魔法の杖を作ろう12
僕はゴムの棒の先端の窪みにマギナッツを付けていた。
本当にただ棒の窪みの部分に押し込んだだけなので、木の実は簡単に落下してしまうが実験する分には問題は無い。
「ちょっと危ないことをするから僕から離れていて」
僕は棒を空に向けて掲げながら言った。
炸裂する木の実、マギナッツに僕の魔導力で魔力を流せばどのような事態になるのかは想像がつかない。
普通の人なら大したことにはならないらしいが、生来からを高魔導力をかける事ができる身である。流石に大爆発なんて起きないだろうけど出来るだけ安全は考えたほうがよさそうだ。
本当は僕もヘルメットくらいは被っていた方がいいのだろうけど、見当たらなかったので仕方がない。
「発破!!」
叫ぶ。
――言葉には特に意味はない。実験らしく、作業的な言葉を選んだだけである――
ともかく、僕がゴム棒へと魔力を流した瞬間、菜園にはまるで自分のすぐ近くに雷が落ちたのではないかと疑う程の爆音が轟いた。
「っ!!」
耳には轟音が貫き、手にはゴム棒の破片――木の実が炸裂した際のあまりの衝撃に、支えとなっていた棒は周囲に飛び散ってしまった――が突き刺さる。
そして、ゴム棒を掲げていた右手は気が付くと吹き飛んでいた。
「ぁぁ、っあああああああー!!」
痛い、痛い、痛い!
理解すると途端に痛みが襲い、意識が吹き飛びそうになる。生まれつき自動的に発動し続ける魔術、――ゲームで言うところのパッシヴな――《自然治癒》を待つのも耐え切れず、僕は急いで《生命賦活》の魔術を使用する。
「――!!」
メイさんが何かを叫んでいるが、先ほどの轟音で僕には聞き取ることができない。
恐らくは僕を心配する言葉だろう。
彼女を安心させるために、無事を示すジェスチャーをする。
落ち着いたところで周囲を見渡す。砕けたゴム棒や飛散したマギナッツが辺りに散らばっているが、幸い目に見えた被害はないようだ。これなら杖を頑丈な材料で作れば強力な魔法の杖を作ることができそうだ。
……最大の問題はこれは僕のイメージしていた、魔法の光弾が飛び出るようないかにもファンタジックな代物ではなく、まるでショットガンのようなものだったことだが。
そんなことを考えていると、メイさんがこちらに向かって駆けてくる。しかしどうやら焦っているようだがどうしたのだろうか。
「危ないっ!!」
突然メイさんの声が耳に入り、次の瞬間には僕はメイさんに押し倒されるような形で地面に叩きつけられていた。
そして、先程まで僕がいた所には空からの火球が衝突していた。
「ぼうっとしていないで下さい、ワイバーンの群れです! すぐに避難を!」
いつの間にか耳が回復していた僕には悲鳴が神殿中から聞こえてきた。
「聞こえているんですか!?早く避難して下さい!」
勿論聞こえている。しかし、神殿の中と外から聞こえてくる悲鳴や兵士達の怒号が僕から平静な判断を奪う。
仮に僕が彼らを見捨て避難したとして、どれだけの犠牲が生まれるのだろう。
勿論、ただの神輿とはいえ現人神の身である以上、軽率な判断で死地に赴くべきではない。それはわかるのだが。
「……放って置けない」
「え?」
偶然手に入れたものとはいえ、僕には強力な魔法の力が使える。それも、普通の戦士が何人束になっても敵わないようなものを。
その力を持っていながら犠牲者が出ることをみすみす見逃すなど、自分自身を許すことができない。
国内に現れたワイバーンを殲滅する、その為にもまずは自分達の前に現れたワイバーンを倒し、メイさんの安全を確保しよう。
「《肉体強化》!」
僕が魔術を使うと、肉体ははち切れんばかりの筋肉に包まれる。
身体が強化されたことを確認すると、僕は神殿の外壁に向かって走り出す。
「マギナ様、何やってるのですか!」
メイさんの言葉を聞かず、僕はそのまま外壁に向かって精一杯に飛び掛かり、そして壁を蹴り出した。
普通にジャンプしたのではいくらレベル10の《肉体強化》が掛かっているとはいえ、空高く飛んでいるワイバーンには届かない。
しかし、神殿の外壁を踏み台にすれば話は別だろう。実際、今僕の目の前には緑の鱗を持った翼竜、ワイバーンが飛んでいた。
「うおおおお!!」
落下しないうちに、ワイバーンの背に渾身の鉄拳を叩き込み、ワイバーンを墜落させた。
当然僕の身体も重力に引っ張られて落下するのだが、僕にはレベル10の《肉体硬化》がある。この高さでも耐えることができるだろう。(最悪、《自然治癒》もある。死にはしないだろう)
ズゴーン! と大きな音を立て、ワイバーンと僕は地上に落下した。
地に落ちたワイバーンを見ると、原型が残らない程に肉体が四散していた。
「あれ、思っていたよりも呆気ない?」
僕は疑問に思ったが、深く考える間もなくメイさんへと振り返った。
「マギナ様、その様な無茶をされては困ります! もしも貴女の身に何かあればどうなさるのですか!?」
メイさんは声を荒げる。これも僕を心配してのことなのだろう。
「ごめん、行ってくる!」
「え、ちょっと……お待ちください!」
しかしメイさんの引き留める声を背に、僕はワイバーンが集まる市街地へと駆け出した。




