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Boundary world  作者: 里宮祐
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第4章 パートナー 2

「君塚、行きたいところとか、あるか?」

「そうだなー、えーと――」

 恭平は、将人や伸行と一緒に、セントラルの街へ繰り出そうとしていた。そのとき、

「一年B組の三島亜美さん。それと、君塚恭平君。大至急、担任の時任――わたしのところに来るように。一年B組の――」

 恭平の言葉を遮るように、時任先生の声が校内放送で響いてきた。

「げ、こんなときに」

 将人は、あからさまに嫌そうな顔をした。

 恭平も、なんて間の悪さだろうと思う。ちょうど、守衛のいる校門に差し掛かったところだった。

「昨日に続いて今日もか。何だろうね?」

 首を傾げつつ、伸行は折り曲げた指を顎にあてがい、思慮を顔に浮かべる。それは、いかにも様になっていた。

「三島さんも呼び出しを受けてる」

 自分のことよりも、恭平はそちらの方が気になった。昨日、恭平と亜美は夕出博士に用があり来るように言われた。恭平のオーバーライドプロトコルの調整は、今日終わるはずだ。亜美もそれかと思った。

「ゴメン、氷室、佐山。俺、行ってくる」

 二人にそう告げると、恭平は校舎へと戻った。


 職員室に入り五月雨先生の席の方を見ると、既に亜美が来ていた。

「悪いわねー、急に呼び出しちゃったりして」

 にこにこと、五月雨先生は卵形の整った顔に、笑みを浮かべている。

 妙高博士の姿はない。てっきりオーバーライドプロトコルに関してかと思っていたのだが、違うようだった。恭平は、疑問の視線を亜美に向ける。亜美は、特に感情を浮かべぬ屈託のない美貌で恭平を見ると、一つ頷いた。

「君塚君も来ました。何でしょう?」

 亜美が口を開いた。相変わらずその口調は、淡々としている。

「ねぇ、三島さん、君塚君」

 五月雨先生は幾分身を乗り出し、珍しく真面目な顔をした。

「二人だけなの。どこのパーティーにも所属していないのは」

 そう言いつつ、困ったような表情を見ていても作為的と分かるよう、浮かべる。

「特に、三島さん」

「はい」

 少々怖い声で名指しされても、亜美は動ずるふうを見せない。

 恭平は亜美に観察する視線を送る。あれを意識してやっているなら、大したポーカーフェイスだと思う。五月雨先生が亜美の名を呼ぶ一言の口調の鋭さで、恭平はギクリとしてしまったというのに。

 メディアで顔を不特定多数に晒すときでも普段でも、亜美は変わることがない。感情が乏しい面はあるのだろうが、鈍感というのとも違うと恭平は思う。実物の亜美と出会ったとき、恭平が危機に陥ると確かな感情を顕わにしていた。

 溜息を吐きたいほどだった。そうして見ていると、恭平はどんどん亜美を見入ってしまう。その美貌は当然魅力的ながら、細すぎずほどよい起伏のある全身はとてもナチュラルですんなり恭平の異性への憧れを刺激してくる。元々、微かな憧れを抱いていた遠い存在だった亜美。そんな女の子が今は目の前にいる。もう、憧れるだけでは足りないのだ。

 いつの日か、亜美にも意識される存在になりたいと恭平は思う。現状を考えれば、それがいかに大それた願いか実感してしまうが。中学時代、何があったか知った今でも、恭平は亜美に手を伸ばしたいと思ってしまう。この辺り、鈍いのか図々しいのかは、本人にも分からない。

「このままだと、単位を落としてしまうわよ。三島家の令嬢で、白き乙女の二つ名を持つあなたが留年なんてことになったら、世間体が悪いんじゃない? わたしも、多分、責任を追及されるわ」

 わざとらしく五月雨先生は、溜息を一つ吐く。その声が、恭平を現実に引き戻す。

「あのー」

「何? 君塚君」

 話が全く見えない恭平は、おずおずと尋ねた。

 どうして、亜美が留年云々などということになっているのか、理解できない。

「俺や三島さん、何か問題があるんですか?」

「誰とも組んでいないことが問題なのよ。君塚君も、聖鈴学園の高校生以上の生徒は、任務に就くことは知ってるわよね。当然、授業の一環だから、一定以上の成果を上げられなければ、単位を落とすことになる」

「一応は……でも、三島さんなら問題ないんじゃ。この前も、七人の騎士と戦士相手に、一人で対応してしまいましたし」

 任務ならば、亜美は有利であろうと、恭平には思える。

「高校生は研修期間ということで、単独で任務に就くことは許可されていません。三島さんの実力は認めるけれど、サモンポリスといった仕事の性格上、他者との連携を求められます。なので、誰とも組んでいないでは、任務に就けないのよ。集団での対処を学ぶ必要もあるから」

「だから、パーティーって……」

 なるほどと、恭平は納得した。

 転校したての恭平は、確かに誰とも組んでおらずパーティーにも所属していない。任務に就けなければ、単位取得に必要な任務をこなせない。それに、亜美が誰とも組んでいないというのも、分からなくない話だった。きっと、中学時代のことが影響しているのだろうと、恭平は思う。亜美の心にも影を落とした。亜美から声をかけなければ、皆遠慮してしまう。

「そこで、先生考えました」

 パンと、五月雨先生は、それなりの大きさのある胸の前で手を打ち合わせた。

「三島さんと君塚君。二人でパーティーを組みなさい。誰とも組んでいない三島さん。転校したてで、右も左も分からない君塚君。案外、ちょうどいいと思うわ。君塚君の指導をしてくれる人が誰かいないかって考えていたところだから」

 いい考えというように、五月雨先生はうんうんと頷いている。

「俺と三島さんが……」

 いかにもミスマッチと恭平には思えてならない。きっと、亜美の足を引っ張ってしまうことだろう、と。

「ええ。いい考えでしょう」

 五月雨先生は、得意顔だ。とっておきのアイディアと思っている顔だ。

「わたしは、反対です。君塚君の腕では、わたしと組んでも役には立たない」

 淡々とした口調で、亜美が当たり前のように言った。

 それを聞いた恭平は、全身に冷や水を浴びせかけられたようにビクリとし、硬直した。亜美の口から、そのようなことを言われるとは思ってもいなかった。しかも、こうもはっきりと本人がいる前で。本心では足手まといと思いながらも、亜美ならば表面上は優しく接してくれるものと、恭平は思っていた。だが、違った。

 これ以上はないというほど、恭平は落ち込んだ。上目がちに亜美を見る。

「それは、問題ではないわね。正直、三島さんなら、一人でも任務を遂行できるはずよ。君塚君がここに来る経緯を知ってる三島さんだから、組ませるの。監督役だと思ってくれても構わないわ。君塚君が戦力外なのは先生も分かってるから」

 ちらりと、意地の悪い目を、五月雨先生は恭平に向ける。

 亜美と五月雨先生に散々なことを言われ、恭平はいたたまれない。恥ずかしさで、頬が赤くなる。正直、逃げ出したかった。

「わたしには、人を指導する資格なんてありません。きっと君塚君を潰してしまう。彼には、可能性がある。多分、まだ表に出てないだけで素質も。それを摘むような真似はできません」

 その言葉を口にするときの亜美は、普段の淡々とした彼女ではなく痛切に耐えるような雰囲気があった。

「だからよ。もう前に進みなさい」

 厳しい視線を、五月雨先生は亜美に注ぐ。

「でも――」

「これは、担任として、教官としての命令です。ここは普通の学校じゃないから、上官の命令には従ってもらいます。話は以上。さ、もう帰っていいわよ」

 反論しようとする亜美の言葉を遮り、反駁を許さぬ厳格な口調で五月雨先生は言い渡した。

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