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お願いします!これからも、これからも僕のモデルになってください!!

業者側の些細なミスで延び延びになっていたインターネットの回線切り替えが、ようやく終わりの方に向かっていっています。

本当にちょっとしたことで、こんなことになるっていうのと、もしこれを今回の業者が法人相手にやらかしていたとしたら、と思うと、ぞっとするような感じになりました。


するべきことは、きっちりするべきだなと、そう思う出来事でした。

「お願いします!!」

「あ、あの……」

「さ、さすがにそれは…」


キャンペーンのイメージとなる構図を、光仁の欲望の赴くままに撮影し続け、夜も遅くなってしまったところで、ようやく撮影が終了。

この日撮影できた枚数は、数千枚に及ぶレベルであり、この中からの選別作業がこの後、光仁に待ち受けているのだが、当人はそんな作業も楽しみだといわんばかりに心はうきうきとしている。


本来は申し訳なく思いながらも、翌日の日曜まで撮影をお願いしたいところだと思っていたのだが、この日、この短時間で自分でもびっくりするほどスムースに、しかも大量に涼羽と志郎がこれからその生を共にしていくことを誓い合う二人としての一コマ一コマを切り取ることができ、それら一つ一つが全て、没にするのが惜しいとさえ思えるほどの出来となっているため、撮影自体はこの日だけで完了となったのだ。


ようやく撮影の完了を言い渡され、今の新郎に扮している志郎も、新婦に扮している涼羽もほっと一息ついて、元の格好に着替えようとしていたところに、非常に未練がましさが表面に出ている光仁からの待ったの声。

一体なんだろうと思いながら二人が光仁のそばまで行ったところに、光仁がその熱烈な思いをそのまま声にしたのが、この一言。




――――お願いします!これからも、これからも僕のモデルになってください!!――――




その一言に、周囲の光仁と付き合いの長いスタッフ達は驚きを隠せずにいた。

なぜなら、光仁が特定のモデルにここまで執着する姿というものを、スタッフ達は見たことがなかったからだ。

よほど撮影していて楽しかったのだろう。

よほど撮影していて素晴らしかったのだろう。


涼羽はどこに出しても恥ずかしくないほどに童顔な美少女然とした、映える容姿。

志郎はどこに出しても恥ずかしくないほどにすらりとした、シャープで爽やかなイケメンな容姿。


しかも、この日見ていただけでも、モデルとしても十分にやっていけそうな資質さえ、感じさせるものがあった。


何より、光仁自身、この二人を撮影している時、初めてカメラというものに触れることができた瞬間、そしてそのカメラで日常の風景や、その時その瞬間にしかありえない光景を切り取る時の、言いようがないほどの楽しさ。

それらを、ずっと感じながら撮影に望むことができたのだ。


だからこそ、これで終わりになどしたくない。

だからこそ、これからももっとこの二人の瞬間瞬間を、撮り続けていきたい。


その思いが、光仁に涼羽と志郎に、これからも自分のモデルになって欲しいという、切実なる願いの声をあげさせることとなったのだ。


「う~ん…さすがにそれは…どうしたものか…」

「こ…困ります…」


涼羽は元々が人目に触れることをとにかく嫌う性格であり、ましてや今のように女装してなどとなると、その嫌悪感はさらに大きくなってしまう。

ゆえに、とてもまたモデルなどというものをする気にはなれなかった。

ましてや、今は学業に家事にアルバイト、そしてコンピュータの技術の学習、実践にと、非常に多忙な状態となっていることもあり、さすがに毎度毎度こんな感じで、ということはご遠慮願いたかった。

ここまで、自分のことを必要としてくれることには、嘘偽りない喜びと有難さを感じていることは間違いないのだが、やはり優先順位というものは涼羽にとっては重要なのだろう。


志郎の方は、涼羽と比べると人目につくことそのものに関してはそこまでの抵抗感はないものの、どちらかと言えば目立つことを好まない性質であり、加えてこれからは自らがその身を置いている孤児院の経営についての勉強、そして実践により、今後より多忙が予想される状態となっている。

自分のような、人を傷つけることしか能のない人間のことをそこまで必要としてくれることには、本当に有難く思っているのだが、そのあたりの優先順位は志郎の中ではっきりとしているため、涼羽同様、毎回毎回こんな感じで、ということはご遠慮願いたかった。


「ははは、寺崎君がここまでモデルに執着するのは、初めてじゃないかね?」


涼羽と志郎の二人が、光仁の写真家としての熱意とこだわりでゴリ押しされているところに声をかけるのは、この会社の社長となる丹波 誠一その人である。


誠一自身も、写真家である光仁との付き合いは長いものであり、光仁がここまで特定のモデルにこだわるという姿を見るのは、初めてとなるもの。

また、誠一自身、こんなにも映える容姿のモデルが今後も自分の会社のプロジェクトで、今回のようにモデルをしてくれたら、という思いが多々あるため、ここではむしろ光仁を応援したい気持ちの方が強くなっている。


「!た、丹波社長…」

「わしとしては、むしろ君を応援したいところだがね。この二人が今後もモデルとして、こんな風に我が社でのキャンペーンイメージキャラクターになってくれるというのなら、是が非にでもお願いしたいところだよ」

「!ほ、本当ですか?」

「ああ、涼羽君も志郎君も、むしろうちの会社で雇用したいと思っているのだからね」


まさに清清しいとばかりに、自分が涼羽と志郎を手元に置いておきたいことをさらりと話してしまう誠一。

こういうところはまるで裏表がなく、もともとそういう風に事を運ぼうとさえ思っていただけに、誠一も下手に小細工的なことをして、かえって悪印象を持たれるくらいなら、という潔さを見せている。


また、志郎の方は実務に関しては未知数だが、その人当たりのよさから、営業職で力を発揮できるのではないか、と思っており、単にモデルとしてだけでなく、他のことでも可能性を感じさせてくれるものがあり、今のうちにその意志をこの会社の方に向けておきたいというのがある。

涼羽の方はすでに親友の幸介から自慢げに聞かされている、父、翔羽を彷彿させるであろう能力面のこともあり、実務面でも非常に貢献してくれるであろうという確信を持っているため、いくら実の父である翔羽が釘を刺してこようとも、進路をこちらに決めて欲しいと、誠一は思っているのだ。


「と、言うわけで…どうだね?涼羽君に、志郎君?わしとしては、二人共ぜひ我が社の方に進路を決めて欲しいと思うのだが…」

「!え……」

「!あ、あの…そ、それは…」


そんな、経営者としての本音にまみれた思いを隠すことなく、気軽に友人を遊びに誘うかのようなフランクさと、それでいてまるで意中の女の子に告白するかのようなドキドキ感を共存させているような、言いようのない表情と口調で、誠一は涼羽と志郎の二人へと優しげに声をかける。


声をかけられた志郎の方は、一時はこの世の全てを憎み、ひたすら喧嘩にその身を費やしては、周囲に迷惑をかけ続けてきた自分が、そんな風に人に、社会に必要とされることにいいようのない、感無量な思いを抱いている。

それでも、やはり自分の中での優先順位というものははっきりとしているため、そこで申し訳なさが出てきてしまうのだが。


涼羽の方は、先ほどにもこのように声をかけられた後に、再びこうして声をかけられて、必要とされること自体には本当に嬉しく思っているのだが、自分としては現在、アルバイトで就業している秋月保育園に就職を、という進路を考えているため、ここでうかつに返事をするわけにもいかず、どうしようかという迷いで、しどろもどろとなってしまっている。


「おいおい、誠一。お前、こんなにも磨けば光る原石を二人まとめてなどとは、いくらなんでも欲張りすぎだろう」


そこに口を挟むように、誠一の行動を非難するかのような口調で声をかけてきたのは、涼羽の父、翔羽の上司であり、誠一の親友である幸介。

涼羽と志郎の二人が、誠一と光仁の二人に熱烈にスカウトされているところを見せられて、同じ経営陣の人間として、我慢ができなくなった、といったところか。


「何を言う、幸介。これほどに可能性に満ち溢れた人材を前にして口説かないなど、彼らに対して失礼じゃないか」

「うむ、それに関しては私もそう思う」

「じゃろ?」

「だから、この私もそうさせてもらうぞ」

「!何!お前……」


非難めいた口調で声をかけてくる親友に対し、悪びれた様子もなく、逆にこれほどの人材にスカウトしないなど、失礼だなどと、しれっと言い放つ誠一に対し、幸介もそこには同調してしまう。

そして、だからこそ、ここまで翔羽に釘を刺されていてできなかったそれを今、この場でさせてもらうと逆に誠一に言い放ち、その声に対する反応を待つこともなく、幸介は涼羽と志郎の二人へと真っ直ぐに、その穏やかな好々爺と言うべき視線を向ける。


「どうだろう?涼羽君に鷺宮…いや、志郎君。どうせなら、我が社の方へと進路を決めてもらえないだろうか」

「!え……そ、そんな…」

「!こ、幸介おじいちゃん…それは…」

「我が社には、涼羽君のお父上である高宮 翔羽君がいる。我が社でも最も有能と言い切れる人材がね。その高宮君がいるところに、君達二人が加わってくれれば、我が社はもう何も恐れるものなどないと、断言できるだろうね」

「!高宮さんって……そこまでの評価をもらえる人なんですか?」

「ああ、この評価はこの私が確信を持って言い切れるものだよ。彼がいなければ、とっくに我が社の経営は傾いていただろうしね。我が社の取引先も、我が社の名前ではなく、彼の名前をあてにしているところが非常に多いしね」


光仁からは熱烈にモデルとしてのスカウトを、誠一からはまさに磨けば光る、ダイヤの原石のような人材としてスカウトを、さらに今目の前にいる幸介にまで、誠一と同じようにスカウトされてしまっている涼羽と志郎。

立て続けに自分達を必要としてくれる声をかけられて、涼羽と志郎は大いに戸惑いを見せてしまう。


特に幸介の会社は、すでに高宮 翔羽という絶対の柱となりうる存在がいるため、そこに涼羽と志郎が加われば、もう鬼に金棒だと言い切れる確信が、幸介の中ではある。

そして、そんな幸介がさらりと口にした、翔羽が幸介の会社の中で最も有能だという声に、志郎は思わず反応してしまう。


そんな志郎の反応に対し、実質自分の会社は、翔羽の存在で大部分が持っているものだと、取り繕うこともせず、幸介はさらりと声にしてしまう。

それは、翔羽が管理している部署の人間が、本当に他部署から見れば精鋭揃いとなっていることからも一目瞭然と言えるのだろう。

翔羽に鍛え上げられた人材は、どこに行っても通用する、とまで、社内ではもっぱらの噂となっており、自分も高宮 翔羽の元で働きたいという声が、社内ではひっきりなしにあがっている状態なのだ。


「…す、すっげえ……涼羽、お前のお父さんって、ほんとにすっげえ人なんだな…」

「…うん…今俺も初めて聞いた…お父さん、そんなにも凄い人だったんだ…」


一企業の経営陣に位置する人間から、そこまでの評価をされている翔羽のことを、志郎はまるでTVに出てきて、その能力でもって世の中を幸せにしてくれるスーパーヒーローのように思ってしまう。

本当に、お世辞ではなく、その能力と結果で、そこまでの評価をもらっている翔羽を、まさに雲の上の人間のように感じてしまう。


それは、息子である涼羽も同じであった。


父がいかに有能であるかは、幸介からは聞かされてはいたのだが、それはほんの一部に過ぎなかったということを、今この時、本当に思わされることとなった。

翔羽自身、自分の功績や結果を人に話すようなことをするタイプではなく、逆にそんなことは終わったことだと、振り返ることもなくただただ前へ前へと進み続ける、まさに求道者のような性質であるため、翔羽の口からそういうことが語られることがなかったのだ。

だから、涼羽も、父のこれまでの働きが、いったいどれほどのものなのかを、知らなかった。

元々父のことを尊敬していた涼羽だが、今この時を境に、それがより強くなっていくのを感じてしまっていた。


「おいおい!幸介!お前それはずるいぞ!」

「ん?何がだ?」

「お前、あの高宮君のような人材がすでにいるのに、この二人までそっちに引き入れようとするとか…お前の方が図々しくて欲張りではないか!」


その高宮 翔羽の存在がどれほどに大きいものなのかを、実際に知っている一人である誠一が、にも関わらずこのダイヤの原石のような二人をまとめてスカウトしようとしている幸介に対して、強い口調で非難してくる。


誠一自身、翔羽によってこの会社がどれほどに助けられているかを、これでもかというほどに実感しているからこそ、飛び出してくる台詞であると言える。


「さっきお前が言ったではないか。これだけの可能性を秘めた原石とも言えるこの子達を前にして口説かないなど、失礼に値する、とな」

「!そ、それはそうだが…」

「私もそう思ったから、お前と同じよう口説かせもらった。ただそれだけではないか」

「ぬぬ…」


そんな誠一の非難の声も、しれっと受け流してしまう幸介。

実際、誠一と同じように、幸介もこの二人を自分の会社の方へと進路を向けてほしいからこそ、こうしてスカウトしてしまうのだから。

経営者としての本能というものがそうさせてしまう以上、同じような立場である誠一もそれ以上は口ごたえをできなくなってしまう。


「ええ~、せっかくこうしてこのプロジェクトで仕事した仲なんだし、涼羽ちゃんも志郎君もうちの会社においでよ~」

「そうそう、うちの会社はすごくアットホームだから、働きやすいよ~」

「二人なら、すぐにみんなと打ち解けられるよ~」

「涼羽ちゃんなら、すぐにみんなのアイドルになれるわよ!だって、こんなに可愛いんだもん!」

「志郎君も、こんなにイケメンなんだから、うちの女性陣が黙ってないわ!」

「お姉さん達が、涼羽ちゃんも志郎君も優しくしてあげるから、ね?」


この日一日で、よほど涼羽と志郎のことが気に入ったのか、スタッフの面々がわらわらと二人のそばまで集まってきて、自分の会社で一緒に仕事をしようと声をかけてくる。

特にスタイリスト達は、この二人をまたこうして着飾らせてあげたいという、光仁とよく似た、本能的な思いが際限なく膨れ上がっていることもあり、涼羽と志郎にとにかく首を縦に振ってほしいという願望が、その顔にも表れている。


「おお…そうじゃそうじゃ!みんなからも、二人にこの会社に来てくれるように言ってやってくれ!」


この会社のトップという立場にいる自分にとっては、何物にも代えがたい財産とまで言える社員やスタッフ達がこうして援護射撃をしてくれていることに、嬉しそうな表情を浮かべながら、さらにその勧誘の声を煽るように、スタッフ達を炊きつける。

実際に働いている彼らの口から、自分の会社がいかに働きやすいかを言ってくれるだけでも、やはり効果があると思えるのだから。


「涼羽さん!志郎さん!お願いです!また今回のように、僕にあなた達の素敵な姿を撮影させてください!」


そして、それまで成り行きを見守っていた光仁も、ここに来て再び、涼羽と志郎にモデルをしてもらいたいという、溢れんばかりの思いを抑えきれないのか、その情熱を全てぶつけるかのように懇願の声を向けてくる。


気がつけば、周囲の人間全てが自分達を必要とする、求めてくる声をあげてくれることに、涼羽と志郎は言いようのない嬉しさを感じてしまう。

だが、その嬉しさが大きくなればなるほど、すでに自分達の中で決まっている今後のことを言うことに申し訳なさを感じてしまい、どうしてもそれを言えなくなってしまう。


「あ~、みなさん…ひとまず落ち着いてください。二人が困っていますから」


そんな涼羽と志郎を見かねたのか、ここで二人をかばうように割り込んでくるのは、涼羽の父である翔羽。

おろおろとしているばかりだった涼羽と志郎も、翔羽が間に入ってくれたことで、いくらか落ち着きを取り戻すことができたようだ。


「専務…前にも申し上げたはずですよ?今後の進路は、涼羽自身が決めることだと。そして、それは志郎君も同じこと…いくらなんでも、事を無理に進めすぎでは、ありませんか?」

「う…む…し、しかしだね…」

「丹波社長…うちの子のことをそこまで評価していただけるのはとても有難いのですが、進路のことはあくまで涼羽本人に決めさせてあげて欲しいのですよ。もちろん、志郎君も」

「そ、それはそうじゃが…」

「経営者側の立場におられるお二人のお気持ちもよく分かります…実際、私も涼羽が私と共に仕事をしてくれれば、と思うことも幾度となくあります」

「!そ、そうだな!高宮君!だから、今のうちに、と思ってだな…」

「!じゃ、じゃろう!?この二人が我が社に入ってくれたら、と思うと、いてもたってもいられなくてだな…」

「ですが、その進路はあくまで、お二人のように『その方向に向けさせる』のではなく、『自分達の意思で選ぶ』ことをしてほしいと、涼羽と志郎君には願っているのですよ」

「!う、うむう…」

「!ぐ、ぬぬ…」


翔羽は、これまで涼羽が生まれてからの人生の大部分を仕事に捧げてきたこともあり、今後のことは涼羽自身がその意思で決めて欲しいと、常に願っている。

ましてや、両親がいないという環境の中、決して歪むことなく、本当に残された家族である妹のことを面倒見てくれて、さらには家のことを一切合財してきてくれて…

そのせいで、学生のうちの交流や、学生時代にしかできないであろうことも犠牲にしてきたのだから…

にも関わらず、父である自分が帰ってきてからも、むしろ自分の方が面倒を見られているとさえ思えるほどに、家のために尽くしてくれている息子に、せめて自分のしたいことをさせてあげたいと、常に願っている。


そして、そんな風に涼羽に願っていることを、なぜか涼羽の親友である志郎にも、願っている。

志郎のこれまでの生い立ちなどを、翔羽は知らないし、知る由もない。

にも関わらず、なぜか志郎には、涼羽と同じようなものを感じてしまう。

パッと見では、明らかに対照的な二人であるのに、だ。

それがなぜなのか、なんなのか、というのは、翔羽自身分かってはいないのだが、最愛の息子の親友として、涼羽とよき関係を築いてくれている志郎のことも、涼羽と同じように応援してあげたいと、翔羽はこの場で志郎とあってから、自然と思うようになっていた。


「お父さん…」

「高宮さん…」


自分達のために、こうして上司や取引先のトップ相手にも、真っ向から意見を述べてくれる翔羽の背中を見て、涼羽も志郎も感動を覚えてしまう。

それは、本当に『父親』としての背中だから。

志郎自身、育ての親である、前の院長の背中を見て育ってきたから、思える。

そして、その院長以外にも、こうして自分を護ってくれる背中を、見せてもらえている。


そのことが、志郎はとても嬉しく、有難く思えて、この日会ったばかりの翔羽のことを本当に尊敬の対象として、その熱い眼差しを向けてしまっている。

そして、涼羽もそんな父の背中を見て、自分もこんな風になりたいと、自然と思うようになってしまっている。


前途ある二人の学生の意思を尊重しようとする翔羽の姿を見て、半ば無理強いしている自分達の姿に気づいたのか、いつの間にか、あれほどに盛り上がっていたスカウトの声も、ぴたりとやむこととなっていたので、あった。

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