第1章 覚醒 1
樹木に覆われた広大な庭園が、頭上高々と――地上二〇メートルの位置にあった。
それは、見る者を圧倒してくる。空中に大庭園が存在しているのだ。名称は、ずばりそのもの空中庭園だった。古の七不思議に因んで、そう名付けられた。第一区セントラル駅中央口の真ん前にその不思議な光景はあった。空中に浮かぶように存在する建築技術の粋を凝らされた大庭園を、恭平はわざわざ地上口へと出て見上げていた。
実際、空中庭園へ入ると凝った大公園といった感覚だ。下から見てからこそ、大きさと珍奇さが、見る者に圧巻を与えてくる。君塚恭平は、久し振りに第一区へと来た。今日は土曜日。春先から通い始めたばかりの高校も休みで、少々、暇を持て余していたからだ。高校生活が始まって約一週間。ちょっと、一人で出かけたくなったのだ。運命の出会いとやらでもあれば、との下心もあった。
ナビアプリを起動させているため、拡張現実《AR》環境で数本のガイドカーソルが恭平に行き先を指し示してくる。その内の一つ、長々としたエスカレーターへ向かうカーソルに従い歩く。恭平は、あまり第一区セントラルに来たことがないのだ。
旧名を東京と呼称されたこの首都は、約七〇年前の再開発にともない名称をアトラスと変えた。世界中の全ての首都がその名前になった。それが意味するところは、世界がある程度一つに纏まりつつあるということだ。
それを嫌がる者もいるが、恭平が生まれる前の出来事なので、今の世界を当たり前に彼は受け入れている。同年代の者たちは、皆そうだ。少なくとも恭平が知る限りに於いては……。
日本のアトラスは、二七の区に別れている。第一区はそれらの中核をなす区であり、セントラルと呼称される。因みに、恭平は第一七区に生まれてこの方住んでいる。
セントラルまでリニアモノレールで一五分といったところだが、時間はともかく距離的にはかなり離れている。アトラスは都会であったが、その中でもここは最も栄えていた。自然、都市部の中でも上流の者や流行りの先端を行く者たちが多い。同じアトラスと名付けられたこの都市に住んでいながら、少し前まで中学生だった恭平には縁遠い場所だった。敷居が高かったのだ。
だが、恭平は今月初旬高校生となった。さすがにその年代に相応しい嗜みが必要だった。だから、休日を利用して一人気ままにセントラルへとやって来て、気の利いた場所くらい知っておこうと思ったのだ。ナビアプリを起動させているのは、お勧めスポットなどを自動的に教えてくれて助かるからだ。
この時代、AR環境は格段に進歩を遂げた|マルチコミュニケイトインプラント《MCI》デバイスといったナノマイクロチップを外科的処置なしで脳に埋め込んでいる。MCIデバイスと略称されるそれは、脳と量子接続を行うこの時代なくてはならないものだ。思考と連動したホログラムなどによる拡張現実などを与えてくれる。本来光学機器により生み出されていたホログラムを、空間に存在する原子へ量子力場により干渉することで、任意の場所に出現させられる。それは、この時代のARの真骨頂とも言うべき技術だ。
その恩恵にあずかりながら、
〈日本一長いエスカレーターを彼女彼氏といかが?〉
と、恭平以外には聞こえないガイダンス音声が、直接頭に語りかけてくる。恭平が、向かった先から判断しての案内だ。
事実、恭平はその日本一長いと言われるエスカレーターへ向かっている。それを利用するのは、昔遠足で体験した以来だ。どことなく、自動階段に足を乗せることがこそばゆく感じる。ちょっとしたお上りさん的な感覚に襲われる。
小学生以来だった。このエスカレーターから空中庭園へと行くのは。恭平は風景を見晴るかす。それほど離れていない場所に立ち並ぶ高層ビル群は、切り揃えたように皆同じ高さだ。統一美とも言えなくもない光景だが、そこはかとない圧迫感を恭平に与えてくる。
地上二〇メートルの高さをゆったり上へと運ばれるのは、嫌な感覚はしなかった。これまで持ち得なかった俯瞰を与えてくれる。セントラルの街並みが、よく見えた。だがやはり、閉塞感を恭平に与えてくる。圧迫感である。
高層なビルの高さが、どうしても気になってしまう。
「頭を押さえつけられてるみたいだ」
ぽつりと、恭平は独り言を口にした。
恭平を運ぶエスカレーターが終点に着くと、そこには緑の多い広大な敷地が広がっていた。洋風の大庭園。地面のタイルには、円形の色とりどりの発光体が一定の間隔で埋め込まれている。夜来れば、とても綺麗に違いない。デートスポットとしても、有名だった。
巨大なショッピングモールともなっており、周囲には様々な店舗ビルが建ち並び賑やかな印象を与えてくる。空中庭園の辻々には、カフェが多数ありそれなりに客がいた。ビジネスマンふうの者。学生やカップル。恭平同様一人でいる者も多い。恭平は、少しだけホッとした。一人でこのような場所に来て、奇異な目で見られるかもと思っていたからだ。
だが、それは杞憂だった。日本の首都アトラス。そこの中心地である。様々な人間がいて当然だ。他人との距離感をきちんと保てる見方によってはドライである人間たちの集合体。恭平は、それが嫌いではなかった。安心感が生まれてくる。他人と他人は、置くべき距離が存在していると、約一五年の人生で恭平は学んでいる。
まだお小遣いに余裕のあった恭平は、ちょっと何か飲もうと適当にカフェを探す。カップルがいる店は自然と避けた。自慢ではないが、恭平はこれまで女の子と付き合ったことがない。なのに、異性と仲良くしている様を見せつけられるのは、ご免だった。
こぢんまりとして雰囲気の悪くないカフェテラスを見付け、恭平は席に着く。途端、自動認証されたMCIデバイスをとおしてお洒落な注文メニューが、ホログラムウィンドウで開く。恭平はカプチーノを注文した。
ほどなくして、これはさすがに人が――若いウェイトレスが注文の品を持ってきた。苦くもあり甘くもある匂いが、周囲に漂った。ウェイトレスが下がると、スティックシュガーをさらさらとカップに注ぎ込み、小さめのスプーンでかき混ぜる。一口飲むと、匂いと同じく苦くて甘い味が、口の中に広がった。
外縁に面した店であったので、下を見下ろせた。無数の人々が行き交う姿が見える。ホッと一息、恭平はついた。質のよいひとときを過ごせると思えた。そのとき――、
恭平の視界をチカリと光が掠めた。
そして、轟音。
辺りは、騒然となった。休日の午後である。皆、気が緩んでいた。そこに、日常ではないものが紛れ込んだのだ。
「何だ?」
恭平も、変事に席から腰を浮かせた。
何ごとが起きたのか確かめようと、周囲を見回す。青白い光の粒子が視界を掠めた。
「召喚装甲?」
一瞬見えたそれは、人型をしていたのでスカイバイクなどの光ではないと悟る。空を飛んでいることに、違和感を覚えたが。
店舗ビルの一つに、煙が上がっていた。
「きゃー」
「サモンスーツを着た奴が暴れ回ってる」
「なんだって、こんな場所で」
「全く、世界中でこんな犯罪ばかり」
皆、混乱していた。それは、恭平も同様だった。
シュッシュッシュッという微かに聞き取れる連続音の後、爆ぜたような轟音が響く。
――魔弾砲?
恭平は、乏しい軍事知識を総動員して、事態を理解しようと努める。機動装甲――中でも戦闘用のサモンスーツと呼ばれる物には、盾裏などに魔弾速射砲が装備されていて、遠距離攻撃が可能だ。恐らくそれだと、恭平は思う。一般庶民でしかない恭平が頭に疑問符を浮かべながらでしか分からないのも無理はない。
二人のサモンスーツを装着した人影を恭平は視認した。背後へ腰部の両側から突き出た可変ウィングを有した小型の複雑な機械部分から、燐火粒を噴出し飛び交っている。その動きは高速で、距離もあったためちらりと見えただけだ。
空色と銀色。それだけを、恭平の網膜は捕らえた。
騒然となった周囲は、空中庭園から逃れようとする者たちでパニックとなっていた。その中で、恭平はぐずぐずしていた。非常時だというのに、一体何者がサモンスーツを装着し、街中も街中、第一区セントラル駅前で戦っているのだろうといった、興味が湧いたのだ。その興味は、とても危険なものだった。
「サモンスーツ違法所持者による悪ふざけなのか? 空を飛んでるって、第七世代?」
何かと世間を騒がせ続ける犯罪を、恭平は想像した。最強兵器としてサモンスーツが開発されて以来、それはずっと続いている。機動装甲の元となるものは、素体として組まれた情報で一種のプログラムだ。なので、MCIデバイスで持ち運べる。一度、ネットなどに違法に出回れば、あっという間に拡散してしまうのだ。
最も犯罪に利用されるのは、セキュリティに疎かな国が有するサモンスーツだ。型などは古いが、頻繁に犯罪に使用されている。最悪なのは、軍事に優れた国の最新鋭サモンスーツのプロテクを外されたデータが流出した場合だ。装着した者の技量が互角であるならば、その国で最高の戦力を割り振らねば対処できない。そのため、国の枠を超えて組織された専門の機関が対処する。頻繁に、軍隊出動などといった事態を避ける意味合いもある。
空中庭園には、人影がなくなった。恭平以外は。
恭平は、若者特有の興味本位から、その場でぐずぐずしていた。
目の前で凶悪な犯罪が行われようと、自分は関係ないといった甘さが恭平の中にはあった。わざわざ自分など犯罪者どもも巻き込みはしないだろうといった、楽観だ。それはこの場合、結果として甘いと言わざるを得ない。それを、恭平は嫌というほど知ることになる。
先ほどから鼓膜を振るわす轟音を着弾点で発している魔弾を一つでも生身に受ければ、即死だ。我先に逃げ出した者たちの反応は正しい。決して、恭平は頭が足りないわけではないが、なかなか体験できない事態に冷静さを欠いていた。興奮していたと言っていい。この辺り馬鹿とも言えるが、恭平にはこのような戦闘に対する耐性のようなものが、あるのかも知れない。
「見えた! 何だ?」
空中庭園の外縁に身を乗り出すように見ていた恭平の目に、それは映った。銀色のシャープなデザインをしたSFティックな装甲――サモンスーツを纏った黒い人影。その人物は、全身を黒い伸縮性のよさそうな頭まで覆ったタイトなものを着用し、顔には不気味な文様が入った仮面を付けていた。その姿は、異様に映った。
「お、女?」
全身にぴっしりと張り付くような黒い衣装を銀色のシャープなデザインをした体型の出やすい銀色のサモンスーツ内に着用しているので、嫌でもその女性的起伏に富んだ体付きがよく分かる。恭平としては意表を突かれた感じた。
機動装甲――特にサモンスーツを使用した凶悪な犯罪である。若い馬鹿な男か凶暴そうな男を想像していた。顔は分からぬが、女ということに恭平は違和感を抱かずにはいられない。尤も、恭平は、世界で頻発する犯罪ながら、このようなことに疎いが……。
「待って!」
凜と女の子の声が響き渡った。
声の方へと、自然と恭平の視線が向く。そこには、空色のサモンスーツを装着した、青丹色の戦闘服をアンダーウェアとした女の子が高速で迫ってくる。
「クラディウス……第七世代サモンスーツ……」
軽い驚きに襲われながら、恭平は呟いた。それはハンサムな姿をしていた。
ASー一七型クラディウス――世界政府直属の召喚警察が使用する最新鋭サモンスーツだ。銀色のそれも、空を飛んでいることから同世代のサモンスーツであることが分かる。特徴は、背後へ腰部の両側から突き出た空制機と呼ばれる可変ウィングを持つ小型で高出力な燐火粒噴出器を有していることだ。それにより、空を自由に飛び回れるようになった。第六世代と第七世代の間には大きな壁が存在している。それまでは、あくまで地上専用であった機動装甲が、飛行能力を得たのだ。
「白き乙女……あの黒ずくめの女……サモンポリスに追われていたのか……」
呆然と、恭平はクラディウスを装着した同年代に見える女の子を見詰めた。
三島亜美――恭平は、彼女の名前を知っていた。亜美は、天才騎士としてメディアへの露出が高い謂わばアイドル的存在な女の子だ。歳は、恭平と同じ。白き乙女という二つ名を持っていて、八名家という日本で有力な家の子女でもある。ただ、口数はあまり多くなく、コメンテイターを困らせることでも有名だった。
だが、容姿に優れた亜美は庶民に人気があった。身体のラインが分かり易く露出度の高い戦闘服を着用しているため、亜美がいかに魅力的な女の子か分かる。細すぎずほどよい肉付きをした全身。青丹色の戦闘服から伸びた太股は、カモシカのように伸びやかだった。白い肌が、眩しく恭平の目に映る。胸は、クラディウスの装甲に隠れていてはっきり分からないが、盛り上がり方から標準的な大きさくらいだろうと思われる。茶色がかった肩下まで伸びた髪。そして、今は少々真剣な表情を浮かべた屈託がなさそうな顔は、精緻なまでに整った美貌を湛えていた。アクセントか、右耳に白いイヤリングを下げている。
亜美は、人に好かれる要素に満ちていた。名家の子女であるということで、一種のお姫様のように崇拝される存在である。その亜美が、恭平からさほど離れていない場所を飛んでいる。亜美は、サモンポリスであることでも有名だった。
そんな亜美が、黒ずくめの女を追っている。ならば、銀色のサモンスーツを装着した女は、悪者ということになる。尤も、休日の昼間街中で戦闘を行うのだ。その時点で、テロリストと言われても文句は言えないはずだ。
亜美は、右側の背のラックに預けた細身のロングソードを外し抜剣した。近接戦に持ち込むつもりのようだ。それをちらりと見遣った黒ずくめの女は、盾裏に装備された魔弾速射砲を連射する。
「うわっ――」
亜美に躱された白っぽい魔弾が、恭平の間近に着弾した。
数メートル、恭平は吹き飛ばされた。
「逃げ遅れた民間人?」
亜美は、初めて恭平の存在に気付いたらしく、戸惑った顔をしている。驚いた視線を恭平に向けた。
黒ずくめの女が顔に被った仮面の緑色をしたアイレンズが、きらりと輝いた。顔が向く方向から、恭平を見ている。
フォーン――低く冴えた音が響き渡る。
銀色をしたサモンスーツの空制機に、ぱっと青白い光の粒子が散った。
「こっちに来る?」
何ごとが起きつつあるのか、恭平には分からない。が、黒ずくめの女は、恭平を何らかのターゲットと認識したのだ。だからこそ、迫り来る。
恭平は必死で走った。走ったところで、サモンスーツから逃れられるはずもないと、気付く余裕もないまま。激しく上下する視界に、近くを銀と黒がよぎった。
音が近づいた瞬間、恭平は真横に転がった。
黒ずくめの女が、間近を掠めていく。一度はまぐれで躱しても、二度目はない。恭平は咄嗟に判断し、
「召喚兵装」
機動装甲召喚の音声コマンドを口にする。
たちまち、恭平は深い緑色の光に全身を包まれる。それが収まると、のっぺりとした深緑色の機動装甲に身を包まれる。それは、戦闘用のサモンスーツではなく、作業補助に用いられるアシストスーツだ。堀ソリューション製、Hー〇二型ホズミ。学生であるので、授業の機動装甲操作訓練で使用するため、MCIデバイス内に持ち歩いていた。剣や魔弾速射砲といった武装はなく、その名の通り人間の活動補助のため様々な作業に用いられる。服も私服から、アシストスーツ用のものに変わる。
「〈君、馬鹿な真似しないで。ホズミではアマルガムの相手はむり。大人しくしてなさい〉」
亜美が恭平に注意を喚起する声が、頭と耳に直接聞こえる。
機動装甲を召喚したため、思考通信が共用帯域回線に自動で繋がったのだ。距離や風切り音などで声が聞こえないことなどがないように、国際規格で定められている。意思の疎通ができなければ、機動装甲同士の使用が危険であるためだ。
だが、恭平はそれを聞いている余裕がない。アマルガムなる銀色のシャープなデザインをしたサモンスーツを装着した黒ずくめの女が迫ってきている。
第六世代にあたるホズミには、当然ながら空制機はない。なので、飛ぶことはできない。脚部にホバリング用の燐火粒噴出器があるだけだ。足下に青白い光の粒子をぱっと散らした。燐火粒を噴出させたのだ。迫り来る銀と黒から逃れようと、それだけを考えながら……。
空中庭園を、ホズミを装着した恭平が駆け抜ける。
銀色のアマルガムを装着した不気味な仮面を付けた女は、ホバリング走行をする少年を捕らえようと、腰部の空制機に取り付けられた可変ウィングの角度を変え、迫る。
脚部の燐火粒噴出器を用い、亜美と歳の変わらなそうな少年は逃げ惑っている。その動きは、考えあってのものではなかったのだろう。パニックに陥ったようで、メチャクチャな動きだ。だが、それが今に限って言えば、幸いした。仮面の女は、予想の付かない少年の動きに戸惑っているふうだった。どうしようかと迷うように、腰から突き出た空制機の可変ウィングが微かな音を立てながら、角度を変えていた。
空色のクラディウスを装着した亜美は、険しい表情を浮かべている。亜美は、世界政府直属のサモンポリス養成校の生徒だ。高校生から実習として任務に当たる。民間人を完璧に巻き込んでしまった状況のため、怒ったような表情をしている。
「〈どうして、逃げなかったの?〉」
不機嫌ながらも絹のように滑らかな呟きが、亜美から洩れる。
少年の他には、民間人はいない。皆、騒ぎが起きたとき、逃げ出したのだ。彼もそうすべきだったと、亜美は思う。
「〈アシストスーツを召喚して……いくら素人でも……〉」
亜美は、少年の行動を無謀だと思っている。いかに同じ機動装甲のカテゴリーに入るとは言っても、戦闘用のサモンスーツに作業補助用のアシストスーツでは相手にならない。アマルガムが第七世代サモンスーツでなかったとしても、逃げることも難しい。少年の行動は、愚かに亜美の目には映ってしまう。亜美は、超一流の騎士なのだ。
だから、アマルガムを装着した仮面の女に亜美は近づけずにいる。迂闊な行為で民間人――少年を危険に晒すわけにはいかないのだ。サモンスーツ同士の戦闘の近くにいるなど、論外だった。
抜剣した細身のロングソードは、その鋭利な刃も行き場をなくしだらりと下がっている。
「〈彼がいなければ、近接戦に持ち込めた……〉」
歯がゆく亜美は思う。
亜美の二つ名――白き乙女としての本領を発揮できた。魔弾砲の撃ち合いから、仮面の女もかなりの腕だと分かっていたが……。
ホズミの脚部に内蔵された燐火粒噴出器からでたらめに噴出される青白い光の粒子によって、少年はあっちこっちへ動き回る。仮面の女は、一定の距離を保ち彼を追っている。亜美と、近接戦になることを嫌がっているようだった。
それは仕方がないと思わなくもなかった。亜美は、世間に存在を知られすぎた。二つ名は公的機関が命名し与える。中学時代に白き乙女の二つ名を授かった天才騎士が相手となれば、仮面の女が近接戦を避けるのも頷けた。少年を捕らえようとしている。亜美が割り込むには、仮面の女と少年の距離が近すぎた。やけになられたら困る。
明らかに、銀色のシャープなデザインをしたアマルガムを装着した女は、少年を捕まえ亜美を牽制しようとしていた。もどかしく、亜美は思う。
「〈何の冗談だよ?〉」
恭平は、悪態を吐かずにはいられなかった。
休日、ちょっとした冒険にも似た遊び目的で第一区セントラルに、空中庭園に来ただけだ。それが、とんでもない犯罪に巻き込まれてしまった。ニュースでよく見聞きするものの、機動装甲を用いた犯罪に出くわすなどついていない。自分を追っている黒ずくめの女が装着しているのは、戦闘用機動装甲サモンスーツだ。その上、どこから入手したのか、開発されたばかりの第七世代。
それまで地上戦用として存在してきたサモンスーツの常識を根底から覆す、飛行能力を有した最新鋭サモンスーツだ。地上をちまちまホバリング走行していては、決して逃げ切れない。
「〈うわっ!〉」
恭平は、よろけそうになった。
銀色のアマルガムを装着した黒ずくめの女が、近くを掠めたのだ。捕まるのは時間の問題だった。亜美は、恭平の近くに黒ずくめの女がいるため、迂闊に手出しができない様子だった。
「〈俺は、彼女の邪魔をしているだけじゃないか!〉」
野次馬根性で空中庭園に残ったことを、恭平は後悔した。
追っ手のサモンポリスは、白き乙女とその名も高き八名家の一つ三島家令嬢である亜美だ。黒ずくめの女も、顔は知っているはず。ならば、まともに戦っても逃げ切れぬと悟っているに違いない。だから、自分を捕まえようとしていると、恭平にも分かる。
当然、恭平は亜美と話したことなどないが、憧れを彼女に前々から抱いていた。アイドル的存在である亜美は、同年代の男子であればファンが多い。容姿といい家柄といい、完璧な存在に亜美は恭平の目に映っていた。
その亜美が、今自分の無様な様を見ている。非常事態にありながら、恭平の顔は羞恥のために赤らんでいく。銀色のサモンスーツに追われているというのに。
恭平の動きは無茶苦茶だった。だが、こうでもしないと黒ずくめの女に捕まってしまう。捕まれば、恭平は一種の人質として利用されるに違いない。そんなことになれば、恥の上塗りだった。亜美は、どんな視線を自分に向けるだろうか? 犯罪者逮捕の邪魔をした自分を、軽蔑するに違いないと恭平には思える。
「〈そんなの、嫌だ!〉」
一声、恭平は吠えた。が、そこまでだった。
「〈ちょこまかと〉」
苛立ったボイスチェンジャーにより変声された不気味な思考音声と生の声が、恭平に降り注ぐ。生の声は、すぐ近くで。
「〈うわっあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〉」
悲鳴に近い声を、恭平は上げた。
自分の身体が、宙に浮いたのだ。銀色の装甲で覆われた黒ずくめの女の腕が、恭平を抱え込んだ。本来、高校生とはいえ大の男を女の細腕で持ち上げるなど無理だ。機動装甲の補助のおかげだ。
ホズミの脚部に内蔵された燐火粒噴出器は、全く役に立たない。自ら身体を自由に動かせない状況に、恭平は恐怖を覚えた。
「〈じたばたしない〉」
ボイスチェンジャーによる不気味な声は、容赦を与えてこない。
黒ずくめの女は、自らの身体の前に恭平を背後から右腕で抱きかかえていた。盾裏に装備された魔弾速射砲が、ちょうど恭平の頭部に向く位置にくる。
「〈こっちに来ないでくれるかしら?〉」
恭平の安全のため近づけなかった亜美に、黒ずくめの女が命じてくる。
その声に、恭平はまっすぐ前を見る。一〇メートルほど離れた場所に同じ高さで亜美は滞空し、じっと囚われの身となった恭平を見ていた。その瞳は、特にこれといった感情を浮かべていない。自分など、眼中にないのだろうと恭平は思う。あくまで亜美の目的は、黒ずくめの女であり恭平ではないのだ。それどころか、亜美の足を引っ張った。怒っているだろうと、恭平は思う。その証拠に、亜美の美貌はメディアを通して見たときの屈託がないものではない。それは、硬質なものだった。
「〈そんなことをしても、無意味。馬鹿な真似はやめて、彼を解放して〉」
絹糸のように滑らかな声音で、亜美は黒ずくめの女に呼びかける。
ゴツッと、魔弾速射砲の砲身が恭平の頭を小突いた。恭平は、そこから魔弾が発射されれば即死だろうと、ぞっとした。機動装甲には、シールドフィールドと呼ばれる防御壁が存在している。基本的に、通常の物理攻撃は完璧に防げるわけではないが殆どきかない。だが、魔術とこの時代呼ばれる存在が関与するものに対しては、その限りではないのだ。
ましてやサモンスーツよりも格段に劣るアシストスーツである。脳と量子接続をするMCIデバイスにより人間の精神殻を用い形成されるシールドフィールドも、強力なものではない。易々と破られることだろう。戦闘用ではないのだ。
「〈悪あがきだよ。彼を連れて逃げたところで――〉」
亜美の言葉が途中で途切れた。
燐火粒の音が複数近づいてきたのだ。
「〈そうでもないみたいよ〉」
ボイスチェンジャーを通した黒ずくめの女の声に、余裕の分子が紛れ込む。
「〈仲間がいたの?〉」
東の上空を、亜美は見詰めた。
そこには、銀色に輝くアマルガムを装着した五人が飛来してきた。いや、遅れてもう一人。その最後尾の一人も、全身を黒い身体にフィットする衣装に身を包み、仮面を付けている。装着する機動装甲は、アマルガムやクラディウスといったサモンスーツと少々異なっていて、先進的でありながら鎧を彷彿とさせるものがあった。
「〈騎士?〉」
思わず、恭平は驚きの声を上げた。
それは、騎士装甲と呼ばれる希少なものだったからだ。青銅色をしたそれを装着する者は、近づくにつれ性別が女であると分かる。
特殊な機動装甲が存在していた。人の手により組まれた素体となる情報を、召喚者自身が上書きしてしまうのだ。同じ物は存在せずそれぞれ固有のものだ。それを有する者は騎士と呼ばれる。この時代、特権を有する少数の者たちだ。それ以外のサモンスーツを装着し戦う者を、戦士と呼ぶ。
ナイトアーマーは、サモンスーツと比べるとギュッと収束されたアーマーを有し洗練されて見える。青銅色のそれは、近代的な雰囲気を持つまさに中装備の鎧といった形状だった。
「〈おかげで時間稼ぎができたわ。ありがとう〉」
恭平を後ろから抱きしめていた黒ずくめの女は、突き飛ばしてきた。
空中庭園の地面から三十メートル近く離れている。サモンスーツと違い戦闘を考慮されていないアシストスーツのシールドフィールドは、衝撃を伝えてしまう。そのまま落ちれば無事では済まない。
「〈燐火粒噴出器を全開にして。衝撃を和らげるの〉」
メディアなどで淡々とした喋り方をする亜美が、慌てた声を発した。背後に青白い光の粒子がぱっと散る。燐火粒を高出力で噴出したのだ。恭平を受け止めようと突進する。
恭平は亜美の言葉に従い、脚部から燐火粒を全開で噴出した。
「〈間抜けね〉」
黒ずくめの女戦士が亜美にまっすぐ向け、魔弾速射砲を構えた。
それは、恭平の目には、亜美を葬り去る不吉な光景そのものに映った。本能が叫ぶ。
「〈駄目だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〉」
恭平は、亜美より魔弾速射砲の発射点近くにいた。燐火粒噴出器を全開にしたため、瞬間的に浮力を得ていた。そのまま、砲身と亜美の間に入る。憧れの亜美のために。亜美は、可変ウィングを動かし、その攻撃を避けようとしていたことに、恭平は気付かない。
シュッシュッシュッ――連射される魔弾速射砲の発射音が空気を震わす。
「〈君!〉」
亜美は、驚きの声を発した。
三発の魔弾は、ホズミを装着した恭平に着弾した。易々と戦闘用ではないシールドフィールドを貫き、身体を覆った超硬度シールドも貫通して。あり得ないような衝撃が恭平を襲った。身体がその場から吹き飛ばされる。恭平は重傷を負った。血が空中を流れていく。亜美の美しい顔が、驚愕を浮かべている。それを見ながら、
【――死にたくない――】
そう、強く恭平は思った。生への飽くなき執着を持って。
空中に投げ出された恭平の身体は、頼りなく無力そのものだった。生きたいとの強い思いを抱きながらも、確実に死に近づいている。負った傷も致命的ながら、空中庭園の外縁にいたため魔弾の直撃により外へ放り出され、三十メートルどころか五十メートルの高所に恭平の身体はあった。
まだ、ホズミを消失していないためシールドフィールドは健在だったが、地面に激突する衝撃に恭平の身体が耐えられるはずもなかった。戦闘用のサモンスーツと違い、アシストスーツでは衝撃を殺してくれることもない。確実に恭平は死ぬ。
助けようとする亜美に、青銅色のナイトアーマーを装着した女騎士が、片手剣を右側の背のラックから外し、斬りかかった。亜美の助けも間に合わない。死を目前にしているせいか恭平の生命力が溢れ出し、意識ははっきりしている。その分、傷の痛みを感じはするが。
【嫌だ。こんなところで、女の子とろくに恋愛もしたこともないまま死ぬだなんて】
強い思いが恭平の中で渦巻く。
【理想の女の子が、今、目の前にいるのに……】
恭平は、青銅色のナイトアーマーと交戦する亜美を見た。技量では、確実に相手を押しているが、敵は後から現れた黒ずくめの女騎士ばかりではない。アマルガムを装着した戦士たちから、魔弾が撃ち込まれる。それを盾で受け止め、腰から突き出た空制機から燐火粒を高出力で噴出し躱す。三島亜美――白き乙女の戦いはメディアで誇張されたものではなく、実に見事なものだった。
もどかしげな表情をしながら、亜美はちらりと恭平を見る。亜美の澄んだ瞳と恭平のそれが合った。亜美の虹彩の色の薄い瞳は、悲しげだった。これから恭平を待ち受ける運命を悟ったものだった。その瞳を見て、恭平は死にたくないと思った。亜美のために……。
少し動かすだけでも辛い身体に鞭打ち、脚を下に向ける。脚部の燐火粒噴出器を目一杯酷使する。青白い光の粒子が大量に噴出される。だが、所詮はホバリング用のもので、出力が足りない。一瞬しか、浮力を得ることができなかった。恭平の身体は、重力の井戸に引きずり込まれていく。落下は、止まることがない。
なけなしの努力は、無駄だった。それでも、
【俺がここで死ねば、彼女に負い目が残る……】
実物の亜美に心奪われてしまった恭平にとって、もはや己の死のみの問題ではなくなっていたのだ。戦いながら、亜美の美貌は悲しげに曇っていた。それが、恭平の目には、よくよく見えた。亜美の心に傷を残したくなかった。迂闊な自分の行動によって。
「〈限界を超えてみせろよ!〉」
脚部の燐火粒噴出器を、恭平は更に酷使した。そのとき、
ドクッドクッドクッドクッドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク――
恭平の中で何かが脈打ち始める。それは、どこからともなく湧き上がってきた。気がおかしくなったかのように思考が乱れまくる。脳と連動したMCIデバイスが形成する魔術回路が、明らかに暴走を始めていた。人間の脳では理解できない、本来認識するはずもない情報が、恭平の頭を駆け巡る。
頭が爆発しそうだった。とっさに、恭平は頭を抱え込む。
情報の奔流は続く。それは、実際にはほんの一瞬であったのだが、恭平にはその時間が永遠に続いているように感じられた。あり得ない情報量に、恭平は圧倒され思考はかき乱された。
変化が訪れた。
恭平の身体に青い光が渦巻き始める。頭をかき乱されている恭平には、何が起きているのか分からない。ただ、頭を駆け巡るそれは、でたらめなものではなく、あるものに対する情報だと理解できた。
「〈君、何をしたの?〉」
ナイトアーマーを装着した女騎士とアマルガムを装着した戦士たちからの攻撃を捌きつつ、亜美が僅かに驚きを含んだ声を発し恭平を見ている。
黒ずくめの二人の女と五人の戦士も、異変に気付いた。亜美への攻撃が一時的に止んだ。異常な事態なのだ。今、恭平に起きていることは。
「〈まさか……〉」
アマルガムを装着した方の黒ずくめの女が、ボイスチェンジャーによる声で呟く。仮面に付けられた緑色のアイレンズは、恭平を凝視している。機械により変調されているが、その声音は何らかの確信を得ている雰囲気があった。
恭平の身体の周りを渦巻く青い光は、いっそう強まり激しい流れを作る。その奔流が突如収束した。恭平の身体へ、と。過剰な魔力放出によるオーバーレイが、辺りを青く染め上げる。青一色が、その場を支配した。
その青い光の支配は、突然収まった。
光源があったそこには、ホズミよりも幾分洗練されたアーマーと言っていいものを装着している、恭平の姿があった。
「〈ナイトアーマー?〉」
普段淡々としている亜美が、僅かに旋律の外れた声を発する。
それは、当然と言えば当然だった。ナイトアーマーを有する者――騎士は、希少な存在なのだ。それが、今、目の前で誕生したのだ。
「〈覚醒した……〉」
銀と黒の女は、ぽつりとそう口にした。
それまでナイトアーマーを有していなかった者が、機動装甲を上書きすることを、覚醒と呼ぶ。その者は、騎士となったということである。覚醒に立ち会うなど、一生の内で一度もないのが普通だ。
普通でないことが、今起きたのだ。恭平の身に。
――こいつが何なのか、分かる……。
怪我と覚醒といった事態に意識が朦朧となりながらも、恭平はそのナイトアーマーの全情報を理解する。脚部の燐火粒噴出器を目一杯噴かす。ホズミのときには落下に出力が追い付かなかったが、今は少しだけ増した噴出力で浮き上がり横に移動することが可能だった。恭平は、空中庭園の地面に滑るように着地し、ぐるぐる転がった。どうにか、落下による死は免れた。
恭平が装着したナイトアーマーには、空制機がなかった。オーバーライドは、あくまでも元となる機動装甲に対して行われる。元がホズミであるので、武装などはなく脚部に燐火粒噴出器があるだけだ。
よろめきながら、恭平は立ち上がる。右側に展開した管制用のホログラムウィンドウには、〝unknown〟の文字が赤色で表示されていた。
「〈未調整で不完全だけど、ナイトアーマー……〉」
亜美の声が、確信を帯びる。じっと、恭平と青いアーマーを見詰める。それは隙になった。
敵は、希少な出来事であったが、惚けてはいなかった。青銅色のナイトアーマーが、亜美へと迫り片手剣を振り抜く。すんでのところで、亜美はそれを躱す。
「〈余所見は感心できないわね〉」
余裕を漂わせた口調で、アマルガムを装着した黒ずくめの女戦士が、盾裏の魔弾速射砲を連射した。チカチカチカと瞬くのにやや遅れて、シュッシュッシュッという音が聞こえた。魔弾が、亜美に向けて発射された。
それを、亜美は盾で防いだ。
恭平は、蚊帳の外に置かれていた。ナイトアーマーを得たといっても武装もなく、恭平自身戦闘の素人であり重傷も負っていた。とても、戦力にならない。
「〈発動・風の乱流〉」
女騎士が、こちらもボイスチェンジャーにより変調された声で、高らかに音声コマンドを口にした。
「〈いけない!〉」
恭平は、女騎士が口にした音声コマンドそのものは知らないが、何をしようとしているのか理解できた。
亜美は、シャープなデザインをした銀色のアマルガムを装着した黒ずくめの女と他の戦士たちの相手をしていて、それに対処できないように恭平の素人目には映った。
「〈うぅおぉおおおおおおおおおおお〉」
雄叫びと共に、恭平は青銅色のナイトアーマーに脚部の燐火粒噴出器を全開にして突っ込む。一瞬だが、宙に浮き上がった。
女騎士の周囲には、風の壁ができあがっていた。迷わず、恭平はそこへ突進する。
「〈君、何をやっているの? 特殊魔道攻撃に突っ込むなんて〉」
亜美から、注意を喚起する声が響く。が、恭平は気にしなかった。己のナイトアーマーが有するものを、知っていたからだ。
右側に浮かんだ管制用のホログラムウィンドウに表示された〝unknown〟の赤い文字が、緑色に変わった。つまり実行されたのだ。次の瞬間、恭平の身体を蒼い光が包み込む。風の嵐は、それに吸い込まれていき消失した。
「〈な、何?〉」
青銅色をしたナイトアーマーの女騎士は、何が起こったか分からないといった声を発した。
「〈……それが、君のナイトアーマーのエクストリームアタックなのね……〉」
推し量るのが分かるような視線を、亜美は恭平に注ぐ。
「〈そいつ危険よ。覚醒したての今なら殺せる。かかりなさい〉」
銀色のアマルガムを装着した黒ずくめの女が、仲間に呼びかける。
「〈させない〉」
亜美は、盾になるように、恭平の前へさっと移動し対空した。それから、
「〈召喚上書・白き戦乙女〉」
そう、恭平の知らない音声コマンドを口にした。
たちまち、亜美の身体が白い光に包まれる。それが収まったと思うと、クラディウスではなく純白のアーマーを装着した亜美の姿があった。それは、まさに白き乙女。ブリュンヒルデアーマーは、世界に一四種しか存在しない神話級ナイトアーマー・ヴァルキューレアーマーの一つだ。
――彼女の二つ名、白き乙女――白き乙女騎士……。
意識の薄れつつある恭平の目に、亜美は伝説に登場する勇者に見えた。
その白い先進的な中に古の鎧を彷彿とさせるアーマーは、胸の膨らみを包み込むブレストアーマーからチェストアーマーへほっそりとすぼまり、全体として華奢な作りをしていた。アンダーウェアもアーマーに合わせた白いものに変わり、腰から下は青っぽい短いスカートになっていた。嫌でも白き乙女といった言葉を連想させる。繊細でありながら、底知れぬポテンシャルを感じさせてくる。背に垂れた茶色がかった髪が、風に揺れる。
右手に細身のロングソード。左腕の細いガントレットに中くらいの大きさの盾。その裏側には魔弾速射砲を装備していた。そんな亜美の後ろ姿は、とても凜々しかった。
嫌というほど恭平の目に焼き付いた。そこで、恭平の意識は暗転した。