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異世界研究備忘録  作者: 10pyo
第1章 魔法の杖を作ろう
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魔法の杖を作ろう13

 この世に地獄が顕現したのではないか、思わずその様なことを考えてしまう景色の中走り抜け、僕の耳に男性の声が入り込んだ。この声は兵士だろうか。


「おい、急いで逃げろ! ワイバーンが襲って来るぞ!」


 ワイバーン……! 菜園で僕も襲われたけれどあの火球は凄かった。失礼だとは思うが、普通の兵士が襲われたらひとたまりもないのではないのだろうか。

 《肉体強化》の魔法を掛けて急いで向かわなければ!


 声の聞こえる方へ走りながら僕は空へ目を向ける。

 ひ、ふ、み……5匹か。僕が菜園で見た時は10匹だったけれど思ったよりも減っているな。どうにかして4匹は倒すことができたのだろうか。

 そんなことを考えていると兵士の姿が見えてきた。そしてそのすぐ上にはワイバーンの姿が……!


「ッラアー!!」


 僕は女の子らしさなど捨て、全力の跳び蹴りをワイバーンに叩き込んだ。

 兵士を襲撃しようとしていたワイバーンは街道に叩きつけられ痙攣している。菜園で倒したワイバーンとは違い、蹴りには手応えがあり、大打撃は与えたものの完全には死なないらしい。


「とっとと……くたばれ!!」


 菜園での出来事を繰り返すかのように、僕はワイバーンが死に絶えるまで拳を叩きつけた。それこそ、周りの目も気にせずに。


「誰だ、あの女の子は。俺、今まで見たことがないぜ?」

「……助けて貰ってなんだけどさ、そもそもあれは本当に人間の女の子なのか? 獣人にもあんなのはいないぞ」

「ゴリラ。そう、あれが遠く南の地にいるゴリラって生き物じゃないか? ちょうどあんな外見だって聞いたぞ。体はもっと黒いって話だけどな!」


 ……当人達は小声で話しているつもりの様だが、その内容はばっちりと聞こえている。


「誰が! ゴリラだー! 僕はれっきとした人間だ!」


「じゃあ君は一体何者なんだ!? 君の様な子がこの国にいるなんて聞いたことがないぞ!」


「僕は貴方達が現人神って呼んでいる者だよ。その証拠に……!」


 僕は《肉体強化》の魔法を解く。本当はこんなことをしている暇は無いんだけれどな……。


「貴女は……! 先程の無礼、申し訳ありませんでした! まさか貴女の様なお方がこの様な所においでになられるとは……!」


「それはいいよ。それよりもさ、今どういう状況か教えて欲しいんだけど。できれば3行で」


「3行とは?」


 しまった、異世界でネットスラングが通用する筈がなかった!


「……簡潔に教えて」


「私達は高位司祭のアウイン様の命により、市民の避難誘導を行っておりました。」


 アウイン、名前だけは聞いたことがある。確か若くして神殿の高位司祭まで上り詰めた人で、魔術師としてもルクス神国最高クラスの実力なんだったか。ワイバーンの数が減っているのも彼の活躍だろうか。


「そのアウインって人は?」


「……」


「……まさか」


「ワイバーン5匹を撃退し、殉死しました」


 5匹、内1匹は僕が倒したものだろうが、ここで指摘するのも野暮だろう。


「我々は、彼の遺志を継ぎ一人でも多くの市民を守る為に避難誘導を行っておりました」


「そう、ならワイバーンは僕に任せて欲しい」


「なりません! この国の現人神たる貴女様がその様な危険なこと……!」


「厳しいことを言っちゃうけどさ、今この国でワイバーンに対処できる手段って他にある? ……無いよね。戦わずに避難誘導だけしているってことは弓矢とかバリスタとかも効果がなかったってことだろうし」


「……」


「まあ、それこそ神の奇跡でもないとこの国に未来は無さそうだし? 恥を忍んで僕に任せてよ。現人神とはいえ僕だってこの国の一員なんだからさ」


「……わかりました。では、この場は我々に任せワイバーンの撃退をよろしくお願いします」


 渋々、と言った感じかな。ともあれ、急いでワイバーンの殲滅に向かおう。これ以上犠牲者が出る前に!


「……これはアウイン様が仰っていたことなのですが」


 ……と、なんだろうか。


「ワイバーンに物理的な攻撃は効果が薄く、魔術による攻撃が良いそうです」


 その割には僕の攻撃は通っていたけれど、あれはワイバーンの装甲を貫けるだけの筋力だったってだけかな。

 魔術攻撃……僕の魔術は生命族だからあまりそういったことは苦手だけれど。

 ……いや、魔法のショットガン、もとい、魔法の杖はどうだろうか。炸裂したマギナッツにも魔力が残っているのであれば高密度の魔力をワイバーンにぶつけることができるんじゃないだろうか。

 菜園のワイバーンに殴打が通じた理由は、《肉対強化》だけではなく、《肉対硬化》を併用し、身体全体に魔力を纏わせたからだろうか。

 ただ、やはり直接殴るよりはショットガンの方がまだ射程はある、そちらを試してみよう。


「うん、ありがとう。試してみるよ」


 そうして僕は街中へと駆け出した。

 結論から言えば僕の読みは当たり、残る4匹のワイバーンは魔法の杖から発せられる雷の様な轟音と共に、余りにも呆気なく殲滅された。

 寧ろワイバーンの至近距離で魔法の杖を放つ方が難しいくらいで、1匹は民家の屋根からジャンプして届く距離(勿論《肉体強化》は使ったが)だったが、残る3匹は僕を警戒し、より高い位置を飛行する様になった。

 対抗する為に屋根の煉瓦を掴んで、空中で煉瓦を落とし落ちた煉瓦が僕の足と交差する瞬間に煉瓦を蹴りあげる、なんて芸当をやってみたが何度も失敗してしまい時間が掛かってしまった。

(市街地にはアウインさんが魔法で作り出したと思わしき土の柱があったが、流石に土の柱を壁に見立て壁キック、なんてする勇気はなかった。崩れそうだし)

 ただ、殲滅してから気付いたが、ここまで苦労して魔法の杖を使うくらいなら効果は薄くても煉瓦を投擲した方が早かったんじゃないだろうか、そんな気がした。僕の筋力ならワイバーンを落とすくらいはできそうだし。


 ともあれ、これでワイバーンは全滅。多くの犠牲を出しながらもルクス神国には平和が戻った。ということでいいのだろうか。


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