りょうせんせー、だあ~いすき♪
もうすぐ、GWですね。
しかし、給料日前で金欠の時に大型連休を迎えても…
正直、あまりやれることがないかな、と思ってしまう今日この頃です。
「りょうせんせー、らっこ~」
「りょうせんせー、なでなでちて~」
「はいはい、ふふふ…」
この秋月保育園で、ついに始まった涼羽のアルバイトとしての業務。
作業着という名目で渡された、女性ものの衣類と下着に、恥ずかしがりながらもその身を包み…
そして、この保育園の園児達とご対面。
そして、妹である羽月や、偶然出会うこととなった香奈、そして香澄…
そんな庇護欲を誘う子達を相手に培ってきた包容力、そして母性…
それらを十分に駆使して、目いっぱいといった感じで、自分に甘えてきてくれる女児達を…
まさに、とろけるかのような慈愛と母性で包み込んで甘えさせる涼羽。
その場にふんわりと正座して座り込み…
自分を囲むようにべったりと甘えてくる女児達を、順番に甘えさせていく涼羽のその姿。
まさに、『お母さん』という言葉しか浮かんでこない、そんな姿。
「えへへ~♪」
涼羽の胸にべったりと抱きついて、その小さな顔を埋めてぐりぐりと頬ずりまでしている子までいる状態。
平坦でありながら、その柔らかで優しい胸の中でうんと甘えることができてご満悦なのか…
天真爛漫で、幸せそうなにこにこ笑顔が絶えることなく浮かんでくる。
「(は~…こりゃあ、大したもんだね~)」
とてもアルバイト自体が初めてとは思えない、涼羽のその姿。
それも、小さな子供の相手という、ある意味非常に重労働なこの仕事。
にも関わらず、初めての対面から瞬く間に、その場にいた女児達を懐かせ…
さらには、その慈愛と母性で目いっぱい包み込んで、幸せそうに甘やかせる涼羽。
そんな涼羽の姿に、珠江は内心驚きと感心でいっぱいとなっていた。
すでに容姿からして、少し落ち着いた感じのファッションに身を包んだ、中学生くらいの美少女にしか見えないというのに…
さらには、人間として十分な程の、人生の年輪を刻み…
主婦暦、そして、母親暦も長い珠江ですら認めざるを得ないほどの、『お母さん』な姿。
これで男の子だというのだから、本当に神様は罪作りなことをしてくれたもんだ、と。
珠江は、そう思わずにはいられなかった。
「………」
だが、そんな涼羽に目いっぱいべったりと甘えている女児達とは対照的に…
男児達の方は、どういうわけか、おどおどとした感じになってしまい、まるで涼羽に近づこうともしない。
涼羽の母性に満ち溢れた姿に目を奪われていた珠江がようやくそれに気づき…
「?なんだい?あんた達…そんなところで固まって、何してんのさ?」
まるで涼羽を避けているかのような男児達に、疑問符を交えた声を投げかけてみる。
「…べ、べつに…」
「…な、なんでも…」
「…な、ない…」
ところが、そんな珠江の声に、なんでもないとは言葉で言うものの…
どこからどう見てもそうは見えない男児達のその様子。
よく見てみると、心なしか、その幼い丸い頬が、うっすらと赤く染まっている。
それに、どこかもじもじとしており…
まるで、何かを恥ずかしがっているような、そんな仕草になってしまっている。
「?どうしたの?ボク達?…」
そして、そんな男児達にようやく涼羽が気づくこととなり…
その優しげで、可愛らしい声を響かせて、男児達に問いかける。
「!!……」
すると、そんな涼羽の声に過剰なほどの反応を見せる男児達。
全員が全員、シンクロしたかのようにふいっと、涼羽から視線を逸らしてしまう。
「?もしかして、先生のこと…気に入らないのかな?…」
男児達のそんな仕草に、少し寂しげが入り混じった微笑みの表情で声をかける涼羽。
元が童顔ではあるが、ハイレベルな美少女顔の涼羽。
その涼羽のそんな表情は、それを目にした人間なら、まずそれを無碍にすることなどできないであろう…
そんな美しさと可愛らしさがあった。
そんな涼羽の顔を目にしてしまい、ますます男児達がそっぽを向いてしまう。
それも、耳まで真っ赤にしながら。
「?…もしかして、僕、男の子達のお気に召さなかったんでしょうか…」
きょとんとした感じの、それでいて不安げな色も入り混じった表情を浮かべ、涼羽が珠江に問う。
しかし、珠江は男児達のそんな反応の理由に気がついているようで…
まさにいたずらっ子と言わんばかりの、少しばかり意地の悪いにやにやとした笑顔が、その顔に浮かんでいた。
「?市川さん?…」
「大丈夫だよ、涼羽ちゃん」
「?」
「あの子達が、あんたを気に入らない、ってことは、全然ないから」
「?そうなんですか?」
その意地の悪い笑顔を浮かべながら、男児達が涼羽のことを気に入らないことは決してない、と…
そう、自信を持って断言する珠江。
むしろ、この状況を心底楽しんでいるようにさえ見える。
そんな珠江に対し、その表情の意味に気づくこともなく…
まるで何もわからない、というきょとんとした表情になってしまう涼羽。
「?だろ?あんた達?」
「!た、たまえせんせー…」
「!な、なにいって…」
「!ぼ、ぼくたち…」
不意に声を掛けられて、あからさまな動揺を見せてしまう男児達。
そんな反応に、珠江は楽しくて仕方がない、といった表情に。
「ほらほら、そんな風にされたら、涼羽先生だってどうしていいのか分からなくなっちゃうだろ?」
「!!…」
「この先生は、こ~んなにも優しい先生なんだから…」
「………」
「ほら、う~んと甘えてみな」
まるで何かを煽るかのような言い回しの珠江の言葉。
その珠江の言葉に、始めはどうしていいか分からない、といった感じでじっとしていた男児達だったが…
その中で、一番身体の大きい、三歳くらいの…
幼くも意志の強そうな、少し吊り上った目つきの男の子が…
おずおずと、ゆっくりと、涼羽のそばへと近づいていった。
「…あ、あの…」
「なあに?」
「!…」
しどろもどろな感じで、しかしどうにかといった感じで声を出すその男の子。
そんな男の子に対し、ようやく自分に寄ってきてくれたことが嬉しい、と言わんばかりの眩しい笑顔を向ける涼羽。
そんな涼羽の笑顔に、またそっぽを向いてしまう男の子。
「?どうしたの?」
「ほら、そんなことされたら、涼羽先生が困るっていったじゃないか」
とろけるような優しい声を、その男の子の耳に響かせる涼羽。
男の子の反応を見て、一体何してんだい、と言いたげな表情で、その先を促す珠江。
「…あ、あのさ…」
「?うん?」
「…お、おれ…こうた…っていうんだ…」
「!そう…こうたくん、だね?」
「…こ、これから、よろしく…」
涼羽に顔を見られたくない、という感じで俯いたまま…
人見知りなのか、つたない口調で、それでも確実に、自己紹介をし…
簡単な挨拶までできた、こうた、と名乗る男の子。
年の割には、なかなかはっきりとした口調で、自己紹介をしてくれたこうたに対し…
「うん、これからよろしくね。こうたくん」
嬉しさに満ちた、ふんわりと優しい表情で、こうたの短めに切り揃えられた黒髪に包まれた頭を、優しく撫で始める涼羽。
さらには、そんなこうたの身体をふわりと抱きしめ…
その胸の中に引き寄せてしまう。
「!!~~~~」
いきなりそんなことをされてしまったせいか、耳まで真っ赤にしてしまうこうた。
「ふふ、可愛い」
そんなこうたにお構いなしに、優しく頭を撫でながら、ぎゅうっと抱きしめる涼羽。
そんな涼羽の腕の中にいるこうたは、もうどうすることもできないと言わんばかりに固まってしまっている。
「ははは。どうだい?こうた。涼羽先生のぎゅうとなでなでは?」
「!!こ、こんなの…」
「おや、そんなこと言って…ほんとは嬉しくて嬉しくてたまらないんだろ?」
「!!た、たまえせんせー!!」
「ははは」
どう見ても恥ずかしがっているとしか見えないこうたに、珠江のからかいの言葉が飛んでくる。
そんな珠江に対し、ムキになって抵抗の言葉を発してくるこうた。
そして、そんなやりとりの中の珠江の言葉が気になったのか…
「そうなの?こうたくん…先生にこうされるの、嬉しい?」
自分の腕の中で借りてきた猫のように大人しく、じっとしているこうたをじっと見て…
その目もくらむほどの眩い笑顔を向けて優しく問いかける涼羽。
ただ、こうたは周囲の子と比べるとやや精神的な成長が早いのか…
「!べ、べつにうれしくなんか…」
どうも、それを認めてしまうことに激しい抵抗感を感じているようで…
ついつい、否定の言葉を出してしまう。
「そっか…じゃあ、やめるね?ごめんね?こうたくん」
「あ…」
そんなこうたの言葉を素直に受け取った涼羽は、こうたから手を離そうとする。
やはり、相手の嫌なことを無理に続けるのは、涼羽自身嫌だったからだ。
だが、それを許さないかのように、自らの身体から離れようとした涼羽の華奢な腕を、そのままにしようとする動きがあった。
それをしたのは、先程拒否の言葉を出してしまったはずの、こうたであった。
「?こうたくん?」
「…う、うそだから…」
「え?」
「…うれしくないなんて、うそだから…」
「…こうたくん?」
「…だ、だから…」
「?」
「…も、もっと…して…」
「………」
こうたにとっても、余程心地が良かったのだろう。
心底、名残惜しいといった感じで、今では自分の方からそれをせがむように…
その羞恥に染まった顔を見られまいとするかのように、涼羽の胸に顔を埋めて…
その両腕を涼羽の華奢な身体に回して、べったりと抱きついてくる。
しどろもどろになりながらも、自分に甘えてきてくれるこうたに対し…
「…ふふふ…もっとしてあげるね?こうたくん」
余程嬉しかったのか、目いっぱいの優しさをもって、こうたを包み込み…
まさに母親が幼い子供を包み込む、というような姿で、こうたを包み込む涼羽。
「ふふ、可愛い」
優しく、甘く、温かい涼羽の抱擁。
その慈愛に満ちた笑顔を惜しげもなくこうたに向け…
まるで壊れ物を扱うかのように、繊細にこうたを抱きしめ、頭を撫でる。
こんな風に自分に甘えてきてくれる子を包み込むことが出来て、幸せそうな表情の涼羽。
こんな風に自分を優しく包み込んでもらえて、幸せそうな表情のこうた。
「…りょう…せんせー…」
「?なあに?」
「…だい…すき…」
「…ふふ、ありがとう」
途切れ途切れな静かな声で、涼羽にその想いを伝えてくるこうた。
そんなこうたが可愛くて、もっともっと包み込んで優しくしてしまう涼羽。
「ほら、言ったとおりだろ?あんたのことが気に入らない、なんてこと、絶対にないって」
そんな二人のやりとりを見て、いつの間にか穏やかな笑顔になっている珠江が声をかける。
「は、はい…でも…」
「でも?」
「でも…なんで最初の方はあんなに距離を取られていたんでしょうか…」
珠江の言葉が確かなものだったことは、これで分かったのだが…
それでも、最初に距離を取られていたのはなぜなのか…
それが気になって、涼羽の口からその疑問がぽつりと漏れ出してしまう。
「ああ、そんなこと?」
「?そんなこと、なんですか?」
「ああ、そんなこと…簡単なことだよ」
「?そうなんですか?」
「そうだよ。要するに、男の子共は…」
「男の子達は?」
「あんたが綺麗で可愛いから、照れてただけだよ」
「!!そ、そうなんですか?…」
傍から見れば、実に分かりやすいものだったはずなのだが…
肝心の涼羽は、まるでそのことに気がついていなかった。
だからこそ、珠江の『あんたが綺麗で可愛い』という言葉に…
その表情を歪めてしまうこととなった。
「当たり前じゃないか。あんたがどれだけ可愛らしい美少女な容姿してるのか、気づいてないのはあんただけだよ、全く」
「で、でも…」
「ほら、見てみなよ。こうたなんか、あんたにそんな風にされて、すっごく幸せそうだしさ」
「!!うう…」
珠江の言葉は、涼羽が見た目通りの美少女なら、全てが褒め言葉として成立していたかも知れない。
でも、こんな容姿でも、涼羽は男なのだ。
周囲からすれば、どれほど『どの口が男だと言ってるんだ!!』となってしまうような容姿で…
どれほど、性別を間違えて生まれてきてしまったとしか思えない、となってしまうような母性の持ち主だろうとも…
高宮 涼羽は、今年で十八歳になる、高校三年生の男の子なのだ。
そんな涼羽からすれば、珠江の言葉は、男としての自分を否定されるものとなってしまう。
状況に流されて、こんな風に女性ものの衣類に身を包んでいるとはいえ…
今日初めて会ったばかりの園児達が、これほどまでに簡単に懐いてしまうほどの母性と慈愛があるとはいえ…
やはり、今の状態で男としてバレていないことは安心であるものの…
反面、少しも男として見られない、ということは非常に不本意で仕方がない。
そんな、複雑な心境となってしまう。
「…りょうせんせー…」
「…ぼくのことも、ぎゅってして?」
「…ぼくのことも、なでなでして?」
そんな心境に陥っている涼羽の元へ…
これまで、あまりに綺麗で可愛い女の子な容姿の涼羽に照れが勝ってしまっていた他の男児達が…
こうたがあまりにも幸せそうに抱きしめられているのを見て、羨ましくなったのか…
ぞろぞろと、涼羽のそばへと近づいてきて…
まるで、実の母親に求めるかのように、今こうたにしていることを求め始めたのだ。
「………」
そんな男児達を見て、複雑な表情をしていた涼羽の顔に、またしても慈愛と母性に満ちた笑顔が浮かんでくる。
「…うん。い~っぱいしてあげるね」
自分のそばにいる子供達一人ひとりを優しい眼差しで見つめ…
一人ひとり、優しく包み込んでいく涼羽の姿。
「は~…結局初日でみんなに懐かれちまってるね。あの子」
そんな涼羽を見て、改めて珠江は思う。
――――この子は、本当にここになくてはならない人になるね――――
と。
そして、今となっては自分がこの子を目いっぱい可愛がってあげたくなる。
そんな想いまで、膨れ上がってきていた。
――――
「…ふ、ふぎゃあ、ふぎゃあ」
涼羽と園児達の初めてのご対面も無事終わり…
ひとしきり落ち着いたところに、不意に聞こえる泣き声。
それを耳にした涼羽が、すぐさま、その声のところへと近づいていく。
まだ生まれて間もない、一歳にも満たない赤ん坊。
その赤ん坊のところまで来ると、優しく危なげのない手つきで、赤ん坊を抱きかかえ…
「お~、よしよし。泣かないで~」
その優しげな笑顔を惜しげもなくその赤ん坊に向け、ひたすらにあやし始める。
赤ん坊にとって、非常に寝心地のいいであろうリズムで、軽く上下に揺らしながら。
そのゆりかごのように、赤ん坊にとって心地のいいリズムで懸命にあやし続ける涼羽。
それを、面倒だと思うどころか、とても幸せそうな表情で、ひたすらにあやし続ける。
「ふふ、もうすぐお母さんが来るからね~」
優しく、温かな涼羽の懐に抱かれて、しばらくすると…
まるで、それまで激しく泣いていたのが嘘のようにおさまり…
「きゃっ、きゃっ」
本当に嬉しそうな笑顔と笑い声まで飛び出し、その小さな可愛らしい手で、まるで涼羽を捕まえるかのように、涼羽の衣服を掴んでくる。
「ふふ、可愛い可愛い」
「きゃ、きゃ」
そんな風にご機嫌な赤ん坊を見て、涼羽の顔にもより一層の幸せそうな笑顔が浮かんでくる。
「わ~、すっご~い」
「このこ、なきだちたらぜ~んぜんなきやまないのに~」
「りょうせんせー、すご~い」
涼羽があやして泣き止んだこの赤ん坊を見て、年長の方の女児達が驚きの目で涼羽を見る。
実際、この赤ん坊は一度泣き出すとあやすのに非常に労力がいるらしく…
ここでのベテランである珠江ですら、なかなかに骨を折っていたほどなのだ。
「そうなの?」
「うん」
「たまえせんせーも、あやすのたいへんそうにしてたの」
「りょうせんせーだと、すぐになきやんじゃった」
もう大半の園児達は涼羽にべったりとしてしまっており…
こんな風に、涼羽のことを追いかけては、べったりとくっついてくる。
そんな感じに、なってしまっているのだ。
おかげで、涼羽がここにアルバイトに来て初日であるにも関わらず…
珠江の負担は、珠江の予想を遥かに上回る激減振りを見せていた。
「(あ~、もうほんと涼羽ちゃんさまさまだね~、こりゃあ…)」
今日は秋月園長がいないこともあり、ましてや右も左も分からない新人アルバイトを迎えることもあって…
相当な負担を覚悟していた珠江であったが…
蓋を開けてみれば、もう最初の段階で大半の園児が涼羽に懐いてしまい…
しかも、こんな手間のかかる赤ん坊相手でも、こうしてすんなりとあやしてしまう始末。
負担が増えるどころか、逆に激減してしまっているのだから…
「(園長先生、あんた…本当にすごい人材、見つけてきたね~)」
涼羽はまだ在学中の高校生であるため、勤務は放課後こちらに来てからとなるのだが…
その短時間の間でも、目に見えて分かるほどの負担の軽減が実感できるのだ。
これほどの人材を見つけてきてくれた秋月園長の人を見る目の凄さを、改めて再認識することのできた珠江。
そして、そうしてここにきた新人アルバイトの凄さを、今まさに実感している珠江。
そして、ここで預かる子供達と嬉しそうに仲良く触れ合い…
優しく、温かく包み込む涼羽が本当に綺麗で、可愛らしく見えてしまい…
そんな涼羽を、自分でももっと可愛がってあげたいと、心底思ってしまう珠江なのであった。