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羽月ちゃんのお兄ちゃんに、会ったよ~♪

社会人になってから、まるまるひと月仕事休むなんてこと、初めてですorz

まあ、怪我しているということで、仕方ないと割り切っていくしかないですが(笑


実家の方がいろいろドタバタしているので、気が紛れるのは紛れるんですけどね(笑

「あ、もうアルバイトに行かなきゃ」


自分にべったりと抱きついて甘えてくる、妹の羽月の友達の莉奈をひとしきり甘えさせている涼羽。

さすがに、学校を出るのがいつもよりも遅かった上、今莉奈とのやりとりで、さらに秋月保育園に到着する時間が遅くなってしまっている。


涼羽の場合は基本的には非常勤扱いなので、特に開始時刻の指定はないのだが…

それでも、早くいかないと子供達と触れ合い、お世話する時間が減ってしまうし…

さらには、先輩保育士である珠江の負担も大きくなってしまう、と、涼羽は思っている。


非常勤扱いであるにも関わらず、平日五日に加え…

土曜日も、保育がある日は出勤している涼羽。


そのおかげで、今となっては珠江の負担は涼羽が入ってくる以前と比べると明らかに減っており…

涼羽がいない間でも、涼羽のおかげで園児達が本当に聞き分けがよく、手のかからない子達になっていっていることもあり…

今では、一時のような疲れた様子を見せることも激減している。


そのため、涼羽が来れなかったとしても、以前のように負担が大きくなるか、と言われたら、それは否、と言えるような状況になっており…

まさに、園長である祥吾も含めて、みんなが無理することなく仕事をすることができる職場と、なっていっている。


そういう現状もあり、園長や珠江も、涼羽に対して――――




――――涼羽君。いつも一生懸命仕事をしてくれてありがとうございます。たまには、仕事を休んで、学生らしく、友達を遊んできたりしてもいいんですよ――――




――――涼羽ちゃん、本当にいつもありがとうね。もうあたしと園長だけでも十分に無理せずやれるくらい、ここは落ち着いているから、たまには休んで、お友達と遊んだりしてもいいからね――――




――――と、いつも仕事優先で休むことなく来てくれて…

常に、祥吾や珠江、そして、他の従業員や園児達のために一生懸命働いてくれている涼羽に、たまには学生らしく遊んでくるのもいいことだと…

二人共、涼羽にたまには休みを取るように促したりしている。


だが、当の涼羽は――――




――――ありがとうございます…でも、僕、ここのお仕事が好きで…ここにいる子供達のお世話をしたり、一緒に遊んだりするの、すっごく楽しいんです――――




――――と、休む素振りを見せるどころか、この保育園の仕事が好きだと…

そして、子供達との触れ合いが本当に楽しいとまで言ってくる始末。


それも、花が咲き開かんばかりの眩い笑顔で。


祥吾は、本当なら、家の家事全般を一人でこなして、勉学にもしっかりと励み…

そんな状況であるにも関わらず、保育園のアルバイトまで半ば無理強いをするような形で就業してもらったにも関わらず…

当の涼羽がそんなことを言ってくれて…

あまりにも健気で、可愛すぎて、思わず涼羽のことを実の子のようにぎゅうっと抱きしめ…

その頭を優しく撫でてしまった。


普段から落ち着いた印象で、そういったことをしない祥吾ですら、そうなってしまったのだから…


普段からひたすらに涼羽のことを可愛がっている珠江などは…

もうどうにもならないほどに涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらなくなってしまい…

ただ、いつものようにぎゅうっと抱きしめて頭をなでてあげるだけでは収まらなくなってしまい…

その頬に、親愛の証として、鳥が餌をついばむかのように唇を落とし続けたり、してしまっていた。


そのため、秋月保育園の従業員間での、涼羽に対する印象は非常にいいものとなっており…

誰もが涼羽のことを可愛がってしまっている。


加えて、家事全般を非常に高水準でこなすため…

最近では、少し早めに園児達が全員帰った時などは、翌日の給食の仕込みまで手伝ったり…

園児達の保育ルームのみならず、保育園の建物全体をしっかりと掃除したり…


さらには、実用的な趣味として、現在進行形で向上中のコンピュータ関連のスキルを活かして…

保育園の事務室の環境を、より無駄なく、より使い勝手をよくしていったり…

その上で、コンピュータ関連に明るくない祥吾や、他の事務員のために、より簡単に分かりやすく使えるようにと、紙ベースの帳簿を少しずつ、コンピュータ上にデータベースとして入力・参照が可能な簡易ツールを作ったりしている。

加えて、給食の仕入れや用度品の発注も、電話からメールで行なえるよう、必要かつ共通の文面を全てテンプレート化し、さらには発注先のメールアドレスも全て登録して…

非常に簡単な操作でメール発注が行なえるように、少しずつ進めていっているところだ。


当然、コンピュータ周りで分からないことは、涼羽自身がそれに対してのヘルプデスクとして対応できるため…

以前と比べて、園長である祥吾の負担はもちろんのこと…

給食担当の職員や、事務担当の職員の負担も、目に見えて減っていっている。


といった感じで、たった一人で保育園全体の負担の大きい部分を多々、軽減させていっている状態であり…

しかもそれを、非常に楽しそうに、それでいて、周囲がそれで楽になった、というと…

その言葉に非常に嬉しそうな笑顔を見せたりしてしまう。


ゆえに、秋月保育園の園長、そして従業員の総意として…

涼羽には、高校卒業後はぜひここに正規の従業員として来てもらいたいと…

その意見で満場一致の状態と、なってしまっている。


「え~…もっとぎゅってしてほしいよ~…」


だが、アルバイトがある、という涼羽の状況など知る由もない莉奈からすれば…

せっかくこうして、自分を優しく包み込んで、甘えさせてくれる存在である涼羽とここでお別れすることに、非常に抵抗感を覚えてしまっており…

涼羽のことを解放するどころか、もっと、もっとと言わんばかりに、よりべったりと抱きついてきてしまう。


「莉奈ちゃん…ごめんね。俺もう、アルバイトにいかないといけないから」


そんな莉奈が可愛く見えてしまうのか…

こんな風に駄々を捏ねられても、決して邪険にすることなどなく…

むしろ、自分が悪いといわんばかりの優しい、それでいて困った感じの笑顔を向けながら…

莉奈に離してくれるようにと、優しい声を向ける涼羽。


「む~…」

「莉奈ちゃん、また今度…ね?」

「!ほんと?また今度、こんな風にあたしのこと、ぎゅってしてなでなでしてくれる?」

「うん、莉奈ちゃんがしてほしいなら、してあげる」

「わ~い!お兄ちゃんにまた、こんな風に優しくしてもらえる~!」


どうしても涼羽と離れることが嫌で、むずがって離れない莉奈に対し…

涼羽の口から、また今度、という言葉が飛び出してしまう。


その言葉に、莉奈の曇っていた顔が嘘のように眩い笑顔になり…

来年高校生の女の子とは思えないほどに幼い感じで、その嬉しさを表してしまう。


「お兄ちゃん」

「ん?なあに?」

「お兄ちゃんの連絡先、教えて♪」

「俺の?」

「うん、だってお兄ちゃんと連絡取れないと、お兄ちゃんに会えなくなっちゃうもん」

「…そっか…」

「そうだもん。だから、あたしと連絡先、交換してね♪お兄ちゃん♪」


ただ、このままお別れしてしまうと、次に涼羽と会える保証がなくなってしまうのも事実。

ゆえに、莉奈は涼羽に連絡先の交換をお願いしてくる。


『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』のメンバーからすれば、喉から手が出るほど欲しいであろう、涼羽の連絡先。

この時こうして、偶然ながらに会うことのできたこの機会…

この機会をこれっきりで終わらせてしまうなんて、するはずもなく…

会いたくなった時に、いつでも会えるようにと…

この千載一遇のチャンスを無駄になど、絶対にできない。


「うん、いいよ」


そんな莉奈のお願いに、特に思うことなどなく…

あっさりと、首を縦に振ってしまう涼羽。


「えへへ~♪ありがと~♪」


自分のお願いに、あっさりと首を縦に振ってくれたことがまた嬉しいのか…

莉奈の顔から笑顔が絶える様子など、微塵もなく…

本当に幸せそうで、本当に嬉しそうに、涼羽のことを見つめている。


そして、そんな莉奈に見つめられながら…

涼羽は、自身の制服のポケットに入れているスマホを取り出す。


「えっと、どうしよっか…」

「あ、あたしがお兄ちゃんの連絡先、登録するから!」

「そお?」

「うん!だから、登録してから、お兄ちゃんの方に一回電話かけるね!」

「うん、分かった」


莉奈の方が、涼羽の連絡先を自分のところに登録するという流れで交換するということに決まり…

莉奈も、制服のポケットから自身のスマホを取り出す。


そして、手馴れた手つきでロックを解除すると…

続けざまに、電話帳のアプリを起動させる。


そして、涼羽のスマホのディスプレイに映っている、涼羽の連絡先を一字一字確認しながら登録していく。


一通り登録し終えると、莉奈はすぐさま、涼羽の電話番号へとコールの操作を行なう。


「あ、かかってきた」


間もなく、涼羽のスマホにコールがかかってきて…

ディスプレイには、未登録の電話番号が表示される。


「これが、莉奈ちゃんの電話番号だね」


涼羽のスマホに電話ができたことを確認すると、すぐにコールを終了させる莉奈。

涼羽の方も、着信履歴から、かかってきた番号を新規登録していく。


手馴れた手つきで、すぐさま登録を終わらせると…

一度、莉奈の方に向き直る涼羽。


「えへへ♪これであたしとお兄ちゃん、いつでもやりとりできるね♪」

「うん」

「じゃあ、お兄ちゃんに連絡するね!」

「うん。でも俺、いつも出られるわけじゃないけど…」

「電話出れなかったら、メールするから!」

「そっか、それなら大丈夫かな」


一応メールアドレスも交換しておいたので、メールによるやりとりも可能としている二人。

LINEは涼羽も莉奈も使っていなかったので、話自体が出てこなかった。


「じゃあ、莉奈ちゃん。俺急いでるから、もう行くね」

「うん!またね!」

「またね、莉奈ちゃん」

「絶対だよ~!またね!お兄ちゃん!」


こうして、ようやく、といった感じで、アルバイト先である秋月保育園へと歩を進める涼羽。

かなり急いでいるのか、そそくさと走っていってしまっている。


その後姿を、名残惜しそうにしばし、見つめる莉奈。


「えへへ…羽月ちゃんのお兄ちゃん、お話に聞いてたよりもず~っと優しくて、ず~っと可愛かった~」


自身よりも三つも年上の異性とはとても思えないほどに…

優しくて、温かくて、お母さんみたいで…

どこからどう見ても、童顔な美少女にしか見えなくて…

本当に可愛くて…


「あたし、お兄ちゃんに甘えられて、す~っごく幸せだった」


自宅にいると、どうしてもお姉ちゃんということで、しっかりしなければ、という使命感と緊張感があるため…

どうしても、不満の方が大きくなってしまう。


でも、涼羽に甘えるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれてくる。

涼羽に甘えるだけで、自分の心が本当に満たされてくる。


「もう、本当にうちの子になって、本当にあたしのお兄ちゃんになってほしいな…」


もう、涼羽のことが本当に好きで好きでたまらなくなってしまっており…

本当に、自分の家の子になって欲しいとまで思ってしまう莉奈。


涼羽と兄妹になれたら、と思うだけで、まさにこれからの人生薔薇色のような…

本当に幸せな未来しか見えないとまで、思えてしまう。


そんな妄想を繰り広げながら、そうして、その顔を少々だらしなくしながら…

莉奈は、満たされた気持ちで自宅へと帰るのだった。




――――




「えへへ~…」


翌日、羽月の通う中学校の校舎の中。

昨日のことを思い出して、またしても顔がだらしない笑顔になってしまっている莉奈。


家に帰ってからも、よほど涼羽のことが忘れられなかったのか…

ずっと幸せそうな笑顔を浮かべることとなってしまい…

家族に、『一体何があったんだろう』と、変な目で見られてしまっていた。


「どうしたの?莉奈ちゃん?」

「なんか、すっごく嬉しそうだけど…」

「何か、いいことでもあったの?」


そんな莉奈が気になったのか…

同じクラスの女子達が、揃って莉奈の方に声をかけてくる。


ちなみに、この女子達も、『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』のメンバーであり…

昨日、莉奈と同じように羽月の尾行をしていて、結局のところまかれてしまった、という結果に終わっている。


「え?うん、すっごくいいことあったよ」

「え~?そうなの?」

「なになに~?」

「教えて、教えて~」


かけられた声に気づいて、声をかけてきた女子達の方へと向き直る莉奈。

そして、その幸せ一杯の笑顔のまま、かけられた声に対して、肯定の意を示す。


そんな莉奈の反応に、どんないいことがあったのか、と…

興味津々で、聞き出そうとしてくる女子達。


「あのね、羽月ちゃんのお兄ちゃんに、会えたの」


もう、誰かに自慢したくてたまらなかったのか…

半ばドヤ顔のような感じで、あっけらかんと、昨日あった嬉しいことを話し始める莉奈。


そして、その出来事は…

『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』のメンバーにとっては…

まさに、TVに出てくるアイドルに偶然出会えたことに等しいほどの…

非常に大きな出来事と、なっている。


「!え!?ほんと!?」

「ほんとに!?ほんとにあのお兄ちゃんに会えたの!?」

「ねえねえ!羽月ちゃんのお兄ちゃん、どんな感じだったの!?」


今ここにいる女子達は、涼羽のことは佐倉姉妹が撮影してきた動画で見たことがあるのと…

実際に見たことがある生徒から話を聞いたことがあるだけで…

実際に涼羽を見たことがない女子ばかり。


ゆえに、莉奈が実際に涼羽に会えた、ということにとても興奮しており…

急きたてるような感じで、莉奈から情報を聞き出そうとしてしまう。


「えっとね、動画で見るよりもすっごく可愛かった」

「そうなの!?」

「だって、どう見たって女の子にしか見えないし、本当の女の子のあたしでもうらやましくなっちゃうくらいの美少女っぷりだったもん」

「!わ~…見たかった~!!」

「でね…ぜ~んぜん男の子って感じがしないから、ついついべったり抱きついちゃったの」

「それで!?それで!?」

「そしたら…すっごく恥ずかしがって、『年頃の女の子が気安く男に抱きついたりしたらだめ』なんて、真っ赤な顔で言ってくるから、めちゃくちゃ可愛かった~」

「なにそれ!?」

「そんなに可愛かったの!?」

「うん、もうあんなの犯罪すぎて…男の人が見たら、ぜ~ったいさらわれちゃうって思ったもん」

「わ~…見たかった~」


生の涼羽に会えた莉奈の話を聞きたくて、食い入るように身構えている女子達に対し…

本当に思い出しているだけでも嬉しくなってくるのか、にこにこ笑顔を浮かべながら、涼羽のことを話していく莉奈。


その莉奈の話を聞いていくごとに、思わず身悶えまでしてしまう始末となっている女子達。


「でね~、羽月ちゃんのお兄ちゃん、す~っごく優しくて、す~っごくお母さんみたいで…」

「うんうん!」

「それで!?」

「あたし、お兄ちゃん欲しかったから、べ~ったり抱きついて、めっちゃくちゃに甘えちゃったの」

「それから!?」

「それから?!」

「そしたら、あたしのこと、もう本当の妹にす~っごく甘えさせてくれたの。お兄ちゃんにぎゅ~ってされて…頭なでなでされて…す~っごく幸せだった~」

「なにそれ~!!いいな~!!」

「わたしも、羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘えたいよ~!!」

「いいないいな~!!莉奈ちゃんいいな~!!」


そして、涼羽が甘えさせてくれたことを思い出して、本当に幸福感に満ち溢れた表情を浮かべながら…

その時のことを、本当に幸せそうに、嬉しそうに話していく莉奈。


とろけるかのような幸せな表情で、幸せそうに語る莉奈を見て…

本当に涼羽の甘やかしが、幸せ絶頂になれるものだと、そう確信してしまう女子達。


これにより、ますますこの中学で、『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』の…

涼羽に対する憧れが強まっていくこととなり…

今度は、莉奈が涼羽と偶然会うことのできた場所を参考にしては…

莉奈と同じように、涼羽と偶然出会うことを期待して、その場所近辺を出歩く、という行動に移っていくので、あった。

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