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僕、男の子ですよ?

今年の盆休みも、今日で終わりです。

今年は、いろいろとやることが多く、行くところも多かったので…


なかなか、時間を持て余さない休みになったと思います。

「おはようございます」


場所は変わって、秋月保育園の敷地内。

少しでも就業時間を長くして、みんなの負担を軽くしたい…

そんな思いで、放課後大急ぎで飛び込むように入ってきた涼羽。


この保育園で働くことに楽しみと喜びを感じているのか…

その顔には、誰の目をも惹いてしまうであろう笑顔が、浮かんでいる。


「おはよう、涼羽ちゃん」


そんな涼羽の笑顔に釣られてか…

その真剣そのものだった顔を綻ばせて涼羽を迎える珠江。


もはや珠江にとっては可愛い娘…

とも言える息子に等しい存在である涼羽。


その涼羽が笑顔でここに来てくれたことに…

珠江自身、本当に嬉しく思ってしまうようだ。


「おはようございます、高宮君」


そしてこの日は、昨日は所用でここに姿のなかった人物…

この保育園の園長であり、同時に子供達にとって優しい保父さんである…

秋月 祥吾その人が、優しい笑顔で涼羽を出迎えてくる。


「おはようございます、園長先生、市川さん」


そんな笑顔で迎えてもらえるのが嬉しいのか…

その笑顔をますます綻ばせて…

改めて二人に挨拶をする涼羽。


そんな涼羽が可愛いのか…


「も~、相変わらず可愛いね~、あんたって子は~」


もうすっかりデレデレに頬を緩めて、涼羽のことをぎゅうっと抱きしめ…

よしよしと、幼い子供にするかのように頭を撫でてしまう珠江。


初めて対面した昨日から、その可愛らしさに心を奪われ…

その健気さと働き者っぷりに、母性本能をくすぐられ…


もう珠江にとって、涼羽は本当に可愛い可愛い子供となってしまっているようだ。


「い…市川さん…僕、そんなちっちゃい子供じゃないですから…」


当の涼羽が、こういった扱いに抵抗を感じて…

どうしても恥ずかしがってしまうのも、もはやお約束といったところ。


「も~、涼羽ちゃんたら、本当に可愛いねえ~」


だが、そんな涼羽の反応が余計に珠江を煽ってしまうということに…

涼羽自身、決して気づくことはないのかも知れない。


学校から直接来ているので、その学校指定の男子の制服に身を包んでいるものの…

その可愛らしい、童顔な美少女顔に、さらりと艶のいい、腰の上まで真っ直ぐに伸びている長い黒髪。


しかも、小柄で華奢で、女の子のように丸みを帯びたボディラインということもあり…

本当に、ぱっと見ですぐに分かるであろう女の子が無理に男装しているようにしか見えないその容姿。


「(それにしても…本当に男子高校生なんですね…最も、男子の制服を着ているところを見ても、本当に美少女にしか見えないのが、またすごいところなんですが…)」


そんな涼羽の容姿に、祥吾は内心改めて驚かされてしまう。


珠江に半ば無理やりぎゅうっとされて、なでなでされて…

恥ずかしがってうつむいてしまっている涼羽が本当に可愛らしくて…

祥吾自身も、そんな涼羽をなでなでして可愛がりたくなってしまう。


もともと、子供が大好きで…

子供の世話をするのも大好きな祥吾であるがゆえに…

涼羽のような本当に可愛らしい子供は、余計に可愛がりたくなってしまうのだろう。


そんな祥吾の思いが、ついつい、祥吾の手に涼羽の頭を撫でさせてしまう。

そのさわり心地のいい髪を堪能するかのように、優しく丁寧に撫でてしまう。


「おやおや、園長先生まで涼羽ちゃんのこと、可愛がりたくなっちゃったみたいだねえ~」

「え…園長先生まで…」


そんな祥吾の行動を、ニヤニヤと意地の悪さを含んだ表情で見つめる珠江。

そんな祥吾の行動に、すでに羞恥に煽られているその心をさらに羞恥に刺激される涼羽。


「!はっ!…私は何を…」


まさに無意識でそんな行動に出てしまっていた祥吾だが…

ふと、自分のしていることに気づき、慌ててその手を引っ込めてしまう。


「よかったねえ~、涼羽ちゃん。あんた、園長先生にもこんなに可愛がってもらえて」

「だ、だから僕はそんな小さな子供じゃ…」

「何言ってんだい。あたし達から見りゃ、あんたは子供に変わりないんだから」

「そ、それはそうですけど…」

「あんたは、甘えるの本当に苦手で下手なんだから…だから、あたし達から見たら、余計にこんな風に可愛がりたくなっちゃうんだよ」

「で、でも…」

「いいから黙って、子供は大人に可愛がられてたらいいんだよ」


中学生くらいの、童顔で可愛らしい美少女な容姿だとは言え…

涼羽自身は、実際には今年で十八歳になる…

もうすぐ大人の仲間入りをする年齢の、男子なのだ。


しかし、そんな可愛らしい容姿…

そして、健気で真面目で、何より甘えることをとことん嫌うその性格が…

逆に、周囲の年長者の母性、父性をくすぐることとなってしまう。


実の父親である翔羽は、もうそれが当然であると言わんばかりに涼羽のことを可愛がっているし…

涼羽の高校の教師で、担任である京一…

それぞれの教科の担当である莉音、水蓮も…

本当に涼羽のことを常に気にかけて、可愛がっている状態だ。


特に最近では莉音も水蓮も、涼羽のことを『涼羽ちゃん』と呼んでしまう始末。


そう呼んで、可愛がる度に恥ずかしがって儚げな抵抗をしてしまう涼羽が可愛くてたまらず…

もう、二人共その整った顔をデレデレに緩ませながら、より一層、可愛がってしまうのだ。


今となっては、年下には目一杯懐かれて甘えられ…

年上には、とことんまで可愛がられ…


以前は、とことん孤独を貫いていたのがまるで嘘のように…

今の涼羽の周囲には、日に日に多くの人が集まってきている。


担任の京一からの提案で、その前髪に隠された顔を晒したことも大きなきっかけだったのだが…

それから、その秘められた可愛らしさが表にどんどん表に出てきてしまい…

単に外面だけでなく、その内面的な可愛らしさでもどんどんファンを増やしてしまっているのだ。


これが単に外見だけだったのなら、ここまで周囲の人間を惹きつけることはなかったのかも知れない。


やはり、その内面…

本当に健気で、真面目で、頑張りやで…

それでいて、誰にも優しいその性格。


それが、本当に誰をも惹きつける要因になっているのかも知れない。


「ねえ、園長先生」

「!は、はい?」

「この子、本当に可愛いだろ?」

「!い、市川さん…」


まるで、煽るかのように祥吾に問いかけてくる珠江。

そんな問いかけに、涼羽が抗議をするかのような物言いをしてしまう。


だが、そんな涼羽の物言いなど気にも留めることなく…

ただ、面白そう、と言わんばかりの表情で、じっと祥吾の方を見ている。


「…ええ、もう本当に可愛いですね」

「!そうだろそうだろ!この子、どんだけ可愛かったら気が済むんだ、っていうくらい可愛いもんね!」

「え、園長先生…」


そんな珠江の問いかけに、あっさりと答えを返してくる祥吾。

それも、珠江に同調する形で。


そんな祥吾の返答に、珠江は気をよくした感じでまくしたててくる。

一方の涼羽の方は、若干恨みがましい感じで祥吾を見てしまうが…


「…高宮君」

「?はい?」

「君は、本当に我々大人から見たら、ついつい可愛がりたくなってしまう存在なんですよ」

「!そ、それは…」

「君が本当に真面目で、健気で、頑張りやさんで…本当にいい子だということが分かっているから、というのも、もちろんあります」

「!………」

「だから、君を選んだ自分の目が間違いでなかったと思いますし、何より…それを君が自身の行いで証明してくれたのですから…」

「………」

「学生であり、自宅に帰ってからも忙しい君にこんな労働をお願いして、本当は気が引けるのですが…」

「………」

「それでも、君はしっかりと働いて、園児達の面倒もしっかりと見てくれて…市川さんが、初日なのに本当に楽させてもらってたと、おっしゃっていましたよ」

「!そんな…僕はまだ全然です…」

「…そんな風に謙虚なところも、また我々大人から見たら、本当に微笑ましくて、可愛らしいと思えてしまうのですよ」

「!そ、そんなこと……」

「…だから、君が大変な時は、我々大人がしっかりとサポートしていきたいと、私も市川さんも思っていますから…もっと我々大人に頼ってくださいね?」

「!………」

「もちろん、まだ二日目ではありますが…君は我々にとって本当に頼りになる存在だと思っています」

「あ、ありがとうございます…」

「だから、お互いに持ちつ持たれつで…頑張っていきましょうね?」

「……はい!」


優しく、心に染み渡っていくかのような、祥吾の涼羽に向けた言葉。


自分がいなかった昨日の涼羽の働きを、珠江に聞いていた祥吾は、本当に涼羽を選んだ自分の目、そして判断は間違っていなかったと…

そう、確信できたのだ。


そして、涼羽がこの先、本当にここにいなくてはならない存在であるとも、確信することができた。


だからこそ、こんな風に可愛がりたくなってしまう。

だからこそ、こんな風に支えたくなってしまう。


実際、こんな風に涼羽を持ち上げる言葉を贈っても…

当の涼羽は決してそれで増長することなどなく…

むしろ、自分はまだまだだと、謙虚になってしまっている。


だから、これからの向上が本当に期待できる。

これから、もっともっと成長して、もっともっとここになくてはならない存在になってくれる。


学生である涼羽に、自分達の理由でより苦労をかけてしまっているという思いもある祥吾。


だからこそ、大切にしていきたい。

だからこそ、一人で必要以上に無理をしてほしくない。


そんな祥吾の想いが、言葉となってその場に紡がれていく。


そんな祥吾の想いが照れくさくも嬉しいのか…

恥じらいに頬を染めながらも、はにかんだような笑顔を見せる涼羽。


そんな涼羽に、祥吾も珠江も、思わず頬が緩むのを自覚せずにはいられなかった。




――――




「やれやれ…まさかエプロンを汚してしまうとは…」


涼羽が就業準備として仕事着に着替えるため…

更衣室へと移動して、絶賛着替え中の時…


自身のちょっとした不注意により、仕事着として使っているエプロンを汚物で汚してしまった祥吾。


最年長でも四歳という、幼い盛りの子供達を預かっている以上、衛生面には神経質にならざるを得ないこの職業。

子供達の遊び道具として使われる、マーカーやクレヨンなどの汚れにも気を使っているのだ。


ましてや、それが不衛生極まりない汚物で汚れてしまったのなら…

必然的にエプロン自体を変えざるを得なくなってしまう。


そのため、慌てて自身の代えのエプロンが置いてある、従業員の更衣室の方へと…

その足を、運んできたのだ。


そして、更衣室の扉を勢いよく開き…

中に入ったその瞬間…


「!!う、わっ!!」


綺麗に霧散し、重力に従って真っ直ぐに下に伸びている黒髪…

その黒髪がカーテンのように覆い隠している、華奢で丸みを帯びた、柔らかな印象の背中。


それも、インナーとしてのタンクトップのみの状態の背中。


一瞬、どう見ても女子にしか見えないその後ろ姿を目の当たりにしてしまい…


「こ、これは失礼!!」


大慌てで更衣室の外に出て、その扉を閉じようとしてしまう。


「え?」


ところが、当の見られているはずの人物からの、まるで驚きも警戒心もない、間の抜けた声。


その声と共に、祥吾のいる方向へと振り向いていく。


「園長先生?」


現在着替えているのは、つい今しがた、ここに到着したばかりの涼羽。

つまりは、祥吾と同じ性を持つ、男子なのだ。


入ってきたのが、同じ男である祥吾であることに気づいていたため…

特に警戒も驚きもすることがなかったのだ。


「あ…ああ…涼羽君でしたか…」


祥吾の方も、更衣室で着替えていたのが涼羽であることにようやく気づき…

その安心感からか、ほっと一息、ついてしまう。


「(しかし…こうして見てると…)」


その細く、透き通るように白い、美しい肌を晒している姿。

下半身は、仕事着として自宅から持ってきている、少しゆったりとした感じの水色のジーンズに包まれているものの…

上半身は、これまた大きめのサイズなのか…

中のその柔肌がちらちらと見え隠れしてしまう、インナー用のタンクトップのみ。


本人の自己申告もあり、男子であるということは理解してはいるものの…

確かに、胸もまっ平らであるものの…

実際にこんな姿を見てしまうと…


「(本当に…可愛い女の子にしか…見えませんね…)」


どう見ても、中学生くらいの童顔な美少女にしか見えないというのが、祥吾の本音。


ウエストも、どこかくびれた感じで、しかも非常にほっそりとしており…

ヒップラインも、やや小ぶりな感じではあるものの、綺麗に丸みを帯びた感じになっており…

非常に華奢な印象で、小さな肩が、本当に庇護欲を誘うものとなっており…


自分を見ている相手が何を思っているのか分からず…

思わずきょとんとしている表情が、本当にあどけない、無防備な印象をかもし出しており…


本人には悪いけど、どう見ても今年十八歳の男子高校生には見えない。

どう見ても、中学生くらいの童顔な美少女にしか見えない。


というのが、祥吾の結論であり、本音である。


「?どうか、したんですか?園長先生?」


少し戸惑うような感じで、自分をまじまじと見つめてくる祥吾に対し…

きょとんとした表情で、問いかけてくる涼羽。


当の涼羽からすれば、自分と同じ性を持つ男性が更衣室に飛び込んできたというだけの話。

ゆえに、慌てることもなく、その肌を見られてどう思うこともない。


だが、最近は体育の授業で男子に混じって着替える時…

周囲の男子が、非常に目のやり場に困っていることにまるで気づくことのない涼羽。


あいつは男あいつは男あいつは男…


同じクラスの多くの男子達が、自分に言い聞かせるを通り越して、自分自身に洗脳をかけるようにその言葉を繰り返し唱えていること。

一部の男子が、開き直って今のように無防備にその肌を晒している涼羽をガン見していること。


多くのクラスメイトの男子達が、必死に煩悩と理性の狭間で戦っていること。

一部のクラスメイトの男子達が、完全に煩悩に負けてその視線を遠慮なく涼羽に向けてしまっていること。


そんなことにまるで気づくこともなく、当たり前のように男子達の中で普通に着替えてしまっている涼羽。


異性に対しては、過剰と言えるくらいに慎み深く…

肌を晒すことをとことん嫌い…

見られてしまった時には、もう溶けてしまいそうなほどに恥らってしまうのだが…


同性に対しては、その異常とも言えるほどの慎み深さが出てくることはなく…

逆に、あっけらかんとその肌を晒してしまう。


今この状況においても、それは全く同じであり…

肌を晒している状態の自分を見つめてくる祥吾に対し、まるで羞恥心も警戒心も働かない涼羽。


まあ、男同士であるため、当然と言えば当然なのだが。


「りょ…涼羽君…」

「?はい、なんでしょう?」


自分の容姿をまるで自覚していないため、同性に対してはあまりにも無防備な涼羽。

そんな涼羽に対し、さすがにこのままではいけないと…


一度、言い含めてはみようと、祥吾がその口を開いていく。


「君は、学校で着替える時でも…その…男子達の中で、そんな風に普通に着替えているのですか?」

「?はい…そりゃあ僕、男ですから…それは当然ですけど」


むしろ自分が女子の中に混じって着替えていたら、それこそおかしいでしょう、と。

何を当たり前のことを、と言わんばかりに…

少し面白おかしそうに微笑みながら答える涼羽。


「(いや…むしろ女子の中に混じって着替えていてもおかしくないから…心配なんですが…)」


そう。

女子の中に混じって着替えていても、まるで違和感のない容姿だから。


だからこそ、祥吾は涼羽のことが心配でたまらなくなってしまう。


こんな容姿で、思春期の男子高校生の中に混じって着替えていたりしたら…

それこそ、そのうち間違いが起こってしまうのではないのか、と。


思春期の男子高校生達からすれば…

この子のこの容姿で、こんなにも無防備に着替えられたら…

本当の意味で、目の毒ではないのだろうか。


実際、美鈴を始めとする、涼羽のクラスメイトの女子達は…

涼羽が男子達の中に混じって着替えていることに非常に危機感を覚えており…

どうにかして、今の状況を変えることはできないかと…

水面下でいろいろと四苦八苦している状態である。


ましてや、もうすでに涼羽のことを男として見られなくなりつつある男子が出てきている状況なのだから…

余計に、その危機感が大きく膨れ上がってしまう。


ゆえに、女子達はこの問題をすでに担任である京一に提起している状態であり…

京一も、それは確かにごもっともだと、同じようにその件で悩んでいる状態。


しかし、結局のところ、涼羽も他の男子達も、同じ男子生徒であることもあり…

この問題に対し、どうすればいいのか、というのが出てこないため…

結局のところ、未だに解決に至らない、もどかしい状況が続いている。


女子達は、もういっそのこと自分達と同じ、女子更衣室で着替えさせようと提案しているのだが…

それはいくらなんでもまずい、と…

担任である京一が、断固として、首を縦に振ることのできない状態になっている。


ちなみに、女子達と一緒に着替えさせる、という提案に、なぜか莉音と水蓮は諸手を挙げて賛成の状態であり…

それがまた、京一の頭をより一層悩ませる要因となってしまっている。


まあ、その案には当人である涼羽が最も拒否反応を起こしてしまいそうなのだが。


「…涼羽君は、自分が人からどんな風に見られているか、というのは、考えたりしますか?」

「?どう見られているかって…普通にただの男子高校生だと思うんですけど…」


さすがに単刀直入に切り込むのはまずいと思い…

とりあえず、無難な線で、軽く涼羽に問いかけてみる祥吾。


その問いかけに対する涼羽の答えは、やはりというか…

自身の容姿を、まるで自覚していないものであった。


「(うん…これは問題しかない…本人がこの問題をまるで自覚も理解もしていないという状況ですね…)」


病は自覚をするところからが、治療の始まりだとは言うが…

この問題も、それと同じものになるのではないだろうか。


とにかく、この子は自分の容姿にまるで自覚がないのが問題であり…

それゆえに、こんな風に無防備に着替えることができてしまうのだろう。


祥吾は、そう考える。


では、どうすればこの問題をこの子に自覚させることができるのだろう。

以前、初対面で話した時にも、この子は自分が男であるという意識が非常に強いのが分かった。


その強すぎる意識ゆえに、自分の容姿に自覚が持てないのかも知れない。


というより、自分が本当に女の子みたいだというのを、認めたくない、といった方が正解かも知れない。


この辺は、涼羽の父である翔羽も、最愛の息子にもっとそういった部分に対する危機感を持ってもらいたくて、さりげなく言い聞かせたりはしているのだが…

結局のところ、涼羽自身からは自分は男だから問題ない、という反応しか返ってこない。


「??」


祥吾の問いかけの意図が全く分からず…

その疑問をそのまま表情に表した、きょとんとした顔の涼羽。


その涼羽に、少し踏み込んだ形で言ってみようと…

祥吾は、再び口を開く。


「涼羽君…君はですね…」

「?はい?」

「こう言っては、君にとって非常に不本意なのでしょうけど…」

「??」

「君は…本当に可愛らしい女の子のような見た目なんですよ…」


本当に、この先間違いが起こらないように…

この子に、そういう自覚を持って欲しいという思い。


その思いから放たれた、祥吾の言葉。


「!!そ、そんなことないですよ!!僕、男ですし!!」


そして、そんな祥吾の言葉に対し…

やはり、と言った感じで飛び出してくる…

涼羽からの強い否定の言葉。


「(ああ…やはりこの子は、それを自覚してない…もしくは、それを自覚したくないようですね…)」


でも、これは本人に自覚してもらわないと…

今後、どんな形で間違いが起こってしまうのか分からない。


なので、ここはしっかりと言っておかないと。


「実際、私がここに来て君の姿を見た瞬間…女の子が着替えていると思って慌てて扉を閉めようとしてしまいましたから…」

「い、いえいえ!たまたまそう見えただけで…普通に見ていればそんなことは…」

「正直な話…今でも目のやり場に困るというか…」

「!な…そ、そんなことはないでしょう!?ほら、胸だって全然ないですし…」


容赦なく事実を述べてくる祥吾の言葉に、断固否定という姿勢を崩さない涼羽。


ついには、その胸元を見せようと、タンクトップの胸元を引っ張ってその胸を露にしようとしてしまう。


「!りょ、涼羽君…それはやめましょう…本当に目のやり場に困ってしまいますから…」


どこまでも自身の容姿に無自覚な涼羽の無防備な行動に、慌ててそれを諌めようとする祥吾。

今の状態でも、かなり祥吾にとって目に毒な状態なのだ。


そこから、その胸元を露になんてされたら…

祥吾は、涼羽のことをまともに見られる自信がなくなってしまう。


「!な、なんでですか?僕、男ですから、問題ないでしょう?」

「いえ…君が男の娘だということは分かっていますが、それでもそれは…」

「!今、なんか『オトコノコ』のところが違うニュアンスに聞こえたんですけど?」

「…それは、気のせいだと思いますよ…」

「!な、なんでそんな風に目を逸らすんですか?僕、男の子ですよ?」

「…ええ…男の娘ですね…」

「!なんかそれ、絶対に違うニュアンスに聞こえるんですけど?」


断固として、自分は男子だという姿勢を崩さない涼羽。

それに対し、その美少女な容姿に自覚を持ってもらおうと、頑なに言い聞かせようとする祥吾。


そんな二人の意地のぶつかり合い、とも言える口論は…

エプロンを取り替えに行った祥吾がなかなか戻ってこないことを不審に思った珠江が…

気になって更衣室に姿を現すまで、続くこととなった。

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