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異世界研究備忘録  作者: 10pyo
第2章 鍾乳洞の怪
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鍾乳洞の怪6

 空を飛んでいた緑のワイバーンを殲滅し、ワイバーン同士の抗争に一旦の終止符を打ち込むと、地上に降りて僕は改めてミラさんに質問をした。


「さて、ワイバーンはこれで全て倒しきったわけですが、まだ問題は解決していませんよね」


「その通りです。抗争相手がいなくなったところでアセンションワイバーンの邪視から逃れたわけではなく、寧ろ今度は今にでも貴女がたに襲いかかるでしょう。アセンションワイバーンは、配下のワイルドワイバーンを失いました。しばらく待っていればこの場に再び現れるでしょう。貴女がたはこの場を離れて下さい。私たちはいつでもここにいますので、この件が解決次第お礼をいたします」


 ……確かにワイルドワイバーンたちの目はどこか血走っている様に見える。ここは大人しくこの場を去ろう。


「最後に聞いておきたいのですがよろしいでしょうか」


 キャシテさんが尋ねる。聞いておきたいことといえば……そうだ、あれのことか。


「人界と魔界を繋ぐ門の見張りがいるはずですよね。その方はどちらから来たのですか?」


「ああ、その人たちなら東にある城下町から来ていますよ。貴女がたの歩く速度でもさほど時間はかからないかと」


「ありがとうございました。では、私たちはこれで」


「こちらこそ助かりました。まさかワイルドワイバーンを楽々と倒せる方がいらっしゃるとは」


 去り際に言葉を交わすと、今度こそ僕たちはスマートワイバーンの群れを去った。

 そして半日ほど草原を歩くと、夜の灯りがぽつぽつと光る街が見えた。

 ルクス神国では街灯が普及していないので、その夜景は元の世界を彷彿とし、懐かしくなった。


 城下町に入る。

(この辺りは治安が良いのか、夜間でも街の出入りが可能な様だ。ルクス神国でも僕が住む神殿の街なら可能ではあるが、この世界の多くの街は夜間の交通が規制されている)

 この街は様々なところに石畳が敷かれ、坂が多い。また、この街の家は一件辺りの規模は小さいが、肩を寄せ合う様に並んでおり、人口の多さが伺える。

 街の外から見えた街灯はどうやらガス灯のようで、僕が見慣れた街灯とは異なる。……この世界にガス灯か。少し技術が進歩しているなら有ってもおかしくはないけど、少し気になるな。そういうわけで、僕はこの街の第1街人に声を掛けた。


「すみません」


「ん? なんだい……君はまさか人間かい、珍しいな、魔界にいるなんて」


 夜中でも沢山の人が出歩いているため、第1街びとは早速見つかった。密かに心配だった言語の問題も無いようだ。しかし、後ろから声を掛けたため気付かなかったが、彼の顔には見慣れないものがあった。


「……!?」


 失礼ながら僕は……というより、ネオンちゃん以外は驚きで声が詰まってしまった。


「なんだい、人の顔を見て失礼だな。……ああ、君たちには珍しいんだね、この角が」


 彼の額には、小さいながら角が生えていた。これが魔族の特徴なのだろうか。


「君たちには見慣れないものだろうけど、これは魔族の特徴なんだ。俺にとっては角が無い君たちの方が珍しいけどね。……それで、話はなんだい? 何か用があるんだろう?」


「この街は夜でも明るいのですね、この灯りはいつから灯るようになったのですか?」


「ああ、ガス灯のことかい。未だに他の国では使われていないみたいだし君たちには珍しいんだろうね。これは大昔、神話の時代が終わった直後の話だね」


 そういうと彼は語り始めた。

 話の内容をかいつまんで纏めると、神話と呼ばれる程大昔、凡そ70000年前にこの国に人間の旅人がやってきた。旅人は肌の白い者と黄色い者の二人組で、二人の旅人が口論をしながらもこの国にガス灯を齎した。しかし、それを最後にこの国で新たな道具が誕生することはなくなった。

 そんな話である。


 この話からわかることは、(旅人が現代人であるなら)僕のような異世界人は人界以外にも魔界に飛ばされることがある、恐らく天界に行った人もいるのだろう。

 そして、花火の件で薄々気付いていたが、この世界ではある時を境に(恐らく神話の時代末期からガス灯発明までだろうか)自力で文明が発展できなくなったのでは無いだろうか。

 某ゲームにおける特別なユニット、それが異世界人で、僕たちでなければ科学力を発展させられないといったところか。

 最低70000年前から、100年に一度異世界人がやってくる割に現代の物があまり見当たらないのは、中には文明の発展に失敗した人もいたということか。


 ともあれ、興味本意のことを聞いた次は今回の旅の目的である。


「もう一つ質問をよろしいでしょうか」


「せっかくの人間さんだからね、なんでも聞いていいよ。答えられる範囲でよければ教えてあげるよ」


「ここから西に魔界と人界を繋ぐ門があるのはご存知でしょうか」


「ああ、知っているよ。それならこの街の魔王様が管理しているよ」


「そうですか、魔王様が……」


 え!? 魔王、なんで魔王がいるの!? まさかこれから会いに行く人って魔王?


「どうしたのですか、マギナ様。突然慌てていますが」


 そうか、メイさんは魔族自体を知らなかったから魔王のイメージも湧かないのか。


『魔王様ね、確かにマギナちゃんも驚くよね、会いに行く相手が王様だなんて。ごめんね、教えてなくて』


 違う、そういう問題じゃない。確かにただの王様でも驚くが、今回の相手は魔王。いわゆるラスボスを張っていてもおかしくは無いのである。


「魔王様は忙しいけれど、アポイントメントさえ取れば誰でも会ってくれるよ。用事が有るなら明日の朝にでも受付に行ってみなよ」


 その言葉を最後に彼は僕たちと別れ、酒場と思しき店に入っていった。

 ……はあ、魔王か。流石に不安になってきたな。

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