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行ってきます。

 翌日。

 私は、堅く鍵の閉ざされた扉をドンドンと強く、何度も何度も叩きました。

 しばらく叩き続けると、ガチャン! と乱暴に鍵の開く音がしました。

 「うるっせえぞ! 首跳ねられてえのか!!」

 鍵と同じように乱暴に扉を開けたのは、全身真っ黒な軍服に身を包んだ、三白眼と曲がった口を持つ、大柄の男性でした。

 男性は部屋をぐるっと見回すと、とたんに曲がった口をぽかっと開けて首を傾げました。

 何というか、間抜け面です。

 まあ、そんな顔になるのも致し方ないのかもしれません。

 「あなたが、ここの最高責任者なのですか?」

 「あ? ああ。ああそうさぁ! オレ様が我らが皇帝陛下にこの場を仰せつかった、ジャンギー様さぁ!!」

 三白眼の目を見開いて、男性は狂ったような高笑いをしました。

 私は、なるたけそれを静かに眺め、そして、静かに頷きました。

 「そうですか。なら、ちょうど良かった」

 「あ?」

 男性が顔と口をますます歪めて、私を見ます。

 「私は、テレスト王国第三王子ユウ・アルト・テレストの妻ラタリー」

 私もそれに合わせるように、歪に笑って見せました。

 「あなた方の欲しい情報、全てお話しいたしましょう」

 猿ぐつわをはめられた、民の真ん中で。


 私は部屋の外に出て、男性を見据えました。

 「もちろん、一番頑丈な部屋でお話しさせてくれるのでしょうねえ。この屋敷にいる人は、全部で何人で? 話途中で攻め込まれ、まとめて血溜まりだなんて、まっぴらごめんですわ」

 「はっ! あんたも言うねえ。ま、こっちもこんな上物を易々逃すわけにはいかないんでね。最高のスイートルームをご用意しますよ」

 そう言って、男性は私の手を取り、甲に口を落としました。

 それから何やら辺りに指示を出し、しばらくすると、私を別の部屋に案内しました。

 その部屋は廊下や他の部屋とは見違えるように整頓され清潔で、壁紙や床も新しく、ベッドやテーブル、チェストなど、様々な家具が据え付けられていました。

 入り口の扉の前には何人も黒い甲冑に身を包んだ人が横一列に並んでいます。

 私は、ふう、と息を吐いてから部屋に入り、さっと辺りを見渡しました。

 男性は部屋の真ん中に歩いていき、テーブルの向こう側にあるイスを引きました。

 「どうぞ」

 「どうも」

 私がイスに腰掛けると、男性も向かい側に腰掛けました。

 「……情報を提供する前に、一つ、お伺いしても良いでしょうか?」

 「何だ? オジョウサン」

 「何故、あなたはこの戦いに身を投じたのですか?」

 問いかけると、男性は一瞬ぽかんとした後、クツクツと笑い出しました。

 「理由なんて無えさ!」

 「無い?」

 「オジョウサンが呼吸に理由を付けないのと同じさ。皇帝陛下の命に従うことに理由なんていらねえ」

 「……なるほど」

 私が頷くと、男性はべろりと自身の唇を嘗めてから、テーブルに身を乗り出しました。

 「さて、お伺いにも答えたことだし、そろそろ話を聞かせて貰おうか。……いや、その前に、オレ様からも一つ聞いておくかぁ」

 「何でしょう」

 「オジョウサンは、何であいつ等を裏切った?」

 どこか嘲笑うように、男性は言いました。

 私は部屋にいる人々の事を思い出しました。

 猿ぐつわと、縛られた手足。

 全て、私のやったこと。

 「それは」

 口を開いた、その時でした。

 突然、出入り口の扉が強く開きました。

 入ってきたのは、甲冑の兵士。

 「大変です! 敵襲がーー」

 全てを言い終えないうちに、兵士はその場に倒れ伏しました。

 そして、その後ろには、なんだかずいぶんと懐かしく感じる、よく見知った人。

 「……私は、テレスト王国第三王子、騎士団特別部隊隊長、ユウ・アルト・テレスト。我が国を荒らした蛮族を排除しに来た」

 そう言って、彼は細身の片手剣に付いた血を振り払いました。

 

 ふと、彼と目が合いました。

 彼がきゅっと眉根を寄せます。

 「……何故、お前がここにいる?」

 「…………」

 「おい、答えろ」

 厳しい口調で彼が言うと、目の前で固まっていた男性はやっと状況が掴めたのか、ハッと顔を上げてからにたりと笑いました。

 「オジョウサンは、寝返ったのさ」

 「……何?」

 「ここまで一緒に来た同盟国のオウジョサマと副団長サマ、それから大勢の民衆の手足を縛って猿ぐつわまではめて、オレ達に協力してくれるそうだ……」

 クツクツと楽しそうに笑う男性の向こうで、彼は信じられないと言ったように目を見開きました。

 しかし、その顔はすぐに怒りにの炎に染まります。

 「貴様……!!」

 剣を構え、彼がこちらにやってきます。

 しかし、

 「王子」

 私は、静かに彼の目を見ました。

 「屋敷の東側に、兵士は何人向かいましたか」

 「?」

 「……貴様がそれを聞いて何になる。裏切り者が」

 「別に、ただの確認です。私はここで命尽きるようなので、彼らのことが気になっただけです」

 そう言うと、彼はギリリと奥歯を噛みしめたようでした。

 「貴様の戯れ言に付き合ってる暇はない。今すぐ貴様らの首を跳ねる!」

 「そりゃ困る」

 彼が剣を構えると、いつの間にか男性も剣を手に持っていました。

 顔と巨体に似合わず、彼と同じ片手剣です。

 「オジョウサマはオレ達の上客だ。殺られる訳にはいかねえなぁ」

 「黙れ。罪無き人々を殺めた者共などに、この先日が当たるものか! 勝つのは我々だ!」

 

 「ええ、その通りです」

 

 『!?』

 私はふう、と深呼吸をして、それから、前を見ます。

 「――チェスト下段の奥です!」

 そう叫んだ瞬間、ジグイスの男性が大きく目を見開きました。

 そして次の瞬間には、私の腹を黒光りする片手剣が貫き、体が傾きました。

 さて、私は、国のために死ぬことが出来たでしょうか?

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