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このモデルの人、誰?

ここ最近、あまり眠れていないのか、疲れも取れにくい…


この悪循環を、崩していかないと…

「ねえねえ!これ見た!?」

「うん!すっごくいいよね!」

「この花婿の人、すっごく素敵!こんなお婿さんだったら、絶対欲しい!」

「この花嫁の人、もうめっちゃくちゃに綺麗で可愛い!あたしもこんなお嫁さんになりたい!」


涼羽と志郎が、それぞれ花嫁と花婿に扮して、誰もが理想の結婚式だと思えるような、そんな光景を作り出して撮影されることとなった日から、一週間ほどが過ぎた。

その人生で初めてとなる、モデルとしての取り組みを、二人をスカウトしてきた写真家である寺崎 光仁にうまくリードされることもあって、非常に出来のいいものとすることができた。


「おいおい、この花嫁の子、めっちゃ可愛いよな!」

「ああ!それも、ただ可愛いだけじゃなくて、どこか大人っぽくて綺麗だし!」

「しかも、スタイルめっちゃいいしな!」

「あ~俺、結婚するんだったら、絶対こんな子お嫁さんにしたいぜ!」


そして、今はその取り組みの集大成が、一時は企画自体の頓挫まで危ぶまれていたとは思えないほどにスムースに、全国的に展開されることとなった。

そして、その集大成に対する反応は、この涼羽と志郎が通う高校の中でも見られることとなっている。


「……………」


街中に貼られることとなる、PR用のポスターはもちろんのこと、インターネットを媒体としたPRイメージの展開に、ほんの数秒から十数秒ほどのPR動画まで、展開されることとなり、その瞬間から大きな反響を呼ぶこととなっている。




――――このモデルの人、誰?――――




――――花婿の人、すっごく素敵!こんなイケメンモデル、どこの事務所の人なのかな!?――――




――――花嫁の子、めっちゃ可愛くて、めっちゃ綺麗!スタイルもすっごくいいし、どこの事務所の子なんだろ!?――――




結婚という、人生の中でも最も幸福感を感じることができるだろうイベントの一つ。

その光景を、ここまで分かりやすく、理想的に幸せを具現化したPR媒体も、反響を呼ぶ要因となっているのだが…

一番の反響の要因は、やはり非常に洗練された魅力を惜しげもなく露にしているモデルに起因することと、なっている。


これほどに魅力的で、しかも見目麗しいモデルなら、絶対にどこかで見た、もしくは聞いたことのある有名なモデルであると、人は思っているのだが、実際には今回の企業PRのイメージキャラクターとしてお披露目されるのが、初となっている。

二人共実際には、モデルどころかただの一般人であり、モデルという職業にはまるで縁のなかった、現役の高校生なのだから、今まで見たことがないのは当たり前の話となるのだが。


このキャンペーンを開始し、同時に光仁やスタッフ達が全身全霊で挑み、涼羽と志郎という、非常に魅力的で映えるモデルを手に入れることができたからこそ、この世に生み出すことのできたPR媒体の展開を開始してからは、その展開元となる誠一の会社には、プランの申し込みが殺到。

元々自社で賄っていた電話受付は、日々回線がパンクするほどの慌しさを見せており、非常に嬉しい悲鳴となっている。

もちろん、電話だけでは対応しきれないだろうという見込みもあったため、インターネットの企業ページに、このキャンペーンに関する専用ページを新規追加し、そこからの申し込みもできるようにしている。


ただ、電話の方は純粋な申し込みの電話だけではなく、この二人の非常に魅力的なモデルは一体誰なのか、という問い合わせが過半数を占めている、という状態である。

しかもそれは、見る側の一般人のみならず、その二人を使おうとする側、つまり芸能界の関係の人間からも問い合わせが殺到しているのだ。

人の目を惹くものを作り出す、もしくは自らがそうする側の人間から見ても、涼羽と志郎の二人は本当に誰の目をも惹きつける存在であり、この二人なら絶対に売れる、という確信が、自分達の中で芽生えてしまっているのだろう。

そして、その度にコールスタッフ達が、こんな時のために用意されている一言として、『申し訳ございません、企業秘密の為、お答えすることができませんので』、と声にし、二人の情報を一切シャットアウトするようにしている。


それもそのはずで、実際にはどこの事務所に所属しているわけではなく、この会社とも今回限りの単発の契約となっており、正式にここの専属モデルとなっているわけでもないからだ。

加えて、こんな風に一躍時の人扱いとなっているものの、その当人達はただの一般人であるため、そんな人間の個人的な情報を展開するわけにはいかないのは、企業コンプライアンスとして当然のこととなるためだ。


だが、その謎というベールに包まれていて、情報らしい情報が何もなく、このモデル達の人となりも何も分からない状態というのが、かえって人々の好奇心を刺激することとなってしまい、その注目度、そして人気は落ち着くどころか、ますます加速していくことと、なってしまっている。


唯一展開されることとなっている情報は、見ただけでそれがモデル用のものであると分かるであろう、その名前。


「もお~ほんと!この『SHIN』っていうモデル、身長もあってスタイルもいいし、おまけに顔も優しげでほんとにかっこいい!」

「ね~!もうそんじょそこらの下手なアイドルよりかっこいいもん!」

「こんな人がわたしの旦那様になってくれたら…もうぜえ~ったいわたしのこと、大事にしてくれそう!」


花婿役である志郎に用意されたのは、アルファベットで『SHIN』という名前。

特になんのひねりもなく、志郎の名前をアルファベットにして少し組み替えただけのものなのだが、その名前が思いもよらぬほどに急速に広がり、人々の心に浸透していくこととなっている。


「………はは………」


その『SHIN』本人である志郎は、涼羽のすぐそばの席で自分の話をされて、妙なくすぐったさを覚えてしまい、ついつい、苦笑を漏らしてしまう。

やはり『SHIN』の時と、普段の志郎とではメイクの効果もあって別人に見られているようで、この教室の、『SHIN』に夢中になっている誰もが、今ここにその本人がいるなどと夢にも思っていない状態だ。


「なあ!この『SUZUHA』ちゃんって、マジ可愛いよな!」

「もうマジで、そんじょそこらのアイドルより全然可愛いよな!」

「しかも、スタイルいいし、どことなく大人っぽさがあって綺麗だし!」

「あ~、こんな子がお嫁さんになってくれたら…俺、毎日でもこの子のこと、めっちゃくちゃに可愛がって愛してあげるのにな~!」


そして、花嫁役である涼羽に用意されたのは、志郎と同じくアルファベットで『SUZUHA』と言う名前。

涼羽の名前の読みを変えて、アルファベットにしただけという、志郎よりもさらにひねりも何もない名前なのだが、やはりその名前は今、まさに時の人の名前として、この全国に急速に浸透していくことと、なっている。


「…………うう…………」


自身の教室の中で、ウエディングドレスにその身を包んで、本当に幸せそうな、天使のような笑顔を惜しげもなく披露している自分の姿を見ながら、思春期で青春真っ只中な男子達がその目も心も奪われている有様を見て、心底恥ずかしそうに、顔を赤らめてしまう涼羽。

『SUZUHA』という名前のおかげで、本来の涼羽という名前よりも明らかに女性としての印象をもたれており、さらには普段の姿とは別人と思えるほどに違いが出ているため、やはり今ここに時の人となる花嫁モデルがいるなどということを、この教室の誰もが夢にも思っていない状態と、なっている。

涼羽の場合は、性別まで偽っていることもあり、志郎と比べても余計に別人だと思われているというのも、あるのだが。


そんな状態となってしまっている涼羽と志郎の二人に、あの撮影の日以来から一つだけ、変化があった。


「…しかし、涼羽…こんなんだけでも、結構俺らだって結び付けられないもんなんだな…」

「…うん…俺もそう思う…」


涼羽のいつも通りの可愛らしさ満点の顔、そして志郎の爽やかで精悍な顔そのものは、従来通りなのだが、そこに、眼鏡という装飾品が、加わっている。


あの日の帰りに、そこにいたスタッフの面々から『素顔のままだと、ひょんなことから君達がこのイメージモデルと結び付けられる可能性があるから、念のためにそういうこともしておいた方がいいと思う』と声を揃えて言われ、勧められたことで、その次の日には、高宮家全員と志郎の四人で、近所にある眼鏡専門店へと繰り出していった。

そして、涼羽の父である翔羽が、息子である涼羽はもちろんのこと、涼羽と共に見事にモデルをやりきってくれた志郎にも、お疲れ様という慰労の思いを込めて、眼鏡をプレゼントしたのだ。


志郎は元々視力がよく、今のところ衰えが出てきている様子は全くないので、本当にただの装飾品として、伊達眼鏡を購入することとなった。

それが、今かけている、細い黒のフレームの眼鏡なのである。

もちろん、それを涼羽の父であり、自分自身も尊敬してやまないあの高宮 翔羽から頂いたものということで、志郎はそれを非常に大事に扱い、常に綺麗な状態にしている。


涼羽の方は、やはりコンピュータを趣味としており、本を読むことも多々あるため、ここ最近で視力がめっきり下がっていることが、眼鏡専門店での点眼で判明した。

それにより、ちゃんとした眼鏡を作ろうという話になり、ちゃんとした視力補正の目的で購入することとなったのだ。

幸い、涼羽の視力補正にちょうど適合するタイプのレンズがその時、店舗内に在庫があったため、その日のうちに眼鏡を購入することができた。

それが、涼羽が今かけている細いシルバーフレームの眼鏡なのである。

本当は、昔のガリ勉タイプの学生がかけるような、厚いビン底系の黒縁眼鏡を、涼羽は望んでいたのだが、そこにいた父、翔羽に妹、羽月、そして志郎やその店舗のスタッフ全員に『それはない!!』と断固拒否されてしまった。


自分の顔が目立たなくなるであろうそんなタイプの眼鏡を好んで選んだのに、満場一致でそれはダメだと言われてしまい、点眼の際にもへこんでしまっていたのは、ご愛嬌といったところか。

スタッフ達も、涼羽の顔立ちを見てすぐにその目も心も惹かれ、この顔立ちをよりよく見せられる眼鏡は、と、鼻息を荒くして望んでいたため、涼羽のチョイスは断固として許せないものだったのだ。


ちなみに、眼鏡をかけて登校してきた志郎を見て、周囲はこれまでとのギャップに当然ながら驚きを隠せずにいた。

だが、それでいて意外にも似合っており、アスリートタイプなイケメンの志郎に理知的なイメージも与えてくれるその装飾は、普段から志郎に熱を帯びた視線を送っている女子達の心を鷲掴みにすることとなってしまった。

当然ながら、なんで眼鏡をかけてくるようになったのかを、志郎のクラスメイト達は志郎に対して質問攻めをしてくることとなったのだが、その質問に対して志郎はこの一言で済ませている。




――――ん?ああ、ちょっとしたイメチェンってやつだよ。ほら、俺って脳筋イメージ強いから、たまにはこんないかにも『勉強してます』みたいなのもありかな、って思って――――




いかにも志郎らしい、ぶっきらぼうで気さくな一言に、周囲の人間はすんなりとそんな志郎の変化を受け入れ、むしろ好意的に見てすらいる状態である。

眼鏡をかけている時と、外している時でイメージがガラリと変わることもあり、女子達は志郎のかっこいい面がまた増えたと、大喜びまでしている状態だ。


そして、涼羽が眼鏡をかけることになって初めての登校の日には、やはり周囲の人間は驚きを隠せなかった。

涼羽のクラスメイトの面々は、もうそうするのが当然であると言わんばかりに、涼羽になんで眼鏡をかけるようになったのかを、我も我もと問いかけてくるようになっていて、半ば尋問のような雰囲気にもなってしまっていた。

だが、内心では『眼鏡可愛い!!』『眼鏡っこキター!!』『眼鏡な男の娘サイコー!!』などと、肯定的な意味で阿鼻叫喚となっていたのだが。

シルバーの細いフレームのデザインということもあり、それが涼羽の顔にちょんと乗っかっているような感じであるため、涼羽の可愛らしさをよりよく見せるものとなっていたからだ。


そして、そんな勢いで問い詰められてしまった涼羽は、おどおどとしながらも、その問いにこう答えることとなる。




――――あ、あの…俺…最近ずっと目が見えにくくなってて…だから、眼鏡かけないとって思ってかけたんだけど…似合わない…かな?…――――




まるで尋問のような勢いで問いかけられてしまったこともあり、なんだか自分が悪いことをしてしまっているような気持ちになって、ついついこんな返し方になってしまった涼羽。

そんな儚げな雰囲気もまた、周囲の人間の、特に女子達の庇護欲をこれでもかと言うほどに刺激することとなってしまい、その瞬間に『可愛い~~~~~!!』とクラス全体で大絶叫されることとなり、いつも以上にもみくちゃにされて可愛がられることと、なってしまった。


無論、涼羽のことを天元突破な状態でアイドルのように見ている数学教師も、『め、め、眼鏡っこな涼羽ちゃんだと!!??な、な、なんという破壊力!!…』と、表面上はいつも通り能面の表情を保つことはできていたのだが、内心では悶え狂っていたと言うのは、また別の話。


ちなみに、あの撮影の日に、涼羽も志郎も揃って誠一や幸介など、多くの人間に自分の会社に来てくれ、などというスカウトを受けたり、光仁にこれからも自分の撮影のモデルになってほしい、などと言い寄られたりしていたのだが、最終的には翔羽が間に入ってくれたおかげで涼羽も志郎も今自分達が思っている進路のことを話すきっかけができたこともあり、一旦はそのスカウト攻撃もなりを潜めるようにはなった。


ただ、それでも目の前のダイヤの原石達のことを諦められないのは、誠一も幸介も経営者としての性ゆえなのか、『それなら、無期限や一定期間の契約ではなく、その時その時のスポット的な仕事を依頼できる形をとりたい』と、必死にこの極めて有望な二人との縁をつなごうとしていた。


もちろん、これには光仁も諸手を上げて賛成し、『その時その時でいいんです!僕に今後もあなた達のことを撮影させてください!』と強く言われる始末。


さすがにここまで自分達のことを必要としてくれる幸介や誠一、そして光仁含むスタッフに対して、これでなお、一切縁がなかったとすることに後味の悪さを覚えてしまうだろうと、一旦はその話を受け入れることとなった。

無論、それぞれの決めた進路があるため、あくまで涼羽と志郎の都合を優先する、という話にはなっている。

だが、涼羽にはその技術面でのスキルの期待値もあり、いざとなれば在宅勤務でお願いすることもできるだろうという見込みもあり、モデルとしての活動も光仁のような業界でもトップクラスとまで評される写真家なら、可能な限り時間を短縮して、モデルに負担がかからないようにしてくれるだろうという確信もあるからこそ、出せる提案であるとは言える。

加えて、涼羽が進路希望としている秋月保育園に対してのスポンサードをして、涼羽の負担を減らしつつ、その減った負担の分でこちらの依頼を受けてもらおうとまで考えているからこそ、というのもある。


志郎に関しては、志郎自身が経営していこうという孤児院のサポートを対価とすることもできるし、いざとなればその孤児院のスポンサードをしてもいいとまで、考えている。

さらには、実は少し前まで喧嘩に明け暮れていて、荒事に対しては非常に長けた存在であることも、誠一と幸介はその時に耳にしており、単発の依頼で護衛のようなことを依頼してみるのもいいかもしれない、とまで思っている。

今はもう人が変わったかのように喧嘩をしなくなっているのだが、かつては本業のヤクザですらも目を逸らして道をあけてしまうほど恐れられていた存在であるため…

そんな志郎の有り余る戦闘能力を、人を護るために、と誠一や幸介に言われた時の志郎は、心底救われたかのような表情をしていた。

そして、その人当たりのよさと真面目で謙虚な性格を考慮して、営業的なことをしてもらうのもいいのではないか、などなど。

もうこれからどんな仕事をお願いしようかと、考えているだけで楽しくて楽しくてたまらない誠一と幸介なのである。


もちろん、今後の企業のイメージアップ戦略に、イメージキャラクターとして『SUZUHA』と『SHIN』の二人をモデルにしようという狙いまで込められているため、この二人をとことんまで撮影したくてしたくてたまらない光仁としては、渡りに船な話であると言える。


「…俺達…これからマジでいろんなことできそうだよな…」

「…うん、ほんとにそう思っちゃうね…」

「…これからもよろしくな、親友…そして、相棒」

「!…うん…俺の方こそ、よろしくね…」


今はまだ、ただの一介の高校生に過ぎない涼羽と志郎だが、今回の出来事がきっかけで、以前のままなら決してできなかったであろう様々なことを、経験していけるだろう確信を持つ。


そんな、すぐ目の前にある未来を思い浮かべて、とても楽しそうな、やる気に満ち溢れた表情を浮かべる志郎。

そして、これからも自分にとって親友であり、これからは相棒となるであろう存在である涼羽にそっと、これからの思いを声にして伝える。


そんな親友であり、これからは相棒となる志郎の声に、涼羽はその可愛らしい顔を綻ばせながら、自分の方こそ、と声にするので、あった。

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