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山の中だけど、建物自体はすごく綺麗…

ずいぶん間が空いてしまいました…

お待たせして申し訳ございません…

「お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんだもん~♪」

「羽月ったら、ほんとに甘えん坊さんなんだから…」


夕食を終えてサービスエリアを出た高宮家の面々。

父、翔羽が目的地に向けて車を運転している最中、後部座席で羽月が涼羽に甘えるようにべったりと抱きついて離れず、兄の胸の中でただただ、幸せをかみ締めている。


そんな妹、羽月のことを優しく抱きしめ、頭を撫でて甘やかしている涼羽。

口ではやれやれ、といった感じの言葉を吐き出しているのだが、その表情は本当に幸せそうで嬉しそうで、妹が自分に甘えてきてくれるのが嬉しくてたまらない、といった様子。


サービスエリアで、他所の知らない幼子が自分だけの兄を独り占めするかのようにべったりと抱きついていたのが相当お気に召さなかったようで、その幼子の家族と別れてすぐにこの兄は自分だけのものだとアピールせんがごとく、涼羽にべったりと抱きついて離れなくなってしまっていた。


それも、もはやいつも通りの光景であり、まさに日常茶飯事と言えることであるので、涼羽も今となってはそれほど慌てることもなく、むしろ本当に今は亡き母、水月の代わりにそうするかのように羽月のことを優しく抱きしめ、泣き出した我が子をあやすかのように包み込んで甘えさせてしまうのも、またいつも通りの光景となっていた。


羽月が幼げでありながら、非常に容姿の整った美少女であるだけでも、人の目を惹いてしまうのだが、それと合わせて、兄である涼羽が清楚でお淑やかの印象の、童顔で非常に容姿の整った美少女な容姿をしていることが、二人のこんな触れ合いを目にした人の頬を思わず緩ませてしまう。


それは、父、翔羽ももちろん例外ではなく、運転しながらもバックミラーでちらちらと最愛の我が子達の仲睦まじい触れ合いにその端正な造りの顔をだらしなく緩ませてしまっている。


「お兄ちゃん!」

「なあに?羽月?」

「お兄ちゃんは、わたしのこと好き?」

「うん、大好きだよ」

「嬉しい!でも、だったら他の子よりもわたしのこと、も~っとぎゅ~ってして欲しいの!」

「え?だっていつもこんな風にぎゅうって、してるよ?」

「だめ!お兄ちゃんにこうされるのは、わたしだけなの!」

「え~…」

「お兄ちゃんのこと、だあい好きなんだもん!お兄ちゃんが、わたしより他の子のことぎゅ~ってしてるのなんて、だめなの!」

「…羽月は、そんなに俺のこと好きなの?」

「だあい好き!お兄ちゃんのこと、この世界で一番好き!愛してるもん!」

「…なんで、そんなに俺のこと好きなの?」

「だって、いつも優しいし、いつもお料理とかお洗濯とかもしてくれるし、わたしが寂しいときとかもぎゅ~ってしてくれるし…」

「…そ、そうなの…」

「それに、す~っごく可愛くて、めっちゃくちゃに可愛がりたくなっちゃうもん」

「…そ、それはないから…」

「そうなの!こ~んなに可愛いから、誰だってお兄ちゃんのこと可愛がりたくなっちゃうし、こ~んなにお母さんみたいで、お姉ちゃんみたいだから、誰だって甘えたくなっちゃうもん!」

「も、もう言わないで…」


自分の胸の中から、自分の顔を覗き込むような上目使いで甘えながら、その思いをそのまま言葉にしてくる羽月を、涼羽は最初は穏やかに包み込んでいたが、途中から出される妹の大好きアピール、兄が可愛すぎるという言葉に、思わず顔を赤らめて恥ずかしがってしまう。


「あ~!お兄ちゃんの恥ずかしがってる顔、すっごく可愛い!もっと見せて!」

「だ、だめ…見ないで…恥ずかしい…」

「や!こんなに可愛いんだから、もっと見せて!」

「み、見ないで…恥ずかしいから…」


兄のそんな恥ずかしがっている顔があまりにも可愛すぎて、羽月は涼羽の胸の中からじっと食い入るようにその顔を見つめてくる。

恥ずかしがりやの涼羽が、今の顔をじっと見つめられることに耐えられるはずもなく、懸命に妹の視線から逃れようと顔を逸らすのだが、そうはさせないと言わんばかりに羽月の両手が、涼羽の顔を捕まえて自分の方へと向けようとする。

恥ずかしがっていやいやをする涼羽がたまらなく可愛いのか、羽月はますます涼羽を恥ずかしがらせようとして、無理やり涼羽の顔を自分の方へと向けさせる。


「もお~!お兄ちゃんほんとに可愛すぎ!」

「そ、そんなこと…!んっ、んんっ!」


可愛くて可愛くてたまらない兄、涼羽の顔を見てるともう我慢ができなくなってしまったのか、羽月は涼羽の唇に自分の唇を重ねてしまう。

年頃の兄妹であるにも関わらず、このようなことを日常茶飯事のように行なわれていることも、この高宮兄妹の特徴。

普通なら、その行き過ぎていると思われるであろう関係に、周囲が危機感を覚えても不思議ではないのだが…

兄妹の父親である翔羽が、そのことにいつまで経っても危機感を覚えず、それどころか二人の年齢の割に幼く見られがちなその容姿もあって、本当に微笑ましい光景だという感覚になってしまっている。


その翔羽と同じように、周囲の人間も涼羽と羽月の良すぎるくらいの仲睦まじさを肯定的に受け入れてしまっている。

特にご近所の人達は、そのやりとりの可愛らしさが見たくて、もっとやって欲しいとまで思ってしまっている。


「あ~…ほんとにうちの子達は天使のように可愛いなあ…」


もう暗くなっている、夜の空間をひたすら、目的地に向けて車を走らせている翔羽だが、その最中でしっかりと涼羽と羽月の仲睦まじく可愛らしいやりとりをちらちらと見ている。

それを見ているだけで、仕事の疲れなどが吹き飛んでしまいそうなほどの幸福感を感じてしまう。


人生初の親子水入らずの旅行を目一杯楽しむべく、翔羽は後部座席にいる我が子達のやりとりを楽しみながら、車を走らせていくので、あった。




――――




「さあ、着いたぞ~」


高速道路を降りてからは、まさに集落と言えるようなのどかで建造物の少ない、田んぼに囲まれた風景を眺めながら走っていた高宮家。

そんな光景に涼羽はその目を輝かせて、楽しそうに眺めていた。

そんな涼羽が可愛くて、ついつい羽月も外の景色を見るのに便乗していた。


そうして、舗装がされている山道をさらにしばらく走っていき…


出発から約四時間と少し。

ようやく、一家は今回の旅行の目的地である、温泉旅館に到着したのであった。


「わ~…」

「山の中だけど、建物自体はすごく綺麗…」


生い茂った木々に囲まれた中で、その建物を建てるために拓かれた敷地内。

生い茂った木が、天然の傘の役割を果たすかのように建物の上を覆っている。

そして、まるで魔女が住処とするような一本の大きな木が、建物のすぐそばに、その周りの木々よりも一際大きく生い茂っている。


そのすぐ裏手に、濁りなどない透き通った水が流れる小川があり、川幅も深さもほどほどで、子供が夏の水遊びをするには楽しめるものとなっている。

底が見えるほどの清流であるため、川魚も泳いでおり、釣りや魚獲りを楽しむこともできる。


その周りが、その自然を損なわない程度に整地されており、自然に覆われていながらも決して美観を損なわない、絶妙のバランスを生み出している。

建物そのものも、コンクリートで建造された、近代的なホテルというものではなく、山中のキャンプ地もしくは避暑地の別荘として見る、木造のログハウスと言えるものである。

都会で見るようなホテルと同じ収容人数はないものの、数世帯の家族がその自然の中で憩いを感じることができるほどの大きさにはなっている。


樹齢が四桁の大台に乗っていそうなほどの神木と言うような木のそばにある、自然に調和した木造デザインのログハウス。

その光景は、ある種剣と魔法のファンタジー世界に迷い込んだかのような雰囲気すら、感じさせる。


人工物よりも自然物を好む傾向にある涼羽が、その光景を見て感嘆を覚えるのも、ごく自然のことだといえる。


「お父さん、こんな綺麗で静かなところ、よく知ってたね?」

「お父さん、すご~い!」

「ははは、いいところだろ?」

「うん、空気も綺麗で、小川の水が流れる音も聞いていて心地がよくて…それに、あの大きな木がすごく神秘的で、なんだか違う世界に迷い込んじゃったみたい」

「そうだな、普段こういう自然がいっぱいのところに行くことがないから、余計に新鮮でいい気分になれるよ」

「でも、あんなにも直前で決めた旅行なのに、よく予約が取れたね?」

「ああ…実はここ、専務が所有してる別荘なんだよ」

「!ええ?幸助おじいちゃんの?」

「ああ、そうなんだよ」


こんな明らかに穴場を言えるところであり、しかも予約を取るにもかなり直前な日程となっていたため、どうやってここの予約を取ることができたのか気になり、その疑問をそのまま、父である翔羽に言葉としてぶつける涼羽。


その涼羽の疑問に対する返答として発せられた翔羽の言葉は、このログハウスが実は、自身が勤める会社の専務である、藤堂 幸助が所有するものだという事実。


実は幸助も、人工物よりも自然物を好む、かなりのアウトドア派である人物。

その趣味のために、全国の山中に好んで向かい、その中の光景を楽しんでいる。


そうして見つけていった中でも、見た瞬間に心を奪われた、と言っても過言ではないほどに気に入ってしまったこの場所。


この場所に、自分専用の別荘を建てたい。


そんな思いが芽生えた幸助の行動は非常に早く、自身が持つ財産の大半をつぎ込んで自身がその光景を目にした時に浮かび上がったイメージを明確に設計として起こし、それを専門家に依頼してより詳細な形にしていくと、そうして出来上がった設計を元にこのログハウスを建てていった。


それも、実際の建築作業に幸助自らも加わって。


その時の幸助は、建築の作業に取り掛かった時期が夏の暑い時期だったこともあり、かなり過酷な作業となっていたのだが、疲れた様子など微塵も見せることなどなく、逆に終始楽しくて楽しくてたまらない、という表情のままだったという。


木造の外観であるとはいえ、基礎そのものはしっかりとしたものとなっている。

このログハウスを建てた場所からやや離れたところに、大きめの滝があることも幸助は事前に自分の目で確認しており、その滝の流れを利用した自家発電機の構築、設置まで行なっている。


この山そのものを、幸助は自身の所有地として買い取っているため、そのようなことも可能となったのだ。

山そのものを買い取った理由としては、この光景がすぐ見える場所に自身の所有する家を建てたい、そこに住みたい、というのが第一だが、それと同時にこの自然を護りたい、というのも強くあったから。


この別荘ができてから、幸助は自身が心から気を許し、気に入ったもののみここへ招待するようにしている。

その中には、当然あの柊 誠一も加わっている。

そして、自身が役員として勤める会社で、押しも押されぬエースとして、獅子奮迅の働きを見せてくれる、幸助が心から信頼している翔羽も、当然のようにここへの来訪を許されることとなった。

さらには、その翔羽と和解のきっかけを作ってくれた張本人であり、その容姿、そして能力を駆使して父、翔羽と同じように色々な面で自分を助けてくれる涼羽…

その幼げで可愛らしい容姿と性格で、涼羽と同様に本当に孫として可愛がりたくなってしまう羽月も、幸助の最も大事なこの場所に迎え入れるに相応しい存在だと思われることと、なった。


ゆえに、実際には旅館でもペンションでもなく、個人所有の別荘であり、秘匿の場としているため、公の情報でこの場所のことが出ていることもなく、ここに招待した人間にはこの場所のことを決して、外部に漏らさないように口止めもしている。


とはいえ、今のところ幸助がここへの来訪を許すほどに心を許しているのは、誠一と翔羽、そして涼羽と羽月だけなのだが。


ただ、常に自分がここにいられるわけではない、ということもあり、実際にはこの別荘の管理、そして非常に稀ではあるが、来訪者へのもてなしをまかせる人間を個人で雇用しており、今回も高宮親子をもてなすために、ログハウスの方にすでに滞在している状態だ。


「わ~…幸助おじいちゃんって、すご~い…」

「ほんと、すごいね~…」


そんな幸助の話を、翔羽から伝えられた涼羽と羽月は、目を輝かせて自分が何気なく接している人間が本当にすごい人物なんだと、感動している。


そして、そんな秘密で、大事な場所に自分達を招待してくれた幸助に感謝の念を抱きながら、涼羽、羽月、翔羽の三人は、目の前の神秘的な雰囲気をかもし出しているログハウスに入ろうと、歩を進めるので、あった。

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