第五話 神社にて
一章が短いですね、こちらは…
ここから二章になります。
―――…ピピピピピピピピ
「ん…うぅ……朝か…」
目覚まし時計の音で目が覚める。昨日、あんなことがあったせいか体がダルい。
アラームを止めようと体を動かした時、全身に激痛が走る。
「い゛っだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
なんだこれ!?アレか、筋肉痛!!
思えば昨日、普段なら絶対にしない動きをしまくったな、俺。
「そりゃ……筋肉痛にも…なる……」
ピクピクと痙攣するように俺は暫く動けなかった。
俺を起こしに来たのか、母さんが部屋に入ってきた。
「…どうしたのよ、トウヤ」
「…全身、筋肉痛で、動けない……っ」
「一体昨日何をしたのよ…あとで湿布貼ってあげるから、今日はゆっくりしときなさい。」
「え?でも今日…学校…」
「急に休校になったのよ。連絡網やメールが来てね、一週間は学校休みになるそうよ」
「マジか」
そんなやり取りをした後、湿布を取りに母さんが部屋を出ていく。
実を言うと、昨日の事は話していない。…というか、どう伝えればいいかわからなかった。
ありのままの事を伝えたらいいのか、正直よくわからない。それに、妖魔が殆ど現れないというこのご時世、果たして信じてもらえるのかすら怪しいからだ。
痛む体を引きずる様にしながら、机に置いてあるタッチパネル式の携帯を手にしてベッドに戻る。
画面を開くと、何件かメールが入っている。
一つを開いてみると、凛花からだった。昨日の事についてと、休校について書かれている。
もう一つは湊の物だった。昨日の事や色々心配している様だ。
この兄妹…対照的な内容だな。なんて思いながらそれぞれに返信する。
送信した後、母さんが戻ってきて湿布を貼ってくれた。
湿布の効果が効いてきてから身支度でもするか…なんて考えながら、昨日の事を思い出す。
本当に濃い一日だとしか言いようがなかった。それに、間近で見た妖魔……。思い出しただけで震えだしそうだ。
あの妖魔が暴れた(?)せいでグラウンドはメチャクチャにされたんだろう。休校の原因はそれなんだろうな…きっと。
あとは、侵入された時にどこかを破壊されたとか…そういうのもあるだろうな。
(にしても何で…妖魔なんかが学校に……?)
学校にだってセキュリティとか対策だってあったハズだ。なのに妖魔は現れた。
あの妖魔は余程強いヤツだったからそれらを突破されたのか、それともセキュリティの方に問題があったのかはわからない。
色々考えてみるがやっぱりわからない。筋肉痛は少しだけ楽になった気がする。身支度でもするか……
◆
いつもより遅めの朝食を取りながら、俺はニュースを観ていた。
もしかしたら学校の事がニュースになっているかもしれない。そう思ったからだ。
だが、そんなニュースは流れることはなかった。
何でだ?あれだけの大事があったのに、どうして……?
ふと、報道規制という言葉が頭に浮かぶ。もしかしたら昨日の様な出来事は公には出せないのかもしれない。そんな考えが浮かんだ。
もしそうだとしたら…実は世の中隠し事だらけだな…なんて。…いや、それ以上に……
(知られちゃマズい、とか……?)
…なんか、ヤバいのに関わったのか?俺達は…
何だか急に怖くなってきた。…少しでも、気を紛らわせたい。
「…ちょっと、外の空気でも吸いに散歩してくる。」
そう言って俺は家から出た。
今すぐにでもこの気持ちを掻き消したいから。ただそれだけで頭がいっぱいになっていた。
外へ出て、暫く歩けば街の喧噪が聞こえてきた。車の音、すれ違う人の話し声。
…今日は何故かそれが耳障りに思えた。携帯に入れている音楽すら聞く気にもならない。その場から逃げだすように、宛もなく走り出した。
◆
「はぁ…はぁ……いってて…」
筋肉痛もあってか、そんなに長く走ることは出来なかった。が、喧噪からは遠ざけることは出来た…気がする。
周りを見ると、見覚えのある鳥居が見えた。それに、狛犬の代わりに狐の像がある。
「…確かここは……鈴音の所の神社…」
どうりで静かな訳だ。神社の名前は…確か「明鏡神社」だっけか。
階段を上り、境内に入る。ここの神社は大規模だ。参拝客も多い。
だが、流石に平日というのもあってか、人の姿は殆どなかった。ここで巫女をしている鈴音の姿も見当たらない。
でも今の俺には丁度良かった。それに、この神社はちょくちょく来るから…落ち着く。
「…にしても、今日もデカいなー……」
注連縄の巻かれた御神木を見ながら思わず呟く。いつ見てもこの御神木は立派だなぁ…と思う。それに、この木を見ていると凄く落ち着く。何と言うか、心が浄化されるような気がする。
そういえば、樹齢はどのくらいなんだろうか。この神社は結構昔からあるし……
「五百年くらい、とか?」
「残念。さらに五百年を足した千年越えだ」
「マジか。そんなに長い間あるなんてすげぇな……」
……ん?
今、声がした…よな?しかも俺、会話して…
慌てて辺りを見渡す。遠くに人がいるだけで、俺のそばには誰も見当たらない。
じゃあ一体―――
「こっちだよ、こっち。…あー、なんて言うの?取り敢えず上見ろ!」
「上?」
そんな所に人がいるなんて、馬鹿なことが――――――――――――
「……いた。」
マジでいた。しかも、御神木の所で寝そべっていた。その人と視線が合うと俺に向かってにこやかに手を振ってきた。
「え、ちょ……いやいやいや!?何で御神木の上に!!?」
「ははは、細かいことは気にすんなって!」
「いや細かくないし!つーか罰当たりでしょそれ!!」
俺がそう言えば、その人は面白そうに笑った。いや笑い事じゃないんですが。
「はー…そんなに気になるなら降りるって!」
「降りるって…その高さから!?」
どう考えても怪我するだろう!?…と思っていたが、その人はふわりと俺の前に着地した。
「…え」
「何だ?そんなに驚くことか?」
いや、普通に驚くでしょう!?と叫びたくなったが敢えて堪える。ただ、それが顔に出てしまったのか、その人はクククっと笑った。
…それにしても、何なんだこの人は。
長い金髪をポニーテールのようにまとめ、緑を基調とした和服、緑の飾り石のある注連縄のような留め具のついた白装束を羽織っている。…よく見ると髪の一部が緑色になっている。
なんだろう。この人。……どこか、懐かしい…ような?
(…はじめて会ったのに?)
なんでだろう、と思っていると、吸い込まれそうなくらいに澄んだ蒼い瞳が俺を捉えていた。
「どうかした?」
「ぇ、あ。何でも…」
「ふぅん。……興味深いな」
「…は?」
そう言ってその人はニヤリと笑みを浮かべる。
「そういやお前、なんて言うんだ?」
「え…と、燈夜。」
「トウヤか。…俺は……そうだな、譲葉とでも呼んでくれ」
ところで、と譲葉が続ける。
「トウヤ、君は神様や精霊は信じるかい?」
唐突な質問だった。彼は笑みを浮かべていたが、どこか真剣な表情にも感じる。
けど、そうだな……
「そりゃ、いるんじゃないんですか?」
「何故、そう思うんだい?」
「何故って……妖怪や他の種族とかもいる訳だし、それに」
「それに?」
次の俺の言葉を待つ。その目は鋭く、心の中を見透かしているように感じてしまう。
……言っても、大丈夫なんだろうか。
「妖魔だっていたし……それに、友達が昔…神隠しにあったみたいだから…」
神隠しにあった友達。それは、凛花のことだ。
昔、小学生の時に彼女はこの神社で神隠しにあった。湊曰く、ちょっと目を離した間にいなくなっていたそうだ。だが、一時間後にあっさり見つかった。
それだけなら、凛花の悪ふざけだったんじゃないのかと思っただろう。けど…彼女に変化があった。
右目が、金色に変わっていたのだ。
それまではオッドアイなんかではなく、湊と同じ紫の瞳だった。けれど、確かに変わっていたのだ。病院で検査を受けたが何の変化もない、至って健康そのもの。…他に変わったのは、召喚術をスムーズに行えるようになったこと。これについては神隠しの影響と言われているが…本人が気にしていないため、それ以上追及はやめたらしいが。
…信じ難い話だったが、凛花の目を見て信じるしかなかった。
それは、事実だということを。
「…神隠し、ねぇ……」
「……で、何なんですか?」
「いんや?特に何も」
ズッっとこけそうになる。…聞いてきてそれはないだろう!?
「あはは。にしても、ここはいいねぇ。」
(話がぶっ飛び過ぎ……)
「ずっと見ていても飽きないくらいだ。」
「どんだけ暇人なんですか、それ」
俺がツッコミを入れれば譲葉はニッと笑う。
「…なあトウヤ、これから辛い事があっても、諦めたら駄目だからな」
「え?」
譲葉が静かで優しい口調で言葉を紡ぐ。そして、どこか悲しそうに微笑んだ。
「辛くて、逃げたくなっても逃げるな。逆にそれらを断ち切れ」
「は、え…?意味がわからな」
ぶわっと風が吹き、思わず目を瞑る。次に目を開いた時には、譲葉の姿はなかった。
「……?」
何だったんだ、一体。
「トウヤ?どうしたの、御神木の前でぼーっとして」
「あ、鈴音」
仕事着である巫女服を着た鈴音が、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「なあ、ここの御神木の上で寝そべっている人がいたんだが」
「はぁ!?それ本当なの!?」
見つけたら取っちめてやると鈴音は意気込む。…もう一度、御神木を見上げてみるがそこに彼の姿はなかった。
また風が吹く。
「―――…困ったらまた来いよ。トウヤ」
そんな声が、風と共に聞こえた気がした。
おまけ?
トウヤ「…なんか聞こえたか?」
鈴音「?何も聞こえなかったけど」
トウヤ「マジか。(…あの人幽霊なのか…!?)」
鈴音「…どうしたのよ、血相変えて」
トウヤ「お、お祓い頼めるか!?」
鈴音「は…?いいけど…」
幽霊扱いされる譲葉!果たしてその正体は!?←