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Boundary world  作者: 里宮祐
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第5章 ミッション 6

「任務失敗は仕方がないとして、攻撃制御回路破壊プログラム――む、ぐっ――」

「しっ、君塚君。ここで、その名前は出さないで」

 亜美は、その綺麗な手で恭平の口を塞いだ。恭平はしまったと思い、そのまま頷く。恭平のその様子を確認した亜美は、手を離した。

「すぐにどうにかなることは、ないと思う」

 そう、亜美が恭平にと言うより、自分に言い聞かせるように口にした。

 恭平と亜美は、聖鈴学園に戻ってきていた。今、二人は教室に入らず、廊下で話していた。五月雨先生には、通話で任務失敗の報告を入れてある。先生は情報ミスを詫びたが、今はそれどころではなかった。

「どうして?」

 もう既に攻撃制御回路破壊プログラムは彼らメンフィスの手中にある。世界政府の存在を快く思っていない彼らは、積極的にそれを活用するはずだ。何もせずにいるとは、とても考えられない。悠長なことはやっていられない。今すぐにでも、恭平は行動を起こしたかった。めぼしい情報も、特に得られていない。

「あのプログラムは暗号化を施してある。すぐに解除することは、多分無理」

「向こうにも専門家はいるんじゃ……」

 非常時であっても、憧れを抱く亜美を相手に、強く恭平は言えない。亜美の言葉は、楽観的だと恭平は言うに言えずにいた。

「君塚君の心配はよく分かる。普通の暗号化なら、解かれてしまうと思う。でも、あれに施した暗号化は花押と日本の世界政府支部が呼ぶ八名家固有のもの。世界政府との遣り取りをする機密文書に用いている。わたしの生体認証が必要だから、すぐにどうこうすることは難しい。コピーもできない」

 恭平の言いたいことを察してか、亜美は先回りするように答えた。亜美は、恭平よりも落ち着いて見えた。

「なら、平気かな」

 亜美の言葉に、恭平は若干の安堵を覚える。花押という暗号化が存在することは、今初めて知ったが、機密文書の遣り取りに用いられているものならば、そう簡単に解くことはできないだろうと思う。

「あれの暗号化が解けないことに、彼らは焦り出すはず。必ず、わたしに接触してくる」

 普段の淡々とした口調で、亜美は話し出す。

「だから、わたしが囮になる」

「囮って、危険じゃないか。連中、三島さんを狙ってくるんだろう」

 冗談ではなかった。亜美の身に何かあったらと、恭平は気が気ではない。彼女に憧憬を刻みつけられてしまった恭平としては、看過できない。

「わたしなら平気」

 静けさを宿した虹彩の色の薄い瞳で、亜美は恭平のそれを見詰める。彼女からは、確かな自信が発散されている。白き乙女の二つ名を持つ女騎士としての彼女。恭平は、自分との差を感じて何も言えなくなった。比べるのも馬鹿らしいほど、恭平と亜美では騎士としての力量に差がありすぎた。恭平が心配するのは、無礼なことかも知れなかった。

「すぐに暗号化の解除を始めるとして、無理だと分かるのは今日の午後。慌て出す夕方、わたしと君塚君は門限を破る。わたしが、街を歩き回って連中の目に付きやすくする。君塚君は、MCIデバイスでわたしの位置を確認しながら、どこか適当な店で待機して。基本的に、君塚君はサポート」

 亜美は、簡潔に作戦を話すとARデスクトップを立ち上げ、操作する。

 恭平の目の前に、登録ID深度を上げるよう要求するホログラムウィンドウが現れる。この深度は、よほど親密な関係にある者同士でなければ設定しない。居場所などが分かってしまうからだ。恭平は、一瞬迷ったが、亜美の目に促されYESをタップする。

「これで、準備は整った。今夜、フォローは君塚君に任せる」


 二人を窺う人影があった。

 教室と教室の間にある窪みに、身体を隠して聞き耳を立てていた。恭平と亜美の会話に聞き入っている。顔は、壁に隠れ確認できないが、僅かに覗く制服と身体のラインから、女生徒であると分かる。

「そう……」

 女生徒は、恭平と亜美の話を一通り聞き終えると、一つ頷き身を隠した。

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