表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三人娘、大活躍  作者: しろ組


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/23

六、老婆、再び

六、老婆(ろうば)、再び


 夕暮(ゆうぐ)れとなり、ラーサは、広場から足を止めずに、リーン邸の正門まで、小走りで、駆け込んだ。斜陽(しゃよう)()すまで、眠りこけて居たので、優勝者予想の受け付けに、間に合わないと思ったからだ。そして、門柱(もんちゅう)(そば)で、立ち止まり、呼吸を整えながら、優勝者予想の受付場所を探した。間も無く、左手に、十数人ほどの行列が、視界に入った。そこへ、静静(しずしず)と歩み寄り、最後尾(さいこうび)へ付いて、安堵(あんど)した。(かろ)うじて、間に合う事が出来たからだ。しばらく、ぼんやりと順番待ちをした。それから、何事も無く、自分の前に、六人という所で、乾いた聞き覚えの有る音が、背後からして来た。その瞬間、思わず、身震いした。昼間に見掛けた禍々(まがまが)しい身形(みなり)の老婆の姿が、思い返されたからだ。その直後、後ろを見やった。案の(じょう)、昼間見た老婆だった。

 老婆が、西日を背に受けて、(つえ)を突きながら、近付いて来た。

 ラーサは、すぐさま、前に向き直り、老婆を見ないようにと、(うつむ)いた。老婆の身形が、どうしても、(こわ)いからだ。少しして、気配を右側に感じるが、すぐに、過ぎ去った事を感知した。そして、(おもむろ)に、顔を上げると、眼前に、些か丸まった老婆の背中が見えた。その瞬間、胸を撫で下ろして、一息()いた。広場で会った事など、覚えていない様子だからだ。程無くして、老婆から視線を()らして、素知(そし)らぬ顔で、順番を待った。

 突然、「(ばあ)さん、あんた、気でも狂ったのか!」と、広場で聞いた事の有るどすの()いた男の声が、受付の方からして来た。

 ラーサは、その方へ、視線を向けた。すると、その先には、自分が耳を直立させても頭一つ分出るくらいの背丈(せたけ)の有る頭髪の無い筋肉質の大男が、受け付けをしている丸顔の男の右隣で、言い争っているのを視認した。その動向が気になり、ついつい見とれた。

「うるさい! わしは、ヤマヤマキ族の戦士である息子に、()けるんじゃあ!」と、老婆が、左手の杖を振り上げながら、語気を荒らげた。

「へ、そうかい、そうかい。俺が持ち掛けた話は、無駄だと言う事だな。分かったよ。勝手にしな! じゃあ、さっさと掛け金を寄越(よこ)せ!」と、大男が、憮然(ぶぜん)とした顔で、右手を差し出して、催促(さいそく)した。

 少しして、老婆が、右手で紙の(たば)を取り出すなり、「ふん!」と、大男の右手へ、(たた)きつけるように、差し出した。

「おっと!」と、大男が、受け取り、「婆さん、後悔(こうかい)するんじゃねぇぜ」と、告げた。

 不意に、「お客さん、バニ族のお客さん!」と、男の呼び掛ける声がして来た。

 その刹那(せつな)、ラーサは、はっとして、すぐさま、受付の方に、向き直った。すると、いつの間にやら、自分の番が、来ていたからだ。そして、「す、すみません…」と、間髪容れず、丸顔の男に詫びた。

「後の段取りが(つか)えているんだから、ぼんやりしていないで、早く、誰に賭けるのか、決めてくれ」と、丸顔の男が、右手の親指を立てて、背後の赤の顔料で押し当てた手形の付いた八枚の薄茶色い半紙を()った(ボード)を指しながら、急かした。

 その直後、「は、はい!」と、ラーサは、慌てて、半紙を見回した。しかし、迷いが生じた。手形だけでは情報不足なので、広場で聞いた話が参考にならないからだ。

「お客さん、もうじき、大会が始まりますので、早くして下さいよぉ」と、丸顔の男が、追い打ちを掛けるように、再び、()かして来た。

 その瞬間、ラーサは、華奢で貧相な手形を視認した。その直後、咄嗟に、右手で指すなり、「その小さい手形の方に、賭けますわ」と、告げた。妙に、()かれたからだ。

「よし、八番ね。で、お客さん、幾ら掛けるんだい?」と、丸顔の男が、愛想の良く尋ねた。

 ラーサは、手提(てさ)(かばん)を台の上に置くなり、口を開いて、両手を中へ入れた。少しして、革の小袋を取り出し、右手で、一枚の百リマ金貨を抜き出した。そして、「これで」と、丸顔の男へ差し出した。

 次の瞬間、「え? これを?」と、丸顔の男が、面食らった顔で、問い掛けて来た。

「ええ…」と、ラーサは、何食わぬ顔で、すぐに、頷いた。現在の持ち合わせが、百リマ金貨しかないからだ。

 その途端、丸顔の男が、満面の笑みを浮かべるなり、「ちょっと待ってて下さいね」と、先刻の態度とは打って変わって、丁重(ていちょう)な態度に変わった。少しして、半紙の四分の一くらいの大きさの紙を差し出して来た。そして、「この紙は、リーン邸武術大会優勝者投票券ですので、大会が終わるまで、大事に持ってて下さいね。予想が外れた場合は、(やぶ)り捨てても構いませんが…」と、にこやかに、説明した。その刹那、「会場は、あちらの小道を通って、中庭へ出て、すぐですよ」と、機嫌(きげん)()く、左手で、その方を指した。

 ラーサも、指す方を向いた。すると、植え込みに(はさ)まれた人が擦れ違える程度の幅広い赤煉瓦の遊歩道を視認した。そして、丸顔の男に向き直り、「ありがとうございます」と、礼をのべた。その直後、革の小袋と投票券を手提げ鞄へしまうなり、取っ手を持ちながら、一礼をした。同時に、老婆の居た場所を一瞥した。だが、姿は、もう無かった。それを視認するなり、頭を上げて、右を向いた。少しして、遊歩道へ歩を進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ