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明日もまた、がんばろうっと…

さて、また微妙に仕事が忙しくなってきました…

このまま今のところにい続けるなら、もう次の選択肢を選ばないと…


どうせなら、自分自身が納得できる選択のもと、働いていきたい、というのはありますからね…

「はあ…なんかすっごく疲れた感じがする…」


涼羽にとって人生初となるアルバイトの初日。

その初日の就業も終わりを迎え…

今は、帰り支度の真っ最中の状態。


先輩の保母さんである珠江に半ば無理やり着せられた、おとなしいデザインの女性ものの衣類に手をかけ…

自分以外誰もいない更衣室の中で衣擦れの音を静かに響かせながら…

ようやく、といった感じでゆっくりと一つずつ、脱いでいっている。


エプロン、ハイネックのセーター、そしてスカートと順に脱いでいき…

そして、本来涼羽の性別には合わないはずの、女性ものの下着。

それらに身を包んでいるだけの姿が、露になる。


「…うわ~…俺、本当に今日ここでずっと、これ着て仕事してたんだ…」


男である自分が、女性ものの下着に身を包んでいることを改めて自覚してしまい…

思わず、顔を赤らめてしまう涼羽。


その華奢で柔らかなラインの身体が締め付けられる感覚が、涼羽にまるで背筋をなぞられるかのような、ぞくっとするような背徳感を与えてくる。


仕事に集中している時は、無意識のうちにその感覚を遮断してしまっていたのだが…

いざ、その集中が切れてしまうと、嫌でもその感覚を自覚させられてしまう。


本当に、いけないことをしてしまっているような気がして…

本当に、自分が変態的なことをしてしまっているような気がして…


それを自覚してしまって、一刻も早くその感覚から解放されたくなってしまい…

そそくさと、背中にあるブラのホックに手をかけ…

やや苦戦しながらも、ホックを外す。


途端に、自分の胸を拘束するその締め付けが消え…

いいようのない解放感を、感じてしまう。


そして、両腕を抜いて、男である自分の胸を覆っていたそのブラを完全に脱いで…

そうするのが当然と言わんばかりに、綺麗に畳んでいる衣類の上に…

今脱いだばかりのブラと、他の衣類と同じように綺麗に畳んで、その上に重ねて置く。


「は~…やっと胸の辺りがすっきりした~…」


普段からゆったりサイズの衣類を好み、自分の身体を締め付けるようなタイトなサイズの服装を好まない涼羽。

そんな涼羽からすれば、基本的にぴっちりと締め付けて、身体の形を整える構造となっている女性ものの下着などは、やはり着けていて心地が悪いのだろう。


そして、最後に自身の下腹部を覆う、女性もののショーツ。

それに手をかけると、生地が傷まないように気をつけながら、その綺麗な脚を通し…

慌てずにゆっくりと、両方の脚から、抜き取っていく。


そして、それも綺麗に畳んで、この日着ていた女性ものの衣類一式の上に重ねて、置いておく。


下半身の方も、ぴっちりとそのヒップラインを包まれる感覚から解放され…

これで、ようやく女装から解放された、という自覚を得られる。


「ふう…」


その解放感が心地よくて、ほっと一息をついてしまう涼羽。

とはいえ、今は何も身に着けていない、生まれたままの姿。


この更衣室は、他の職員も使用するため、あまりグズグズしていると、この姿のまま鉢合わせてしまうこととなる。


どれほど周囲からは、どう見ても極上の童顔な美少女に見えないとしても、あくまで涼羽は男の子。

なので、秋月園長を除いて女性しかいない職員と、着替えのタイミングが重なってしまってはまずい。


そのため、その心地よい解放感を堪能する間も惜しんで、そそくさと着替えていく。


まずは、普段から着ているインナーのトランクスにタンクトップを素早く着る。

スタイルがスタイルなだけに、女の子が男の下着を着ているようにしか見えないが…

それでも、普段通りの男の下着姿に戻ることができた涼羽。


「あ~…やっぱりいつものこれの方が、着てて楽だな~…」


妙な締め付けを感じさせない、ゆったりとした着心地のそれ。

その感覚を堪能しながら、学生の象徴である、男子用の制服に身を包んでいく。


ブラウスの袖にその華奢な腕を通していき…

ひとつずつボタンを留めていく。


そして、その脚線美を覆い隠すかのように、スラックスを履き…

ゆるゆるのサイズのウエストにしっかりと固定するように、ベルトで抑える。


と、そこまでしたところで…

いきなり、背後から、ドアを開く音が響いてくる。


「!!??」

「ん?おやおや…」


一通りの業務を終えて、着替えようと珠江が、更衣室の中に入ってきたのだ。


いきなりの珠江の入室に、あからさまに驚く涼羽に対し…

珠江の方は、『あ?いたんだ』といった感じの、軽い印象。


「い…市川さん…ノックしてくださいよ…」


異性である男子高校生がいる、ということをまるで考慮していない珠江のその態度に、涼羽の方からそれを指摘するかのような、恨みがましさに満ちた声が、思わず漏れてしまう。

その思いが表情にも浮かんでおり、ついつい珠江を睨み付けてしまっている。


しかし、そんな涼羽もその可愛らしさを強調するものとなってしまっており…

まるで怖さを感じないどころか、かえってチャームを振りまいてしまっている状態となっている。


「え?なんでノックする必要があるんだい?」


珠江の方は、どうしてノックする必要があるのか、と、さっぱり分からないといった感じの疑問顔。

どう見ても冗談で言っている風ではなく、本気でそれを言ってしまっている様子。


そんな珠江に、激しく脱力感を覚えてしまう涼羽。


「…て、なんだい。もうほとんど着替え終わっちまってるじゃないか」


さらには、珠江の口からこんな台詞まで飛び出してしまう始末。


その言い分だと、本当に涼羽の着替えが見たかった、というような意味合いになってしまうのだが…


「残念だったね~。もうちょっと早かったら、涼羽ちゃんの着替えが見れたのに」


どうやら本当にそういう意味合いだったということを示す、珠江の台詞。

それも、まるで悪びれることもなくさらっと言ってのけるその態度に…

涼羽も、この日散々言ってのけたこの台詞を、再び音にせざるを得なかった。


「だから…僕、男だっていってるじゃないですか…」


この日、何度言ったか分からない、自分が男であることを強調する言葉。

もうすっかり脱力感が見えてしまっている涼羽。


「……………あ、あ~…………」

「…また、忘れてたんでしょうか?」

「し、仕方ないじゃないか。あんな、どう見ても美少女なのに、ちゃんと女の子の服まで着こなしてたんだったら、誰だって女の子だって思っちまうよ」

「!うう…」


案の定、涼羽が男であることを忘れていた珠江だが…

とはいえ、あそこまで違和感なく、あんな女性もののファッションに身を包んで…

さんざんあの母性的で可愛らしい笑顔を見せていた涼羽が、男の子に見えるはずもなく…

逆に、そのことに対して抗議めいたような口調で返してくる珠江。


そんな珠江の台詞に、逆にショックを受けてしまう涼羽。

やはり元が、自分が男子であるという意識が強すぎるだけに…

珠江の、どう見ても女の子にしか見えない、という台詞に、精神的なダメージを隠せないようだ。


「それに…」

「?それに?」

「今のあんた、男の子の制服に身を包んでいるって言っても…」

「?」

「やっぱりどう見たって、可愛い女の子が男装してるようにしか見えないからね~」

「!!ううう……」


もうすでにいつもの男子の制服に着替えてしまっている涼羽なのだが…

実際、それでも、男装している美少女にしか見えない。


そのことを直球で指摘してくる珠江の台詞に…

さらなる精神的ダメージを受けてしまう涼羽。


もうすっかり恥ずかしさが勝ってしまっている今の涼羽。

真っ赤に熟れたリンゴのような顔のまま、ネクタイを締めてブレザーの袖に両腕を通し…

そそくさとその場を出て行こうと、準備をしていく。


「涼羽ちゃんったら、本当に可愛いね~」

「!!い、市川さん…」


そんな涼羽が可愛くてたまらなかったのか…

涼羽の身体をぎゅうっと抱きしめて、その頭を優しく撫で始める珠江。


もうデレデレという言葉がぴったりと言えるほどに、その頬を緩ませて。


「涼羽ちゃん、また明日からも、よろしくね」

「え…」

「あんたが来てくれたら、本当に頼りになるからさ」

「…」

「また今日みたいに、あの子達のこと、可愛がって、面倒見てあげておくれよ」


この日一日で、どれほどに涼羽がここの園児達に懐かれたのか…

この日一日で、どれほどに涼羽が珠江の負担を減らしてくれていたのか…

この日一日で、どれほどに園児達が幸せいっぱいの笑顔を見せてくれていたのか…


本当に涼羽のことを認め、本当に涼羽のことが可愛いから…

ついつい、こうしてべったりとしてしまう。

ついつい、こんな風に自分の子供のように可愛がりたくなってしまう。


そして、本当に園児達が嬉しそうにべったりと涼羽に懐いてくれる。


だからこそ、涼羽にはここで働いてほしい。

また明日からも、ここに来てほしい、と。


そんな珠江の言葉が、なぜだか本当に嬉しくて…

恥じらいに頬を染めながらも、満面の笑みを浮かべながら…


「…はい!」


しっかりと、明日からもここで働くという意思を表す返事を、返す涼羽なのであった。




――――




「…ふふ…市川さんはちょっと意地悪なところあるけど、ちゃんと働くってことを教えてくれるし…子供達はみ~んな可愛いし…なんか、また明日からやる気になってくるな~」


着替えと帰る準備を終えて、秋月保育園を後にし…

そのまま、まっすぐに自宅の方へと足を進めていく涼羽。


アルバイト初日のことを思い返して、思わず微笑みが浮かんでくるその様子もまた、非常に可愛らしい姿となっている。


少し意地悪なところはあるが、自分のことをいちいち可愛がってくれるし、なにより働くということを、しっかりと教えてくれる珠江。

こんな、今日初めてその場に来たばかりの自分に目いっぱい懐いて、べったりと甘えてくれる園児達。


珠江には、人生の、そして労働者の先輩として、いろいろなことを教えてもらえるし…

園児達には、目いっぱい甘えてもらえて、ものすごく幸せな気持ちにさせてもらえるし…


何気に涼羽にとっては、天職とも言える職業であり、職場と言えるところになっている。


「でも、明日からはちゃんと仕事用の着るもの、用意しとかないと…」


今日が初めてとはいえ、さすがにそういうものの準備もしてこなかったことを反省している涼羽。

それに、自分で用意しておかないと、また珠江に今日のような女性ものの衣類を無理やり着せられそう…

否、絶対に着せられる予感しかないので。


今日はもう、他に着るものもなかったため、その羞恥に懸命に耐えながらもそれを着て…

女装した状態で仕事をしていたのだが…

さすがに明日もそんなことになるのは勘弁願いたい…


それが、涼羽の本音となっている。


まだ初日なので、他にもいろいろと覚えなくてはならないこともいっぱいあるだろう。

もしかしたら、他にも手伝えることがあるかもしれない。


そう思うと、いろんなことを学ばせてもらえるんだろうなあ、と。

涼羽は、思ってしまう。


いったい自分はここでどんなことを新たにできるようになるのか…


それを思うと、なんだかわくわくしてくる。


そんなこんなでいろいろと考えながら歩いているうちに、自宅である高宮家に到着。


「さ、晩御飯の準備からしていかないと」


今からは、普段からのやることである家事に取り組んでいかないと…

そう、気持ちを切り替えて、涼羽は玄関の扉を開け、中に入る。


「ただいま~」


そして、自分の帰宅を知らせるように、声を出し…

開けた玄関の扉を閉めて、しっかりと鍵をかける。


「おかえりなさ~い!」


そして、ちょうど靴を脱いで玄関に上がったところで、涼羽の帰宅を心底嬉しそうに出迎えて来る声。

そして、その声が、結構な勢いで涼羽の方へと近づいてくる。


ぱたぱたと足音を響かせながら、リビングの方から妹、羽月がその姿を現し…

大好きで大好きでたまらない兄、涼羽の身体に飛び込むように抱きついてくる。


そして、その胸に顔を埋めて目いっぱい頬ずりし…

心底、涼羽の帰宅を喜ぶように甘えてくる。


その様は、まるで主人に甘えてくる子犬のようでもあり…

嬉しそうにぴくぴくとさせる耳や、ぱたぱたとさせる尻尾が、本当に見えてきそうな感じになっている。


「えへへ~♪お兄ちゃんが帰ってきた~♪」

「ただいま、羽月」


今日からはアルバイトで、普段よりも帰ってくる時間が遅くなってしまうため…

羽月にとっては、大好きな兄、涼羽とこのように触れ合える時間が大きく減ってしまう。


だからこそなのか、いつもよりも涼羽にべったりと甘えられることが嬉しくてたまらない様子で…

そんな妹が可愛いのか、涼羽の方もとろけるかのような優しさに満ち溢れた笑顔を向けて…

べったりと抱きついてくる妹の身体を優しく抱きしめ…

その頭を、優しく撫で始める。


「お兄ちゃん、だあい好き~♪」


いつもよりも二時間半ほど遅い兄の帰宅。

だが、それだけでも羽月には、大きい時間となってしまっている。


それほどに、妹、羽月が兄、涼羽のことが大好きで大好きでたまらないのだということなのだろう。


もうその時間の分を埋めようとせんがごとくの勢いで…

いつもよりも甘えん坊になって、目いっぱい兄の胸の中で甘えてくる。


ちなみに父である翔羽の方は、この日は仕事が長引いているのか…

まだこの家に帰ってきておらず、姿を見せることはなかった。


もしもう帰ってきているのなら、涼羽の声がした途端に羽月と同じように姿を現して…

羽月と同じように涼羽にべったりと抱きついてきているはずなのだから。


「羽月、お父さんはまだ帰ってないの?」

「うん、まだ帰ってないの」

「そう…今日は仕事長引いてるのかな?」


部長クラスの管理職でありながら、その処理能力もあり…

基本的に、定時で退社することが当たり前となっている翔羽。


なので、このくらいの時間なら、いつもならとっくに帰ってきていてもおかしくないのだ。


たまに遅い時があることは確かにあるのだが…

その時は大抵トラブルが発生した時か、月締めの処理がある時のどちらか。


それも、月に片手で数えられるくらいしかないこともあり…

こんな普通の日にまだ帰ってきてないのは、ちょっと珍しい、とも言える。


翔羽がそんな風に定時帰りを常とする理由は、当然ながら目に入れても痛くないと豪語できる最愛の息子である涼羽と、娘である羽月に早く会いたいから。


ちなみに、こちらの方に栄転してからも、こっちの方の女性社員の憧れの的となっていることもあり…

翔羽に想いを寄せる女性社員が、とにかくアプローチしようとして食事に誘ったりすることも、社内ではもはや日常の光景とまでなってしまっているほど。


しかし、当の翔羽がそういった彼女達のお誘いをことごとく、やんわりと断って、そそくさと自宅に帰ってしまうのも、また日常の光景。


翔羽の異常とも言えるほどの子煩悩ぶりを知っている、心ない男性社員が、女性社員の誘いを受けない理由はそれだということを噂で流したりしているのだが…

当の翔羽本人はそれに関してまるで他人事のように無関心で、しかも否定もしないのだ。

むしろ、そんな噂を流してくれてありがとう、といわんばかりになっているほど。


しかも、翔羽に気のある女性社員達がその噂の真相を確かめようとしてしまい…

子供がいることが事実であることと同時に…

最愛の妻を早くに亡くしており、その妻を今でも想い続けているため、今でも再婚しないこと…

そんな事実があることまでも、彼女達は知ってしまうこととなるのだ。


その事実を知って、そんな翔羽にドン引き、なことになるどころか…

むしろ、それほどまでに一途な翔羽の想いをこちらに向けてみたい…

それだけ一途なら、絶対に浮気なんかしないだろうし、絶対に子供をないがしろになんかしないだろうという…

むしろ、より男として高評価になっていってしまっている状態なのだ。


もう、そんな翔羽に一途に愛されたら…

そう思うだけで、はあ、と溜息が漏れ出てしまうほどに、幸せな気持ちになれる女性社員まで続出しているほど。


つまりは、そんな心ない噂も、かえって翔羽の人気を貶めるどころかより高めてしまう要因となっているのだ。


なので、断られても断られても、いつかは絶対、という想いで…

ひたすらに懸命なアプローチを繰り返す女性社員が、後を絶たないというのが、今の翔羽を取り巻く状況となっている。


また、同じ理由で、男性社員との酒の付き合いも、よほどのことがない限りは参加したりはしない。

自分の部署の人員の歓送迎会、または懇意としている客先とのお付き合い…

もしくは、結びつきの強い上司との相談という名の飲み会の場など…

そういった、出る必要がある場以外は、全て不参加を決め込んでいる。


本当はそういった場も、最愛の子供達を目いっぱい愛する時間が減ってしまうということで…

本人としては全部不参加を決め込んでやろうとさえ思っていたのだが…


そんな翔羽のぽつりと漏れ出てしまった考えを聞いてしまった涼羽が、翔羽に対して――――




――――お父さん、それはお仕事なんだから、ちゃんと出ないとだめだよ――――




――――俺、ちゃんとお仕事してるお父さん、格好よくて好きだよ――――




――――ということを言ったことがある。


さらには、娘である羽月も、兄である涼羽の言葉に続いて――――




――――私も、ちゃ~んとお仕事してるお父さんの方が好き!――――




――――ということを言ったのだ。


最愛の子供達にそんな風に言われては、子供ラブなお父さんがちゃんと仕事をしないわけにはいかず…

断ってもいい場と、そうでない場をしっかりと切り分け…

必要な場に関しては、きちんと参加をするようになったのだ。


もし涼羽と羽月のこの言葉がなかったら、翔羽はここまで仕事で成功を収めていなかったかも知れない。

この時の涼羽と羽月のこの言葉があったからこそ、翔羽は懇意の客先、そして役員含む自社の上司達…

そして、自分の部署の部下達から、絶大な信頼を得ることができた、といっても過言ではないのだ。


とはいえ、既婚者でありながら女性にモテすぎるという点で、他部署の同性の社員達から嫉妬を買うことも多いのだが…

その辺は、翔羽本人としてはまるで気にしている様子がなく…

それが、余計にその嫉妬を増幅させることとなってしまってはいるのだが。


「さ、とにかくご飯にするから、羽月…」

「え~…や~…もっと~」


まだ帰ってこない父、翔羽の分はまた帰ってきてから出そうと思い…

涼羽は、すぐさま夕食の準備に取り掛かろうとする。


そのために、羽月に離れるように促すのだが…

当の羽月が、駄々っ子のようにむずがって、ひたすら涼羽にべったりと甘えて、離してくれない。


ほんの二時間半ほどの差が、羽月にとってはやはり非常に大きな差となってしまっているようだ。


「羽月…」

「お願い、お兄ちゃん…もうちょっと…もうちょっとだけ」

「…………」


ぎゅうっと兄である自分の身体にべったりと抱きつき…

胸の中から上目使いでおねだりをしてくる甘えん坊な妹、羽月。


そんな妹がやはり可愛いのか…


「…じゃあ、もう少しだけ、ね?」

「!ほんと?」

「うん、ほんと」

「えへへ~♪」


少し困ったような、それでいて慈愛に満ちた笑顔を向けて、妹を甘やかす涼羽。

そんな兄が大好きで大好きでたまらない妹、羽月。


結局は、羽月がもっと、もっととべったりと甘えて離してくれなくなってしまい…

仕方なしに、羽月を背中に抱きつかせたまま、夕食の準備をすることとなる涼羽なので、あった。

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