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番外編_ホワイトデー

今月から開始予定だった、別業者のインターネットですが、諸事情により未だに開通しておりません…

なので、今月に入ってからはテザリングに頼りっぱなしです(泣


そんな状況ではありますが、番外編を投稿させて頂きます。

読んで頂ければ、幸いです。

「ふふ、できたっと」


もう本格的に暖かな気候となり、すっかり春を感じさせる時期となった頃。

比較的閑静な場所にあるこの高宮家のキッチンでは、そこの主として日々、家事に勤しんでいる涼羽が、この日の食事は終わったにも関わらず、いそいそと何かを作り続けている。


まるで少し前のバレンタインを思い返させるその光景。


これまで、ずっとこの家の家事を担ってきた経験と、自身の学校の音楽教師である四之宮 水蓮の実の母、永蓮にいろいろと教わっていることによる知識によって、普通にお金が取れるレベルでこなせるようになった料理。

そのスキルを最大限に活かして作り上げられているのは、小さくまんまるな感じが可愛らしさを強調している、マカロン。


作るのは初めてとなるマカロンであったが、そこは涼羽のこれまでの経験と知識によって構成されている料理スキルを活かすことによって、綺麗に作り上げられている。


「ふふ、みんな、喜んでくれるかな…」


何よりも、それを贈られた相手の笑顔を思い浮かべて、そんな笑顔になってくれることを願って、本当に一つ一つのマカロンに、文字通り心を注いでいっているのが、よく分かるその姿。


人が喜んでくれることを、本当に自分の喜びとしている涼羽ならでは、と言える。


これもまた、この月に入ってから、その日の前日となるこの日までずっと、帰って食事まで終わらせてからひたすらこの作業に勤しんできているのだ。

それを辛く思うどころか、受け取ってくれた人の笑顔を思い浮かべることで、逆に本当に楽しい作業として、ずっと取り組んできている。


そんな涼羽の姿は、本当に幸せそうで、いつもよりもその可愛らしさが増しており、その姿を他の人間が見てしまったのなら、間違いなく心を撃ち抜かれて、涼羽のことをめっちゃくちゃに可愛がってしまうことが、容易に想像できてしまう。

それほどに、誰からも愛されるであろう、そんなオーラが所狭しと滲み出ている。


まるで、この世に生を受けることのできた赤ん坊を、腕に抱いてその喜びと愛情で包み込む母親のような、穏やかで温かで、母性と慈愛に満ち溢れた今の涼羽の姿。

そんな涼羽だからこそ、今となっては多くの人に愛される存在となっていると、言えるだろう。


そして、少し前のバレンタインデーと同様に、明日に迎えるその日も、涼羽にとっては日々お世話になっている人に、少しでも恩返しをしようと、何かを作って手渡しするという、そんな認識の日となっている。


そんな明日は、ホワイトデー。


バレンタインデーに女の子の想いの受け取った男の子が、その想いに応えるかのように、お返しをする、そんな日でもある。




――――




「くあ~~~…おはよう、涼羽」

「おはよう、お父さん」


もうすっかり暖かな気温となる、ホワイトデー当日の朝。

小春日和で、心地の良い眠気を誘うかのような気候につられるかのような、そんな眠たげな顔でありながら、この世で最も可愛くて可愛くて、いとおしくていとおしくてたまらない、最愛の息子である涼羽の顔を見れたことによるデレデレとしただらしない表情を浮かべる父、翔羽。


ついついほうっと気を緩めたくなるような穏やかな気候に合わせるかのような父のだらしない顔を見て、くすりと微笑みながら、その可愛らしい顔にまどろんだ様子など感じさせない、穏やかな笑顔を浮かべ、声変わりしているとはとても思えないソプラノな声で朝の挨拶を返す涼羽。


「おお~~~っと…今日のこの日は、忘れるわけにはいかないものがあるんだった」


その意識を夢の世界へといざなうかのような穏やかな気候に引きずられてしまうかのようなまどろみと、最愛の息子である涼羽の顔を朝一番に見ることのできた喜びを同時に浮かべていた表情から、翔羽は意識を覚醒させながら冷蔵庫を開けると、その中から女の子に贈るような、ピンク色のリボンに巻かれた可愛らしい包装をしたものを取り出す。


そして、それを得意げに、嬉しそうに目の前にいる、自分よりも頭一つは小柄な息子へと差し出す。


「ほら、涼羽」

「?お父さん、これは?」

「ほら、今日はホワイトデーだろ?お父さんからの、バレンタインの時のお返しだよ」


一瞬、父から差し出されたそれが何なのか分からず、きょとんとした表情で問いかける涼羽にデレデレとしながら、バレンタインの時のお返しだと告げる翔羽。


「いや~、涼羽がくれたバレンタインのプレゼント、本当に美味しかったよ。あれなら、どこに出しても絶対に通用すると思ったからな」

「…お父さん…」

「俺は涼羽みたいに、あんな美味しいお菓子なんて作れないから、買ってきたものになってしまうんだけどな」

「…ううん、すっごく嬉しいよ」

「ささやかだけど、お父さんからのお返しだよ」

「嬉しい…ありがとう、お父さん」


息子にホワイトデーのプレゼントを手渡すと、その息子がくれたバレンタインのプレゼントがいかに美味しかったかを、まるで今はもう会えない恋人のことを思い浮かべたかのようにしんみりと、嬉しそうに語る父、翔羽。

実際、口どけもよく、程よい甘さで自分の好みに非常に合っており、もう文句のつけようもないくらいに、翔羽はそれを作ってくれた涼羽のことを称えながら食していた。

ただでさえ、こんなにも可愛らしい息子が作ってくれた贈り物であるのに、それがもう、店に出してもいいくらいの出来なのだから、その喜びもまた、ひとしお。


だからこそ、口ではささやかだといってはいるが、実際にはこの外れの方にある町からちょっと遠征して、都会の有名店にある、結構高級なチョコ菓子を、普段あまり使うことのないポケットマネーをここで奮発して、買ってきたのだ。


そして、それを贈られた涼羽の、本当に幸せそうで、嬉しそうな笑顔を見て、さらには建前などまるでない、本当に心からの感謝の言葉を聞いて、もう朝から幸せで幸せで飛び上がってしまいそうになってしまっている。


「じゃあ、俺からも…はい、これ」


すでに喜びの絶頂にある父、翔羽に、いつの間にか手に持っていた、バレンタインの時も見たような包みを、涼羽はその小さく綺麗な手で差し出す。


「え?涼羽?」

「今日はホワイトデーだから…また、普段からお仕事頑張ってくれてるお父さんに、お礼だよ」

「!りょ、涼羽…」

「いつもありがとう、それと今日は、こんな素敵な贈り物くれて、ありがとう。大好きだよ、お父さん」


贈り物を手渡す側なのに、まるで本当に欲しいものを贈ってもらえた側のような幸せそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべて、涼羽は父、翔羽に自分が作ったマカロンが入っている包みを手渡す。

そして、その笑顔を惜しげもなく翔羽に披露しながら、日頃の感謝の思いと、そんな父が大好きだという親愛の言葉まで贈ってくれる涼羽があまりにも可愛すぎて、そんな涼羽を自分の身体で包み込むかのようにぎゅうっと抱きしめてしまう。


「涼羽~~~~~~~!!!!お前は本当に、本当に可愛くて、とてもいい子だな~~~~~!!!!」


こんなにも可愛い息子に、こんなにも可愛い贈り物を贈ってもらえて…

こんなにも可愛い息子に、こんなにも可愛らしくお礼の言葉をもらえて…

こんなにも可愛い息子に、こんなにも可愛らしく大好きだなんていわれて…

抱きしめずにいられる父親なんているだろうか?

否!


まさにそう言わんばかりに、その言いようのない思いを身体で、行動で表現してしまっている。


「!わ!……も、もお…お父さん…」


自分の小柄で女性的なラインの華奢な身体をぎゅうっと抱きしめられて、驚きと照れくささがその表情に表れてしまっている涼羽。

だが、そんな父の愛情が嫌なのか、と問われたら、それは否、と言い切れるものがある。

涼羽自身、やはりこんな風に父に愛情いっぱいに包み込んでもらえるのは、嬉しいものがあるのだ。


それは、こんな風に照れくささでついついツンツンとした態度になってはしまうものの、決して自分を抱きしめてくる父を邪険にしようとか、押しのけてしまおうとか、そういった態度にはならないことからも、よく分かるものとなっている。


「ふあ~~~~……おはよう…お兄ちゃん…お父さん…」


そんな風に、文字通り父、翔羽が息子である涼羽のことを目一杯の愛情で包み込んでいるところに、まだまどろみの抜けきらない、可愛らしい声が響く。


この家の唯一の女性陣である羽月が、起きて下の方まで降りてきたのだ。


「おお!おはよう!羽月!」

「おはよう、羽月」


もう高校受験にも合格を確定させ、来月からは兄が通っていた高校に通うことが決定している羽月。

来月からは高校生になるというにも関わらず、未だに小学生くらいにしか見えない幼さの色濃い、可愛らしい容姿の娘に、ついついその顔をデレデレとさせながら、元気よく朝の挨拶を返す翔羽。

いつも自分の母性本能と庇護欲をくすぐらせる存在である妹、羽月に、優しげな笑顔を向けながら、優しげでふんわりとした口調と声で、朝の挨拶を返す涼羽。


ちなみに涼羽は、その優秀な成績から担任の教師である新堂 京一や進路指導の教師から大学進学を勧められたりしていたのだが、本人は大学に行くよりも社会に出たいというその意思を変えることはなく、結局就職の進路を選んでいる。

そして、その就職先は、現在もアルバイト先として働いている、秋月保育園となっている。


それを、他ならぬ涼羽自身から聞かされた秋月保育園の面々…

自ら、途方に暮れていたところにたまたま出会うことのできた涼羽をスカウトした祥吾や、保育士として涼羽と最も接してきた珠江などは、もうこの世の幸せがいっぺんに来たかのような大喜びを見せてしまっていた。

そして、それは職員のみならず、秋月保育園にわが子を預けている保護者の面々も、涼羽が正式な職員として秋月保育園でこれからも働いてくれることを、心の底から喜び、まるで子供のようにその嬉しさをむき出しにしてしまっていたのだ。


園児達も、来月からは大好きで大好きでたまらない涼羽先生が、朝から来てくれるということを聞いて、その喜びを爆発させてしまっていた。

ただ、今月で卒園となり、来月から小学生となる園児達が非常に残念がっていたのは、言うまでもない。


「はい、羽月」


いつの間にか父の抱擁から逃れ、父に渡したものと同じ包みを、そっと羽月に差し出す涼羽。

これも、これまでの高宮兄妹の、ホワイトデーとして当然のやりとりと、なっているのである。


「ん~~………!………」

「いつもありがとう、羽月。俺からのプレゼントだよ」


毎年恒例となっている、兄からの贈り物を目の当たりにして、羽月のまだまどろんでいたその意識が一瞬で覚醒する。

そして、愛らしさ満点の子犬がその喜びでしっぽを可愛らしくふりふりするかのような喜びようを見せる。


「わ~~~~い!お兄ちゃん、ありがとう!」


そして、大好きで大好きでたまらない兄、涼羽の胸の中へと飛び込むかのように抱きつき、兄の身体をぎゅうっと抱きしめてしまう。

兄の胸に顔を埋めて、すりすりと頬をよせて甘える妹のその姿が、涼羽は可愛くて可愛くてたまらないのか、ついつい幼子にそうするかのように妹の頭を優しくなで始める。

兄からのホワイトデーのプレゼントはもはや毎年恒例であるのだが、それでも当たり前のように扱うのではなく、毎年こんなにも喜びを見せてくれる羽月であるからこそ、涼羽の喜びもまたひとしおなのである。


「ほお~ら、羽月!今年はお父さんからも、あるぞ~!」


そんな仲良しな息子と娘を見て、頬をゆるゆるにしながらも、涼羽に渡したものと同じ包みを、娘である羽月にすっと差し出す翔羽。

可愛い可愛い娘である羽月が喜んでくれることを願いながら、にこにこ笑顔を浮かべている。


「!わ~~~~い!ありがとう、お父さん!」


そして、兄の次に大好きな父からも、ホワイトデーのプレゼントをもらえて、その幼さの色濃い顔に天使のような可愛らしい笑顔を浮かべながら、感謝の思いを言葉にする羽月。

そんな笑顔で受け取ってもらえて、翔羽の喜びもまたひとしおとなっている。


「お兄ちゃんも、お父さんも、だあ~~~~~~い好き~~~~~~~!!」


本当にその見た目相応の、子供っぽく可愛らしい喜びを見せながら、父と兄のことを大好きだと、無邪気に言葉にする羽月。

そんな羽月が可愛くて可愛くてたまらず、羽月に抱きつかれている涼羽もろとも、翔羽はその腕の中に宝物を独り占めするかのように抱きしめてしまう。


毎年恒例で、このホワイトデーに兄からの贈り物をもらえて、その度に嬉しそうに幸せそうにべったりと兄に抱きついている妹、羽月。

今年は、そこに父、翔羽も加わって、ますますその幸福感が増していることを、ここにいる高宮家の人間の誰もが感じている。


いつもいつも仲良しなこの三人の家族仲は、この日もさらに深まっていくことと、なるのであった。




――――




すでに高校の卒業式を済ませており、今ではもう、次の進路にへの備えとなる、最後の春休みの真っ只中となっている。

そのため、もうあの高校の校舎で顔を合わせることもないのだが、親交が深い友人などの場合は、外でもそんな友人に会いに来ようとはするもの。


この地元から最も近い大学への進学が決定している美鈴も、その美鈴と同じ大学への進学が確定している愛理も、その一人であった。


「えへへ~♪涼羽ちゃんにホワイトデーのプレゼント~♪」

「ふふ…美鈴ちゃんったら、嬉しそうね」


とあるタイミングから、本当に仲良しとなったこの二人。

今となっては、二人でこうして出かけることも少なくなく、タイプの違う美少女が並んで楽しそうに歩く様は、周囲の男性達の視線を常に惹いてしまっている。


今日のこの日は、大好きで大好きでたまらない涼羽にバレンタインのプレゼントをもらえたことが嬉しくてたまらず、そんな涼羽へのお返しの、ホワイトデーのプレゼントを贈ろうと、二人揃って涼羽のいる高宮家へと、足を進めている状態だ。


「お、なんだ。柊に小宮じゃねえか」


そんな二人の前に現れたのは、途中から高校の中でもトップクラスのイケメンとして君臨し、卒業式には女子からの告白ラッシュに迫られることとなった、鷺宮 志郎その人。


その飾り気こそないものの、素の状態で周囲の女性の目を惹く精悍で整った顔立ちに、モデルとしても通用するであろう、スラリとして均整の取れたスタイル。

さらに、気さくで人当たりがいいこともあって、自然と女子からも言い寄られたりすることが多くなっている。

以前の、この世の全てを敵に回してしまっているかのような、絶対零度の殺意に満ち溢れた雰囲気と表情がまるで嘘のような、爽やか系のイケメンへと、クラスチェンジを果たしている。


ちなみに、卒業式で展開された女子からの告白ラッシュは、志郎自身がその気になれないという理由から、全て丁重にお断りをしてしまっている。

もちろん、その時玉砕してしまった女子達がその日、枕を涙で濡らしてしまっていたのは、言うまでもない。


以前は愛理のことを「いいんちょ」と呼んでいたのだが、高校卒業することで別に委員長でもなくなるため、それを機に普通に名前で呼ぶように切り替えている。


「あ!鷺宮君!」

「あら、鷺宮君じゃない」


志郎とは、涼羽を除けばこの二人が最も親しく交流していたこともあり、美鈴と愛理の二人も志郎の姿を見て、気軽に笑顔で声を返す。


「二人してどこに………ああ、涼羽のところか」


二人揃ってどこに行こうとしているのかを聞こうとして、美鈴と愛理が手に持っている可愛らしい手提げ袋を見て、すぐに行き先にピンときた志郎。

すぐに感づけた理由は、自分も涼羽のところへと向かっているところであり、目的が同じだと思ったからだ。


「え?なんで分かったの?」


あっさりと自分と愛理の目的を言い当てられたことで、美鈴がその幼げでこぼれそうな目を丸くして志郎に問いかける。

まさか、自分の手荷物がヒントになっているなどとは、露ほども思ってはいなかったらしい。


「もしかして…鷺宮君も?」


もしや、自分達と同じ目的なのでは、と思った愛理から、志郎に対して確認の問いかけの声がかかる。

よく見れば、志郎も自分達と同じような手荷物を抱えているからだ。


「ああ、俺も涼羽のところに用があってな」


そんな愛理の問いかけの声に、あっさりと肯定の意を返す志郎。

愛理の視線が、自分の手荷物に行っていることにも気づいており、もはや隠すことでもないだろうと、その手荷物が用事の内容と言わんばかりに、美鈴と愛理の二人に見えるように前に出す。


「そっか~、鷺宮君も涼羽ちゃんにお返しするんだね~」


ようやく、と言った感じで志郎の目的に気づいた美鈴が、間延びする声で朗らかにそのことを言葉にする。


「おっと、そうそう…これは二人にだ。お返しってことでな」


そんな美鈴の言葉に、何かを思い出したかのように自分の手荷物を漁しだすと、涼羽に渡すであろうものとよく似た包装の包みを二つ、取り出す。

そして、お返しという言葉と共に、美鈴と愛理の二人にぶっきらぼうに、それを手渡す。


「え?私に?」

「いいの?鷺宮君?」

「いいもなにも、お前らも俺にくれたじゃねえか。なら、お返ししとかないとな」

「えへへ~、ありがとう!鷺宮君!」

「ふふ、ありがとう。鷺宮君」


いきなり手渡された志郎からの贈り物に、一瞬きょとんとしてしまうが、続く志郎の言葉にふんわりとした笑顔を浮かべて感謝の言葉を声にする美鈴と愛理。

ぶっきらぼうで大雑把な印象の志郎が、こんなにも義理堅く、マメなことに内心驚きを覚えながらも、素直に嬉しさをその表情に表してしまう。


美鈴も愛理も、友達ということで、涼羽だけでなく志郎にもチョコを渡していたから。


本命である涼羽と比べると、さらっとした軽いやりとりでの手渡しだったのだが、それでも志郎はそのことをしっかりと覚えていて、さらにはちゃんとお返しまでしてくれる。

これは、卒業式の時に多くの女子から告白攻めにされても納得できる好青年っぷりだと、愛理は内心思ってしまう。


「さ、行こうぜ」

「え?」

「え?」

「どうせ目的は一緒なんだろ?だったら涼羽のところまで、一緒に行こうじゃねえか」


すでに春休みであるとは言え、自身で決めた就職先である秋月保育園で、今日も園児達ときゃっきゃうふふと触れ合っているであろう涼羽のところへ、どうせ目的が同じならみんなで行こうという志郎からの、提案であるかのようで実際にはそうするということを前提にした、そんな声。


志郎のそんな声に、二人は思わず苦笑しながらも行動を共にしようと、止めていた足を再び動かし始めるのであった。




――――




「ほ~ら、みんな。いつもいい子でいてくれてありがとう。先生からのプレゼントだよ」


すでにこの秋月保育園での正式な雇用が確定している涼羽が、いつもの保育ルームでとても幸せそうな笑顔を浮かべて、園児達の一人一人に、自らが作ったマカロンの入った包みを手渡していく。


「わ~い!ありがと~!りょうせんせー!」

「りょうてんてー、あいがと~!」

「えへへ~!しゅ~ごくうれちい!りょうせんせー!あいがと~!」


大好きで大好きでたまらない先生である涼羽からのプレゼントに、園児達は本当に幸せそうで無邪気な笑顔を浮かべて、天使のような声で一人一人、涼羽にお礼の言葉を紡いでいく。


実はバレンタインの時も、涼羽からこんな感じで贈り物をされ、その贈られたお菓子が非常に美味しかったことから、今回も美味しいお菓子をもらえて非常にご満悦の状態だ。

もらえたものが美味しいお菓子であることも嬉しいのだが、他でもない涼羽が、自分達のためにこうして手作りのお菓子をくれることが、本当に嬉しくて嬉しくてたまらない。


通常ならば、衛生面の観点から見て、今涼羽がしているようなことはするべきではないのだが、普段から給食の仕込みを手伝ってくれている涼羽の手つきなどを知っている祥吾や珠江などは、むしろ推奨と言わんばかりににこにこ笑顔で見守っている。

涼羽のような天使と見間違うほどのいい子が、ここの園児達の不利益になるようなことは絶対にしないと、絶対の信頼を置いているから。


この二人も、バレンタインの時もそうだが、このホワイトデーでも涼羽の手作りお菓子をもらえているので、それもあって非常に幸せそうな笑顔を浮かべている。

何より、いつも一人でこの保育園のために一生懸命働いてくれており、さらにはその能力でこの環境をよりよくしていってくれている涼羽が、来月からは正式にこの保育園の職員となることが本当に嬉しくて嬉しくてたまらない。


涼羽のおかげでこの保育園に子供を預けてくれる保護者も増えていて、保育園の経営も右肩上がりで非常にいい状態を続けることができている。

今のところはまだスペースに余裕があるが、もっと園児が増えるようならば、思い切って保育スペースの増築もしようと、祥吾は検討している。

だが今は、ここまで決していいとは言えない給料でここまで働いてきてくれた職員のみんなに少しでもお返しをしたいという気持ちを優先させ、従業員全員の手取りをアップさせている。

もちろん、そこに涼羽が入っていないはずはなく、むしろ涼羽の給料を一番に上げて欲しいという声が満場一致であがっていたほど。

それほどに、涼羽のここでの働きっぷりは素晴らしいの一言に尽きるものなのだ。


「秋月先生!市川先生!お邪魔します!」


園児達といつものように可愛らしさ満点の触れ合いをしている涼羽を幸せそうな笑顔で見つめていた二人にかかる、元気のいい声。

声のする方には、孤児院の経営についていろいろとアドバイスをもらいにくる、祥吾や珠江からすれば非常に勉強熱心な生徒と言える志郎が、以前見たことのある女の子二人を連れてこの保育ルームまで来ていた。


「やあ、志郎君」

「おやおや、志郎君たら、両手に花だね~」


非常に育て甲斐のある教え子が姿を現したことで、祥吾の顔に穏やかで父性に満ち溢れた笑顔を浮かんでくる。

珠江の方は美鈴と愛理と一緒に来た志郎を見て、冷やかすような言葉を向けてしまう。


「あ~!おっきいにーちゃんだ~!」

「あ!かわいいおねえちゃん!」

「きえいなおねえたんも!」


以前、涼羽と四人で目一杯自分達のことを可愛がってくれたお兄さんお姉さんが来てくれたことで、園児達の顔にますます笑顔が浮かんでくる。

特に志郎はちょくちょくとここに姿を現しており、その度にここの園児達と遊んで帰るので、園児達も慣れたものとなっている。


「志郎に、美鈴ちゃん、小宮さん。こんにちは」


そして、高校の時、最も仲がよかったと言える三人が姿を見せたことで、涼羽のその可愛らしさ満点の顔にも笑顔が浮かんでくる。

そして、その笑顔のまま、自分の手作りのお菓子が入っている包みを手に、三人の元へとぱたぱたと足音を立てて近寄っていく。


「そうそう…はい、これ」


三人の前にまで寄って来た涼羽が、志郎、美鈴、愛理にそれぞれ、手に持ってきた包みを手渡していく。

その包みを見て、一瞬呆気にとられた表情を浮かべてしまう三人だが、すぐにそれが何なのか分かり、ふんわりとした笑顔を浮かべてしまう。


「いつも俺と仲良くしてくれてありがとう、これはそのお礼だよ」


しかも、こんなにも可愛らしい笑顔でこんなにも嬉しいことを言ってくれる涼羽がもうどうしようもないほどに可愛く思えてしまい、真っ先に美鈴が涼羽のことをぎゅうっと抱きしめてしまう。


「もお~!涼羽ちゃんったら本当に可愛い!だあ~~~~い好き!」

「み、美鈴ちゃん…」

「高宮君ったら…いつも仲良くしてくれてありがとう、なんて私の台詞なのに…もお…本当にありがとう」

「小宮さん…よかった…」

「涼羽…ほんとにお前って、天使みたいだよな。まじ嬉しいぜ!ありがとな!」

「志郎ったら…何言ってるの…もう…」


あのバレンタインの時、本当に美味しいお菓子をもらえて嬉しくて、今度は自分達がお返ししようと意気込んで来てみたのだが、結局はまた涼羽に先に贈り物をもらうこととなってしまった三人。

もちろん、もらえたことは本当に嬉しくて、素直な感謝の思いを言葉にしていく。


「さあ!そんな涼羽に、これ!」

「そうそう!これは、涼羽ちゃんへのお返し!」

「ふふ、高宮君い~っつも私達にくれてばっかりだから、これはほんのお返しよ」


当然ながら、この日はもらって終わり、などと言うことにさせるつもりなどなく…

三人が三人共、それぞれ涼羽に渡すべきものを手渡していく。


「え?え?これ…俺に?」

「当たり前だろ?お前以外に誰がいるってんだよ?」

「当たり前じゃない!涼羽ちゃんい~っつも私達にくれてば~っかりなんだから!私達にもお返しさせてよ!」

「そうよ、高宮君。私達、高宮君がしてくれること、い~っつも本当に嬉しくてたまらないんだからね」

「……みんな……」

「ありがとうな、涼羽。いつも俺と友達でいてくれて」

「ありがとう!涼羽ちゃん!いつも私のこと、優しくしてくれて!」

「ありがとう、高宮君。いつも私と仲よくしてくれて」

「……ありがとう…みんな…俺、すっごく嬉しい……」


いつもいつももらってばかりで、少しくらいお返しがしたいと思っていた三人の贈り物。

それを受け取り、さらには日頃からの感謝の思いをそれぞれの言葉で贈られた涼羽。

もう本当に嬉しそうで、幸せそうな、天使のようなふんわりとした笑顔を浮かべて、志郎、美鈴、愛理の三人に感謝の言葉を声として響かせる。


「あ~もう!お前って、ほんとに可愛いなあ~!」

「もうほんとそれ!涼羽ちゃんどれだけ可愛かったら気が済むのよ~!」

「高宮君ほんとに可愛すぎ!もお!」


そんな涼羽がもう可愛くてたまらなくなったのか、志郎も美鈴も愛理も涼羽のことをぎゅうっと抱きしめてしまう。

いきなりそんなことをされて、その顔に羞恥の色が浮かんでくるも、そんな風に愛されるのが嬉しいのか、抵抗らしい抵抗もできず、されるがままとなっている。


高校を卒業しても、この四人はこれからも仲良しでい続けられるであろう、そんな確信を見ている人間に持たせてくれる。

そんな仲良しな四人のやりとりを、祥吾と珠江は微笑ましく見つめているので、あった。

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