プロローグ 掲示板
プロローグ 掲示板
長閑な昼下がりのニホセの町の広場。
華奢な体型をしている赤い半袖のシャツの上に、革の胸当てを纏っており、厚い布地の半ズボンと革の短靴を履いて、腰の左側には、細長い剣を差す身形で、茶色い後ろ髪が、襟足で揃った猫耳族の娘が、南口の右側へ設置された掲示板の前に、立って居た。名は、アルカーナ・ルキノフス。世間では、役に立たないという猫耳族の悪い偏見を変えてやろうという志を持ち、立ち寄る村や町の武術大会に参加しながら、旅をしていた。これまでの成績は、良いところで、二回戦止まりであった。何せ、詰めが、甘いからだ。そして、今回も、懲りずに、三枚貼られた内の中央のチラシを注視していた。
『来たれ、リーン邸へ! 武芸の腕に、自信の有る者は、種族・経験・職業などを問わない。旅人の飛び入り参加も、大歓迎! 但し、当実行委員会は、大会中に、どのような事故・事態が、起ころうとも、責任は、負いません。
優勝賞金 五万ヨーシ
開催日時 本日、夕刻より
場 所 リーン邸 中庭鬪舞台
主 催 者 ヨーシ・リーン
協 賛 ゲオ商会』
読み終えるなり、五万という金額に、興奮して、鼻孔を広げながら、にんまりとした。商都までの路銀には、贅沢三昧をしても、困らない額だからだ。そして、口元を綻ばせた。もう、優勝賞金を手にしたも、同然の気分だからだ。しばらくして、我に返った。両隣に、他人の気配を感じたからだ。その刹那、左右をチラ見した。すると、右隣に来たのは、光沢の有る金糸のような腰までの長さの髪に、おっとりとした顔立ちで、ふくよかな体型を緑色の気品有るドレスで覆うような身形の兎耳が特徴のバニ族の娘。左側は、茶色い髪を銀の髪飾りを差して、後ろでまとめた袖無しの胸元が見えた紫色の上着に、太ももまで切れ込みの入った橙色の長いスカートに、つっかけ履きのチャラチャラした印象の狐耳が特徴のメギネ族の娘を視認した。間も無く、掲示板に、背を向けるなり、北へ数歩移動して、巨木の下で、立ち止まった。その直後、リーン邸を探す為に、周囲を見回した。五万という賞金を構えるくらいだから、ここからでも、目立つ建物だと想像が付くからだ。少しして、右手の高台に、遠目ではあるが、町を見下ろすかのように建つ立派な屋敷を視界に捉えた。その瞬間、リーン邸だと直感した。他にも、大きな建物が、数件ほど、目に付いたが、やはり、高台の屋敷に比べれば、妙に、見劣りする感が有るからだ。その途端、右を向くなり、リーン邸と思われる屋敷へ、足取り軽やかに、歩を進めるのだった。




