魔法の杖を作ろう3
僕自身魔法の杖が不要ではないか、などと思ってしまったことには理由がある。
この世界、ファンタジアには様々な魔法があるが、遠くに飛ばすメリットがある魔法はほとんどないのである。
例えば、ファンタジーRPGで定番の火炎魔法は、炎熱族の魔法で行使できるが、炎熱族の使い手の内、ほとんどの人は気温の上下しかできず、炎を作り出せる人も、小火止まりがせいぜいであるようだ。
そんな訳で、この世界の戦争事情は僕が元々いた世界の中世ヨーロッパとほとんど変わらないようだ。少なくとも戦場に魔法の炎が飛び交ったりはしそうにない。
この事実を知ってしまい、気持ちが萎えそうになるが、僕は諦めずに魔法の杖の開発を目指す。いずれ有効活用されることを願って。
気を改めて僕は、魔法を遠距離で使う意味が薄いのなら、直接魔法を飛ばすのではなく、魔法に反応する物体を利用しようと考えた。
そして、僕はそれに心当たりがある。以前、この世界特有の植物がないか、興味があって神殿内の図書館にあった図鑑を読んでいたら見つけたのである。魔力に反応して炸裂するという魔導の木の実を。
「ねえ、マギナッツてどんな木の実なの?」
僕はその魔導の木の実、マギナッツについて、神殿の菜園を管理している男性神官に尋ねた。
目的の品がマギナッツであることはわかったが、あいにくファンタジアにおける、僕の語彙力はまだ乏しいため、詳しくは他の人に聞くしかなかった。
「よくご存知でしたね、現人神様。あの木の実は非常に硬く、危険なだけでとても食べられたものではないのですが」
神官は少し驚いた様子で答えた。
彼はメイさんとは異なり、少し堅い口調である。良くも悪くも僕をさほど子供扱いしていない人間とも言えるかもしれない。
「ちょっと本で読んだんだ」
「マギナッツは、魔力を与えることで、周りに飛び散る木の実です。危険なのでこの辺りでは栽培されていませんね」
「どこに行けばあるのかな」
「申し訳ありませんが、それには答えられません」
「どうして?」
この時、僕は純粋に疑問だった。彼の口ぶりからすると、彼は知っていて敢えて教えてくれないのだから。
「だって現人神様、もしも場所を知ったら探しに行くのでしょう?そんな顔をしていましたよ」
そこまで見破られていたとは思わなかった。失策である。
……策などもとより無いが。
「大丈夫だって、僕、強いし」
こうなったら力技だ。僕がレベル10の《肉体強化》魔法を使えることは既に知られている。
兎に角僕が外出しても平気であると安心させれば問題無いだろう。
「あー、そうですね。貴女なら大抵の人であれば返り討ちにできそうですね」
うん。効果があったようだ。
「では、こうしましょうか。もし貴女が、外出する際、誰か神官を連れて下さい。メイさん辺りなら喜んでついて行くでしょうね」
「うん、わかったよ」
それなら問題ない。そもそも僕は神殿の外に詳しくない。元から彼女についてきてもらう予定だったのだから。
「それで、マギナッツの場所ですが、最も近い場所であの木の実が確認されたのは、街の外にある湖の畔です。少し遠いので迷わないようにして下さいね」
そういう訳で、僕はメイさんを連れて街の外へ出かけた。実は僕がこの神殿で暮らし始めてから初めての街の外。少しわくわくしている。