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僕の姫は、勘もいいんだねえ…ますます素敵だなあ…

さて、涼羽がストーカーさんにロックオンされるお話となってます。

男のストーカーに狙われる男の娘…


どんな化学反応が起こることやら(笑)

「えへへ~♪」

「羽月、何がそんなに楽しいの?」

「お兄ちゃんとデートするのが!」

「そ、そう…でも、お兄ちゃんとデートなんて、普通はない…よね?」

「?何言ってるの?お兄ちゃんとデートするのなんて、当たり前のことなのに」

「…当たり前なんだ…そうなんだ…」


日曜の朝方。

澄み渡るように美しい青空で、まさに外出日和となっている。


そんな青空の下で、兄妹二人はいまだ人通りのない静かな町中を歩いていく。

兄である少年は、妹である少女が非常に嬉しそうで楽しそうなのを見て、優しげな笑顔を浮かべながら。

妹である少女は、兄である少年とデートできていることにこれ以上ない喜びと楽しさを覚えながら。


妹である羽月が、兄である自分とデートすることが楽しいと言い切るその姿に、涼羽はまるで自分が間違っているのだろうかと思いながら、世の中の普通を羽月に言ってみるものの…

当の羽月には、そんな普通など、あるわけないのにと言わんばかりに、きょとんとした表情で逆に兄妹でデートするのは当たり前のことだと、言い切ってしまう。


そんな妹の姿と言葉に、涼羽は本当に自分の知っている常識が間違っているのかと思ってしまい、なんだか何も言えない、そんな状態になってしまう。


「?ヘンなお兄ちゃん」


そんな兄、涼羽を見て、羽月は兄がおかしくなってしまったのかと言わんばかりの言葉を漏らしてしまうものの、その兄と二人きりで寄り添いながらデートできていることに、まるでこれ以上ないほどの、天から与えられたかのような幸せをかみ締めながら、またその幼げな美少女顔に嬉しそうで無邪気な笑顔を浮かべて、涼羽の右腕をしっかりと抱きしめて離さないようにしながら、ただただ目的もなく、ぱたぱたとその足を動かしながら、閑散とした町中を歩いていく。


そんな羽月に引っ張られるかのように、涼羽も町中を歩いていく。


「…?ん?…」


だが、またしても背後に何かを感じたのか、涼羽はその足を止めて自身の背後に視線を向ける。


「…なんだろう…」


先ほどと違う光景が、その視界に映りこんでいくが、やはり自分が感じた視線のようなものの元となる姿は、影も形も見当たらない。

だが、先ほど、背後に何かを感じた場所からはそこそこ離れ、違った光景になっているのにも関わらず、先ほど感じた視線と同じものを感じてしまい、言いようのない不審さすら感じてしまう。


「?お兄ちゃん?」


明らかに背後に何かを感じて振り返っている兄、涼羽の様子を見て、羽月は少し心配そうな声をあげながら兄の顔を覗き込むように見上げる。

先ほども同じように背後を気にしていたため、何かよくないことでもあるのだろうかと、さすがに羽月の心に、まるで澄んだ水に黒い墨をたらしたかのように、不安が広がっていく。


「あ、な、なんでもないよ、羽月」

「ほんと?ほんとに?」

「うん、ほんと」

「…なら、いいけど」


自分にべったりと抱きついたまま、不安げな表情を浮かべてしまっている妹に、涼羽は慌てて取り繕うかのように何もないことを強調する。

だが、以前も自分の知らないところで、志郎と殴り合って一歩間違えればその顔に一生残ってしまうかのような大怪我をしてしまっていることもあり、また何かを隠しているのかと羽月は勘ぐるかのように、涼羽に確認の問いかけをしてしまう。


そんな妹をなだめるかのように、涼羽はあくまで何もないことを強調するので、羽月もさすがにそれ以上は追及することができず、渋々納得する。


「(…なんだろう…なんか、俺をじっと見ているような感じの視線…でも、悪い感じかと言われれば、そうじゃないような…なんか、なんとも言えない感じの…)」


誰もいないはずの背後から感じてしまう視線に、涼羽は思わず考え込んでしまう。

その視線が、明らかに自分に向いていることは分かるのだが、その視線に悪意らしきものを感じることはなく、正直何とも言えないそれに、妙な気持ち悪さを覚えてしまう。


しかし、そばにいる羽月を、自分の確証のない余計な考えで、変に心配をさせたくないため、表面上は自分に寄り添ってくる妹に優しい笑顔を浮かべながら、その足を再び動かし始めるのだった。




――――




「ふう…危なかったあ~…」


その肥え太り、動くことに向かないであろう身体を無理に動かし、かろうじて自分を覆い隠すことに成功したストーカー男。

ほとんど物陰のない通路を、できるだけ目立たないようにギリギリまで距離を取り、隅の方を歩いていたのだが、突然涼羽が足を止め、自分のいる背後に振り返ろうとしているのを見て、大慌てでたまたま開いていた住宅の塀の門に入り込んで、身を隠すことができたのだ。


もちろん、それまでの仲睦まじく歩いていく兄妹の後姿も、しっかりとズームを駆使して、自身のスマホに動画として記録している。


だが、先ほども自分の方に振り向いてきたこともあり、これほど的確に、しかも二度も自分の方に振り返ってくる涼羽の勘のよさにさすがに驚きを隠せない状態ではあるのだが。

しかも、二度目は一度目よりもさらに距離を置いているにも関わらずなので、なおさらと言えるだろう。


脂でてかった肌に冷や汗を浮かべながら、どうにか一息つくストーカー男。


「僕の姫は、勘もいいんだねえ…ますます素敵だなあ…」


だが、間一髪で涼羽にストーキングしていることがバレてしまうという危機に直面したにも関わらず、自分が追い掛け回している存在のスペックの高さにうっとりとした表情を浮かべてしまい、ますます涼羽に対する、信仰心と言えるような愛情が膨れ上がっていってしまっている。


顔の見えない後ろ姿であるにも関わらず、小さな画面の中で妹である羽月と寄り添って歩いていく涼羽を見て、ますますその表情が幸福感に満ち溢れたものとなっていく。


それが、他の人が見れば勢いで通報してしまうかのような醜悪なものとなってしまっているのが非常に残念なところなのだが。


「おっといけないいけない…この世に舞い降りてきた、僕だけの女神を見守っていかないと」


そろっと、先を歩いていく涼羽がこちらを見ていないことを確認し、ストーキングを再開するストーカー男。

まるでそうすることが、表彰までされるであろう崇高で、使命感に満ち溢れたものであるかのように、間違いなどとはかけらも思うことなく、そのねっとりとした、それでいて純粋な思いのこもった視線を、先を歩く涼羽の後ろ姿に再び向け、ロックオンするので、あった。




――――




「羽月…今日はどこにいくの?」

「えへへ♪お兄ちゃんと駅前のおしゃれなところでデート♪」

「…駅前まで行くんだ…」

「お兄ちゃんはわたしだけのお兄ちゃんなんだもん。だから、お兄ちゃんはわたしが独り占めしちゃうんだから♪」

「…はは…お手柔らかにね」


しばらく閑散とした町中を歩いていくと、この町の最寄り駅につながる国道までたどり着いた涼羽と羽月の二人。

兄である涼羽のことを妹である自分だけが独り占めできていることに、天に昇っていけるかのような幸福感を覚えている羽月。

そんな羽月の嬉しそうな表情と言葉に、涼羽は少し困ったような表情を一瞬見せるものの、すぐに優しげな笑顔を浮かべる。


基本的に自然物を好む涼羽は、建造物や人が多いところを好まないため、駅前にまで出かけることはほぼない状態となっている。

加えて、普段から家事は全て取り組んでいるし、秋月保育園でのアルバイトにしても、メイン業務となる園児の保育のみならず、給食の仕込みや事務室のPC業務の改善にと、とても一介のアルバイトとは思えないほどの働きっぷりを見せており、その多忙さは美鈴含む他のクラスメイトが話に聞いただけで自分には無理だと思ってしまうほどとなっている。

そのため、そもそも駅前まで出る時間を作れないという、根本的な問題があるし、涼羽本人がファッション含め、世の中の流行に対しても無頓着なため、わざわざ自分の好まない駅前という場所にまで行こうという気にならないという、また根本的な問題があるためなのである。


それだけでなく、最近は父、翔羽の会社の役員である幸介や、キャンペーンモデルをしたことのある会社の社長である誠一からちょくちょくと連絡をもらうことがある。

その連絡は、ただただ涼羽の声を聞きたいというだけの、祖父バカ的なものから、ちょっとしたスポット的な仕事をお願いしたいという、業務的なものまで様々となっている。

それゆえに、もともと同年代の人間が驚くほどに多忙なのが、さらに多忙になっていっている。


だが、当の涼羽はそんな状況に対しても非常に前向きで、しかも父譲りであろうものを、多忙な日々を過ごすことで磨き上げ続けている高い処理能力を駆使して、山のように積み上げられていく課題をまるでゲームを楽しむかのように一つ一つ、確実にこなしていく。

そうすることで、今でも非常に高いその処理能力が、ますます磨き上げられていっている。

そんな日々にうんざりするどころか、逆に自分が一つ、また一つ向上していくことを実感してしまい、非常に前向きに、心底楽しんで取り組んでいる状態だ。


この日普通に妹である羽月とのデートに付き合わされたりしているところや、前日に美鈴の家にお邪魔したりできていることから見ても、涼羽がいかにその日々山積していく課題をきちんと処理できているかが分かると言える。


「お兄ちゃん、こんなに可愛いのにファッションが残念すぎるもん。だから、今日はおしゃれするために、服を見に行こうよ」

「…俺、そんなに残念な服装、してる?」

「うん。それでもすっごく可愛いのがお兄ちゃんなんだけど、どうせなら思いっきりおしゃれしてほしいの」

「あの…俺男だし、可愛いなんてこと…」

「もお!お兄ちゃんが可愛いのなんて、普段からいろんな人に好かれて、可愛がられたりしてるのですぐに分かるじゃない!」

「そ、そんなこと…」

「あるの!だから、そんな可愛すぎるお兄ちゃんをおしゃれさせたら、どんなに可愛くなるのか見てみたいもん」


秋月保育園でのアルバイトに加え、例のモデルの報酬も、一介の高校生には法外と言えるほどの金額が入ってきている涼羽。

それでも、社長である誠一は、現在の社の売上げから考えれば少なすぎると断言してしまっているのだが。


加えて、その後も幸介や誠一からの独断でスポット的な仕事を任されては、一介の高校生とは思えないほどのそのスペックで、二人の期待を上回るほどのクオリティを常に意図せず見せ付けることとなっている。

そして、それによる報酬もかなりの額が入っており、急遽アルバイトの給金やこういった請負仕事の報酬を収め、管理しておくための口座を作ったほどなのだ。

その額は、最初涼羽が子供の小遣い管理のために作りにきたと思い、愛想もへったくれもない対応をしていた銀行の行員が、急に掌を返すかのようにニコニコとゴマをするかのような対応になってしまったほど。


ここまでのトータルの貯蓄額であるとはいえ、すでに一介の高校生が持つには高額すぎる、と言えるほどの金額になっている。

しかも、当の涼羽がもらった報酬や給金を使うことがあまりなく、自分で使う時はせいぜい自分の興味分野の専門書籍を買う時や、たまにPCの周辺機器を追加する時に使われるくらいのもので、それも頻度で言えばごくまれ、という感じ。

それ以外では、ただただ父、翔羽や妹、羽月のために何かを買ってあげる時に使うのがほとんどで、それも金額で言えば、自分で使うより多いというレベルで、そこまでのものではない。


つまり、入ってくる金額に対して、出て行く金額が圧倒的に少ないため、その貯蓄額は増えていく一方となってしまっているのだ。


そんな事情もあり、羽月は今となっては兄に甘えさせてもらうのみならず、いろいろ物入りの時に買ってもらったりするようになっているため、せめて兄にもっとおしゃれをしてもらいたくて、そのアドバイザーとして服を見に行こうとしているのだ。


羽月はアルバイトなど一切していないため、自分だけの収入源といったものは当然なく、一般的な子供と同じように小遣いをもらっている。

ただ、子供にだだ甘で、しかも管理職ということもあって高収入な父、翔羽に割と結構な金額の小遣いをもらったりしている。

といっても、普段から兄、涼羽の倹約っぷりを見ている羽月も、おしゃれに興味津々である為服に割と出費はするものの、それも月に安くておしゃれなものを一、二着と言った感じで、月単位でもらう小遣いは基本余ることとなっている。


そして、それによる羽月の貯金も、割とそれなりの額にはなってはいるのだ。


この日は、どうせなら自分のお金で兄、涼羽にプレゼントできたら、とまで羽月は思っており、持参しているバッグの中の財布には、ここまで貯めたお金を全て持ってきているのだ。

いつもいつも自分のことを大切にしてくれて、お金の面でも常に助けてくれて…

そんな兄、涼羽に羽月がプレゼントをしたいと思うのも、非常に自然と言える。


「…ああ…なんて可愛いんだ…僕の姫は…」


そんな兄妹の後をつけながら、スマホを片手に撮影をする人物の影。

涼羽のストーカー男が、自販機やビルの入り口などに隠れながら、言いようのない幸福感を堪能しつつストーキングを続行している。


しかし、ストーキングをしているとはいえ、実際には涼羽の名前も、住んでいるところも何も知らない状態であり、この日涼羽にべったりと寄り添っている、涼羽とそっくりな顔をした小柄な少女が涼羽の家族かもという新事実をつかんだ、というくらいだ。

そういう点では、ストーキングとしては、本物のストーカーと比べるとまだ全然可愛いと言える段階であり、そこまで大それたことにはなっていないとは、言える。


なぜなら、彼は涼羽の姿をその目に見ることができるだけで、もう最上の幸福を手に入れたかのような感覚に浸ることができてしまっているから。

それゆえに、涼羽の個人情報や人となりなどを掘り下げていこうという段階まで至らない、という状態だから。


「…ああ、あの妹ちゃんなのかな?と一緒に歩いている姫の顔…綺麗過ぎる…可愛すぎる…」


そして、ストーカーならお邪魔虫と見てしまっても不思議ではない存在である羽月を見ても、まるでその心に闇が生まれてくる気配もない。

むしろ、その羽月と寄り添うことで幸せそうな笑顔を見せている涼羽を見ていると、ますます自身の幸福感が増していくように感じるほどだ。


そんな感じで、有害というにはずいぶん可愛らしい行動に落ち着いてしまっているこの男だが…

もし今の状態で我慢できず、涼羽の全てを独り占めしたいなどと思い始めた時、どうなってしまうのか…

今のところ、それは誰にも分かるはずも、なかった。

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