一八、リーン邸からの脱出 (アルカーナとフィレン)
一八、リーン邸からの脱出 (アルカーナと
フィレン)
アルカーナとフィレンは、来た道を引き返した。しかし、火の回りが、思ってたよりも早い為、玄関まで行き着けなかったので、階段の所まで戻った。そして、行き場を失って、立ち尽くした。
「寝坊助がのろまだから、出られなくなっちゃったじゃないの!」と、フィレンが、八つ当たり気味に、ぼやいた。
その直後、アルカーナは、ムッとなり、「何でも、あたしの所為にしないで!」と、言い返した。何かにつけて、自分の所為にされるのは、堪らないからだ。
「もう、こんな所で、消し炭になっちゃうなんて、信じられない!」と、フィレンが、自棄を起こした。
「あたしは、諦めないわよ。何か、良い方法が、有る筈よ」と、アルカーナは、何食わぬ顔で、言ってのけた。ここで諦めたら、何もかもおしまいだからだ。
「ふーん。じゃあ、あなたの考えを聞かせて貰おうじゃないの?」と、フィレンが、挑戦的に、問い掛けて来た。
「それは…その…」と、アルカーナは、言葉を詰まらせた。即答出来るような考えは、思い浮かんでいないからだ。
「ほら、やっぱり! いい加減な気休めなんて、止して頂戴!」と、フィレンが、食って掛かった。
「あんたも、あたしの揚げ足ばかりを取っていないで、考えなさいよ。魔法か何か、使えるんじゃないの?」と、アルカーナは、苦し紛れに、言葉を発した。自分ばかりが、責められている気がするからだ。
その瞬間、「あ、あたし、爆炎魔法が、使えるんだった!」と、フィレンが、思い出すかのように、あっけらかんと言った。
「じゃあ、さっさと壁を吹っ飛ばしちゃって」と、アルカーナは、意気揚々に、促した。活路が、見出だせたからだ。
「魔法は、そんなに簡単に使えるものじゃないの。集中したいから、ちょっと離れててくれる?」と、フィレンが、指示した。
「分かったわ」と、アルカーナは、すんなり聞き入れた。そして、踊り場まで上がって、距離を置いた。ここは、フィレンの爆炎魔法を成功させなければならないからだ。間も無く、フィレンを注視した。
その直後、フィレンが、両手を胸の前で、向かい合わせていた。突然、その中央に、橙色の光球が、出現した。そして、瞬く間に、拳の大きさへ膨らんで行った。
アルカーナは、膨らんで行く光球に、胸を躍らせた。魔法が、どんなものなのか、好奇心が、掻き立てられるからだ。
やがて、光球が、燦然と輝きを増して、炎よりも強い光を発し始めた。
間も無く、「爆炎魔法!」と、フィレンが、声を発した。その刹那、両手で、光球を押し出した。
次の瞬間、光球が、壁へ向かって、ふわふわと飛んで行った。少しして、触れた瞬間、爆発を起こした。
アルカーナは、咄嗟に、顔を背けた。その直後、爆風が、通り抜けた。
間も無く、「寝坊助、今よ!」と、フィレンが、声を掛けて来た。
アルカーナも、すぐさま、小走りに、階段を下りた。やがて、先刻の場所へ下り立った。すると、左手に、余裕で潜り抜けられるくらいの大きな穴が、開いているのを視認した。そして、迷う事無く、潜り抜けた。少し進んだ先で、遊歩道に行き当たった。
不意に、「寝坊助、遅かったじゃない」と、フィレンの声が、左側からして来た。
アルカーナは、歩を止めるなり、その方を見やった。そして、間髪容れずに、「何よ! あんたが、さっさと出て行ったんじゃないの!」と、言い返した。先に出ていて、その言い種は無いと思ったからだ。
突然、屋敷から爆発音が響いた。
「あんたを待っていると、消し炭になっちゃう所だったわね」と、フィレンが、涼しい顔で、皮肉った。
「よくもまあ、次から次へと憎まれ口が、出て来るわね」と、アルカーナは、呆れ顔で、溜め息を吐いた。ここまで言われると、怒りを通り越して、言い返す気力も無くなるからだ。
「あなたは、からかい甲斐が、有るからね」と、フィレンが、にこやかに、言った。
「はいはい、そうですか。お好きに、言いなさい」と、アルカーナは、平静を装って、受け流した。いちいち相手にしていると、腹が立って来るからだ。そして、「ねえ、フィレン。ラーサは、大丈夫だよね?」と、安否を気にした。ヤースーが、何処へ連れ去ったのか、心配で堪らないからだ。
「中庭へ出てから考えましょう。あそこなら、敷地内では、安全でしょうからね」と、フィレンが、淡々と提言した。
「それもそうね」と、アルカーナも、同意した。避難場所には、うってつけだからだ。
その直後、二人は、中庭へ歩き始めた。しばらくして、闘舞台が、見えて来た。やがて、中庭へ出た。すると、前方から何者かが、歩み寄って来ているのを視認した。
その途端、「あれは!」と、フィレンが、言葉を詰まらせた。
「どうやら、無事だったみたいね」と、アルカーナも、安堵した。杞憂で済んだからだ。
「アルカーナさん! フィレンさん!」と、ラーサが、距離を詰めながら、呼び掛けて来た。
少し後れて、「ラーサ!」と、二人も、声を揃えて、応えた。
間も無く、三人は、手を取り合って、再会を喜んだ。
ラーサが、手を放すなり、「お二人共、火傷が…。回復魔法を掛けますね」と、告げた。そして、足下へ、手提げ鞄を置くなり、両手を向かい合わせながら、精神集中を始めた。
突然、「いつまで握っているのよ。放して頂戴」と、フィレンが、冷ややかに、言った。
アルカーナは、我に返り、「あ、ごめん…」と、即座に、手を放した。そして、ラーサへ、視線を戻した。
少しして、ラーサが、両手を翳して来るなり、「複数回復魔法!」と、魔法を発動させた。
その直後、二人は、緑の光に包まれた。次の瞬間、火傷が、見る見る内に、治って行った。
「す、凄いわ!」と、アルカーナは、歓喜の声を発した。回復魔法の効果が、これほどまでに有るとは、思いもしなかったからだ。
「何? その反応は? あたしの時とは、えらい違いじゃないの? 別に、感謝して欲しいとまでは言わないけど、お礼くらいは、言ってくれても良いんじゃないの?」と、フィレンが、催促するように、恩着せがましがましく言った。
「そうだったわね」と、アルカーナは、フィレンを見やった。そして、「ありがとう」と、作り笑顔で、礼を述べた。高圧的な物言いに、腹は立つが、言っている事は、間違っていないからだ。
「ふん。気に入らないけど、どういたしまして」と、フィレンが、嫌味ったらしく、返答した。
「アルカーナさん、フィレンさん、昨夜の闘舞台へ参りましょう。他の方々も、お集まりですよ」と、ラーサが、告げた。そして、先立って、踵を返した。
アルカーナとフィレンも、顔を見合わせた。そして、後に続くのだった。




