魔法の杖を作ろう4
「もう現人神様も7歳だし、街の外の散歩くらい別にいいと思うけど、いきなりマギナッツが欲しい、なんてどうしたの?」
メイさんは僕がマギナッツを欲しがる理由を問いかける。
「あの木の実、普通の人だったら暴発しても軽い怪我で済むけれど、現人神様みたいに魔導力が凄く高い人だったら大怪我しちゃうよ」
魔導力、それは一度に魔力を扱うことのできる限界のことであるらしく、水圧や電圧に近いものだと思う。
個人が体内に魔力を溜め込むことのできる限界値を示す魔力量と共に、魔法を使う上で重要な要素である。
この二つは魔法と同様レベルで表され、個人の能力値を解析魔法で検査する能力監査官の調査結果によると、僕は二つ共レベル10であるらしい。
「確か僕みたいな人がマギナッツに魔力を流すと、近くの人が死にかねないんだっけ」
「そうだよ、だから絶対にマギナッツには直接触らないでね」
「わかってるよ、その為の準備だってしてきたし」
そう、自分の様な人間が不用意にマギナッツを触ると、木の実がクラスター爆弾の様に炸裂することは、様々な人に聞いてまわる間に充分理解することができた。
あれは天然の兵器である。
いくら僕が生命魔法《自然治癒》のおかげでそう易々とは死なないとはいえ、痛いのは御免である。
《痛覚遮断》で耐えることは容易だが、無痛状態に慣れてしまうと、本当に危険なことを回避できなくなってしまうかもしれないので、滅多なことでは使いたくない。
なので、今回は事前に水の入った皮袋を持ってきた。
どうやらこの世界の魔法は水や空気、大地には直接効果が及ばないらしい。(素体族の魔法は例外的に大地にも効果があるらしいが)
よって、この皮袋にマギナッツを入れておけば、万が一僕が魔力を流しても暴発の恐れはないという訳だ。
そんなことを考えている間に、マギナッツの木があるという湖畔にやってきた。
「あれ、誰か倒れているよ」
メイさんの声を聞き湖に目を向けると、そこには褐色の幼い、白いハチマキを巻いた女の子が倒れていた。
その肌は、平時であれば健康さを連想させるような小麦色だが、しかし、今はその様子を微塵も思わせないほどに蒼白であった。
「ちょっと君、大丈夫!?」
僕は皮袋を投げ捨て慌てて少女に駆け寄り、意識を呼び戻す魔法、《生命賦活》を使用した。
しかし、どういう訳か僕の魔法は一切の効果をもたらさなかった。
一体どうして!?
「糞、こうなったら!」
僕は急いで少女の頭を後ろに反らせた後、両手を彼女の胸に当て、強く押し込んだ。
まさか異世界に来て心配蘇生法をすることになるとは思わなかった。
その後、僕は彼女に人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し行った。
「ケホッ、コホッ」
少女の口から水が溢れる。
「溺れて、でも意識がある。それなら予言は成功……?」
少女は妙なことを呟くが、僕は気にしない。彼女が生きていることが嬉しかったのだ。
「ああ、良かった! 気がついたんだね!」
「もしかして貴女が私に回復魔法をかけてくれたんですか?」
「確かに君を助けたのは僕だけど、回復魔法? 確かにかけようとしたけど効かなかったよ」
「現人神様、凄い表情だったので話しかけられなかったんだけど、どうしてこの子の身体を拭かなかったの?」
メイさんは疑問を口にする。
「え? それは一刻を争うからで……」
そこで彼女に《生命賦活》が効かなかった理由に気付く。
そうだ、水は魔法を通さないんだった。
僕は思わず赤面した。




