魔法の杖を作ろう7
僕たちはレッサードラゴンを退治すべく、アレキサンドリア市郊外にある鉱山へとやってきた。
鉱山坑内は、灯りそのものは点々と吊るされているオレンジ色のランプのみで、それも間隔が広く取られている為、人工的な光源は数少ない。
しかし、坑内には蛍光色に光る鉱石が数多く表出している為、不思議と薄暗さは感じない。
「幻想的だね」
僕は思わず口にした。このような光景、今まで生で見たことがなかった。精々元の世界にいた頃、写真やテレビ番組で見た程度である。
「私はよく此処に来ておりますので、そのような実感は湧きませんが、マギナ様に言われたのであれば鉱員も皆喜びましょう」
「こういう場所が見たいんだったら今度案内するね。神殿の裏山に鍾乳洞っていうところがあるんだ」
鍾乳洞かあ、興味はあるけど生前は行ったことがなかったな。
そんな話をしている間に、周囲の様子が変わってきていた。
先程まで蛍光色を放っていた鉱石の数が目に見えて減ってきているのである。しかも、残っている鉱石も、どういう訳か食いかけのような形をしている。
「これはいったい?」
僕は眉を顰めて言った。
「レッサードラゴンの一種、オーレイーターの仕業でございます。どこからかやってきたオーレイーターのせいで、採掘作業が滞るばかりか資源も失われているのです」
「つまり、近いってことだね」
困ったな、さっきまでの空間であれば明るくて戦い易かったんだけれど、此処じゃ少し厳しい。
先程までとは異なり、この通路は、蛍光石が減って暗くなっているにも関わらず、ランプの数は変わらない。つまり、大分薄暗くなっているのだ。
僕だけであれば、《暗視化》の魔法を使って戦えるのだが……
「私たちのことなら心配しなくていいよ」
メイさんが口にする。僕の心配を察してくれたようだ。
「私も自分の身くらいは自分で守れるから」
そう言って、彼女はメイスを両手に構える。
「明るさについてもご心配なさらずとも結構でございます。私の使用可能な魔法、《復元》と《増幅》をこの近辺の食べられた鉱石に使用すれば、明度を確保できます」
《復元》と《増幅》とは素体族の魔法である。
《復元》は触っている間だけ鉱石や土を元の形に修復する魔法である。
この魔法を、食われかけの鉱石に使用していけば良いのではないかと思われるが、あくまで触っている間しか効果が無いので、無駄である。
正直、こんな状況でなければ滅多に役に立たない魔法な気がする。
《増幅》とは、触っているものの特性を強くする魔法である。例えば火に使用すれば、より熱い火になる訳だ。(もっとも、本当にそんなことをすれば間違いなく火傷をするのだが)
「それなら良かった」
彼女たちの話を聞き、僕は安心して言った。暗い空間で彼女たちを守りきる自信は流石になかった。
安心したのも束の間、坑道の先から、ごそっという音が聞こえた。
僕は(見た目が悪くなるのであまり使いたくないのだが)《肉体強化》と《暗視化》の魔法を使い、キャシテちゃんの父が用意してくれた、7歳児向けに加工された手槍を構え、坑道の奥に進んだ。
それからは余りにも呆気なかった。
レベル10の魔導力から使われたレベル10の《肉体強化》の前に、オーレイーター(とついでに手槍)は木っ端微塵になってしまった。
「これじゃあレッサードラゴンを倒したって証拠がないよね」
僕は言う。流石にこの結果は予想外だった。
「仕方がないから体の欠片でも持って行こっか」
メイさんが提案する。他に案もないので、その通りにし、僕たちは来た道を引き返した。
すると、
「あ」
「あ」
キャシテちゃんの父に遭遇した。気まずい。
……
「申し訳ございません、どうしても心配で来てしまったのです」
キャシテちゃんの父が静寂を破る。
「見ていたのなら、これで良いよね」
「はい、お見事でございます」
変な空気のまま、僕たちは坑道を後にした。