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激高する。

 城下町に住む民と、騎士団副団長のギル、同盟国レイゼルのレイラ、そして妻が連れ去られたと知らせを受けた日の夜のことだ。

 捜査隊が全力で居場所を探しているが、未だ検討も付かない。

 眠れと言われてもろくに眠ることが出来ずに、ベッドに腰掛けぼーっとしていると、突然、風通しのために薄く開けていた窓から、レモン色の小鳥が部屋に入ってきた。

 「何だ」

 小鳥は迷わず俺の所へやってくると、小さな羽で丸っこい体を何とか浮かせて、小さく鳴いた。

 途端、小鳥は弾けるように姿を消し、代わりに同じ色のリボンのような物が現れた。

 拾い上げてみると、どうやらリボンではなく、ただ布切れのようだ。そこに、茶色っぽい歪な字が書かれていた。

 『テレスト キタ モリ ジュッキロ』

 「テレスト、北、森、十キロ……」

 ハッと立ち上がった。

 もしかしたらこれは、連れ去られた人々の居る場所を示しているのかもしれない。

 ならば、これは、

 「ジグイスの人間からか……!?」

 俺は布切れを握りつぶした。

 そうだとすれば、これは罠かもしれない。

 人質を、この国からそんなに近いところに留め、尚且つこちらにこのような物を送るだろうか。

 しかし、居ても立ってもいられなかった。

 俺は特別部隊を率いて明朝にテレストを発ち、記された場所に行くことを決めた。


 その場所には、大きな古い屋敷があった。

 何故か正面の警備が二人しかおらず、俺達は一気にケリを付けることに決めた。

 屋敷の東西に七人。正面に俺と五人で向かった。

 ……だが、乗り込んでみればどうだ。

 形のみだとは思っていたが、あろう事か妻が共に連れてこられた人々を縛り、敵国に寝返ったと言う。

 しかも最後だから気にかける?

 ふざけるな。

 王家は民を第一に考え、そして民も国王を信頼し、王家を信頼してくれていた。

 周辺国とも長く互いに良い関係を築いてきていた。

 それを、この女は最悪の形で裏切ったのだ。

 あまりにも激しい怒りに襲われながら、剣を構え、ジグイスの男と女に叫ぶ。

 「罪鳴き人々を殺めた者共に、この先日の光など当たるものか! 勝つのは我々だ!」

 

 ええ、その通りです。


 静かな声が聞こえた。

 見ると、裏切り者の女が大きく息を吸って、それから、ジグイスの男でもなく、俺でもなく、ただまっすぐに前を見ていた。

 その目を見て、ふと懐かしさがこみ上げてきた。

 時折、見た目だ。

 城の書庫や研究室に籠もって、魔術の研究をしていた時の目。

 「ーーチェスト下段の奥です!」

 まるで冷や水を思いっきり掛けられたような心地がした。

 思考と視界が一気にクリアとなり、そして。

 そして、見た。

 大きく目を見開いたジグイスの男と、女の腹を貫く黒い剣。

 倒れていく体。

 気が付けば俺は、男の首を跳ね飛ばしていた。


 「王子! ご無事ですか!」

 外の兵士を任せていた隊員達が部屋に駆けつけた。

 俺は切り離された男の首と胴体を見てから、女の方に目を移した。

 『チェスト下段の奥です!』

 「……チェストだ」

 「……は?」

 「チェストを調べろ! 下段の奥だ!」

 「は、は!」

 五人の兵士が部屋にあるチェストを解体していく。

 俺は、倒れた女の傍らに膝を付き、はたと気付いた。

 こいつの腹は、確かに剣で貫かれているものの、剣で傷は塞がれ、それほど出血は見られない。

 しかし、女の顔は、まるで大量出血をしているかのように、みるみるうちに白く変色していく。

 「ユウ!」

 「……! ギル! 無事か!?」

 突然背後で聞こえた声に、立ち上がり振り返ると、そこには幼い頃から知る、騎士団副団長がいた。

 ヤツは俺の方に向かって、どこか焦ったように早足で近づいてきた。

 「あ、あの子は……姫さんはどこにいる!?」

 「は?」

 姫、とは、足下に倒れている女のことだろうか。

 俺は、どこか、ではなく、確実に焦っているヤツに首を傾げながらも、足下に目を移す。

 すると、それに合わせて視線を移動させたヤツは信じられない物を見るような目でそこを見つめ、それからさーっと音が聞こえそうなほどに顔を青ざめさせた。

 「……ギル?」

 「……っ!」

 「お、おい!」

 突然、ギルが走り出したと思うと、出入り口のそばに立ち、廊下に向かって叫ぶ。

 「こっちだ! 早く、早く来てくれ!!」

 苦しそうな叫び声が辺りに木霊する。

 それが、俺には理解できなかった。 

 何故? 何故そんなに慌てる? 何故そんなに苦しそうにそいつの手を握る? お前を、テレストを裏切った女だというのに。

 その後、引き連れてきた救護隊員に魔術的な治療を受けているそいつの姿を困惑しながら眺めていると、チェストを調べ終わった隊員が、隣に立った。

 「王子」

 「……。何だ」

 差し出されたのは、筒状に巻かれた大きな紙。

 それを開いて、俺は。

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