魔法の杖を作ろう2
僕は魔法の杖の開発のために、まずはこの世界の魔法について調べることにした。
以前、僕にこの世界、ファンタジアの常識を教えてくれた世話役の神官、メイさんに聞いてみた。
この神殿、ルクス神殿では、神官は男女共に純白のローブを着ている。神官ではない僕も同様である。
彼女はルクス神殿では珍しいエルフの少女で、金色のロングヘアに碧い瞳を持っている。
珍しいといっても、神殿内や外の街では異種族に対する差別はなく、至って平穏である。
もっとも、この街が特別なだけで、他の街では様々な問題が発生しているようだが。
とにかく、彼女はいま、ゴシック様式を誇るこの神殿の、柱の側に立っていた。
「メイさん、メイさん」
「なあに、現人神様」
メイさんは子供と話す様に言葉を返した。事実、この世界では7歳だから仕方がないが。
「魔法ってそもそもどうやって使うんですか?」
すると、メイさんは少し困った様に答えた。
「それは難しい質問ですね。私達にとって、魔法っていうのは自分の手足みたいなものだからね」
「僕でもできるかな」
子供相手に応対しているかのようなメイさんに対抗し、自分も子供の振りをしてみる。自分が不老であることは知れ渡っているが、中身が男子高校生であることは知られていない。下手に振る舞うと困惑させてしまいだろう。
「できるはずですよ。現人神様の魔法族は生命族でしたね。それなら、力もちになった自分を想像してみて下さい」
メイさんの言葉に従い、僕は、腕には巨大な力こぶ、腹筋はくっきりと割れている自分をイメージした。
すると、
ボコッ! ムキッ!
という音が聞こえそうなほど、自分の身体が変貌した。
「うわあ」
メイさんはドン引きしていた。
「現人神様、御自身の身体を見てはいかがでしょうか」
メイさんは、つい堅い口調になりながら、僕の前に姿見を差し出した。
「これが……僕?」
僕の目の前には、可愛らしい顔立ちをした、赤毛の幼女が立っていた。勿論これは今の僕自身姿である。
しかし、愛らしい顔に反比例するかのような素晴らしい肉体を彼女は持っていた。
腕にははち切れんばかりの力こぶが、腹筋は服の上からでも容易に見られる程に割れている。極めつきは、僅か7歳とは思えない程の豊満なバスト、もとい、胸筋である。
「あの、どうやって戻ればいいんでしょうか」
呆気に取られながら僕は聞く。
「え、もう戻っちゃうの?」
この反応、まさか彼女、筋肉マニアか?
「私は風雨族なので専門外ですが、戻ろうと思えばそれだけで戻れるはずですよ」
よし、それなら……
姿見には先程の悍ましい幼女は映っていない。成功である。
メイさんは何やら残念そうにしているが、気にしないことにする。
「こういう魔法って、遠くの人に使ったりできるの?」
「無理だよ。魔法っていうのは大抵自分の手の届く範囲までしか使えないからね」
それに、そんなに遠くに使うこともないし。と彼女は付け加えた。
「ところで、いきなり魔法の使い方なんてきいてどうしたの?現人神様は何もしなくてもいいんだよ」
メイさんが尋ねる。夢のニート生活は嬉しいのだが、僕はこの世界でやりたいことがあるのだ。
「僕ね、魔法の杖を作ってみたい」
子供らしい笑顔を見せ、僕は答えた。
「魔法の……杖?」
メイさんは呆気に取られる。魔法の杖について聞いた他の神官達と同じ反応である。
この反応を見て、そういえばメイさんにはまだ魔法の杖について話していなかったことに気づいた。
「そう、魔法の杖。棒の先からまほうを出すんだ」
「私にはよく分かりませんが、頑張って下さいね」
「やっぱり、メイさんも魔法の杖の良さが分からないんだね。まあ、僕も最近分からなくなってきたけど」
そう、僕自身、ファンタジアの魔法を知る中で、どうして魔法の杖が存在しないのか薄々感づいてきてしまった。
「なら、無理に作らなくてもいいんじゃないかな」
「うーん」
僕は悩んだ振りをするが、答えは決まっている。
「それでも僕は作るよ、魔法の杖」
だって、ファンタジーに魔法の杖は付き物なのだから