エピローグ 無一文
エピローグ 無一文
祝杯を挙げた夜から数日後の昼下がり、アルカーナ達の姿は、チモネーカの賭博場の出口の前にあった。
そこでは、アルカーナとフィレンが、揉めていた。
「あんたねえ、何で、余計な事をしてくれてるのよ!」と、アルカーナは、腰に、両手を当てながら、フィレンへ突っ掛かった。無断で、自分の所持金までも、回転絵合わせ機へ、投入された挙げ句に、使い果たされてしまった事に対して、怒りが治まらないからだ。
フィレンも、睨み返すなり、「何よ! 倍にして返してあげようとしたんじゃないの! 上手く行かなかったからって、そんなに怒らなくても良いじゃないの!」」と、逆ギレして、反論した。
「あたしは、そんな事を頼んでなんてないわよ!」と、アルカーナも、肩を怒らせながら、怒鳴り返した。腹立たしいったら、ありゃしないからだ。
「あなたの悪運が、このような事態を招いたんじゃないの~」と、フィレンが、悪びれる風も無く、転嫁した。その直後、右手の人差し指で、アルカーナの鼻先を突き上げて来た。
その直後、「止めてよね!」と、アルカーナは、左手で、払い除けた。人前で、辱しめられたくないからだ。
そこへ、「あのぅ~、お二人共…」と、ラーサが、よそよそしく声を掛けて来た。
「ラーサ、今日という今日は、決着をつけたいから、口を出さないで!」と、アルカーナは、フィレンを見据えたままで、告げた。完全に、頭に来ているからだ。
「そうね。今回は、邪魔も居ないから、どちらが上か、決着をつけましょう」と、フィレンも、上から目線で、応じた。
「でも、ここでは、あの方のご迷惑かと…」と、ラーサが、気まずそうに、右手で、通りの方を指しながら、苦言を呈した。
その途端、二人は、目を瞬かせるなり、「ん?」と、指す方を見やった。すると、バニ族の若者が、腕組みをしながら、待って居るのを視認した。そして、ラーサへ、視線を移した。
「何だか、白けちゃったわねぇ~」と、アルカーナは、一気に、血の気が引いた。他人に見られていたのが、妙に、恥ずかしくなって来たからだ。
「ふん。ずっと、みっともない所を見られていた何てね…」と、フィレンも、溜め息を吐いた。
「私は、御二人の喧嘩なされている姿を、他人に見られているのが、一番、みっともないですわ」と、ラーサが、眉根を寄せながら、しんみりと告げた。
「そうね。あたし達よりも、ラーサの方が、一番恥ずかしい思いをしていたのかも知れないわね。ごめんね」と、アルカーナは、詫びた。喧嘩をしても、誰も得をしない事に、気付かされたからだ。
「あなたが、言い掛かりさえ付けなければ、こんな事にはならなかったのよ」と、フィレンが押し付けて来た。
「ラーサに免じて、そう言う事にしといてあげるわ」と、アルカーナは、フィレンを見やり、敢えて、穏やかな表情で、聞き入れた。反論をすれば、同じ事の繰り返しになるからだ。
その刹那、「な、何よ! 気持ち悪い!」と、フィレンが、戸惑った。
「あたしよりも賢いあんたなら、無意味な事くらい気付いている筈よね?」と、アルカーナは、白々しく、指摘した。
「くっ…」と、フィレンが、言葉を詰まらせた。
「どうやら、仲直りされたみたいですね」と、ラーサが、にこやかに、言った。
「そうね。あたしは、そのつもりだけど」と、アルカーナも、同調した。フィレンが、何を言おうと、腹を立てるつもりはないからだ。
「え、ええ! そうよ!」と、フィレンも、ぶっきらぼうに、応えた。
その直後、「では、ワトレへ参りましょう!」と、ラーサが、意気揚々に、口にした。
その瞬間、「うん!」と、アルカーナとフィレンも、揃って返事をした。
少しして、三人は、歩き始めた。そして、バニ族の若者の前へ差し掛かった際に、苦笑しながら、会釈をした。やがて、通過すると、ワトレへ足を向けるのだった。
おしまい
【グラスト創刊記念コンテスト】あらすじ
アルカーナ、ラーサ、フィレンは、広場の掲示板の貼り紙で、リーン邸の剣術大会を知る。各自が、行動を別にして、開催時刻までに、暗躍する者達の存在を知る。




