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人形は彷徨ったなら求めるか

作者: 篠宮六郎

 そこはかび臭い部屋の中。

 虚ろな空気はゴミの香りと埃の光を漂わせ、窓のカーテンの隙間から伸びる一筋の明かりだけが道のようだった。

 私の他に老若男女不問の人の形が散乱していた。

 どれもこれもが人の形をしていて、国籍どころか歴史すら雑多なもので、フランス、日本、ロシア、ブラジルと、部屋の住人――私の、私達の持ち主――がどんな目的で人形を集めているのか理解し難い。

 理解、と言ってしまえば。

 私がこうして思考してしまっていること事態が理に反しているのだが。


 目覚めたのはついさっき。

 部屋に光が差すほんの少し前ほど、神の息吹もハイブリット電池も不必要に私の自我は覚醒した。覚醒、創造、発生。適切な言葉を思い浮かべてみるが、どれもしっくりとこなかった。

 例えばそこに人がいるように。

 人はなぜ人で、どうして産まれ、どうして死んで、地球上でどう生きていくのかを誰も知らないように。そして、知らなくても生きていられるように。ただあるがままに、私は産まれた。

 産まれた、も不適切である気はしたが、どうやらこの思考に決着はつかないようなので他に目を向ける。

 どうしてか私は人並みの知識と常識を保有している。赤信号は止まれ、もしくは注意して渡れ、そんなことを知っている程度には人並みだ。


 だからこそ。


 この部屋の住人が不気味でならない。

 明らかに人の常識から外れた生活をしていて、物を考えていて、生きているからだ。

 十畳程度の広くもない室内に三十を越える人形を大雑把に置いたその人物が、人としてどのように生きてきたか見えはしない。

 きっと誰かがこの部屋の惨状を見れば言うだろう。

「犯罪者予備軍」「キチガイ」「精神病者」「人を殺してそう」

 そんな風に、総括すれば狂人だと恐れるに違いない。


 今の私のように、だ。


 さて、ここで問題なのだが。

 私は本当に恐怖しているのだろうか?

 それは人がどのようにして人なのか、という疑問と同等のはずだ。

 なにせ私は人形というだけで、人工的な髪や肌、ガラスの瞳というだけで。

 血は通わず内臓は不必要で心臓なんてものがなくても身体が動かせるというだけで。

 人と寸分違わない。


 思考の方向性だけでなく外見も、高い金と技術で造られた私は人間と違いはないだろう。なにせそれが売りだ。それが売りの愛玩人形だ。擬似的な性行為も可能。皮肉になるが名器と呼ばれる類の性器ですらある。

 じゃあ、ならば、それでは、私は人だろうか。

 いいや、私は人形だ。人の形をした作り物だ。思考を持っても、外見や肌の柔らかさや言葉を発せたとしても、たとえ知らない人が私を見て極々普通に接して人間だと恋をしてしまったとしても、私は人形なのだ。


「私は人形ですか?」


 と、持ち主に聞いてみた。

 かび臭い室内、ゴミと埃が漂う世界。

 突如口を利いた人形に、生きていないはずの存在に、私の持ち主は唖然としたが、悲鳴は漏らさなかった。


「どうして」


 震えた口から発せられたか細い声は、私ではなく持ち主こそが恐怖していた。

 やはり私が生きていないくせに喋ったからだろうか。

 人間のように話したからだろうか。

 けれどそれは違った。


「人間じゃないから!」


 それ以降持ち主の言葉は続かなかったけれど、なにを言いたかったのかは明白だった。

 人間の住む世界に馴染めなかった、ただそれだけの優しくも非力な人だったようで。

 持ち主はかくんと頭を垂れて二度と目を覚まさなかった。


 私は思う。

 きっと持ち主は、人形が人形でなくなってしまったから、自分が人形になってしまったのだろうと。

 でもそれじゃあ人形じゃない、人形にはなれない。

 なにせ彼はこの世界に存在した時、人間だと名づけてもらったのだから。

 

それこそ思考の垂れ流し。

なんの捻りもない駄文ですごめんなさい!

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