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涼羽君と一緒に、園児達と遊んで頂けませんか?

母親が入院しました。

一応、回復には向かっているのですが…

年齢が年齢なので、どうなるか不透明なところもあります。


しばらく週末は、現在の住居と実家との往復になりそうです。

「お、涼羽が来たみたいだぜ?」

「!ほんと?」

「!本当に?」


秋月保育園の門の隙間から、じっと中を眺めていた志郎から、ぽつりと一言。

涼羽が、ようやく園児達のいる部屋に姿を現したのだ。


その志郎の言葉を聞いて、美鈴も愛理も即座に反応し…

すぐに、その門の隙間からじっと中を覗き込むように見つめている。


「!わ~…涼羽ちゃん可愛すぎ~」

「!高宮君…ツインテールが、なんでそんなに似合ってるの…」

「ハハ…もうどっからどう見ても、可愛い女の子にしか見えねえじゃねえか」


少しゆったりとしたサイズの、真っ白な無地のトレーナーに、水色のジーンズ。

そして、その長く美しい黒髪を、ピンク色のリボンでツインテールにされている。

さらには、可愛らしいデザインのエプロンも身に着けている涼羽。


どこからどう見ても、この可愛らしい美少女然とした容姿の、中学生くらいの人物が…


実際には、高校三年生の男子であるなどとは…

普通に見たら、まず誰もが分かるまい、と断言できてしまう。


そして、そんな涼羽を見て、ぱたぱたと可愛らしい足音を立てながら…

まさに我先に、といった感じで涼羽のところへと走っていく園児達。


そんな園児達を見つめる、涼羽の母性と慈愛に満ち溢れた笑顔。


本当にほのぼのとして、非常に可愛らしいその光景に…


美鈴はもう、顔がとろけてしまいそうなほどに頬を緩め…

愛理は、本物の女子である自分よりも可愛らしい、自身の想い人である男の子に、納得がいかない表情を浮かべ…

志郎は、自身が最強だと認めている親友である涼羽がここまで美少女でお母さんな姿を晒していることに、内心複雑な心境になりながらも、涼羽を見つめるその眼差しは非常に優しいものとなってしまっている。


「わ~…子供達み~んな、涼羽ちゃんにべったり懐いてる~」

「やっぱり高宮君にとって、このお仕事って、本当に天職なのかも知れないわね…」

「そら、あんな可愛いナリして、あんな風に優しく包み込んでくれるんだからな…あれで懐かねえガキなんて、いるわけねえよ」


美鈴も、愛理も、志郎も…

ここにいる三人全てが、身をもって知っている。


涼羽の母性と慈愛…

そして、それに包み込まれることの幸福感…

まるで、本当に母親に包み込まれているかのような包容力…


一度でも味わってしまえば、絶対に拒むことなどできないとまで断言できてしまう…


それほどに、涼羽の包み込みと甘やかしは威力絶大と言えるものなのだ。


もう、一人が優しく涼羽に包み込まれているのを見て…

他の園児達も、我も我もと、涼羽にべったりと抱きついてくる。


そして、そんな園児達を本当に幸せそうな、優しい表情で…

目一杯の母性と慈愛をもって包み込んでいく涼羽。


もう、見ているだけで可愛すぎると言えてしまうその光景。


美鈴は、もうその美少女顔が崩れてしまいそうなほどに頬をゆるゆるにしてしまっており…

愛理は、懸命にこらえながらも、じょじょにその頬がゆるんできてしまっており…

志郎は、ここに来るまでの道中でナンパ目的の不良に向けていたあの絶対零度の表情が嘘のように、穏やかで優しげな表情を浮かべてしまっている。


こんな、見ているだけで幸せになれる光景を見せてくれて、本当にありがとう。


三人とも、そんな心境になりながら、より食い入るように園児達に囲まれながら、一人一人を優しく包み込んでいく涼羽を、じっと見つめている。


「も~…あんな可愛い涼羽ちゃん、見てるだけなんて…こんなの生殺しだよ~」


よほど園児達にべったりと懐かれている涼羽が可愛いのか…

美鈴は、もう今の涼羽をめちゃくちゃに可愛がりたくて仕方がない、といった様子。


とにかく涼羽が可愛くて可愛くて…

大好きで大好きでたまらない美鈴。


学校でも、人目もはばからずに、思う存分にべったりと抱きついて…

恥ずかしがる涼羽を目一杯困らせながら、目一杯可愛がっているのだ。


今の可愛すぎるほどに可愛らしい涼羽を見ているだけなんて…

それこそ、美鈴にとっては目の前のご馳走をお預けされたような心境なのだろう。


「高宮君…本当に可愛い…(あんな可愛い高宮君…あんな風にして…こんな風にして…思いっきり可愛がってあげられたら…えへへ…)」


そして、脳内で涼羽をどんな風に可愛がろうとしているのか…

そして、それで涼羽がどんな反応を返してくるのか…


そんなことを妄想しているうちに、ここまで懸命にこらえて…

キリッとした表情を崩さなかったのに…

もはやそれも抑えきれなくなっているのか…

その頬をこれでもか、と言わんばかりに緩ませて…

ひたすら、脳内で涼羽を可愛がる妄想に耽っている愛理。


美鈴のように、あっけらかんと素直になれないだけに…

余計に、そういった想いを内に溜め込んでしまう愛理。


それゆえに、こういった妄想癖がよりエスカレートしていくこととなり…

その妄想で、自分の顔がどれほどゆるゆるに緩んでいるのか…

それすら、気づかないこととなってしまう。


しかし、そんなゆるゆるに緩んだ表情も…

普段の凛とした雰囲気、そして表情と比べると…

とても想像もできないほどのギャップがあり…

それがまた、妙な可愛らしさを生んでしまっている。


「あいつ…本当に可愛いよなあ…」


その可愛らしさを惜しげもなく発揮している親友を見つめながら…

ぽつりと、一言漏らしてしまう志郎。


一度、正面からのぶつかり合い、そして殴り合いまでやりあったことのある相手であるがゆえに…

喧嘩魔とまで称された自分を、一撃で倒してしまうほどの強さを持つ相手が…

とてもそんな強さを持っているとは思えないほどの可愛らしさを見せているなんて。


涼羽は男だという認識をしっかりと持っているはずの志郎でも…

ふとしたことで、その認識が揺らいでしまうことも多々ある。


クラスの女子にひたすら可愛がられているその姿は…

本当に女子にしか見えず…

男子と女子のはずなのに、どう見ても女子同士のじゃれあいにしか見えない。


そんな、可愛すぎる親友の姿を見ていると…

本当に、あの時やりあったことが、まるで夢だったかのような錯覚すら感じてしまう。


それでも、親友であることに変わりはなく…

自分にとっては、本当の意味で破滅の道から救い出してくれた恩人であることに変わりはない。


だからこそ、その凶器と言えるほどの強さで、周囲を傷つけることしかできなかった自分と違い…

こんな風に、その優しさと可愛らしさで周囲の人々に癒しを与えることのできる涼羽が…


本当の意味でうらやましくもあり…

本当の意味で誇らしくもある。


「あ!涼羽ちゃん、今度は赤ちゃん抱っこして、よしよしってあやしてる!」


ただじっと、目の保養と言わんばかりに三人が涼羽のことを見つめていると…


今度は、泣き出してしまった赤ん坊を、涼羽がよしよしとあやしている姿が、目に入ってくる。


その女神のような母性と慈愛に満ち溢れた笑顔を惜しげもなく、その赤ん坊に向けて…

心底幸せそうに、泣き出した赤ん坊をあやしているその姿は…

これまた、本当に美しく、本当に可愛らしいものとなっている。


そして、瞬く間に涼羽の胸に抱かれている赤ん坊が…

先程まで激しく泣いていたのが嘘のように笑顔になり…

その小さな手と身体を目一杯使って、涼羽の身体から離れないようにべったりと抱きついてくる始末。


そんな赤ん坊を見て、涼羽はその可愛らしさ満点の笑顔をさらに綻ばせ…

本当に幸せそうに、その赤ん坊を優しく抱きしめる。


そんな涼羽が、本当にお母さんのように見えてしまい…


「あ~…涼羽ちゃんにあんな風に甘やかしてほしいな~」


自分も、そんな風に甘やかして欲しいと、ついつい漏らしてしまう美鈴。


もともと、涼羽の家でお料理教室を開いてもらっている時は…

クラスメイトの目もないということもあり…

思う存分、といった感じで涼羽にべったりと甘えているのだ。


ゆえに、あんな風にうんと甘やかしてもらえている赤ん坊がうらやましくなってしまい…

ついぽろりと、本音と願望が漏れ出てしまったのだ。


「(ああ…高宮君にあんな風にぎゅってしてもらって…なでなでしてもらって…えへへ…)」

「(涼羽にあんな風にしてもらうのか…やべ…なんかすっげー幸せな感じが…)」


愛理は、あの赤ん坊と同じように自分が涼羽に甘やかしてもらっているところを妄想し…

盛大に頬を緩めながら、その幸福感に浸っている。


志郎も、男である自分があんな風に甘やかしてもらうということに抵抗感はあれど…

やはり、一度味わったことのあるあの幸福感には抗えないのか…

ついつい、自分にして欲しい、とさえ思ってしまう。


三人が三人共、涼羽の母性と慈愛に包み込まれたことがあるだけに…

あんな風に無邪気な笑顔で涼羽の胸に抱かれている赤ん坊を見て…

それぞれが、自分もあんな風にして欲しい、という思いがこみ上げてきてしまう。


「あ!今度は、子供達に絵本読んであげてる!」


しばしの間、妄想に耽っていた美鈴が、真っ先に涼羽の次の行動を見て声を上げる。


「わ~…高宮君…」

「いやいや…マジでお母さんじゃねえか…」


その声に気づいて、妄想から現実に回帰した愛理と志郎も、涼羽の方へと視線を向ける。


もうどこからどう見ても、若くて可愛い…

それでいて優しく、温かなお母さんにしか見えないその姿に…

愛理も志郎も、涼羽の本質を知っていながらも、驚きの声が漏れ出てしまう。


もう本当に、保母さんという職業が天職にしか見えない涼羽の働きっぷりに…

三人共、見ているだけで本当に心が癒されていく感覚を覚えてしまう。


「本当に可愛くて、優しくて…だから涼羽ちゃんって、大好き~」


もはやだらしないと言えるほどに頬が緩んでしまっている美鈴から、素直で真っ直ぐな一言。


実際、もう今すぐにでもあの場に乗り込んで…

子供達と仲良く触れ合っている涼羽をめちゃくちゃに愛して可愛がってあげたいと…

そう、本気で思っているのだから。


「………(高宮君…可愛い…あんなにも可愛い高宮君…めっちゃくちゃに可愛がって…愛してあげたい…えへへ)」


愛理の方も、言葉には出さないものの…

子供達と仲良く触れ合って、その可愛らしさとお母さんっぷりを遺憾なく発揮している涼羽のことを…

もう本当に、めちゃくちゃに可愛がって愛してあげたいと思っており…

さらには、そんな妄想に耽ってしまい…

普段は凛としたその美人顔が、もう誰が見ても分かるくらいにだらしなく緩んでしまっている。


「…涼羽…マジで可愛いよな…同じ男とは思えねえくれえに…」


志郎は、同じ男とは思えないほどにその可愛らしさとお母さんっぷりを発揮している涼羽を見て…

なんだか、自分も可愛がってみたい、とさえ思い始めてしまっている。


拳と拳のぶつかり合いまでして芽生えた、男同士の友情…

親友と呼べる存在でありながら、まるで自分にとっての好みの異性を相手にするかのような…

そんな錯覚まで覚えてしまう。


実際、涼羽が本当に女の子だったらと考えたら…

志郎にとっては、全てが好みドストライクの美少女となってしまう。


志郎本人は、そのことにまだ明確な自覚が持てないでいるのだが。


やはり、こんな自分を友達と読んでくれた存在というのが大きいようで…

涼羽のクラスの男子達のように、どう接すればいいのか、などと迷うことはなく…

普通に、男同士という意識で接している。


ただ、やはりその容姿と性格…

そして、その可愛らしさと母性、そして慈愛…

それらが、涼羽をただの男友達としての認識をあやふやにさせてしまうことは、あるようだ。




――――




「…おや?」

「?どうしました?園長先生?」


ひたすら、園児達に懐かれ、べったりと甘えられて…

その母性と慈愛を遺憾なく発揮し、そのチャームを目一杯振りまいている涼羽。


そんな涼羽を見て、もうこれでもかというくらいに頬を緩めていた祥吾が…

ふと、窓の外を見て、何かに気づいたような反応を見せる。


そんな祥吾のリアクションに、そばにいた珠江が気づき…

一体、何があったのかと、問いかけてくる。


「…門のそばから、この部屋の中をじっと見つめている人達が、いますね…」

「!まさか、不審者ですか?」


祥吾が気づいたのは、門のそばで、こちらをじっと眺めている人影。

それをそのまま表す祥吾の言葉に、珠江がハッとしたように、警戒心を高める。


「…う~ん…不審者と言うには、ただ、通りかかってたまたまあの涼羽君と園児達が目に入ったようにも見えるんですけどね」

「ああ…あんなにも可愛い光景は、誰の目にも止まってしまいますよね…」

「それに…学生さんのようですが、あの制服…」

「?制服?」

「…確か、涼羽君が着ていたものと同じ制服では、ないでしょうか…」

「!どれどれ…」


門のそばから涼羽のことを見ている、一人の高校生男子と、二人の高校生女子。

そのうちの、男子が着ているその制服。


まさに、涼羽が着ていたものと同じ制服ではないかと、祥吾は口にする。


その言葉を聞いて、珠江もその人影の方へと視線を向け、じっくりと見つめる。


「…間違いないですね。あの背の高い男子の着ている制服、涼羽ちゃんが着てたのと全く同じですね」

「やっぱり、そうですか…では、あの女子達も…」

「はい…同じ学校の制服のようですね」


珠江も、男子の着ている制服が、涼羽の着ていたものと同じであることに気づく。

そして、他の二人の女子が着ている制服も、同じ学校のものであることに気づく。


「もしかして、あの子達は…涼羽君の友達なんでしょうか…」


そして、祥吾があの三人を見て、思いついた可能性をそのまま口にする。


二人の女子は、今園児達の相手に絶賛奮闘中の涼羽を見て…

これでもかと言うくらいにその顔を緩めている。


男子の方は、涼羽のことを男子と知っているようで…

友人として微笑ましい、という表情ではあるものの…

それとは別に、どこか好みの異性を見ているかのような、複雑な表情も入り混じっている。


三人の視線は、園児達ではなく、涼羽の方に向いており…

それも、決して涼羽を害するような視線ではなく…

本当の意味で、涼羽に親愛、もしくは情愛を向けるような眼差しをしている。


「!かも、知れないですね…涼羽ちゃんくらい可愛い子なら、本当に追っかけみたいな友達とかがいても不思議じゃ、ありませんからね」


祥吾の可能性を示唆した言葉に、珠江も肯定の意を表す。


あんなにも可愛らしい、それでいて優しく健気な性格の涼羽なのだ。

そんな涼羽が、学校の中で悪い印象を持たれるはずがない。


だから、あの三人は、涼羽のアルバイトに興味を持って…

ついつい、ここまで追いかけて、見に来てしまったのかもしれない。


保育園側の人間としては、不審者でないのなら別に構わないのではあるが…

かといって、いつまでもあんな感じで中を凝視されるのも困る。


あのままだと、いずれ誰かが勘違いして…

あの三人のことを通報したりしてしまうかもしれない。


友人のことが気になって、ここまで追っかけて見ているだけであるというのに…

それだけのことで、警察まで来るような面倒ごとには、したくない。


ならば、と思い…

祥吾は教室の外へと、足を動かしていく。


「?園長先生?」


そんな祥吾の行動に、珠江が疑問符混じりの問いかけを声にする。


その問いかけに対し、祥吾は落ち着いた、優しげな笑顔で…


「ちょっと、あの子達とお話をしてきます」


それだけを言い残し、そのまま、教室を後にした。




――――




「は~…涼羽ちゃん、本当に可愛い~」

「高宮君…(ああ~…高宮君ったら、もう、本当に可愛すぎて…)」


その童顔な美少女顔に本当に幸せそうな笑顔を浮かべて…

自分にべったりと懐いてくる園児達を優しく包み込んでいる涼羽。


そんな涼羽を見て…

本当にとろけそうな程に幸せ一杯の表情を見せる美鈴。

そして、その想いを乗せるかのように、ほうっと溜息を吐きながら、美鈴と同じように幸せ一杯の表情を浮かべる愛理。


「涼羽のやつ…マジで可愛すぎるよな、ほんとに…」


自分にとって、かけがえのない親友と言える存在である涼羽が…

とても自分と同じ男とは思えないほどの美少女っぷりとお母さんっぷりを発揮しているのを見て…

微笑ましい反面、内心複雑そうな表情を浮かべる志郎。


そんな三人のところに、一人の長身痩躯の男性が、静かに近寄っていく。


そして、自身の接近にまるで気づいていない三人の高校生に対し…

まるで敵意を感じさせない、穏やかな声と口調で、三人に問いかけてくる。


「君達…この保育園に、何か御用ですか?」

「!!」

「!!」

「!!」


そんな声に、思わずびくりとしながら、慌てて声の方へと、身体ごと視線を向ける三人。


そこにいるのは、地味な印象の…

それでいて優しげで人のよさそうな男性。


さすがに、無遠慮に保育園の中を覗いていたことを悪いと思ったのか…


「あ…す、すいません!!外から無遠慮に、ジロジロと中を覗き見してしまって…」


真っ先に、愛理がその男性――――祥吾――――に向けて、謝罪の言葉を音にする。

そして、すぐさま、その頭を深く下げて、精一杯のお詫びの姿勢を取る。


「ご、ごめんなさい!!じろじろと、中覗いちゃって!!」


そんな愛理に続くかのように、美鈴も深く頭を下げながら…

謝罪の言葉を音にする。


「す、すんません!!中で俺のダチが働いてるって聞いたもんっすから、ついつい中、見ちゃって…」


そして、これまで、その理不尽ともいえるほどの強さで…

数多の不良を完膚なきまで叩きのめし、最強の不良と称されているはずの志郎までもが…

自らの非を素直に認め、愛理と美鈴と同じように深く頭を下げながら謝罪する。


そんな三人を見て、祥吾は優しげに苦笑を浮かべながら、言葉を紡ぎ始める。


「ああ、三人共、頭を上げてください。別に私は、君達を怒りに来たわけではないですから」

「え?」

「そう…」

「なんすか?」


どこまでも人のよさそうな、穏やかで優しげな祥吾の口調と言葉に…

思わず拍子抜けした感じになってしまう三人。


どう考えても、外からじろじろと中を覗いていたことを怒りに来たのだと思っていたため…

祥吾のそんな言葉を聞いて、では、一体何の用だと思ってしまう。


「少し、君達に聞きたいことがあって、君達に声をかけさせていただいたのですよ」

「?私達に…」

「?聞きたいこと?」

「?なんすか?聞きたいことって?」


自分達に聞きたいことがある、という祥吾の言葉に…

思わず疑問符混じりの声が飛び出してしまう三人。


その表情にも、その疑問が浮かび上がっている。


そんな三人の反応を見ながらも、祥吾はそのまま聞きたいことを口にしていく。


「君達は、涼羽君の学校のお友達ですか?」


まず、第一に聞きたかったこと。


先程、志郎の口から飛び出した、『俺のダチ』と言う言葉から、おそらくそうであろうという確信は得ているものの…

あえて、きちんとした問いかけをした上で、答えを聞いておきたかった祥吾。


ゆえに、最初の質問に、これを選んだのだ。


「はい!そうです!」

「私、涼羽ちゃんのお友達です!」

「あいつは、俺のダチっす!」


祥吾の最初の問いかけに、三人は目を輝かせて、はっきりと肯定の意を言葉にする。


その声と表情には、嘘などというものは、かけらも見当たらなかった。


「そうですか…」


そんな三人の答えに、祥吾はどこか嬉しそうな表情を浮かべる。


まるで、自分の子供の学校での様子を心配する父親のようだ、と。

内心で、自分自身に苦笑が漏れてしまう。


「では、続いて…君達は、涼羽君がここで働いていることを知って、ここに来たのですか?」


そんな心境を隠しながらも、祥吾は次の問いかけを声にする。


これも、三人の様子を見れば一目瞭然ではあるのだが…

それでも、あえて三人の口から、聞いてみたかった。


「そ、そうです」

「涼羽ちゃんが、ここでアルバイトしてるって聞いて…」

「で、アルバイトしてるあいつを見たくなって…俺がこの二人に声かけて、ここまで来たんす」


三人がそれぞれ、祥吾の問いかけに肯定の意を表してくる。


わざわざアルバイト先で働いている姿を見たくなるとは…

この子達は、よほど涼羽のことが好きなんだろう、と。


祥吾は、そう思い…

その顔に、優しげな笑顔を浮かべる。


「ふむ、そうですか…」


三人が三人とも、涼羽に好印象を抱き…

友人として、いい関係を築いているのだろう。


それなら、こうしても問題はないのかも知れない。


そう思った祥吾の次の言葉に、三人は目を見開くこととなる。


「では、せっかくですから…ここで涼羽君と一緒に、ここの園児達と遊んで頂けますか?」

「!え…」

「!私達が…」

「!涼羽と一緒に、ここの子供達と?」


いきなりな祥吾の申し出に、動揺と隠せない三人。

まさか、涼羽のアルバイト姿を見に来ただけなのに…

そのアルバイトに、自分達も加わることになるなんて。


「ええ…せっかく涼羽君を見に来てくれたのですから、どうせなら、近くで同じように園児達のお相手をしてもらうのも、よろしいのでないかと思いまして」


明らかに動揺を隠せないでいる三人に、優しく穏やかに言葉を紡ぐ祥吾。


そんな祥吾の意図も読めず…


どうしようかと、お互いを見合わせながら答えに迷う三人なのであった。

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