魔法の杖を作ろう6
僕たちがアレキサンドリア共和国への馬車の旅に出てから早一週間、僕たちがお互いの国の特徴を語り合ったり(といっても、僕は自分の住む国、ルクス神国について詳しくないので、話していたのは専らメイさんであったが)、好きなことなどを話している間に馬車は首都アレキサンドリアに到着した。
アレキサンドリア共和国は、獣人とドワーフが共存する国で、ドワーフの国というイメージ通り、鉱山に恵まれた国であるという。
しかし、この世界の魔力とは、大地や鉱物に含まれるものであるらしく、半ば伝説の種族とはいえ、魔族は魔力によって産まれた存在と噂されている。
その為、アレキサンドリア共和国は魔界に最も近い国であると周辺国家から揶揄されているそうだ。
また、アレキサンドリア共和国とは、旧ルビー王国を革命で王族を打ち倒して出来上がった国であるが、何故革命が起きたのか、革命の首謀者は誰なのかは一切不明とされているらしい。
「話している間に到着いたしましたね。ようこそ、アレキサンドリア共和国へ」
アレキサンドリアの街並みは、ルクス神国とはそうかわらず、煉瓦による三角屋根の建築であった。唯一の違いは煉瓦の色が灰色であるくらいであった。
「初めてきたところだけど、活気に溢れていていいところだね」
まあ、僕は半分神殿に監禁されていたようなものなので、そもそもこちらの世界の街並みはほとんど知らないわけだが。
しかし、アレキサンドリアの人たちは笑顔で市場を闊歩しており、住民が幸せそうに暮らしていることは僕の目で見ても明らかであった。
「それでは、私の父の下へ案内いたしますね」
キャシテちゃんはそういうと、僕たちを先導して、石畳の道路を歩き始めた。
僕たちはキャシテちゃんの後ろをついて行き、川沿いの家に到着した。
「ただいま帰りました、お父様。」
「お、おお、おかえり、いったいどうしたんだ。ルクス神国に行くと言って急に飛び出したが、用事は済んだのか」
扉を開けると、背は低く、小太りで大量の髭を蓄えた男性が待っていた。彼がキャシテちゃんの父であるドワーフなのだろう。
彼は娘の急な帰宅に驚いたのか、少ししどろもどろになって出迎えた。
「そちらの方は、……まさか現人神様を連れてきたのか、キャシテ」
「その通りです。現人神様、マギナ様はマギナッツを求めこの国へいらしたのです」
「マギナッツか……それは構わんのだが」
うーん、と唸り、キャシテちゃんの父は悩んでいるようだ。やはり、そう簡単には譲ってくれないのだろうか。
「よし、ではこうしましょう。アレキサンドリア市の近くの鉱山に凶暴なレッサードラゴンが住み着いていて困っておるのです。レッサードラゴンを退治して頂けたなら、マギナッツだけとは言わず、無理のない範囲で、ですがなんでも差し上げましょう」
む、マギナッツ以外もくれるのか。ならどうしようか。
……そういえば、マギナッツを安全に使う方法を考えてなかったな。手段は後で考えるとして、安全装置、魔法の杖の棒の部分の素材を追加で貰おうか。
「そんな、危険ですよ。現人神様にレッサードラゴン退治に行けと言うのですか!?」
僕の悩みを余所に、キャシテちゃんは父に反発する。神輿とは言え僕は現人神、危険に晒すのは外交問題に繋がると考えたのだろうか。それとも、自分の恩人を危険な目に遭わせることを拒んでいるのだろうか。
どちらにせよ、僕の《肉体強化》と《自然治癒》があればレッサードラゴン程度どうということはないだろうから彼女の不安は的はずれなのだが。
「行くよ、僕、レッサードラゴンを倒してくるよ」
そういうと、キャシテちゃんの父は、驚いた顔をする。
「そうですか。……それでは、決して無理をなさらぬように。キャシテ、お前は……」
「私もついて行きます。私だって、魔法なら他の方よりも自信がありますので、決して足手まといにはならないと思います」
「……お前はそういう奴だったな」
「じゃあ行ってくるね」
そして、僕たちはレッサードラゴンが棲むという鉱山に足を運んだ。