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神速に矢と刃は踊る  作者: 天音時雨
第一章 僅かに変わり行く
3/7

第一話 何の変わりない日常に感謝

始まります!


場面は終業式の日です。


ぼんやりと教室の窓を開け、そこから空を仰ぐ。


…今日も素晴らしい程青い。むしろ憎たらしいくらいだ。


「…燈夜(トウヤ)、大丈夫?」


後ろから(ミナト)の声が聞こえたが…反応する気がしない。というか、どう反応したらいいのかわからない。



左手に持った紙を握りしめながらそう考えていた。


「………また能力学の成績、悪かったの?」


「ぐはぁ!」


が、湊にはあっさりバレてしまい、俺の心に槍がぶっ刺さった気がした。


そのまま窓の縁にだらりと腕を垂らすが、今いる教室が三階であると気づき、慌てて体勢を直し、改めて壁に寄りかかった。


「なんか…忙しないね」


「うるせぇ……」


湊に返した声は自分でも情けない程小さく、頼りなかった。


能力学……この望月学園高校で教えている科目の一つ。

文字通り、能力者が持つ能力を鍛える為、正しく能力を扱う為に学ぶ科目の事だ。


本来は妖魔と戦う為に作られたらしいが…もう何十年も前に妖魔は殆どいなくなったハズだ。


だが、能力を持った人間はまだまだ存在する。

その能力の制御や悪用を防ぐ為にも、この科目は現在も残っている。


…とはいえ、俺が持っているのは神速のみ。


俺は湊の様に魔術特化といった特化型ではない。

剣術特化じゃないが、剣術についてもやってみたが……上手くいかない。


普通なら、特化じゃなくてもある程度は出来るようになるハズなのだが…俺だけその……何故か向上しなかった。


……何故に!?


「えっと…本当に大丈夫?トウヤ…」


思わず頭を抱え、教室の隅に踞っていると心配そうな湊の声が聞こえた。


「……大丈夫…だと思いたい。」


ああ…また情けない声…!

その事に更にヘコむと、湊は苦笑した。


「きっと大丈夫だよ。いつか……必ず出来るようになるさ。」


「…そんな確証、ドコにあるんだよ…」


「何となくわかるんだよ。ボクは……。それに、トウヤはいっぱい努力してる。だから大丈夫。」


「………」


ね?と言うように湊は微笑んだ。

…コイツはたまにこう言う予言めいた事を言うことがある。

当たるか外れるかは…五分五分だが…いつも勇気づけられてきた。


「…まったく…アンタはすげぇよ、湊」


「そうかな…」


「本当、アイツとは大違「トーヤあああああ!」がふっ!?」


背中に激痛が走り、本日二回目の謎の叫び声をあげた。


「トウヤ!?…って凛花!」


「へっへー!突撃大成功なりー!」


「いでぇぇぇ…!」


涙目で痛みにのた打ち回っている俺と対照的に、先程俺の背中に体当たりしてきた少女、凛花(リンカ)がピースしながらポーズを決めていた。


「うん?何これ?」


「あ、それは…」


俺がのた打ち回っていたせいで、今まで握っていた紙――成績表が離れ、凛花がそれを拾いあげた。

って…


「ああああああああ!見んなあああああ!!」


だが時すでに遅し。凛花はしっかりと俺の成績表に目を通していた。


「あ……もう…俺の人生オワタ…」


「トウヤ!気をしっかり!!まだ終わっちゃ駄目だよ!」


何かもうどうでもよくなってきた……

そんな風に思えば俺をガクガクと湊が揺さぶる。何?現実に戻って来いってか?


「もうやだ……」


「茶番は外でやりなさいッ!」


スパァン!といい音と共に頭に痛みが走る。

先程の体当たりよりは軽く、マシだ。ついでに我に返った。


「…俺は一体……」


「たかが成績で一々ヘコむな!」


「す…鈴音(スズネ)!?」


俺の目の前には仁王立ちした白狐の少女、鈴音が立っていた。


彼女の手には…恐らく俺の成績表を筒状に丸めた物があった。

その傍らには茫然とした凛花と、鈴音と俺を交互に見ている湊がいた。


「それと、凛花も謝りなさい。」


「あ…う、ごめん…トウヤ。 」


鈴音に促され、凛花は素直に謝った。


「ああ…いや、いいよ。ははは…」


苦笑しながら返すと鈴音は溜め息を吐く。


「まったく……。っていうか、中等部なのによく来たわね。」


「うん。中等の方はもう終わったからねー」


「だから俺に突撃してきたのか…」


俺がそう言えば凛花は「えへへ…」と頭を掻きながら笑う。…本当、コイツはフリーダムだよな……。


思わず溜め息を吐くと、ほぼ同じタイミングで湊と鈴音も息を吐いた。


「苦労してんな、湊」


「あ…あはは…」


「ちょっとー!それどう言うことー!?」


俺がそう言えば湊は苦笑し、凛花はポカポカと軽く叩いてくる。

…先程やられた背中を集中的に叩くもんだから地味に痛い。

それを見ていた鈴音はまた溜め息を吐き、困ったように笑った。



「…まったく…相変わらずねぇ……」



そんな風に色々騒ぎながら俺達は学園生活を送っていた。


高校一年が終わり、また新たな学年が始まる日から、何かが動き始めようとしているとは知らずに俺達は終業式を終えた。

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