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異世界研究備忘録  作者: 10pyo
第2章 鍾乳洞の怪
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鍾乳洞の怪8

 僕が考えた対翼竜隊の秘策、それは魔力による結界を作ることである。

 ワイバーンは物理攻撃には頑丈だが、魔力を伴った攻撃には然程頑丈さは機能しない。

 ならば、もしかしたらワイバーンは魔力を避ける習性があるのではないだろうか。思えばミラさんは、僕が魔法の杖を発射した際に、発射した方向とは反対側に少しだけ動いていた気がする。


 後は魔力を広範囲に薄く広げる方法だが、魔力が電流を彷彿とさせる性質を持っているのなら、魔力版の電界もあったりするのではないだろうか。魔力が流動する際に、小さな魔力が近くに散乱する、そういったことはないだろうか。


「魔王様、魔力の性質について確認したいことがあるのですがよろしいでしょうか」


「答えられることならな」


「魔力を正確に一点のみに集中させる事は可能でしょうか。あるいは僅かに狙った場所の周囲にも分散してしまうのでしょうか」


「質問の意図がよく理解できぬが、魔力の細かい流れは儂には分からぬな。魔力に敏感な妖精ならば感知できるのではないだろうか」


『そうだね、どれだけ正確に狙っても魔力は周囲に分散しちゃうかもね。わざわざそんな細かいところは見ていないから、正確に知りたいなら実践しないと駄目だけど』


 この反応なら僕の予想は当たってそうかな。念の為魔王様にゴムを借りて実験してみよう。


「魔王様、ゴムを使って実験をしたいのですが貸していただけますか?」


「ゴムくらいなら幾らでもあるから構わぬが何に使うのだ」


「先程言った魔力の分散についての実験です」


「まあ良い。ジュエル、資材置き場からごむを持ってきなさい」


 ジュエルと呼ばれたフロント嬢はエントランス奥に向かい、様々な形状のゴムを持ってきた。


「では、この細長いゴム棒を使って実験を開始します」


 まずはゴム棒を円の形に曲げて、それから魔力を流す。ネオンちゃんの反応はどうだろうか。


『うん、マギナちゃんの言うとおり魔力が流れた場所の近くにも魔力が分散しているね』


 そもそもゴム棒に魔力って流れるんだね。と付け加えていた。

 そして、ゴム棒の巻き数を増やして実験を再開する。


「今度はどう?」


『すごい! さっきよりも分散した魔力が大きくなってる!』


 磁界は導線の巻き数が多い程大きくなる。どうやら魔力でも似たような働きをするらしい。


「儂には魔力が見えぬからよく分からぬが、それが確認できたところでどうするというのだ」


 魔王様は懐疑的な目である。正直、自分も大した根拠は無いのだが、他に手が考えられない以上直感に頼るしかない。


「ワイバーンは物理攻撃には頑丈ですが、魔力を伴った攻撃には抵抗がありません。ですので、ワイバーンは魔力を避ける習性があるのではないでしょうか」


「ふむ、一理あるな。それでこの実験をどう活かすのだ」


「流動する魔力の周囲に分散する魔力の欠片、これを便宜上魔力界と呼びます。魔力界は先程の実験で明らかになった通り、ゴムを巻けば巻く程大きくなります」


「続けてくれ」


「つまり、ゴムを盾に巻きつけることでワイバーンの突進を封じることができるのではないでしょうか」


 これを、MAーNo.3『魔導シールド』と呼ぶことにする。正直あまり用途は無さそうだが。


「よし、まずはそれを採用しよう。だが。」


 そう、魔王様が危惧していることはわかる。これだけでは根本的な解決には繋がらない。街全体を覆うことができる結界が必要だ。


 スピーカーのようなもので魔力界を広げることができるなら手っ取り早いのだが。


「魔力界の範囲を広げる鉱石とかはありませんか?」


 僕は駄目元で聞いてみた。


「鉱石はないな。だが、魔法攻撃を倍化して跳ね返す狸がいる。リフレクションラクーンというの魔物だが、もしかしたら役に立つかもしれないな」


 魔法攻撃を倍化、それを行う内臓があるのか魔物の革が魔法を反射するのかはまだ分からないがそれを使えばワイバーンにも抵抗できるだろうか。


「その狸、どこにいますか?」


「この街のすぐ北にある森に住んでおる。偶に森を抜け出して近隣住民の畑を荒らし困っておる。素材を収集するついでに間引いてきてくれんか。多少狩り過ぎても構わんぞ。以前大々的に狩りを行ったのだが、数ヶ月後にはまた被害が出た位だからな」


「では、リフレクションラクーンの狩りに出かけます。メイさんたちも協力よろしく。ネオンちゃんは流石にここで待っていてね、魔法が通じないみたいだから」


『残念だけれどわたしが行っても役に立てなさそうだもんね、ここで休んでいるよ』


 それから僕たちは北の森で狩りを行った。狩りは順調に進み、日暮れ頃には運搬用のリアカーはリフレクションラクーンで一杯になっていた。

 この魔物は見た目は唯の狸とあまり変わりない。見分ける手段が腹部に渦巻き模様がある程度なので、魔物というには愛嬌があり、間引くためでもあるとはいえ多少の罪悪感を覚えた。


 リフレクションラクーン狩りから帰ってきた僕たちは魔王城で夕食を頂いたのだが、驚くことに食事のメニューに肉じゃががあった。

 どうも、ここの料理長の先祖に余所からの旅人が居たらしく、先祖伝来の料理として代々伝わっているらしい。流石に味噌汁や白米はなかったが、久しぶりの故郷の味に思わず泣きそうになった。


 夕食を済ませると早速対ワイバーン用のアーティファクト、MAーNo.3ー2『対翼竜魔導防壁』の製作に取り掛かる。

(ちなみにNo3ー2とは、No3の派生である事を指す)

 魔王様からは明日からでも構わないと言われたが、相手は待ってくれないだろう。大規模な工事は昼間にやるとしても、試作品くらいは今のうちに作っておきたい。


 対翼竜魔導防壁といっても、複雑なものを作るつもりはない。

 昼間に狩猟したリフレクションラクーンの革に対して細長いゴム棒を何度か巻き付ける、それだけである。強いて挙げる製作上の注意点は、ゴム棒を巻き付ける際は一方向で統一することである。

 これにより、ゴム棒に流した魔力はコイル状の箇所で魔力界が大きく広がり、広がった渦はリフレクションラクーンの革の力で更に大きく広がり、広範囲に渡って魔力界を発生させる。

 後はこれを街の高所に設置し、垂らされたゴム棒に対して魔力を流せばよい。ネオンちゃんが言うには一般的な魔族の魔力でも半径数mまで広がったそうだから、疎らに設置して一般の魔族に担当させればワイバーンは凌げるだろう。

(どうにも、リフレクションラクーンの革が魔力界の倍化を行う場合は二倍では済まないようだ)

 残る作業はこの対翼竜魔導防壁の設置工事を行い、実際にワイバーンに効果があるか確かめるだけである。門番をおかしくしたと思しきアセンションワイバーンはミラさんが対処してくれるし、門の検査も魔王様がしてくれる。これで門の問題も解決してようやくマジカダイトが手に入るのだ!

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