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涼羽のアルバイト、見に行こうぜ!

今回は、いつもよりも少し文字数が多めとなりました。


なんか、話の切り所の調整が難しくなってしまったので…

もういいや、といった感じで、書けるところまで書いてしまいました(笑)


まあそれでも、いつも通りののんびり展開なんですけどね(笑)

「さてと…急がなきゃ」


HRも終わり、放課後を知らせるチャイムも校内に鳴り響く。


クラスの皆が一息つくかのように周囲のクラスメイトと談笑したりしている中…

涼羽は、そそくさと帰る準備をし…

昨日から始まっているアルバイト先の秋月保育園へと向かうべく…

その足を踏み出そうとしたところだった。


「よ!涼羽!」

「こ…こんにちは…高宮君」


まるで涼羽を待ち構えていたかのように、涼羽のクラスである3-1に姿を現したのは…

先程、昼休みにも涼羽を訪ねてここに来ていた志郎と…

その規律遵守に対する姿勢が非常に厳しく…

周囲から煙たがられたり、敬遠されたりしている風紀委員の、小宮 愛理の二人。


かたやルール無用の最強の不良。

かたやルール遵守に非常に忠実な、まさにお堅い風紀委員タイプ。


そんな二人が、こんな風に揃って行動する、という光景も…

あの一件以来、周囲の人間が割とよく目にするようになっている。


最初の方は、まさに天変地異が起こったかのような驚愕の眼差しで、二人を見る者ばかりだったのだが…

最近はそれでも未だに『なんで?』と言った感じの疑問符混じり視線はあるものの…

それなりに慣れては来ているのか、『ああ、またか』と言った感じの視線になってはきている。


志郎の方は、このクラスに涼羽に会いに来るようになってからは…

以前とは別人と思えるほどに気さくで表情も柔らかくなったため…

しかも、長身痩躯で顔立ちも整っていることもあり…

志郎のクラスでは、密かに想いを抱く女子も、ぽつぽつと現れ始めている。


加えて、元々が竹を割ったかのようにさっぱりとした性格のため…

周囲の男子生徒とは、割とすんなりと打ち解け…

今では、それなりに気軽に話しかけてくるクラスメイトも増えてきている。


愛理の方は、あの一件以来ルールを遵守するという姿勢そのものに表面上の変化はないものの…

それでも、少しずつではあるが、人に対して融通が利くようになってきたり…

困っている生徒がいたら、ツンツンとした態度ではあるが、その手を差し伸べるように助けていったり、など…

じょじょに、周囲との溝が埋まっていっている状態である。


また、怜悧冷徹な印象が強いため、敬遠されがちだったのだが…

もともとの容姿は非常に整っており…

可愛いよりは、美人と言えるタイプの美少女である愛理。


そんな愛理が、涼羽のことであたふたとしたり…

たまたま一緒にいる志郎に、涼羽のことでからかわれたりして、ムキになって反論したり…

涼羽とちょっとしたやりとりをした時に、ふとしたことで非常に柔らかな笑顔を見せるようになったり…

などという、これまでからは考えられない面を見せるようになってきている。


それが、周囲からすればものすごいギャップとなって見えており…

そのギャップが、言いようのない可愛らしさを生んでいることもあって…

今では、少しずつではあるが、同性の友達ができ始めており…

さらには、異性である男子からは、女子としての評価が急速に高まっていっている状態ではある。


今も、ルールを守らない者に対しては容赦ない糾弾を浴びせるような愛理が…

まるで、借りてきた猫のようにおずおずと、涼羽のことを上目使いで見つめるその姿に…


「(最近思うんだけど…鬼の風紀委員って、あんな可愛かったっけ?)」

「(なんか…以前と比べるととっつきづらくてお堅い部分がなくなってきたっていうのか…)」

「(ぶっちゃけ、マジでいいよな…)」

「(いつもの風紀委員っぷりが嘘のようなあのギャップが、めっちゃ可愛いんだよな)」


このクラスの男子も、そんな愛理のことが気になっているのか…

ちらちらと、盗み見るかのように愛理を見てしまう。


もともと美人タイプの容姿に、あの怜悧冷徹な態度のため…

周囲を萎縮させる要素しかなかっただけに…

そんな愛理のこんな姿、そしてそれが生み出すギャップが、とてつもない可愛らしさを生み出している。


そんな可愛らしさに、周囲の男子が魅了されていっている今の状況。


女の子らしい可愛らしさ満点の美少女である柊 美鈴。

被弾はとっつきづらい冷たい美人タイプだが、ちょっとしたことで出るギャップが生む可愛らしさがたまらないクーデレ系美少女の小宮 愛理。


特に、美鈴の方は常日頃から涼羽にべったりとしていることもあって…

半ば、完全にあきらめている男子も多くなってきている。


そこに、愛理がそんな可愛らしさをじょじょに見せ始めていることで…

本当にじょじょに、ではあるが、男子の視線を集めるようになってきている。


「志郎に、小宮さん…どうしたの?」


可愛らしく小首を傾げながら、志郎と愛理の方へと視線を向ける涼羽。

男子の制服を着ているのにも関わらず、そんじょそこらの女子よりも圧倒的に可愛らしいその姿。


そんな涼羽の姿を見ている、周囲の男子は…


「(!まじくっそ可愛いんだけど!)」

「(なんなんだよ!あいつ!どんだけ可愛ければ気が済むんだっつーの!)」

「(なんであんなに可愛いのに、男なんだよ!ちくしょー!)」

「(ああ…涼羽たんまじカワユス…男の娘サイコー!)」

「(あ~もう!まじお持ち帰りして、い~っぱい可愛がってあげたい!)」


もはや恒例行事のように、その可愛らしさに抗うように…

自分自身をしっかりと保つように、無理やり平常心を保ち…

その高まる心を静めようと、必死になっている。


涼羽がその可愛らしさを見せれば見せるほど…

周囲の男子達は、『あいつは男あいつは男…』と、まるで呪文のように心の中で唱え続けるのだ。


ただ、もはや手遅れ、とでも言わんばかりに…

涼羽の可愛らしさを受け入れてしまっている男子も増えてきており…

到底、同性に向けるとは思えないほどの熱い視線を、涼羽に向けてしまっている者も、決して少なくはない状況となってきている。


「ああ、たまには俺らでどっか遊びにいこうと思ってな」

「俺らって…俺と、志郎と…もしかして、小宮さんも?」

「…う…うん…」

「そうそう。いいんちょもだぜ」


涼羽の疑問符混じりの問いかけに、志郎が気さくに答える。


志郎からすれば、友達と言う割には、一緒に遊びに行ったり、とかなかったよな、というのがあったのだ。

だから、せっかくだし、誘ってみるかと…

思いついたら即実行で、この放課後に、涼羽に声をかけてみたのだ。


そう思い、涼羽のクラスに足を運んでいる最中の志郎の目に、たまたま愛理の姿が見えたため…

せっかくだし、愛理も誘ってみたのだ。


涼羽のことを分かりやすいくらいに意識してしまっている愛理が、志郎にそんな誘いをかけられたその時は…




――――え!?わ、私が、高宮君と!?う、うそ!?――――




と、盛大に慌てて、あたふたとしてしまっていたのは言うまでもない。


以前と比べると、少しずつではあるが柔らかくなってきたものの…

どうしても、お堅い部分、融通の利かない部分がとれないというのはある愛理。


特に、涼羽が絡むこととなると、まるで通常通りのルーチンが壊れてしまうかのように…

盛大にテンパってしまい、周りが見てて面白くなってしまうくらいにおたおたとしてしまう。


そんな愛理を面白そうに見ながら、半ば強引にここまで連れてきた志郎。


誘うだけでこれなのだから、実際に遊びに行ったりなんかしたら、どうなるんだろう。


それを思うだけで、内心ニヤニヤが止まらなくなってしまう志郎。

そんな、まんまいたずら坊主な思考を抱きながら…

誘いをかけた、涼羽の返答を待っている。


しかし、昨日から秋月保育園でアルバイトに取り組んでいる涼羽の答えは…




「ん~…ごめんね、志郎、小宮さん。せっかくなんだけど、行けないや」




と、こうなってしまうのだ。


「え?なんでだ?なんか用事でもあんのか?」

「(そっか…高宮君…今日だめなんだ………って!!なんで私、断られてこんなに寂しくなってるの!?)」


そんな涼羽の返答に納得がいかない、といった感じで問いかけてくる志郎。

その志郎の横で、傍から見ても分かるくらいにしょんぼりとしている愛理。


その内心でも、愛理は断られたことをすごく残念に思ってしまい…

どうしてこんなにも残念で寂しく思ってしまっているのか、分からないまま…

慌てて、その考えや感情を振り払おうとしてしまっている。


「…ごめんね。俺、昨日からアルバイト、始めたんだ」


せっかく、遊びに誘ってくれている二人に、下手に取り繕うのも嫌だと思い…

素直に、正直に遊びに行けない理由を声にする涼羽。


「アルバイト?涼羽が?」

「うん」

「え?…ほ、本当なの?高宮君?」

「うん」


そんな涼羽の言葉に対し、改めて聞き返す志郎に愛理。

そんな二人の声に、さらっと肯定の意を返す涼羽。


「なんだ、そういうことか~…ちぇっ、せっかく涼羽と遊びに行こうと思ってたのによ」

「ごめんね、志郎。せっかく誘ってくれたのに」

「まあ、そういう理由があるなら仕方ないけどな」

「ごめんね」


自分にとって、かけがえのない友達である涼羽との交遊を期待していた志郎だが…

放課後はすぐにアルバイト、という涼羽の事情により、あえなく撃沈。


あからさまに残念がる志郎に対し、申し訳なさそうに苦笑しながら謝罪の言葉を音にする涼羽。


「で、どんなバイトしてんだ?」


しかし、ここで話を終わらない志郎。

どうやら、涼羽のアルバイトに興味を持ったようで…

一体、何のアルバイトをしているのかを、食い入るように聞いてくる。


「(高宮君のアルバイト……どんなお仕事、してるんだろ…)」


あからさまに残念そうに、しょんぼりとしたままの愛理も…

涼羽のアルバイトに興味があるのか…

俯きながらも、その耳はぴくぴくとしており…

今か今かと、涼羽の返答を心待ちにしている。


「え?…ああ、保育園の保父さんのアルバイトだよ」


特に隠す理由もないので、さらっと答える涼羽。

それを聞いた二人の反応は…


「え?保育園?てことは、ちっちぇーガキ達の面倒見てるってことなのか?」

「保育園…なんか、高宮君にとって、天職なお仕事…よね」


志郎の方は、明らかに驚かされた、と言った感じで、さらに食い入るように聞いてくる。

愛理の方は、最初は驚きの表情を見せたものの、すぐに納得の表情に変わる。


「そうだよ、志郎。小さい子達のお世話をしにいってるの」

「マジか…ちっちぇーガキの相手って、すっげー疲れる印象しかねえんだけど…」


志郎自身、孤児院で拾われた身である為…

自分よりも年下の子供達の面倒を見ることも機会が多かった。


しかも、志郎の孤児院では、元気で腕白な男児が多かったこともあり…

志郎はその男児達に相当に振り回された印象しか残っていない。


それでも、男児達は存外、志郎に懐いていたことを考えると…

志郎は割りと、面倒見のいい方ではあったのだろう。


「そんなことないよ。みんなすっごく可愛い子達で、すごく懐いてきてくれるから、すっごくやりがいのある仕事だよ」


と、すごく幸せそうな笑顔で答える涼羽。

もともとがお母さんな性質であることもあり…

自分にべったりと懐いてきてくれる子供達を可愛がることが、本当に幸せであるようだ。


「ふふ…やっぱり高宮君、子供のお世話とか、好きなのね」

「う~ん…好きなのかどうかは自分じゃ分かんないんだけど…でも、なんか幸せ…かな」

「そういうのを好き、っていうのよ。高宮君」

「そっか…じゃあ、好きなのかな」

「ええ。だって、保育園の子供達のことを話す高宮君、すっごく幸せそうな顔してたもん」

「そ、そお?…な、なんか、恥ずかしいな…」


愛理の方は、涼羽がやはり子供の世話が好きなんだと、優しい笑顔で問いかけてくる。


かつて、自分自身が涼羽のそんな母性的な面に触れることがあったため…

嫌でも、そうだという確信が持ててしまう。


それに対し、自分では分からない感じの涼羽ではあったが…

愛理に優しい顔で諭されて、何となくではあるが、そういう自覚を持つことができたようだ。


さらに、愛理からすごく幸せそうな顔をしていた、と言われて…

思わず照れくさくなってしまい、その頬を羞恥に染めて、少し俯いてしまい…

羞恥に染まった頬を、その指で軽くかいてしまう。


そんな涼羽が可愛くて、緩んでいる、と言えるくらいの優しい笑顔を見せる愛理。


「(うふふ…高宮君って、本当に可愛い…)」


そんな涼羽を見ているだけで、なぜか自分にほっこりとした、幸せな感じが芽生えてくる。


かつては、本当に怜悧冷徹なルール遵守の鬼であり…

笑顔らしい笑顔など、一つも見せることのなかった愛理。


その愛理から、こんな笑顔が浮かんでいるのを目の当たりにした周囲の生徒達は…


「(うわ~…マジかあれ…)」

「(あの鬼の風紀委員様が、あんな優しい笑顔…)」

「(やべ…すっげ可愛い…)」

「(普段はツンツンしてるのに…いきなりあんな笑顔とか、反則だろ!!)」

「(お、俺…マジで小宮さんのこと、狙ってみようかな…)」


これまでの怜悧冷徹なイメージが先行していたところに、それを瓦解させるような笑顔を見せられて…

そのあまりのギャップに、内心悶絶してしまっている生徒までいる始末。


実際、愛理は独り身で自分を育ててくれる母の手伝いで家事をすることも多く…

そんじょそこらの女子よりは遥かに家庭的で、料理も上手。


さらには、しっかり者で美人である、とくれば…


今まで、男子からこんな風に好みの異性として見られなかったことが不思議なくらいである。


それだけ、これまでの鬼の風紀委員としてのイメージが強すぎた、ということなのだろう。


「あ!早くアルバイトに行かないと!」


ここでハッと我に返った涼羽が、慌てて帰る準備を整えていく。

放課後すぐに出て、その足で秋月保育園に向かうのは、少しでも長く仕事できるように…

そして、他の職員の負担を少しでも減らせるようにするためなのだ。


ゆえに、一分一秒でも早く行きたい。

珠江を始めとする、あの保育園の職員に少しでも楽をしてもらいたい。

そして、自分にべったりと懐いてくれる子供達の世話を、目一杯してあげたい。


「じゃあ、俺もう行くね。せっかく誘ってくれたのに、ごめんね」

「おう!また今度、遊ぼうぜ!」

「気をつけてね、高宮君」

「うん。じゃあまたね」


大急ぎで職場である秋月保育園に向かおうというところで…

今日、せっかく遊びに誘ってくれた志郎と愛理に、改めて謝罪の言葉を述べる涼羽。


そんな涼羽を、笑顔で送り出す志郎と愛理。


その二人に見送られ、涼羽はそそくさと教室を後にした。


「…よし、行くか!」

「え?」


涼羽の姿が教室から消えるまで見送った後…

志郎が唐突に音にした言葉。


その意味が分からず、少し間の抜けた様子で聞き返そうとする愛理。


「え、じゃねえよいいんちょ」

「?何が?」

「あいつのバイト姿、すっげえ興味沸いてくると思わねえか?」

「!あ、あなたまさか…」


ここまでのやりとりで、ようやく志郎の真意に気づくことができた愛理。

まさにやんちゃないたずら坊主、という言葉が似合う、何かを企むような笑顔の志郎。

その志郎に、思わず抗議するかのような口調になってしまう。


「今から、あいつのバイト先の保育園ってとこに、行ってみようぜ!」


まさに、してやったりの表情で、とんでもないことを言い出す志郎。

志郎としては、あの涼羽がどんな風にアルバイトをしているのか、猛烈に興味が沸いたようで…

その好奇心を抑えられない、と言った感じになってしまっている。


「で、でも…高宮君のお仕事の邪魔になるんじゃ…」


最近はお堅い印象が和らいできているが、それでも根はルール遵守で常識派な愛理。

自分達が涼羽のアルバイトの邪魔になってしまったら、と思うと…

志郎の提案に首を縦に振ることなどできなくなってしまう。


「別に邪魔しに行くわけじゃねえさ。ただ、こっそりあいつのバイト風景覗きに行くだけだって」

「!だ、だめよ!そんな不審者みたいなこと!それに、それが見つかったら…」

「そん時は、あいつの友達で、たまたまあいつを見かけたからつい、って言えばいいんだよ」

「!で、でも…それに、そもそもの高宮君のアルバイト先がどこなのか…」

「大丈夫大丈夫。この辺で保育園つったら、ここから割りと近くにある秋月保育園しかねえはずだしさ」

「!あなた、まさかその場所知ってるの!?」

「もちろん知ってるぜ?」


理性とモラルが非常に強く出てきてしまう愛理ではあるが…

志郎がことごとく、それを論破するかのような言い回しをしてくる。


融通の利かない真面目な生徒を、型破りの不良がいけないことに誘っているかのような…

そんな光景になってしまっている。


「で…でも…」


愛理も、涼羽のアルバイトに興味があるかどうかと聞かれたら…

正直な話、ものすごく興味がある。


むしろ、その様子をこの目で見てみたい。

見たくてたまらない。


だが、生来の生真面目な性格が、そのたまらない程の誘惑に…

その身を委ねさせてくれないのも確か。


志郎の巧みな誘導に、もう心は完全に傾いているのだが…

その生真面目さが、最後の一線を踏み越えさせてくれない、という状態である。


「…あ~、ちっちゃなガキ達に囲まれながらきゃっきゃうふふしてるあいつ、すっげー可愛いんだろな~」

「!!!!!!」


そんな愛理の心を、完全にこちら側に向けさせるその一言。


見たい。

そんな可愛い盛りの小さな子供達の面倒を見ている涼羽を。

そんな可愛い盛りの小さな子供達にべったりと懐かれている、幸せそうな笑顔の涼羽を。


「まるで本当のお母さんみたいに、幸せそうな、嬉しそうな顔で、一生懸命仕事してるんだろな~」

「!!!!!!!!」


志郎が意地の悪い顔でしれっとつぶやいてくる一言一言に…

あまりにも分かりやすいほどに反応してしまう愛理。


もう、その反応が涼羽のアルバイト姿を見たくて見たくてたまらないと言っているようなもの。


一度、自分も包み込んでもらえたから分かる。




――――あの母性と慈愛に満ち溢れた、幸せそうな笑顔の威力を――――




――――自分の全てを包み込んでくれるかのような、あの包容力を――――




見たい。

見たい。


見たくて、見たくて、たまらない。


完全に愛理の心が、自分本位の興味に傾いた瞬間。

その瞬間を見て、志郎は自分の勝ちを、確信した。


まさに、してやったり、な表情をふと浮かべて。


「…べ、別に高宮君が見たいから行くんじゃなくて…」

「?あ?」

「…高宮君がちゃんとお仕事できてるか心配だから、行くんだからね!」

「…あ~、分かってる分かってる」

「そこのところ、勘違いしないでよね!」

「大丈夫大丈夫、分かってるから」


それでも、生真面目な愛理が人のことを盗み見するような行為に加担することに抵抗を隠せないのか…

お決まりと言えるほどのテンプレな、ツンデレの台詞まで飛び出してしまう愛理。


その顔はもう羞恥に染まっており…

恥ずかしいのを必死に堪えているのが丸分かりと言えるほど。


そんな愛理の姿がよほど面白いのか…

志郎の顔からは、ニヤニヤと悪賢い表情がちょこちょこと浮かんできている。


「(なんだよ!あれ!ほんとにあの鬼の風紀委員なのかよ!)」

「(びっくりするほど可愛いじゃねえか!なんだあれ!)」

「(ほんとにあのルール遵守魔なのか!あのルール遵守魔と同一人物なのか!)」

「(マジかこれ!まさかの生ツンデレ!キタコレ!)」

「(くっそ可愛いんだけど!鬼の風紀委員のまさかのツンデレ!)」


そんな愛理を見ていた周囲の男子生徒達は…

普段の怜悧冷徹さが嘘のような…

驚くほどの可愛らしさを全開にしている愛理の姿に内心驚きを隠せない状態だ。


「(いい!マジでいいよ、小宮さん!)」

「(俺、小宮さんにアタックしてみようかな!?)」

「(小宮さんみたいな彼女ができたら…)」


そして、鬼の霍乱とも言えるような…

普段からは想像もつかないようなツンデレな姿の愛理に…

文字通りハートを打ち抜かれた男子生徒まで現れる始末。


今この時、この瞬間を目の当たりにした男子生徒の中で…

小宮 愛理と言うルール遵守魔な、鬼の風紀委員は…


このクラスが誇る校内トップクラスの美少女である柊 美鈴と双璧をなす…

その普段とのギャップがたまらなく可愛い…

校内でも有数の美少女として、認識が改まることとなってしまう。


「私も行く!」


そして、そんなやりとりをしている志郎と愛理に、教室内に響き渡るような声。


「!柊?」

「!柊さん?」


声のする方を見ると、校内でもトップクラスの美少女として認識されている柊 美鈴がそこに、いる。

そして、ものすごく興味津々、といった表情をその美少女顔に浮かべて…

そそくさと、志郎と愛理のところにやってくる。


「涼羽ちゃんのアルバイト、私もすっごく見てみたい!」

「!ちょ、ちょっと柊さん…そんな何人も押しかけるみたいになったら…」

「だって、二人だけでいつもと違う涼羽ちゃん見に行くなんて、ずるい!」

「!ず、ずるいって…」


涼羽のアルバイト姿にもうその好奇心を抑えきれない様子の美鈴。

しかし、そんな美鈴にかかる、愛理からの待ったの声。


だが、言い出したら聞かないところのある美鈴は、何が何でも二人についていこうと、一歩も引く様子を見せることがない。


「いいじゃねえか、いいんちょ。せっかくなんだし、柊にも、普段と違う涼羽を見てもらおうぜ」


ここで美鈴の同行を勧めるように言葉を紡ぐのは…

いかにも面白そう、といった感じの表情で二人のやりとりを見ていた志郎だった。


「!ちょ、ちょっと…」

「どうせ俺らが行くってなったら、他の奴がだめ、なんて理由はないんだからよ」

「!で、でも…」

「それともあれか?他の女に、涼羽のいつもと違う姿を見られたくないってか?」

「!!な、何言ってんのよ!!そ、そんなわけ…」

「涼羽のそんな姿は、自分だけで独り占めしたいって、いいんちょは思ってるんだな?」

「そ、そ、そんなこと、ない!ないったら、ないんだから…」


意地の悪い志郎の発言に、もうタジタジの様子の愛理。

言葉では懸命に否定しているものの…

仕草や表情が、とても言葉と一致しているとは思えない愛理ではあるが。


「小宮さんだけ、そんな涼羽ちゃん独り占めなんて、ずるい!」

「!ひ、柊さんまで…」

「ぜ~ったい、私も行く!涼羽ちゃんは、私だけの涼羽ちゃんだもん!」

「!!た、高宮君は、私の………!!うう……」


あっけらかんと、涼羽は自分だけのものだと宣言してしまう美鈴に対し…

負けじと愛理も、売り言葉に買い言葉な台詞が飛び出てしまいそうになるが…

寸前でハッとしてしまい、結局、顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「よし、じゃあ柊も一緒に、涼羽のアルバイトを見に行くか」

「!うん!」

「!ちょ、ちょっと…」

「いいんちょ」

「な、なによ…」

「……涼羽のこと、独り占めしたいって思うんだったら、柊くらいあっけらかんとしないとな」

「!!!!!!!!~~~~~~~~~~~」


特に美鈴の同行を断る理由を持たない志郎は、あっさりと同行の許可を出してしまう。

その言葉に、美鈴の顔に嬉しそうな表情が浮かんでくる。


それに対して異を唱えようとする愛理。


その愛理を制するように、こっそりと耳打ちをする志郎。

そして、愛理の耳元でつぶやくように響かせた志郎の言葉の威力は絶大で…


すでに真っ赤になっていた顔をさらに真っ赤に染めて…

もうどうすることもできない、と言わんばかりにその動きを止めてしまう。


「?小宮さん、どうしちゃったの?」

「さあ?どうしたんだろうな?」

「(わ、私が高宮君のこと独り占め?高宮君が私だけのもの……えへへ……!ち、違う!そうじゃないったら!…)~~~~~~~」


そんな愛理を、きょとんとした表情で見つめる美鈴。

そんな美鈴の疑問符混じりの声に、意地悪くニヤニヤとしながら知らんふりで通す志郎。


そんな二人の視線に気づくこともなく…

ただただ、一人自らの思考に溺れ…

ちょっとにやけたり、かと思えば焦ったり…

といった百面相を展開してしまっている。


そんなこんなで、美鈴の同行も決定となってしまい…


志郎、美鈴、愛理の三人で、がやがやとしながらも…

涼羽のアルバイト先である、秋月保育園に、足を運ぶこととなった。

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