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異世界研究備忘録  作者: 10pyo
第2章 鍾乳洞の怪
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鍾乳洞の怪3

 研究室を後にした僕は、メイさんたちと合流する前に、自分に与えられていた部屋へ行き、白衣代わりの研究服となっていたローブから着替え、身軽なジャージ姿となった。防具を身に着けないのは、《肉体硬化》がある以上、身体の動きやすさを重視した方がいいと考えたからである。


 なぜジャージがあるのか気になったが、花火同様旅人が伝えた衣服ならしい。旅人とは間違いなく鉄鋼世界、すなわち現代から来た異世界人の事だろう。ある時様々なスポーツを伝えた旅人がいたらしく、運動向けの衣服としてジャージを伝えたそうだ。

 今では国民的スポーツとして野球やテニス、アメリカンフットボールが流行している。余談だが、彼の伝えた競技の中で最も親しまれているのはバレーボールとセパタクローで、この二種目が競技者人口の一位、二位を争っている。世間ではセパタクロー・バレーボール戦争なるものがネタとして親しまれている程だ。


 ともあれダークブルーのジャージに着替えた僕は、神殿騎士団の兵舎に寄り(メイさんたちはワイバーン騒動以来思うところがあって神殿騎士団に入団した)、メイさん、キャシテさんと合流してから噂の鍾乳洞へと向かった。

 僕が子供の頃にした、いつか鍾乳洞に行くという約束がこのような形で果たされるなど、当時は思いもしなかった。

 なお、メイさんは兵舎からメイスを、キャシテさんは弩を持ってきていたが、僕は自前で用意した投げナイフを何本か持ってきたのみである。本当は怪力でも壊れないような槍を持って行きたかったがどこの鍛冶屋を探してもそのような槍は作れないと言われてしまった。


「実際、鍾乳洞ってそんなに魔物が沸いたりするの?」


 僕はメイさんに尋ねた。悲惨な出来事があったとはいえ、それは7年前。何時までも大量の魔物が現れるなど少し不自然ではないだろうか。


「普通はありませんね」


 ちなみに、メイさんは僕が成長するに従って子供をあやすような言葉遣いはやめた。


「つまり、あの鍾乳洞には何かがあると」


「恐らくは。しかし、ワイバーン騒動まではあそこは他の洞窟と比べてむしろ静かなくらいでした」


「またあのカノープス元宰相の仕業なのでしょうか」


 絶対に許さねえ、カノープス!!

 キャシテさんのいうカノープスとは、旧ルビー王国の宰相の事であるが……いや、流石に無理がないだろうか。嫌がらせだとしてもあまり意味がないだろう、あの鍾乳洞では。


「流石にそれはないと思うけれど……でも、ワイバーン騒動をきっかけとする何かはあるだろうね」


「とにかく、何があってもいいように心してかかりましょう!」


 最後にメイさんが締め、僕たちは鍾乳洞に浸入した。


 ……鍾乳洞、そこには大小様々な白い鐘乳石が天井や地面から無数に生えていて、この世界特有の黄色に光る石と調和し、僕の口からは思わずため息が漏れた。

 しかし、いつ迄も感慨に耽ってはいられない。僕たちが洞窟に入った瞬間、この神秘的な空間は自分たちのテリトリーだと主張すると言わんばかりに多数の魔物が襲撃してきた。


 血を吸い過ぎて太った蝙蝠、ファットバット、凶暴化した魔力の塊、ビーストリー・マナ、着た者の血を吸い、眷族の吸血鬼とする服、ヴァンプクロースなど、様々な魔物が僕たちに一斉に襲いかかる。


 ファットバットは魔力を込めた血を噴射して攻撃するのだが、肥大化した身体の所為で動きが遅く、攻撃される前にキャシテさんが矢を射り絶命させ、仮にも吸血鬼の一種であり頑丈なヴァンプクロースは近づかれる前に《肉体強化》した僕がナイフを投げ、魔力の塊である為物理的な攻撃が通用しないビーストリー・マナはメイさんが《突風》の魔術で霧散させた。

 (ビーストリー・マナは自身の体色で、構成されている魔力の魔法族を表すのだが、その魔法族以外の魔術には非常に脆弱である。なお、対応する色はマジカダイトと一致しており、ここにいるビーストリー・マナは全て黄色である)


「キャシテさん、危ない!」


 僕は咄嗟にキャシテさんをかばうように前に飛び出す。瞬間、僕の胴体に紫色に変色した鐘乳石、イヴィルストラクタイトがぶつかる。

 が、効果は無い。何時でもビーストリー・マナを殴れるように全身を魔力で覆う為、《肉体硬化》を使用していたからだ。


「申し訳ありません、マギナ様」


「だいぶ魔物の数は減ったけれど、いつ襲ってくるか油断できないから気をつけて」


 開けた視界の中に、空間の歪みのようなものを見た。


「こんな風に……さ!」


 叫び、僕はナイフを投げる。今見たものはカモフラージュスラグ、巨大ななめくじのような生物で、カメレオンのように背景に擬態する魔物だ。

 ともあれ、これで辺りの魔物は一掃できたようだ。改めて洞窟内を見渡してみると、辺りはマジカダイトの黄色い光で灯され、ぼんやりとだが奥まで見通すことができる。


「さて、奥の方も調べてみようか」


 この辺りには怪しいところはなさそうだ。ならば、何かがあるとすればそれは洞窟の奥だろう。

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