一二、フィレン、企む
一二、フィレン、企む
フィレンは、屋敷の反対側へ来ていた。そこで、観た闘舞台上でのリーン兄弟の横暴振りに、憤慨した。先刻話していた通り、猫耳族とバニ族の娘に、全ての責任を終身刑という形で、転嫁させたからだ。そして、「ひょっとして、最初から支払う気なんて無かったのかも知れないわね」と、呟いた。武術大会の打ち切りを宣言すれば、リーン家が、配当金を支払わないで、大儲けに直結するからだ。ふと、猫耳族とバニ族の娘が、警備の男達に連行されながら、階段を下ろされるのを視認した。その瞬間、「先ずは、あの子達を助けてあげないといけないわね。それに、貸しを作っておいた方が、後々役に立ちそうだしね」と、含み笑いをした。独りで乗り込んでも、何をされるか、知れたものではないからだ。その直後、右手の先刻拾い上げた細い剣を一瞥するなり、「まあ、それなりの仕事は、して貰わないとね」と、言葉を続けた。特に、猫耳族の娘には、一働きして貰いたいと思っているからだ。
間も無く、「今日の武術大会は、これにて閉会とする! 今夜は、ゴタゴタしておるので、後日、払い戻しをするので、お引き取り願おう!」と、ヨーシが、もっともらしい言葉を、棒読み口調で、告げた。
「払う気も無いくせに」と、フィレンは、呆れ顔で、ぼやいた。観覧席での会話を聞いていたので、嘘が見え見えだからだ。
やがて、観衆達が、大人しく、正門へ移動を開始した。
フィレンも、二人の行方を捜した。居場所を把握しておく必要が有るからだ。程無くして、二人の警備の男に、前後を挟まれながら、屋敷とは反対方向へ連行される猫耳族の娘達を見付けた。その直後、後を追うように、足を向けた。行く先は、察しが付くからだ。そして、見失わないように、適度の距離を保ちながら、尾行をした。しばらくして、人気の無い場所へ差し掛かった。やがて、猫耳族の娘達が、塹壕のような場所で、半分埋まるように建てられた長方形の建物へ入るのを見届けた。少し間を置いて、その建物の手前まで、小走りに近付くなり、建物と垣根の隙間へ入った。次の瞬間、壁へ背中を密着させた。少しでも、存在を消しておきたいからだ。
間も無く、警備の男達が、気付く風も無く、通り過ぎた。そして、次第に、屋敷の方へ遠ざかった。
しばらくして、フィレンは、通りへ出るなり、辺りの様子を窺った。しかし、誰の姿も、確認出来なかった。その瞬間、口許を綻綻ばせた。安心して、侵入出来るからだ。間も無く、階段を下りるのだった。




