魔法の杖を作ろう5
「それだけ必死になって私を助けてくれたってことですよね。ありがとうございます、現人神様」
ああ、助けた彼女のフォローが辛い。
ところで、僕は彼女に名乗ったっけか。
「ところで現人神様、私はキャシテという、ドワーフ族でございます。貴女の名前を伺ってもよろしいでしょうか」
目の前の褐色少女は、とても幼い女の子とは思えない、恭しい口調で僕の名前を問う。しかし……
「僕は皆には現人神って呼ばれているよ」
「そうではございません。そのような定義上の名前ではなく、本名でございます」
「メイさん、僕の本名、分かる?」
「……現人神様は現人神様だ、としか神官長からは教えて貰っていません」
メイさんはしどろもどろに答えた。
「いつまでも現人神って呼ばれるのも味気ないし、こっちで別の呼び方を考えるよ」
「ごめんね、もっとしっかりと聞いておけば良かったんだけど」
メイさんはバツの悪そうに話す。
「といってもいい名前なんてすぐには思いつかないんだけどね」
僕が悩んでいると、キャシテが声をかける。
「それでしたら、あなた方が今探している木の実、マギナッツからとってマギナ、というのはどうでしょうか」
また、僕の話していないことが知られている。
「どうして僕がマギナッツを探しているって知っているの?」
「申し訳ございませんが、貴女の行動は偶に噂になって私の住むドワーフの国にも届くのですよ。例えば……」
例えば……なんだろうか
「鉄の棒を持ちながら魔法を使おうとしていたり、よくわからないことを呟きながら魔法を使ったり……」
「やめて、それ以上は、やめて。どうして君が僕のことを知ってるか分かったから。」
正直、自分の立場を舐めていた。現人神と呼ばれる立場なら、行動一つ一つが噂になりかねないのだった。
「兎に角、僕は今からマギナだ。メイさんもそれでいいね?」
「私は何か言える立場じゃないから口出しできないけど……現人神様、じゃなくて、マギナ様はそれでいいの?あまりかわいくないけど」
メイさんは少し不満な様子である。
「僕はいい名前だと思ってるよ。だって……」
「だって?」
「記念すべき発明品第1号の材料が由来になるんだからね」
メイさんは、僕の言葉を聞いて呆れているようだった。うん、この反応は予想していた。
「いい名前をありがとう、キャシテちゃん」
「喜んで頂けたなら光栄でございます」
「ところでキャシテちゃん、マギナッツの木を知らない?この湖に生えているって聞いていたんだけど」
メイさんが問いかける。そうだ、色々あって忘れかけていたが、僕はマギナッツを探しにきたんだった。肝心の僕が忘れてしまうとは情けない。
「非常に言いにくいことなのですが、この辺りのマギナッツの木は、私の国、アレキサンドリアが全て伐採してしまわれました」
「どうにかして譲って貰えないかな」
「私の父が材料関係の流通に携わっておりますので、話せば快く融通することができるかと思います。何と言っても、現人神様のお願いですので」
キャシテちゃんは茶目っ気に提案してくれた。
そうして、僕たちは後日ドワーフ達の住む国、アレキサンドリアへ訪問することになった。