表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三人娘、大活躍  作者: しろ組


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

八、ヤースーの暴走

八、ヤースーの暴走


 夜半過ぎ、アルカーナは、準決勝の試合に(のぞ)む為、再び、闘舞台(リング)の中央に、立っていた。しかし、待てど暮らせど、対戦相手の異国の甲冑(かっちゅう)姿の剣士が、来なかった。

 突然、無精髭の男が、右手を持ち上げるなり、「勝者、猫耳族の娘!」と、勝ち名乗りを宣言した。

 その瞬間、「え?」と、アルカーナは、きょとんとした顔になった。まさかの不戦勝だからだ。そして、右手が下ろされた。

 その直後、無精髭の男が、放した。

 アルカーナは、信じられない面持(おもも)ちで、階段へ向かった。間も無く、階段の下り口の手前で、洒落(しゃれ)た白い背広(スーツ)姿の狐耳が特徴のイナ族の優男(やさおとこ)横縞(よこじま)(シャツ)を着た(ねずみ)顔で、小柄(こがら)のラット族の男と貧相な体格の(おおかみ)の頭が特徴のウルフ族の男に、行く手を(はば)まれた。そして、三人の二歩手前で、立ち止まった。

「おうおうおう! このまま、何もしないで、帰るってのかよ!」と、右側のウルフ族の男が、言い掛かりを付けて来た。

「あたしに、文句を言わないで! 文句が有るのなら、あそこの審判に言ってよね!」と、アルカーナも、気丈(きじょう)に言い返した。公正な判定なので、言い掛かりを付けられる筋合いなど無いからだ。

 その直後、「何おぅ~」と、左端のラット族の男が、凄んで来た。

「お嬢さん、こういうのは、どうだろうか? あんたが、不正をやりましたと認めて、棄権(きけん)するというのは? そうなれば、俺達の賭け金が返って来て、一件落着という事で」と、正面に立つイナ族の優男が、口元を(ほころ)ばせながら、提言した。

「な、何よ! あたしには、得する事なんて、何も無いじゃないの!」と、アルカーナは、憤慨(ふんがい)した。汚名を着せられた上に、決勝にも出られないという一リマの得にもならない不利益(デメリット)な話だからだ。

「へへ、そりゃ良いぜ! ついでに、身ぐるみも剥いじまえば良いんじゃねぇのか?」と、ウルフ族の男が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、賛同した。

 その刹那、「では、早速!」と、ラット族の男が、嬉々として、両手の指をわなわなと動かしながら、真っ先に、飛び掛かって来た。

 アルカーナは、咄嗟(とっさ)に、跳び退(すさ)って、回避した。そして、「な、何するのよ!」と、声を荒らげた。本気で身ぐるみを剥がしに襲い掛かって来るとは、思いもしなかったからだ。

「へへへ、何を今更、恥じらっているんだよ。ここで()がされたって、どうって事無いだろう?」と、ウルフ族の男が、薄笑いを浮かべながら、憶測(おくそく)()べた。

「は? 勝手な想像をしないでよね! あたしは、あんたらよりも、健全に生きてます!」と、アルカーナは、即座に、否定した。これ以上、自分の品位を下げられたくないからだ。そして、男達を退()かせようと、細い剣(レイピア)(つか)へ、右手を持って行った。ここで言い争っていても、(らち)が明かないからだ。

「おいおい、丸腰の男を相手に、抜こうっていうのかい? 怖いねぇ~」と、イナ族の優男が、へらへらと笑みを浮かべながら、周囲に聞こえるように、もっともらしい言葉を吐いた。

 その途端、「くっ…!」と、アルカーナは、歯噛みをしながら、思い(とど)まった。抜けば、印象が悪くなるので、抜くに抜けなくなってしまったからだ。

「さあ、俺達に、脱がされろ!」と、ウルフ族の男が、踏み込んで来た。

「あんたを助けてくれる奴など、誰も居ないぜ」と、ラット族の男も、詰め寄って来た。

「嫌よ」と、アルカーナは、男を見据えたままで、じりじりと後退を余儀(よぎ)なくされた。視線を()らすと、即座に、襲い掛かられそうで、気が抜けないからだ。

 しばらくして、「あんた、もう、後が無いぜ」と、イナ族の優男が、勝ち(ほこ)るように、告げて来た。

 その刹那、アルカーナは、イナ族の優男の言葉に促されるように、背後を一瞥(いちべつ)した。すると、闘舞台の(ふち)へ追い込まれているのを視認した。その瞬間、向き直り、足を止めて、項垂(うなだ)れた。飛び下りようにも、無事では済まない高さだからだ。

「ようやく、観念したようだな」と、ラット族の男が、息を荒くした。

「待て待て。先に脱がせるのは、俺だぞ」と、ウルフ族の男が、にこやかに、主張した。

「ここで、我々が()めるのは、得策ではありません。三人で、同時に、この娘の身ぐるみを剥ぐのは、どうでしょう?」と、イナ族の優男が、提案した。

 その直後、「それは良い!」と、ラット族の男が、賛同した。

 少し後れて、「俺も、文句は無いぜ」と、ウルフ族の男も、同意した。

 アルカーナは、立ち尽くしながら、なるようになれと覚悟した。飛び下りても、ジャン・カーズと同じ目に遭うに決まっているからだ。そして、目を瞑った。

 突然、鈍い音が、聞こえて来た。

 その直後、「いってぇぇぇ!」と、イナ族の優男が、大きな声を発した。

 その刹那、アルカーナは、目を開けた。すると、イナ族の優男が、後ろ頭を抱えながら、その場に(うずくま)っているのを視認した。そして、「え? 何?」と、事態の急変に、少し混乱した。どうして蹲っているのか、さっぱりだからだ。

 間も無く、「娘、助ける!」と、(つたな)い言い回しの男の声がして来た。

 アルカーナは、、イナ族の優男の背後の先の方へ、視線をやった。すると、十五歩程離れた所に立つジャン・カーズを確認した。そして、ジャン・カーズが、何かをしたのだと察した。

 ウルフ族の男が、振り向くなり、「何だ! お前!」と、怒鳴った。

「先の試合で、この娘に負けた男だ。びびる事はねぇぜ」と、ラット族の男が、せせら笑った。

「そりゃそうだ。お楽しみの前に、()ずは、邪魔者を排斥(はいせき)だ!」と、ウルフ族の男が、強気になった。

 その途端、ラット族の男とウルフ族の男が、ジャン・カーズへ向かって、駆け出した。

 少し後れて、「うおぉぉぉ!」と、ジャン・カーズも、呼応するように、雄叫(おたけ)びを上げながら、走り出した。

 間も無く、双方が、ぶつかり合った。

 ラット族の男が、機先を制するなり、ジャン・カーズの無防備な腹部へ、右の(こぶし)を見舞った。しかし、ジャン・カーズの表情に、変化は無かった。

「お前の攻撃、効かない」と、ジャン・カーズが、涼しい顔で、告げた。

 その瞬間、「な、何おう!」と、ラット族の男が、激昂した。そして、今度は、両拳を連続で激しく殴り付けた。しばらくして、攻撃の手を止めるなり、「はぁ、はぁ。これだけ食らわせりゃあ、良いだろう」と、肩で息をしながら、吐き捨てるように、言った。だが、ジャン・カーズは、裏腹に、平気な顔をしていた。

「お前、戦士じゃない! 娘、(いじ)める奴、悪い奴! 俺、負けない!」と、ジャン・カーズが、身構えた。その刹那、ラット族の男に組み付くなり、すぐさま、抱え上げた。

 その瞬間、「な、何をする! や、止めろ!」と、ラットの男が、じたばたと暴れ始めた。

 少しして、ジャン・カーズが、左を向くなり、「ぬがあぁぁぁ!」と、力任せに、放り投げた。

 その直後、「うわあぁぁぁ!」と、ラット族の男が、絶叫しながら、滑空(かっくう)するかのように、闘舞台から落下した。やがて、姿が見えなくなった。間も無く、ジャン・カーズが着地をした時と似た音がした。

 その間に、ジャン・カーズが、ウルフ族の男を見やった。

 その途端、ウルフ族の男が、腰を抜かすなり、「あわわわ」と、恐れおののいていた。

「こ、この野郎…」と、イナ族の優男が、逆上した。そして、ジャン・カーズを見やりながら、左手で、足下に転がっている石斧を掴み上げた。

 アルカーナは、その動きを見逃さなかった。次の瞬間、素早く細い剣を抜くなり、イナ族の男の喉元(のどもと)へ、切っ先を向けた。そして、「ふ~ん。あんたは、丸腰の人を、それで殴っても良いんだぁ」と、軽蔑(けいべつ)の眼差しで、先刻の仕返しと言うように、指摘した。その直後、「あんたも、武器を持った以上は、今は刺されても、文句は無いわよねぇ」と、薄ら笑いを浮かべながら、脅した。

 その瞬間、「ぐ…」と、イナ族の優男が、歯噛みした。そして、観念するかのように、石斧を静に置いた。

 その刹那、「それで、よーし」と、アルカーナは、にんまりと笑みを浮かべた。これで、決着がついたので、ようやく、闘舞台を下りられるからだ。そして、ジャン・カーズに、礼を言おうと、顔を上げた。すると、いつの間にか、ジャン・カーズの背後に、怒りに満ちた表情のヤースーが、迫っていた。その瞬間、両目を見開いて、絶句(ぜっく)した。

「娘、どうした?」と、ジャン・カーズが、怪訝(けげん)な顔で、問い掛けて来た。

 アルカーナは、左手で、ヤースーを指すなり、「ヤ…ヤ…」と、声にならない声を発した。最凶の厄介者(やっかいもの)が、現れたからだ。

「ん?」と、ジャン・カーズが、きょとんとした顔で、振り返った。その直後、ヤースーと対峙(たいじ)した。そして、「お前! 何しに来た!」と、敵意を剥き出しにしながら、怒鳴った。

 突然、「邪魔だ!」と、ヤースーが、左腕で、ジャン・カーズを薙ぎ払った。

 その直後、「うがぁ!」と、ジャン・カーズが、跳ね飛ばされて、宙を舞った。そして、瞬く間に、闘舞台から姿を消した。

 アルカーナは、面食らった表情で、ヤースーの圧倒的な暴力に、畏怖(いふ)した。ジャン・カーズを容易(たやす)く倒される様を()の当たりしたのが、脅威(きょうい)だからだ。

 その間に、「退け! 邪魔だ!」と、ヤースーが、ウルフ族の男とイナ族の優男も、同様に、排斥した。間も無く、半歩前まで詰め寄って来た。そして、「へへへ、お前は、俺様の獲物(えもの)だ。それに、こんな武術大会(ちゃばん)なんか、やってられるか!」と、吐き捨てるように、言い放った。

「あ、あっそう…。あ…あたしは、失礼するわ…」と、アルカーナは、引きつった表情で、素っ気無く応えた。これ以上の厄介事は、ごめんなので、早々に去りたいからだ。

「おっと! 逃がさないぜ!」と、ヤースーが、右手を伸ばして、左腕を掴んで来た。

 その直後、「は、放して!」と、アルカーナは、振り(ほど)こうと、左腕を思いっきり振るった。しかし、ヤースーの右手は、びくともしなかった。

「さあ、公開処刑と行こうか」と、ヤースーが、口元を綻ばせながら、おぞましい言葉を吐いた。そして、同時に、引っ張りながら、中央へ、移動を始めた。

 少しして、アルカーナは、中央の赤い線の所まで、無理矢理連れて来られた。

 その途端、「おおっと! 怪我(けが)をさせられちゃあ、(たま)らんから、物騒な物は邪魔だな!」と、ヤースーが、左手で、細い剣を持つ右手を(はた)き上げた。

 その瞬間、アルカーナは、手放すなり、「あ…」と、ぼんやりしながら、屋敷側へ飛んで行く細い剣の行方を見送った。やがて、見えなくなった。そして、立ち尽くした。逆らう気力すら残っていないからだ。

 間も無く、「さあて、じっくりといたぶってやるか…」と、ヤースーが、不気味に微笑(ほほえ)みながら、のし掛かってきた。

 程なくして、アルカーナは、押し倒された。

 その刹那、ヤースーが、重石のように馬乗りなるなり、右手で、顔面へ張り手を繰り出した。

 その瞬間、アルカーナは、一瞬、意識が遠退くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ