魔術を習いに行って良いといいました。あなたはもう9歳。そろそろ習ってもいい頃でしょう。あなたの考えはわかっています。王都に行くついでに、その魔術師少女を連れようとしているのでしょう?それは絶対にいけません。同情するかもしれませんが、その子は奴隷です。奴隷というのは言わば人権のない『物』。他人の物を奪ってはいけないでしょう?」

「じゃあさ」

シアはここぞとばかりにイリスの言葉に反論した。

長年イリスの弁論を聞き続けていたシアは、その反論の種も持ち合わせるようになったのだ。

「『物』である奴隷の魔法の能力を使って金を稼いでよかったんだっけ?この国の法律じゃあ確か禁止よね?よくそういうの新聞で見るわよ。支配者だったらいいってわけ?そんなの法律でもなんでもないじゃない、馬鹿げてる!」

イリスは『新聞で見る』という、空き地に住むことしか出来ない程の貧しいシア達には絶対に正規法では出来ないであろう単語を聞いた時、顔を顰めたが、すぐに表情は柔らかくなった。そして諦めたようにため息をつく。シアは正しかった。

「お好きになさい」

シアは勝利を確信した。

さて、次の祭りの日程は...と日程をシアが数え始めると

「さあて、次の5月24日の祭りにはいってみるかしら」

そんなイリスのささやかな優しさに笑いそうになりながら、感謝を込めて「そうね」と応えた。




「まぁ、今日もいいお天気だ事」

祭りの日からちょうど1週間経ち、シアはいつも通りぶらぶらと街を歩いていた。

しかしいつもと違うのは、隣に連れがいることだ。

「まあ、雨が降ったら僕らの家がびっしょり濡れるだけなんだけどね。ったく、魔力の無駄遣いだ」

茶髪の少年は苦笑しながら応えた。背が高い...とは言えない身長である。

彼はシアと同じ空き地に住んでいるのだが、家族はいない。奴隷になることを避けるためにイリスに匿ってもらっているらしい。イリスはそういう捨て子たちを、自分の孫として育てている...とシアは聞いていた。勿論シアにとってイリスは本当の家族なのだが。

「まったくフィリオったら。そんな現実味のあること言わないの」

べしっと軽くシアは少年の背中を叩いた。

しかしシアにとってそれは『軽い』だけであって、フィリオにとっては『強い』だったのだろう。フィリオはぐっ...!と呻き、背中を仰け反らせた。

「弱っw」

シアは笑いながらそう呟き、ふとフィリオから視線を通りに向けた。

街は通りの両側に出店が並んでいて賑わっている。八百屋、魚屋、レストラン、果物屋...ここはオベラル帝国領地ではあるが田舎である。だから王都であるフォレストのように、空に絨毯や箒が飛んだりしていない。というより、フォレスト以外では交通手段に浮遊道具を使うことは禁止されているのだ。

そんな風景を眺めていると、ふと見覚えのある少女が目の前を通り過ぎた。エメラルドグリーンの輝く髪が風に吹かれてなびいている。

「フィリオ、そこで待ってて!」

「え、え!?」

シアはすぐさま反応すると戸惑うフィリオにそう言い残し、少女のあとを追った。人混みをかき分け、時々見える姿を追いながら、確実に近づいていく。彼女はそんなに遠くにはいなかった。

(よし、いける!)

シアは目の前に少女が現れたところで、右足で地を蹴り、思いっきり少女にぶつかった!二人の体は大きく傾き、地面に近づく。そこでシアは脳内で衝撃を和らげる呪文を唱えた。

そのおかげだろう。2人は無傷でいることが出来たのだった。

「あはは...ごめんなさい」

シアは転んでいる少女の上に覆いかぶさり(いわゆる床ドン?)、その新緑の瞳を見つめた。その瞳は驚きの色をしていた。少女はその視線に気づくと着ていたフードを被り直しながら視線をそらす。

「脳内呪文...ですか」

そう、少女は呟いた。シアは応える代わりにふふっと笑った。

「それよりもはやくどいていただけませんか?私は見ての通り奴隷です。なのではやくご主人の家に「王都に興味はある?」

シアは少女の言葉を遮り、本題を切り出した。シアにとってこの子が奴隷であることなど、どうでもいいのだ。

「なんですかいきなり」

(自分より年下とは思えない口調だ...)

「あなたと一緒にフォレストに行きたいのよ。一週間前の元素魔法をこの目で見た時から」

そのシアの言葉を聞き、少女は呆れたように首を振った。

「もう1度言います。私はご主人のもとに行かなければならないのです。なのではやくどいてもらえませんか?私はたしかに魔導師ですが、今この忌々しい手錠のおかげで魔法を発動できないのです。だからあなたを力ずくで放り投げることもできません」

その言葉にシアは笑う。

「あはははっ、だから魔法を自由に使えるように、私と一緒に行こうって言ってるの。私が解放してあげる。あんなやつと生涯一緒にいたくないでしょ?」

「それは...」

図星なのか、少女は言葉に詰まる。そんな2人に一つの影が落ちた。

「ったくお前さぁ、人目を気にしろよな」

2人は一斉に声のするほうを見る。

「あ、フィリオ」

「『あ、フィリオ』じゃねえよ、お前ら注目されてたんだからな。....まぁ、おかげで探しやすかったけど。ああ、目隠し魔法はかけといたからな。で、なんで床ドン状態になってんだ?」

茶髪の少年、フィリオは不満と好奇心の両方が混じった目で『床ドン』状態の2人を見つめた。

シアは少し床ドンという単語を出され、赤くなりながら立ち上がる。少女が立ち上がるのにも手助けをしたが、その際逃げないようにと手を掴んだままでいた。不服そうな少女は少しシアを睨んだ後、フィリオ見る。

(中々の好青年...)

そんなことを思いながら、少女は掴まれていない方の手で無意識に髪を整えた。

「この子も王都に連れて行くの」

シアは端的にそう言った。そして言葉を慌てて付け加える。

「この子は行きたくないらしいんだけど」

すると少女は反抗的な声でそれに返す。

「行きたくないんじゃない。行けないんです」

「奴隷身分だから?」

フィリオの問いに少女は頷いた。

「じゃあ奴隷じゃなかったら行きたいんだな」

今度は少女は何も答えない。しかし、フィリオは満足したようにシアの腕を掴んだ。そしてアイコンタクトで少女の手を離せと伝える。シアはそれを感じ取ったのか、掴んでいた少女の手を離した。

「もう十分だろシア。お嬢さん、また会おう」

明るい声を少女に向けて、フィリオはシアを引っ張り、人混みの中に消えていってしまった。

残されたのは少女だけだった。

(彼女は脳内呪文を使っていた。でも拘束魔法は使えなかった。だから手で私が逃げないようにしてた。何故だろう...ただ基本知識がないだけ?でも脳内呪文なら想像するだけでできるんだし...)

少女の頭の中は疑問でいっぱいだった。

そして決心したように行くはずだった方向に体の向きを変え、歩き出す。

午後2時頃。

空は真っ青に染まっていた。


「なにか考えがあるんでしょうね?」

ようやくフィリオの拘束から逃れると、シアは迫った。まあまあ、と彼女を落ち着かせ、とりあえず空き地という名の家まで連れていく。到着すると、彼は作物を愛でていたイリスを呼んだ。イリスは何よと言いたげな顔でこちらに来ながら、農作業のために束ねていた真紅の髪をほどいた。

そして3人の会議が始まるや否や、フィリオはとんでもないことを言い出した!

「イリスさん、僕の財産の半分を2週間後の祭りに使います。なのでその日の朝、僕に用意してもらえませんか」

シアは驚きの目でフィリオを見たが、その真剣な眼差しを見て本気だと悟った。

同じくイリスも戸惑っているようだった。まるで、シアがいる隣で話していいのかとフィリオに聞くように。

「まぁ、またどうして?」

その言葉はイリスがやっとのことで絞り出した言葉だった。

「どういうことよフィリオ。説明しなさいよ」

またもや迫るシアに、フィリオはふう、と息をつく。

「こいつのために使うんです。500ステラを」

そう言ってフィリオはシアを指した。

勿論、シアは口をあんぐりと開けたまま、固まっている。

「イリスさんは聞きましたか?こいつがある奴隷と一緒にフォレストに行こうとしていることを」

イリスは黙って頷いた。

「なら話は早い」

そう言ってフィリオは不敵な笑みを浮かべた。

その笑みは勝利を確信した笑顔だった。


※500ステラ=約5000万円

1ステラ=10万円

=1万ペルア



5月24日、コロシアム当日

闘技場には大勢の観客が集まっていた。皆、大胆な演出をする魔法、つまりあの奴隷少女が使う高等魔術を見るためにここに集まっている。シアとフィリオもその観客の中に、フード付きのローブを纏って中央を見つめていた。

しかし、そんな2人を驚かせる出来事が起こった。

いつも通り、男は小太りしている大柄な体で胸を張り、意気揚々と演説をし始める。

そして演説が終わり、そばにいた少女に注目が浴びせられたその時だった。

「みんな、ここはコロシアムだ。殺し合いをする場所だ!だから私は思い切った。今回は殺し合いをさせようと!」

その言葉を合図に、中央に1匹の真っ白なペガサスが現れた。純白の壮大な翼に、心臓をも一突きであろう角を纏った、野生の一角獣だった。体長は7歳くらいであろう少女の5倍はある。

その大きさに、シアは身を乗り出す。しかし、フィリオに目立った行動はするなと制されてしまう。仕方なくシアは落ち着きを取り戻し、少女が勝つようにと祈りを込めた。しかしなぜだかシアは、このペガサスが悪いものではないと感じたのだった。

(野生の一角獣まで巻き込むなんて。動物愛護団体に訴えてやるわ!...ああ、この団体、機械国にしかないんだっけ?)

少女は拘束を外されると、この前のようにすぐ魔術を作動させずに、ペガサスの目をじっと見つめていた。

その間に男は端の方へ逃げていく。(この腰抜け!)

同じくペガサスも少女を見返していた。観客はどんな殺し合いが繰り広げられるのかと好奇の目を向け、しーんと静まり返っていた。

1秒...2秒...3秒...何も起こらなかった。

少女とペガサスは見つめあったままだ。

すると男は退屈になったのか、なんと攻撃の魔法をペガサスの足に当てた!

ペガサスは轟くいな鳴き声を響かせ、その怒りをぶつけるかのように少女に突進し始めた。しかし少女は驚きの表情を全く見せず、詠唱を始める。

少女の赤色の魔法陣の出現とペガサスが少女のを蹴りあげたのは同タイミングだった。少女の体は宙を舞い、ペガサスは魔法陣から出現した火の矢を全身に受けて倒れこむ。

シアは懇願の目でフィリオを見た。心配そうに中央を見つめていたフィリオはシアの目線に気づくと、大きく頷いた。それを合図に、2人は火の粉が振り続ける中央へと身を投げた。それは二羽の鳥のようだった。

血だらけの少女と火を吹き消し、よろよろと立ち上がるペガサスの間に2人は降り立つ。そしてフィリオが大声をあげた。

「今!この場をもって、奴隷商業活用禁止法及び殺人でミレンバ地方地主、オスフェイディオス長を追放する!そして代わりに、この私、フィリオがミレンバ地方の地主となる!私はこの土地と、そしてこの奴隷を自らの財産で買った!反抗の余地はない!」

フィリオの演説を聞き、よろよろと男が戻ってきた。火の矢は消え、赤い鮮血だけが残っていた。

「あんたはこの罪をちゃんと償うべきね!奴隷を金儲けに使っちゃいけないなんて、ちっさい子供でも知ってるわ!」

シアは男に毒を吐く。すると男は笑った。

「ははは!ミレンバ地方を買った?しかもこの奴隷まで?いくらするのかわかっているのか?言っておくが、こいつらの合計はお前らみたいに空き地で暮らしてるような貧相な奴らが、一生働いていても貯められない額だぞ?嘘をつくのはやめてとっとと私のために働くんだな!」

その男の言葉にフィリオも笑った。その間にシアは、少女と、そしてペガサスに治癒の魔法をそっとかけた。

痛みが軽減したペガサスは、小さくいななき、足踏みをする。そして勢いよく大空へと舞った。飛んでいった方向からして、故郷に帰ったのだろう。

その様子をシアは横目で見て微笑みながら、視線を元に戻した。

「私を誰だと思ってるんです?『元』オスフェイディオス長。私はかつてここを治めていたシスティアール公の息子ですよ?おわかりになりませんか?」

男は『システィアール』という名を聞いた瞬間、顔の表情が変わった。まるでなにかに怯えるような引きつった顔だった。

フィリオはさらに続ける。

「私はさっき、殺人罪でもあなたを罰すると言いました。今やそこらの貴族と同等になったオスフェイ伯爵。あなたはここの領地を治めていた私の父を殺した。証拠も揃っています」

うろたえる男...オスフェイをフィリオはじっと見つめると、大声で言った。

「罪を償って下さい!!」

その言葉を合図に、国の衛兵がすぐさまオスフェイを拘束し、フィリオにお辞儀するとオスフェイを連れて闘技場を去っていった。

一瞬の出来事にぽかーんと口を開けていた観客も、今まで自分たちが敬意を払っていた君主が悪者だったと知り、罵倒する代わりにフィリオを拍手で讃えた。

フィリオはシアを満足げに見る。シアも微笑み返すと、少女に視線を移した。


「僕は先代のここの領主の息子なんだ。僕の族名はシスティアール。父はオスフェイディオスに殺された。この目で見たんだ。そして偶然、その現場をイリスさんも見ていた。だからイリスさんはその現場をまるごとコピーしてミニチュア化したあと、多額の財産とともに隠したんだ。僕が土地を継ぐほど立派な少年になるまで。僕はその時4歳くらいだったからそれからイリスさんに世話になったのさ」


悲しげに語るフィリオの顔が思い浮かぶ。しかし、それを振り払って、少女に言った。

「もうあなたは奴隷じゃない。私たちの友達。だから一緒についてきてくれないかしら?」

シアは少女に握手を求めて手を伸ばす。

「私はもう奴隷じゃない....だから... 」

戸惑いつつもこの現状に驚いていたのだろう、震えた声が帰ってくる。

俯いていた顔をあげ、少女はシアの手をとった。

「私はアグリーナ。今年10歳の小さき魔導師。自由にしてくれた貴方とその友達に一生仕えます!」

その瞳は希望に満ちていた。

「仕える、だなんてやめてよ」

フィリオが照れくさそうに言い、続ける。

「僕はフィリオ。そしてこいつが馴染みのアナスタシアさ」

知ってる、というようにアグは大きく頷いた。

空は青く晴れていた。

そして多分、ここまで晴れた空なんて一度も見たことは無かっただろう。

「シア、ぐずぐずしてないでいくよ!」

シアはそんな青空を見上げ、仲間達の後を追った。

完全趣味なりけり...

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