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神速に矢と刃は踊る  作者: 天音時雨
第一章 僅かに変わり行く
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第三話 落ちこぼれ


 始業式から数日経ち、授業が本格的に開始される。


 授業の方も今の所は問題ない……多分。


 一応、予習はある程度やっている。だから何となくはわかる。いや、何となくとかは正直あまり良くないんだが…一年の時とかそれで乗り切った。まぁ、一年の時程うまくはいかなくなるだろうからな…もう少しやろうとするべきだろうな。




 とはいえ…俺が最も憂鬱になったのは普通の授業なんかではなくて……――





 ガッ!



 握っていた木刀が弾き飛ばされ、相手は木刀を俺の首に突きつける。


「っ!」


「そこまで!」


 先生の制止の声と共に相手は木刀を下ろした。俺も慌てて立ち、礼をする。


「惜しかったね、トウヤ」


 湊が俺の肩を叩きながら言う。俺はというと、溜め息を吐きながら項垂れていた。


 ――…そう、この「能力学」の授業、これが憂鬱なのだ。


 一年の内申は辛うじて留年を免れるギリギリの成績だった。

 今年も継続して刀剣術を取っているが…やはりうまくいかない。

 そもそも俺が持っている能力は“神速”()()だ。物心がついた時、漸く自分にも能力があるのかと気づいた位で、それまで無自覚だったくらいだ。


 それに普通は自分の元から持つ能力意外にもある程度は習得することが出来るらしい。当然、簡単な事ではないのだが、一年もやっていればある程度は上達していく……ハズだ。



 だが俺はそうはいかなかった。

 


 一年経って漸く、普通なら半年くらいで出来るようになる所が出来たからだ。

 言い訳みたいになるが、決して物覚えが悪い訳ではない。覚えることは出来ても体がうまくついていかなかった。かと言って運動音痴と言う訳でもないし、スポーツとかなら人並みに出来る。


 何と言うか、やろうとすると体に枷が付いているような感じがしてうまく動けないんだ。


 先生にそれを相談してみたが、今までにそんな風になったヤツはいないそうだ。


 最初は合っていないのかと思い、別のを考えてみて拳法や弓、銃などをやってみたが刀剣術程しっくこなかった。


 そういう訳で俺は意地でもこの刀剣術をやるしかなかった。


(いつになったら人並みになるんだろ…俺)


 本当、これだけは切実に思う。


 このままだといつまで経っても落ちこぼれのままだ。精進とかしたいが、上手くいかないのがもどかしい。


 悶々と考えていると、先程まで俺が立っていたグラウンドに設置されている戦闘フィールドから、わっと声があがった。


 何事かと見てみれば人垣が出来ている。隙間から見ようとするが、前の人達の頭が邪魔で出来ない。


 どうしようかと思っていれば、湊に肩を掴まれる。同時に身体が浮き、地面から50センチくらい離れる。

 湊が使ったのは対象者を浮遊させる魔術、《フロート・グラビティ》だろう。お陰でかなり見やすくなった。


「一体誰が……って!?」


 そこに立っていたのは意外過ぎる人物だった。



 まさか……この間始業式の途中でぶっ倒れたあの先輩、七海先輩がいたからだ。


 この間と比べると格段に顔色が良い。今日は大丈夫なのか…。また倒れたりしないよな?


「七海先輩だね。あれ、もしかして…あの噂も……」


「え、何がだ?」


 俺の問いに湊が口を開きかけた時、七海先輩と相手の女子の挨拶の声が響いた。


「それでは、開始ッ!」


 先生の掛け声と共に七海先輩は腰を落とす。相手の女子はジリジリと彼女の様子を見るようにし、なかなか近づこうとしない。


(……いや、違う)


 離れていてもわかるくらい七海先輩の殺気は凄まじい。目付きも鋭いものに変わっていて、この間の様子と比べ物にならない……まるで別人の様だ。

 相手が近づこうとしないのは、多分あの殺気に押されているんだろう。


「……」


 なんというか、この殺気は見る者……いや、この場にいる全員を圧倒させる感じだ。少しでも動いただけで、そのまま膝をついてしまいそうだ。


 その後、一瞬で勝敗はついた。


 七海先輩が動いたと思うと、即座に抜刀して相手の木刀を高く弾き飛ばし、そのまま喉元に突きつけた。


「…っ!」


「そ…そこまで!」


 審判をしていた先生も反応が遅れていた。…無理もないだろう。あんな素早くも美しい一撃はなかなか見れないだろうから。


「――最強の剣士。噂は本当だったんだね。」


「…あれが、いや、あの人が……」


 


 この間の人と同じだと、にわかには信じられない。

 だが、この学園で噂になっている“最強の剣士”というのは、先輩しかいない気がした。


「凄いね…七海先輩。」


「ああ……。同時に学園一病弱っていうのも信じられねぇ。」


 そう言った矢先、フィールドから出て三歩、七海先輩の体が傾き、そのままガクンと膝を着いてしまったのが見えた。



 ……うん、今のがなかったら決まっていたんだろうけどな…。



(とはいえ……羨ましいな。)


 大きな弱点がありながらも、己の能力をちゃんと理解して使いこなせている。…今の俺にはないものだ。


 ()()だけしか使えなくて、落ちこぼれなんて……悔しい。


「…トウヤなら、いつか出きるよ」


「“いつか”って…いつになるんだろうな。」


「………」


 俺のネガティブな発言により、流石の湊も黙り込んでしまった。


 ああもう…本当に情けないな、俺……。



 ◆


 ―――放課後


 どことなく湊といるのが気まずくて、今日は一人で帰ることにした。


 いつもなら、湊と凛花、鈴音とかと一緒に帰るのだが、今は一人になりたかった。


 というか、さっきの時みたいに凄いネガティブなことを言ってしまいそうで……


(本ッ当に情けねぇ……)


 何度目かわからない溜め息を吐き、門から出ようとした時だ。


「あれ……トウヤ君だよね?」


「え?」


 振り返るとそこには七海先輩がいた。先輩は困った様に眉を下げて笑いながらこちらに近づいてきた。


「…先輩、どうかしたんですか?」


「うん、この間のお礼が言いたくて……。ホラ、お見舞いに来てくれたでしょ?だから、ありがとうって…」


「あー…アレは色々気になったので…つい…」


 少し視線を逸らしながら答える。この間のお見舞いは少し興味本意な所もあったから…うん。


 恐る恐る先輩を見ると、特に気にした様子もなく、先程と同じように笑っていた。


「…ごめんね…。私、“体”が弱くて……」


「それでも先輩は凄いじゃないですか。さっきの授業の時とか……」


「あ、見てたの…?」


「見てました。」



 そう言って、また自分がうまく出来ないと言うことを思い出し、下を向く。


「…正直、俺は先輩が羨ましいです。」


「トウヤ君…?」


「何やっても上手くいかないんですよ。能力だって“神速”だけだし、他の技能は辛うじて刀剣術だけ…しかも一年やっても思うように出来ない……」



 またネガティブの沼に沈んでいく。自分でも悲しくなるが、逆にどうしたらいいのかがわからない。


「…どんな感じ、なの?その"思うように出来ない"っていうのは…」


「え?それは…なんか、やろうとする度に体に枷がつけられたみたいな感じで……」


 って、あれ?何で俺はこんなことを先輩に……?

 言った所で何も変わらないだろうに―――――…



「……もしかしたら」


「え?」


 先輩が口を開き、何かを言おうとしたその時だ。
















 どおぉぉぉぉん!!




 と言う轟音がグラウンドから聞こえてきた。


「っな…なんだ今の音!?」


 いかにもヤバそうな音だ。すぐ隣にいた先輩の方を見ると、音のした方へ走っていく後ろ姿が見えた。


「えええ!?せ、先輩なんでそっちに行くんですか!?」



 グラウンドに何が起きたのかわからないと言うのに、先輩は駆けていく。

 俺はこの間みたいに先輩が急に倒れてしまう事があるんじゃないかと思い、慌てて後を追う。



 グラウンドの近くまで来ると、先輩が何かを見上げていた。


 いや、見上げずとも遠くからも一応見えていたが、こう改めて近くで見ると…―――



「化け、物……かよ…!?」



 明らかに昼間の授業中には居なかった大鎌を腕に持つ巨大な蟷螂(カマキリ)の様なソレは校舎を、否、俺達を見下ろしていた。



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