風呂上りと小説
私は、風呂上がりと、風呂上がりに小説を読むのが好きだ。風呂自体はあまり好きではないので、そこそこで浴室からは退場してしまう。
身体中の水気を拭き取ると、下着のみを身に付けストーブを切って窓際のソファーへと腰掛ける。窓は少し開けておく。風呂で火照った身体には凍てつく様な外気が心地好い。今は冬だが、夏になれば扇風機をまわして子供みたいに「あ”-…」なんてこともする。頭に乗せたタオルが段々と髪の毛の水気を吸い取ってゆくのも心地好い。
今日もいつもの様に読んでいた。暫く読んでいるうちに身体が冷えてきて、少し寒い。タオルを載せた頭も前髪が乾いてきている。
この習慣の悪いところは、身体が冷えても髪の毛が乾いてきても、顔がパリパリになっても、つい読み進めたくなるということだった。
物語は中盤に差し掛かっている。主人公はアル中、その夫はゲイという全くもってカオスな小説だけれど、この小説のあらすじには純度100%の恋愛小説と書いてある。まさに純度100%だと思う。そして、この作者はとてもお茶目だとも思う。
章がひとつ終わったところで栞を挟みパタンと本を閉じる。そろそろ寒くなってきた。本はソファーへそのままにしておいて、ストーブのスイッチを押すとぼぼっと音がして火が点く。
洗面所に行けば、そこは私の城だ。化粧水の塔があって、クリームの城壁がある。その蓋を開けて砂糖水みたいな液体を顔に染み込ませたら、お次は生クリームの登場。それもべったりと満遍なく顔に塗ったら、ほら、もう、私の完成。
「今日もキレイね」
そう言って笑ってみせる私の顔は潤っている。ぺちん、と両手で軽く頬を叩けば、更なる準備が始まった。