4章
次に気づいた時、場所が変わっていた。
そこは祖父母の家だった。
白い布団たちと線香の香りは変わらなかったが、布団が和室に敷かれてるところは変わっていた。障子には黒い幕が下がっている。
そこは、祖父母の家、二階の一室で、私が幼い頃、よく遊んだ部屋だった。
下から声が聞こえてくる。
「すみません、家の部屋が空いてなくて、布団もなくて……」
「いえいえ、こんなことは予想できることではありませんし……でも、寂しいですね」
「ええ、あの子の声が聞こえないとなると……だいぶ静かになってしまいました」
どうみても、どう触ってみても、私の身体は人形のようだった。私はまだこうして動くことができて、喋ることも出来るのに。
ピンポーン、と軽やかにインターホンの音がした。
「はあい」
「……」
「ああ、先生方とお友達ですか。どうぞ、お上がりください」
この後の展開が読めた私は、大人しく布団に横になり、目を閉じた。
きっと、高校の担任の先生や同級生が来たのだろう。そして、この後私の元に来るに違いない。
予想通りだった。
階段を登って来る複数の足音がした。
「……」
静かに泣いている声が聞こえた。
お線香の匂いがして、ピンと張りつめた空気になった気がした。
「またねって言って、別れて……あれが、最後のお別れだとは思わなかったよ……」
「いつも、クラスを盛り上げてくれて、ありがとな。なんだか、寂しいな」
みんなが、ぽつぽつと語り始める。
「……きっと、痛かったんだろうな、電車に轢かれて……」
「でも……笑ってるよ。いつもの優しい、笑顔だよ……きっと、女の子を助けられて、嬉しかったんだろうね……」
沈黙が広がった。
「そうとも限りませんよ、皆さん」
突然、祖母の声がした。
「もしかしたら、死ぬ瞬間に、生きていた時の幸せなひと時を思い出したのかもしれません……もしそうだとしたら、この子の死に顔が笑顔なのは……皆さんのおかげかもしれません。だから……」
部屋が沈黙に包まれた。
「みんな、この子と仲良くしてくれて、ありがとね……先生も、今までありがとうございました……」
言葉を継いだのは、母だった。
「お礼を言いたいのは、私たちの方です!」
急に、私の1番の友達(だと思われる声)が言い出した。
「私……彼女に話しかけてもらえなかったら、多分、クラスに馴染めなかったと思うんです。だから、今まで、ありがとうって、言いたくて……」
「私も、クラスの人をまとめないといけない時、彼女に助けられたんです!」
「辛かった時、声をかけてくれたのは彼女でした。だから、お礼を言いたくて……」
ああ、もうみんなやめてよ……
また私、泣きたくなっちゃうじゃん……
私は、頑張って表情を変えずに、そんなことを思っていた。
私は、ごめんねもありがとうも、さようならすら言えない。言ったら驚かれてしまう。
でも……伝えられるのなら、伝えたかった。
そんなことを考えているうちに、みんな去っていった。
みんなが部屋を出ていった後、私は呟いた。
「みんな、ありがとう……」
涙が溢れ出し、私は起き上がって涙をぬぐい続けた。